「今後のホーシンについて教えて欲しいんだも!」
翌日、朝ごはん…というには遅めの時間の食事を食べているとき、トラがレックスにそう聞いてきた。
結局レックス達が起きても暫く弄っていた例のモノはほぼ完成したらしく、「あとは時間を待つんだも!」とのことだった。
「方針?」
「そうだも。トラはアレが完成してしまえばもうここにいる意味はないも。むしろアニキについていきたいんだも!だからこの先どうするのかを聞いておきたいも!」
「そういやこの先何するかは言ってなかったな」
「聞いてなかったも!でも何でもついていくも!」
トラの危険な発言にレックスは思わず苦笑いを浮かべる。もし自分じゃなくて別の悪いドライバーにあこがれてたらと思うと、トラの将来が非常に心配になった。
「うーん。とりあえず直近の目標としてはニアを助けること、かな」
「ニアってあのグーラ人の女の子のことも?」
「うん。知ってたの?」
「見てたも。昨日は戦闘の音で目が覚めて、様子見にいったらアニキたちがスペルビア兵たち相手に無双してて、急いでジェットカムカムを取りに行ったんだも。でも戻ったらもう捕まってたも。ごめんも」
「いやトラが謝る必要はないけど…え、そんな時間に起きたの?夕方だった気がするけど」
「トラはヤコーセーなんだも!」
その言葉にレックスはもう一度苦笑い。ノポンは普通に昼行性だ。
「となるとニアがどこに捕まってるかだな」
「もも?それなら多分スペルビア軍の駐屯地だと思うも。特にあの巨神獣戦艦が怪しいも!」
「理由は?」
「グーラの拘置所に誰か入ったなら街の噂とかになるはずも。でもさっきお散歩行ったときそんな話は聞かなかったも。だからスペルビアの基地…特に巨神獣戦艦には捕虜を入れとく為の場所があるって噂を聞いたことがあるも!」
「なるほどな。つまり正面から突っ込んでいけばいいわけか」
「いや無理だろ!」
自信満々に拳を鳴らすメツに突っ込みを入れるレックス。
メツは「は?」と明確な不満を顔に浮かべた。
「何だ小僧俺の力を疑うのか」
「いやそうじゃなくて!流石に数が多いよ。あのネットもあるし。それにスペルビア兵にだってドライバーがいるかもしれない」
レックスは昨日の戦闘で立ちふさがったカグツチと呼ばれていた女性を思い出す。
強力な炎を操るブレイドだったが、近くにドライバーらしき姿は見えなかった。あの警備長と呼ばれていた者ともブレイドとドライバーのつながりを示す線、エーテルラインはつながっていなかったのだ。つまり、少なくとも彼女のドライバーがスペルビア兵には存在する。あれほどの実力を持つブレイドを携えたドライバー。おそらく自分など足元にも及ばないほどの強敵だとレックスは推測する。
「じゃあ潜入だも!」
「潜入ねえ。策でもあんのか」
「トラに考えがあるも!」
「…って作戦だも。どうだも!?」
「どうって…」
「そりゃちっと無理がある気がするわい」
「だよなぁ…」
トラの作戦を聞いたレックスたちはお互いの顔を見合わせる。
トラの作戦は確かに出来ないことはない作戦だった。ただそれが成功するかどうかレックスにはわかりかねていた。いや、正直成功する確率はかなり低いような気がした。
「もも。じゃあ他に作戦考えるも!」
…と、トラがそう言ってから一時間。あれこれ考えてみたものの、結局代案は生まれなかった。
「とりあえずそれでやってみるしかないか」
「最悪正面突破すりゃいいしな」
「最悪ね」
拳をならすメツの方を見ずにレックスはあいまいにうなづく。
どうしてもメツは戦いたいのか、やたらと正面突破を推してくる。
「も!しまったも!一つ大事なことがあったも!」
「?何が?」
「メツの服がないんだも!」
メツの方をビシッと指さしてトラがいう。
