メツブレイド   作:ヤケイ

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06『潜入』

 

 

「小僧待たせたな」

 

レックスとトラが巨神獣戦艦に潜入して数十分。予定より遅れていた相棒の到着に「様子を見に行くか」と思い始めたちょうどその頃。突然レックスの背後から件の相棒の声がした。

 

「メツ!大丈夫だった?」

「ああ何とかな…どっこいしょ」

 

メツは小脇に抱えていたハナを傍におろし、レックスの横にあった箱に腰掛ける。

被っていたフードを脱ぎながら大きなため息をつくその姿は、レックスが想定してた以上に疲弊している様子だった。

 

「どうしたの?まさか戦闘が」

「いや、そういうわけじゃ」

「ハナ!どうだったも?ちゃんと出来たも?」

「もちろんですも。ハナはご主人の命令をきちんとこなしましたも」

 

レックスとメツの会話の横でハナの各部を点検しながらトラが話しかける。

言葉とともにえっへんと胸を張るハナ。トラはそれをもももー!と喜び跳ねる。

 

「…実際どういう風に来たの?」

 

レックスは気になってメツに尋ねてみるが、メツはうなだれたまま答えず、代わりに大きなため息を一つ。

そんなメツの様子を見て、やれやれと首を振りながら言葉を返したのは、メツの後ろから飛んできたじっちゃんだった。

 

「ワシが『迷い込んだプリチー巨神獣』を装って注意をひいてる内に進んできたんじゃ。スペルビア兵もワシの可愛さに魅了されとったわい!…女の子がいなかったのは残念じゃがの」

 

その場面を想像してレックスは「ハハハ…」と乾いた笑いを返す。

確かにじっちゃんの今の見た目は"黙っていれば"可愛い部類に入るだろう。それに凶暴なモンスターならまだしも、このサイズの生物ならば、スペルビア兵も『なんだろう?迷い込んだのかな?』と積極的な排除には動かないに違いない。

しかしそうなると必然、あのむさくるしい鎧を着こんだ兵士数名に囲まれるわけで…じっちゃんもあまりいい気持ちはしないだろう。

 

「なるほどね…ん?でもならなんでこんなメツは疲れてんの?」

「それは…」

「ハナどうやってスニーキングミッションしてきたも?」

 

じっちゃんが言葉を継ぐ前に、横のトラの声が耳に入ってくる。

見ると、ハナは更に対して小さく頷きながら淡々と報告していた。

 

「スペルビア兵に見つかりそうになったら『その辺にある人工ブレイド』のふりをしましたも。その置物っぷり、ご主人にも見て欲しかったですも」

「もも!流石ハナなんだも!」

 

その会話を聞いてレックスは苦笑い。じっちゃんも同じ表情をしており、メツについてはもう一つ大きなため息をついた。

レックスはメツの耳元に近づき、ハナとトラに聞こえないように尋ねる。

 

「…で、実際は?」

「道のど真ん中で立ち止まりやがったから…」

 

「見つからねえように俺が運んだ」

 

 

 

 

「こっちだ」

 

メツとハナの案内で巨神獣船内部を進む。

レックスとの合流前にある程度艦内の兵士の配置も確認してきたのだろう。数名、見回りの兵士を見た程度で、大きな騒ぎを起こすこともなく奥へと進んでいく。

 

「ここには独房として使うところが二か所あるらしくてな。とりあえずわかってるのはこっちだ」

「ハナが聞いた情報ですも」

 

ハナが顔の横に伸びた尖ったパーツを指さす。人間で言えばちょうど耳の部分だ。おそらくそこが聴覚センサーなのだろう。

曰く、船内のマップを頭の中に作るのと同時に、聴覚センサーで色々と兵士の会話から情報を仕入れてきたらしい。ハナの高機能さにレックスは舌を巻く。

 

「ハナは凄いなぁ。色んなブレイドの能力が使えるのか」

「もふふ!こんなもんじゃないも?ハナにはまだ新しい機能の追加予定が…」

「ついたぞ」

 

トラが言い終わる前に、メツが言葉を挟む。

メツの指さす先は、奥に扉がいくつも並んだ廊下。ただそこに繋がる道に、二人の兵士が立っていた。おそらく見張りだろう。

トラができる限り見えないように様子をうかがいながら、小声でメツに声をかける。

 

「もも…どうするも?」

「ここはハナのスニーキングスキルの出番ですも」

「…じいさん」

「仕方ないの」

 

