メツブレイド   作:ヤケイ

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03『浮上』

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「上がるぞ!下がってろ!」

 

年配サルベージャーの怒号が飛ぶ。

海面に浮かび上がってきたサルベージャーたちは急いでその場から泳いで遠ざかり、ウズシオへと上がっていく。

最後のサルベージャーがウズシオのヘリに手を掛けたちょうどそのタイミングだった。海面が大きく波打ちだした。

そして周囲に響くゴゴゴゴ…という轟音。

 

「お…大きい…」

 

ニアは浮かび上がったソレを見て感嘆の声を漏らす。

ニアの目の前でサルベージャーたちが浮上させたソレ。それは巨大な船だった。

ウズシオの数倍を誇る船。全長だけで言えばアヴァリティアにも劣らないサイズだろう。そしてその高さもまた、海上に浮かんでいる分だけで数階建ての建物程ある。

 

「…あの時のままですね。問題は中身…」

 

ニアの横でホムラは船を値踏みするように眺めていた。

ニアはその言葉に反応は返さない。おそらくその言葉はニアに向けたものではなく、反対側に立つ男、シンに向けられたものだろうからだ。

 

「固定完了!内部探査に向かうと聞いていますが?」

 

報告に来た年配サルベージャーの言葉にホムラは頷き、ウズシオから船の甲板へとかけられたタラップに向かう。ニアとシンもそれに続く。

船の甲板ではすでに、レックスを含めた数名のサルベージャーが荷造りや排水の作業を行っていた。

 

「見事な手際だった。なかなかやるじゃん」

「本業をなめるなって」

 

ニアはレックスに駆け寄って声をかける。

サルベージャーたちは浮上の際、水中で膨らむ気球を使って船に浮力を与えていた。レックスはその内のいくつかを取り付けていた…らしいが、勿論ウズシオの上にいたニアからはその様子は見えていない。

しかしそのことに気づいていないのか、ほめられたレックスは得意げだった。

 

「各班、準備のできた者から侵入開始!」

「…私たちも行きましょう」

 

年配サルベージャーの号令を合図にサルベージャー達の数名が船の入り口へと向かう。それに続くようにホムラとシンも入り口の方へと歩き出した。

ニアもそれを見てレックスから離れるように歩き出す…が、その足がハタと止まる。追いかけようとしたシンが足を止めレックスの方を向いていた。

 

「シン?どうした…」

「…お前も来い」

「へ?」

 

レックスは自分の方にに向けられただろう言葉に素っ頓狂な声を返す。

確かにレックスもサルベージ前の作業説明で内部調査のことは聞いていた。そしてドライバーであるニア達もそれに参加するだろうということはなんとなく考えていた。しかし依頼人は依頼人同士でチームを組み、レックスは別のサルベージャーと一緒に中に入るか、このまま甲板でそのまま作業だろうと考えていたからだ。

 

「こいつも連れて行くって言うの?シン?」

 

どうやらニアもレックスと同じ考えだったらしい。シンに向かって首をかしげるが、シンは何も答えない。

代わりに答えたのは、シンの少し先で振り返ったホムラだった。

 

「貴方たちだけじゃ不安…みたいですよ?」

「なっ…!?」

 

言葉を失ったニアを見て「フフ…」とホムラは笑い、いつの間にか先に行っていたシンを追いかける。

その背を暫く見つめるレックスとニア。その背が船の入り口に消えた辺りで、すねるようにニアは舌打ちをした。

 

「…何ボーっとしてんの?言われたろ。ついてくるんだよ!」

 

八つ当たりのようにレックスに言い放ち、ニアもホムラ達に続く。

その子供っぽい言い草にレックスは少し呆れながら、続くように入り口へ向かっていった。

 

 

 


…ここはどこだ…

 

意識が朦朧としている。さっきまで自分は何をしていたのか…いや、そもそも自分は"何なのか"。わからないまま意識が混濁している。

目の前にはどこかの景色が見える。壁が硬い素材でできた部屋。全体的に暗く、中央には何かが置かれている。景色はもやがかかったように霞んでいる。

その景色に見覚えはなかった。

 