対するメツは首をかしげていた。確かにトラのいう作戦に服は必要だった。だが
「あ?小僧はともかく、俺の服なんて別にいらねえだろうが」
少なくとも用意する必要があるのはレックスだけだった。
だがトラはそんなメツの指摘に、ちっちっちと指を振る。
「いるんだも!だって敵はメツを見て襲ってきたんだも?なら変装が必要だも!途中で見つかるわけにはいかないも!」
トラの指摘にメツはカグツチの言葉を思い出す。
『パクス警備長。彼らを捕らえなさい。特にあの紫色のコアクリスタルをしたブレイド。あの者は絶対です』
『ふざけてるの!?紫色のコアクリスタル…私を覚えてないとは言わせないわよ!?』
確かにカグツチはメツのコアクリスタルを見て戦いを挑んできていた。ほかの兵士達に覚えはなかったようだから周知の事実というわけではないだろうが、おそらく時間の問題だろう。
「そうだな。とりあえずこのコアクリスタルは隠さねえと」
「任せるも!トラ、ホムス用の服をいくつか持ってるんだも!」
そういってトラは部屋の奥へと走っていく。そこにあったのはノポンサイズの家具ばかりの部屋では珍しいヒトサイズのクローゼットだった。なお、ホムスとはノポン語で"ヒト"を表わすらしい。レックスもノポンだらけのアヴァリティアではたまに"サルベージャーのホムホム"と呼ばれることがある。
クローゼットにもぐりこんだトラが「これでもないこれでもない」とやる事しばらく。突然クローゼットから一枚の服がメツの方へと飛んでくる。
「それだも!」
「これは…」
クローゼットから顔を出したトラの目の前で、メツは広げた服を自分にあてがう。その服は
「これはグーラ女子にに大人気な可愛いケモミミポンチョなんだも!」
「着れるかこんなもん!」
即座に地面に叩きつけられた。
「もも!?何でも!?可愛くておしゃれだも!?」
「可愛さなんざいらねえだろ!てか女子に人気ってなんだ!?」
「そもそもサイズがあってなかったかな。メツ大きいし」
「なるほどサイズだも…ならこれだも!」
ポンチョをそそくさと回収したトラが再度クローゼットを漁る。
そしてまたクローゼットから服が一枚メツのもとへ。同じようにあてがわれたその服は
「高身長でも着れる!むしろ高身長にお勧めなバニーガール!なんだも!」
「頭イカれてんのかトラァ!」
再び地面に叩きつけられた。
「何でも!?それならメツでも着れるも!」
「こいつは胸元隠れてねえじゃねえか!」
「そこ!?」
「もも!隠すってのを失念してたも!なら…」
再びクローゼットを漁りだす。すでにレックスは苦笑いで、メツは嫌そうな顔。
そして三度服が投げ渡される。もはやメツは自身にあてがうこともなく、目の前で広げ
「フリフリがとっても可愛いメイドさんなんだも!しかも高身長対応verなんだも!」
「トラァアアアア!!!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたメツは、鬼の形相でトラへと迫る。
「ももももも!?!??!!?なんでも!?なんでも!?」
トラは必死に逃げ、食卓の周りをぐるぐる回る。昨日の鬼ごっこの反対バージョンだ。
それをみて笑いながら、レックスは散らかった服を片づける。それらをクローゼットにしまいながら、レックスに一つ疑問が生まれた。
ホムス用のクローゼット、そこにしまってあるのは勿論ホムス用の衣服だ。今メツに渡したもの以外にもまだいくつも服が収められている。
ノポンにこれらの服は必要ないはずだ。
「なあトラ。なんでこんな服持ってるんだ?」
「もぉ!?」
レックスの発言にトラがビクン!と跳ねる。そしてその隙を逃さなかったメツは、トラを掴み上げて脇に手を差し込む。
「喰らえ!モナド"