歩き出したハナをメツが制し、その間にじっちゃんが兵士たちの前に出る。

じっちゃんは兵士たちの目の前をふわーっと通り過ぎ、「なんだなんだ」と兵士達の視線がそちらに奪われる。

その隙にレックスは距離を詰め、視線を外した兵士の後頭部に向かって刃の無いモナドを振り下ろす。

 

「がっ!?」

「どうし…な、なんだお前ら!?」

「もっ」

「ぐえーっ」

 

音に気付いてふりむいたもう一人の顔にハナの拳が直撃。叫びと供にずさーっと床を滑っていた兵士にレックスは「ご愁傷様」と手を合わせる。

レックスはそのまま周りに人がいないことを確認し、並んだ扉をどんどん開けていく。そして4つ目の扉に手を掛けるが、その扉はいくら引っ張っても開かなかった。

 

「鍵…メツ!」

「あいよ」

 

レックスの呼ぶ声に、メツはエーテル片手に近寄ってくる。

侵入した時と同じようにドアノブごととかそうと振りかぶったところで、メツは「めんどくせえな」と小さくつぶやく。

握っていた拳を開き、掌にエーテルを広く纏う。そしてその掌を扉に向けて振り下ろす。闇のエーテルの軌跡がドロリと蝋のように溶けていく。

そのまま何度も扉を削る。やがて、扉の真ん中に人一人通れるほどの穴が開く。

 

「ニア!ビャッコ!」

「む、その声…レックス殿!!」

 

穴から中を覗き込むと、中にはビャッコが臨戦態勢を取っていた。突然目の前で削れ出した扉に警戒していたのだろう。

 

「助けに来た!…ニアは!?」

 

レックスは穴の中を覗き込むが、その狭い部屋の中にはビャッコの姿しかなかった。

他の部屋かと振り向くが、すでにメツが確認したらしく、レックスに向かって小さく首を振った。

 

「お嬢様は私とは別の場所に…む、そちらの方々は?」

 

穴からのぞき込む別の顔に首をかしげるビャッコ。いつのまにかトラとハナがレックスの横から顔を出していた。

 

「トラとハナ!俺達を手伝ってくれてるんだ」

「トラだも!トラ型ブレイド初めてみるも!…トラとトラで被ってるも!?」

「ハナですも。人工ブレイドですも」

「トラ殿にハナ殿…ジンコー?というのはよくわかりませんが…よろしくお願いいたします」

 

ぺこりと頭を下げるビャッコ。それに習ってハナもお辞儀を返し、トラはももー!と跳ねる。

レックスとトラがビャッコを穴から引っ張り出す。その間メツは周囲を警戒していたが、丁度ビャッコが出てきた辺りで「マズイな」と小さくつぶやいた。

 

「小僧、敵が集まってきてやがる」

 

その言葉にレックスはモナド片手に周囲を見渡す…が、姿は見えない。

どいうこと…と、メツを見上げると、メツはこの独房に繋がる廊下に視線を向けながら耳をトントンと指さした。

 

「応援を呼ばれた…?ハナ、もう一つの独房の場所は!?」

「わかりませんも。ハナのノーナイマッピングはふじゅーぶんですも」

「そっか…蹴散らしながら行くにしてもせめて方向くらいはわからないと…」

「レックス殿。お嬢様の位置は大体わかります。そこまでの敵に対処していただけますか」

「本当!?」

「ええ、私と同調した唯一の方ですから」

 

ビャッコが頷き、レックスもそれに頷きを返す。

案内人であるビャッコを先頭に隊列を組む。ビャッコと話している間に、レックスの耳にもいくつかの足音が届き始めていた。

 

「よし!正面突破だ!」

 

 

 

 

「あーあー…暇だなー」

 

独房の中で、ニアは手と足を放り投げて床に寝っ転がる。

独房にはベッドがあったが、床と対して変わらないほど硬く、なんか変なにおいがしたのでそこで寝るのはあきらめた。

 

「なあ?ビャッ…」

 

隣に視線を向け話しかけるも、そこに相棒がいないことに気付く。

宙に浮いた言葉が消えていくような感覚に軽く笑い、再度視線を天井に向ける。

 

「そういや前にもこんなことあったなぁ…」

 

ニアは言葉を引き金に、過去に思いを馳せる。

 