「もも!ももももっ!や、止めるもメ、メツ!!!悪気はなかったんだも!」
「余計にタチが悪いじゃねえか!」
「えっと…それでこの服は」
「そ、それは…き、きっと前に住んでた!ヒトのものなんだっも!!そうだもっ!きっと!そうにち、違いないも!」
「ホントかー?」
疑うようにトラを見るレックス。しかしどう見ても、メツにくすぐられているトラの表情は笑いでしかない。
「ほ、ホントっ!なんだっも!もももーー!!」
『てきとうな布を被ってローブみたいにすりゃいいじゃねえか』
結局、メツの変装についてはメツのその言葉で解決した。
トラをメツがひとしきり笑わせてから暫く。再びカーテンで仕切られた部屋の奥に引っ込んでいたトラから『時間だも!』と、開発中のものが完成間近なことが告げられた。
「こっちきてほしいも!」
昨日の残りをつつきながらゆっくりしていたレックスは、待ってましたとばかりに勢いよく立ち上がる。
カーテンで区切られた部屋に入ると、トラは開発中のものとは違う機械をピコピコと弄っていた。聞いたところによると"プログラム"というらしい。
「おお、ついに…」
レックスは目の前の機械を見る。
レックスとメツ、そしてじっちゃんが興味津々で見ていたもの。トラが開発していた機械。
それは機械で出来た"女の子"だった。
『人工ブレイドなんだも!』
トラはうなだれた少女を指さして高らかに告げた。
しかし聞き慣れない言葉にレックスは首を傾げる。
『ジンコーブレイド?』
『そうだも!人工ブレイドなんだも!』
『それって、まさか…』
『文字通り人工のブレイドなんだも!トラが最終調整してるんだも!』
『すごいじゃないか!!』
トラの説明でレックスはようやく理解し、改めて大きく驚いた。
ブレイドという存在にについては、未だによくわかっていない部分が多々ある。その起源や同調の意味等。むしろわかっていないことの方が多いとまで言える。
だがそんな中でもわかっている大原則。ブレイドはコアクリスタルに触れた人との同調によって生まれ、同調した人と供に一時の生を終える。それは絶対のルールだった。
そのブレイドを0から作る。それはこのアルストで誰も成しえていない大偉業に違いなかった。
『大したもんじゃのう!トラが全部作ったのか!?』
『いや、設計開発をしたのはトラのとーちゃんとじーちゃんだも。トラはちょこっと手伝ったのと最終調整くらいだも』
"とーちゃんとじーちゃん"のところで少し暗い表情をするトラ。それ見てレックスはなんとなく事情を理解した。トラは多分長い間ここに一人なのだ。
『それでもすごいよ!!アルストに誇る大偉業だ!!』
『ももも!そう言われると、すっごい照れるも!!えっへんも!!』
「見た目は昨日と変わってないな」
「それはそうだも。アニキにもらったのは内部のパーツなんだも…できたも!」
暫くピコピコと機械を弄ってたトラはが、突然万歳。どうやら作業がすべて完了したらしい。
そのまま跳ねるようにして人工ブレイドの前まで行き、人工ブレイドから伸びたケーブルにつながったレバーを握る。
「もっふっふ…ついに、親子三代の夢がついにかなうも!人工ブレイドが目を覚ますも!」
「あ、トラ、名前!名前はなんかあるのか?」
レックスの声にトラはきょとんとした表情で振り返る。
言葉にされるまでもなく、"今の今まで考えもしなかった"と顔に書いてあった。
「名前…も?」
「あった方がいいんじゃないか?いつまでも"人工ブレイド"じゃさすがに呼びづらいよ」
「もも確かにそうだも!名前名前…よし、決めたも!」
先ほどの機械をポチポチと弄り直してから、再度トラはレバーを握る。その手に少し力が入る。
「いくも…目覚めろも!人工ブレイド"ハナ"!!!」
ガチャっとレバーが倒れる。瞬間、バリバリと世界を割るような轟音が響く。
何事かと周囲を確認しようとしたレックスの視界が真っ暗になる。
「雷…停電か!?」
「トラ!?」
「大丈夫だも!これを待ってたんだも!」
トラの言葉に次ぐように、電気が復旧し明かりが灯る。
再び明るくなったレックスたちの目の前、機械仕掛けの少女が少しずつ動き出す。
「おお、これは…」
「ハ、ハナ?」
そして人工ブレイド、ハナは目を開き
「おはよーございます!ご主人さまっ彡☆」
キラッ☆っとあざとく可愛いポーズをばっちりキメた。
「もも!?」
予想外のポーズにレックスはあんぐりと口を開け、メツはフフっと笑い、じっちゃんはちょっと嬉しそうな笑顔になった。
「どーしました?ご主人さまぁ?ハナにぃ…なにかやって欲しいことはありませんか?彡☆」
可愛い…を通り越してちょっとあざとさが強いしぐさと声色でトラに尋ねてくるハナ。
レックスはその中々の趣味嗜好を感じる動きを見て、先の疑問を確信に変える。
「トラ、やっぱりさっきの服は」
「ももも!ち、違うも!えっと、あ、そうだも!き、きっとセンゾーじーちゃんのプログラムが入ったまんまだったんだも!そうに違いないも!入れなおすも!」
トラは一旦レバーを上げ直し、またピコピコと機械を弄りだす。
ハナはまた眠るようにうなだれた。
「別にアレでもいいと思うがのう」
「ダメだも!あのプログラムは戦闘用じゃないからブレイドとしてはダメダメなんだも!…あとトラがいろいろ大変なことになってやっぱり戦闘どころじゃなくなるも!」
暫くピコピコした後、再びトラはレバーを握る。
「こ、今度こそ大丈夫も!め、目覚めるも、ハナ―!!」
ガチャっとレバーを倒した瞬間、再度落雷。同じように停電から復旧を挟んで、ハナが再び覚醒する。
「ハ、ハナ?」
「おはようございますも、ご主人」
トラに対して無表情で挨拶をする少女がそこにいた。
「やったも!大成功なんだも!」
「やったなトラ!」
成功を喜び、レックスとハイタッチ。
トラはそのままメツの方にも手を伸ばす。メツは最初は嫌がるそぶりを見せたが、少しして片手をトラに向ける。トラはその手を思いっきり叩いた。
「ご主人、この人たちは誰ですも?」
レックス達に視線を送って、ハナは首をかしげる。
無表情ではあるが、言葉やしぐさにはあどけない可愛さがあった。
「も!紹介するも!トラのオトモダチのレックスのアニキ、メツ、じっちゃんなんだも!」
「よろしくなハナ!」
レックスの返事を聞いて、一歩前に踏み出すハナ。そのままゆっくりと腰を折る。
「人工ブレイドのハナですも。これからどうぞよろしくお願いいたしますも」
「さて。君には聞きたいことがいくつかあるのだが」
目の前に立つスペルビアの軍服を着た人間が、ニアに話しかける。
その軍服は兵士が着ているようなものではなく、各所に装飾が施された儀礼的なものだった。その装飾は誰が見ても一目でかなり上位の軍人なのだろうと見て取れた。
見た目は男のようであったが、その声色や所々のしぐさは微妙にずれている。多分女性なのだろうとニアは理解する。隣にはカグツチが控えていた。
「イーラのこと?ハッ!なら残念だったね!アタシは雑用。なんも知らないよ」
「ははっ。これは確かに聞いた通り骨が折れそうだ。だが、私が聞きたいのはそこじゃない」
軍服の言葉に眉根をひそめるニア。イーラのことを以外でスペルビアの人間が自分に聞きたいことの心当たりがない。
だから一体目の前の人間が何をしに来たのかわからない…と考えを巡らせつつカグツチを見たことで一つのことが思い当たる。カグツチはメツを狙って攻撃していた。
「まさか」