あの時も捕まったのはグーラだった。同じように兵士に捕らえられて、同じように窓の無い牢屋に放り込まれた。ただ一点違ったのは、あの時は隣にビャッコがいたことだった。最も、あの時は二人ともひどく疲弊していて、まともに話せるような状態ではなかったが。

そしてそんな状態のままほぼ放置されること数日。自分たちの移送が告げられ、移動のための船の牢屋に移された。そしてまもなく出航となった時、外から大きな物音がした。何事かと扉の方に近寄ると、その扉が突然赤く染まった。危険を感じて横に飛んだのと同時に、扉から噴き出した横向きの火柱が、その板切れを後方の壁に吹き飛ばした。

 

『シン!こちらに…あら、可愛らしい子』

 

扉の外に立っていたのは赤い髪をした少女だった。

 

『な、なんだよお前…』

『私はホムラ。あなたと似たようなもの…ですかね?』


 

割と最近のことだったようにも、随分昔のことだったようにも思える記憶。思い出してフフっと笑う。あの時も確かに凄い状況だったが、まさかもっと凄いことに巻き込まれて、また掴まるとは思ってもみなかった。

ゴロンと寝転がり、その時を思い出すように扉を見つめる。耳を澄ますとなにかをぶつけるような音が聞こえてきた。ドタバタと慌ただしい足音に、響き渡る怒号。そうそうあの時もこんな…そして、確かにこんな感じで扉が急に膨らんで…

 

「…は?」

 

自分の思考と目の前の状況の一致に一瞬フリーズ。そして即座に脳の直感が危険を判断して、体を硬いベッドに飛び移らせる。

その体が着地すると同時に、目の前の板切れが今度は黒い柱に吹き飛ばされる。

 

「な、なな…」

「お嬢様ー!!」

 

視界を覆う黒煙の中、飛び出してきたのは白い塊。

先ほど名を呼んだ相棒だった。

 

「ご無事ですかお嬢様!?」

 

ビャッコはニアの姿を確認し、すぐさま駆け寄る。そして即座にエーテルによる治癒を開始しようとするが、ニアはそれを制止する。

 

「大丈夫…ありがと。どうやってここに?」

「ニア!?無事か!?」

 

ビャッコが答えようとする前に、もう一つ声が外から飛び込んでくる。

声の主は扉の外でこちらに背を向け剣を構え、更に奥のスペルビア兵と対峙していた。

 

「レックス殿たちに助けていただいたのです」

「なるほどね」

 

ベットから飛び降り、ビャッコが体に提げていたリングを手に取る。

そのまま扉から飛び出し、レックスの横に迫っていたスペルビア兵を蹴り飛ばす。

 

「ニア!動いて大丈夫なのか?」

 

背中合わせで構えるレックスとニア。話しながらも、襲い掛かってくるスペルビア兵を次々に捌いていく。

 

「そんなヤワにできてないよアタシは!…まったく。"アタシはいい"って言ったのにっ!」

「それなら俺だって"助ける"って言ったじゃないか。それに"わかった"って返事してたじゃないか」

「そ、それはそうだけど!」

 

照れを隠すように叫びつつ、最後のスペルビア兵を切り伏せる。

訪れる一瞬の静寂。念のため周囲を確認し、ニアは武器を腰に掛ける。

 

「…で、これからどうすんの?」

「先ずは脱出だ。トラ!ハナ!」

 

レックスの呼びかけに、奥の角からトラとハナが顔をひょこっとのぞかせる。

 

「アニキ!ニアちゃん大丈夫だったも?」

「うえ!?ノポン人!?あと…女の子?」

「トラだも!」

「ハナですも」

「おい小僧!早くしろ!」

 

トラとハナ、そしてその上からメツが顔をのぞかせる。その頭に更にじっちゃんが乗る。

ニアは一瞬「あ、これが噂に聞くノポンタワー」と思ったが、構成要素の内、ノポンは1人しかいないことに気づく。

 

「脱出ルートは確保した!さっさと脱出するぞ!」

「わかった!行こう、ニア!」

「ああ…って!?」

 

レックスの言葉に頷きと共に返した声が上ずる。その手が突然握られた。

驚きのあまり反応しなかった体が強く引っ張られる。どうやらレックスは無意識らしく、メツの先導する方向だけを見て走り続ける。

 

「…ありがと、レックス」

 

その言葉は前を行く少年に届かせないように、か細く、小さくつぶやいた。


続く

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