「ふむ。きっとそのまさかさ。君が行動を共にしてた二人。特に紫のコアクリスタルを持つ者…天の聖杯について聞きたいことがある」
そういって軍服はニアの前に立つ。
ごてごてと着込んでいるはずなのに、その動きに一切の乱れも隙も見られない。
「知っていることを話してくれれば君を悪いようには扱わな…」
「シャー!」
ニアは近づいてきた軍服に文字通り牙をむく。
だが、襲い掛かろうとした体は後ろからスペルビア兵に押さえつけられ、そのまま地面に倒れ込む。
「メレフ様ッ!」
メレフと呼ばれた軍服は噛みつかれる直前に後ろに避けていた。
メレフは嚙まれそうになった手を払いながら、大丈夫とカグツチを制す。
「こちらも、一筋縄ではいかなそうだな。独房に入れておけ」
「ハッ!」
ニアはスペルビア兵に連れられて部屋を出る。その視線はずっとメレフに向けたままだった。
トリゴの街の東に位置するスペルビア軍駐屯地は、その敷地を夕日に照らされて、オレンジ色に染まっていた。
その領地と、トリゴの街の敷地との区切りをわかりやすくするかのように置かれた巨大な塀と大きな扉。そこに向かって荷車を押すスペルビア兵が近づいていた。荷車の上には大きな木の箱が置かれている。
荷車を押すスペルビア兵はそのまま門をくぐり、軍港に停泊していた巨神獣戦艦の入り口の方を目指す。軍港と船を結ぶ桟橋を渡り、そのまま船の格納庫へ進んでいく
「おい」
…途中で、船の入り口に立っていた男に呼び止められる。荷車を押す兵士は声に驚いたのか、一瞬びくっと体が跳ねる。
「な、なんでしょうか…」
「この時間に荷物の搬入の知らせはなかったはずだが」
そう言って男が近づいてきた。手には紙束が握られており、その束と手元の時計で視線を交互させていた。おそらくそこに搬入物資の目録でも書いてあるのだろう。
「中身はなんだ」
「あ、えっと…そ、そこの畑から大きなノポポダイコンが取れたのでおすそ分けに…ともらったのであります。中身を確認いたしまするか…?」
「…?ああ、確認しよう」
不思議な言葉遣いがちょっと引っ掛かったが、ここスペルビア軍駐屯地にはグーラ出身の者も多い。その中にはちょっと不思議な訛りをしたものもいる。つまりそんなこと一々気にしていたらきりがないのだった。それよりも今はまず、箱の中身を確認するのが優先だった。
荷車の方へ回り箱を開けてみると、確かに箱いっぱいにノポンダイコンが敷き詰められていた。
「ほほう。これは確かに凄い大きさだな。特にこの一番下に埋まってるのなんか、普通のノポンより大きいじゃないか!」
「ですよね…ははは」
ノポポダイコンは見た目がノポンに似てることからそう名付けられた野菜だ。特にこのトリゴ産は大きさのみならず、その味も非常に旨いと兵士間でも評判の一品だった。
時折このように駐屯地に持ち込まれることもある。そこまで気に留めることでもないだろうと見張りの男は判断した。
「これだけ大きければ味も良かろう。引き留めてすまなかったな。調理場にでも置いておいてくれ」
「ハッ!で、ではこれにて失礼します!」
そう言って一礼した兵士は、そそくさと荷車を押して船の中に入っていった。
荷車を押した兵士はそのまま格納庫を奥へと進み、置かれた巨大な機械の陰に入り込む。
そして周りに誰もいないことを確認してから、大きなため息とともに、被ったヘルメットを脱ぐ。
「はぁ、バレたかと思った」
スペルビアの軍服に身を包んだレックスは、ヘルメットを床に置いて機械の段差に腰掛ける。
そのまま荷車の箱に手をかけてふたを開ける。するとノポポダイコンかき分けて顔をのぞかせていたトラと目が合った。
「どうだも?上手くいったも?」
「いやギリギリだったよ。所属とか聞かれたら終わってた…」
トラが提案したには、変装による潜入作戦だった。
『アニキはスペルビア兵に、トラはノポポダイコンに変装するんだも!』
『俺がスペルビア兵に?』
『そうだも!前にゴミ捨て場を漁ってた時にスペルビア兵の服を見つけたんだも!』
そう言ってトラがクローゼットから取り出したそれは、少し汚れていたが確かにスペルビア兵の服だった。
少しオーバーサイズ気味だったが、そのあたりはベルトでごまかすことで見た目だけはスペルビア兵になったレックス。『ノポポダイコン差し入れられてるのは前に見てるし、あそこの兵士は結構雑だから行けるも!』とのことだったが、うまくいくかは正直半信半疑…いや、二信八疑といえるくらいだった。
「とりあえず作戦は成功なんだも!あとはメツとハナとじっちゃんを待つだけだも!」
「そうだね。大丈夫かな…」
「とうちゃーくですも」
「トラの技術…すごいもんだな」
レックス達が巨神獣戦艦の格納庫についたちょうどそのころ。別行動をとっていたハナとメツ、そしてじっちゃんもまたレックスたちとは別ルートで巨神獣戦艦に侵入していた。
三人が降り立ったのは、軍港と隣接する面の反対側。物見の為に取り付けられたと思われる軍艦壁面の細い足場だった。ハナがメツの手を握り、トリゴの街の岸壁から回り込むようにしてここまで飛んできたのだった。
「まさか飛べるなんてな…」
「ご主人は最高の人工ブレイド技師なんですも。ハナはそんじょそこらのブレイドとは違うのですも。ゴンザレスだって余裕で運べますも」
えっへんと胸を張るハナ。この辺はトラに似てるなとメツは少し笑う。
「さて、ここから侵入しないとだが…」
「こっちに扉があるぞ」
ハナと一緒に飛んできていたじっちゃんが、少し先から声をかける。
見ると確かに中に続く扉があった。
「よし。そこから潜入するぞ」
「りょーかいですも…も」
ハナは扉に手をかけて開こうとするが、その動きが止まる。
「どうした?」
「扉に鍵がかかってますも」
「貸してみろ」とハナに代わってメツがノブを回してみようとするが、ガンと何かに遮られてノブが止まる。
見るとノブの下に小さく鍵穴らしきものがあったが、もちろん鍵はないし、メツに鍵開けの技能なんてない。
「ハナ、鍵を開けたりは」
「できませんも」
「そうか。となると」
あたりを見渡してみるが、どうやら入り口はそこくらいしかなさそうだった。
仕方ねえと再び扉の方に目を向けると、ハナがぐるぐると腕を回していた。
「仕方ないからハナの怪力で壊してやりますもー」
「おい、待てハナ!」
扉を思いっきり殴ろうとするハナの拳をメツが止める。
ピタッと拳を止めたハナは、そのまま視線をメツの方へと向ける。無表情ながら、きょとんとした表情はメツに疑問を投げかけていた。
「も?どうしてですも?」
「俺達はこれから潜入するんだ。バレない方がいい。殴ってぶっ壊しちまったら、大きな音が鳴っちまうだろ」
「その通りですも。モーテンでしたも」
なるほど。とハナは手を打つ。
ただそのままメツの方へと視線を向けたまま首をかしげる
「でもだったらどうしますも?窓ぶち破りますも?」
「いやそれもダメだろ。ちょっとどいてな」
ハナを脇に避けさせ、扉の前に立つメツ。
手に黒いエーテルをまとわせ、そのままノブに手をかける。すると、闇のエーテルに触れた部分が溶けるように消滅する。
つっかえのなくなった扉は、そのまま小さくギィ…と音を立てて開く。
「ほら。これで音もなく侵入できる」
「なるほどですも。流石ですも」
「ハッ。ほら行くぞ」
少し笑って、扉をくぐるメツ。ハナとじっちゃんもそれに続く。
幸い、扉の先には兵士の姿はなく、潜入としては100点の開始だった。
「よし、小僧たちと合流するぞ」
「スニーキングミッション開始ですも」
続く