…これは…

 

暫くして、視界の後ろから扉の開くような音が聞こえた。その方を振り返ろうとしてみるが、自分の視界は今の景色から動こうとしない。

動かない視界にカツン、カツンと足音が後ろから迫る。やがてその足音の主が自分の視界と重なり、そのまま前方へと通り過ぎていく。

 

…あれは…小僧(・・)

 

その少年の背中には見覚えがあった。自分の手を取った少年の姿だ。

そして少年から遅れて二人の少女と一人の男が視界に入ってくる。こちらには"見覚えがない"。

少年が部屋の中央の何かに手を伸ばす。赤い髪の少女が静止しようと声を上げる。しかしその声は間に合わず、少年の手がソレに触れ…

 

少年の胸に男の刀が突き刺さる。


 

「小僧!」

「もも!?びっくりしたも!!」

 

メツは叫び声とともに起き上がった。その声に驚いたらしい黄色い毛玉がメツの視界の横で跳ねる。

 

「ここは…今のは…」

「ここはミルミルの診療所だも。患者さんは安静にしてないとダメも!」

 

黄色い毛玉の正体、ノポンのミルミルがベッドの上に飛び乗り、メツの肩を押す。しかし、力が弱すぎてメツの体はびくともしない。

メツは頭を押さえて首を振る。今、メツの体は白いベッドの上にあった。掛けられた薄いシーツは寝汗でぐっしょりと濡れている。

 

「横になるも―!」

「…小僧…俺は…っ!」

「ももーっ!」

 

メツは体の上で暴れるミルミルを払いのけ、ベッドから急いで飛び降りる。

その勢いのままミルミルの診療所を飛び出し、目の前に見えた階段を駆け下りる。

 

「もももー!患者さんがいなくなったら、ミルミル誰からお金もらえばいいもー!!!」

 

 

 

 

「レックスはそろそろ着いたころじゃろうか…」

 

アヴァリティアのスタッフから聞いた、レックスの仕事場の方角を見てじっちゃんは独り言つ。

レックスが去った後、レックスの仕事について聞いたじっちゃんは暫く考え込んでいた。あまりにも突然かつ不可思議なメツとの邂逅。それと同時にレックスに舞い込んできたあまりにも不穏すぎる仕事。偶然にしてはタイミングが出来過ぎている2つの出来事にじっちゃんは不安を隠しきれなかった。

方角を聞いてからこっそりついて行こうかとも考えたが、プレートのサルベージにメツを運ぶためのアヴァリティアへの急行。老体に鞭を打って無理をした所為か、体の節々がとても痛かった。

 

「寄る年波には勝てんのう…」

 

自身の老いを感じ、感慨にふける。

もしかしたら自分は過保護すぎるのかもしれない。思考が反省へと向かう。

まだ10代とは言え、レックスは十二分に独り立ちした立派な少年だ。いつまでもあーだこーだと言うのは逆にレックスに対して信頼が欠けているのかもしれない。

そんなことを考えて、「いや、やはりアイツは危ういな」と一人小さく笑っていると、何やら市場の方が騒がしいことに気付く。視線を送ると、ちょうどこちらに走ってくる影が見えた。

 

「ハァ…ハァ…お前が"じっちゃん"…か?」

「…メツ…っ!?」

 

息を切らしながら走ってきたのは、不安の種の一つ。メツだった。

メツはじっちゃんの傍まで寄りその足元に座り込む。見上げてきた顔は不敵に笑っていた。

 

「俺を…知ってるって…ことはそう…みたいだな…」

「ワシになんの用じゃ」

「小僧が…あぶねえ」

 

メツの言葉にじっちゃんは首をかしげる。

突然のことに困惑しているところに意味不明な言葉。何一つ理解が追い付かない。

 

「小僧…?」

「お前の背にいた…俺を助けた…青い服の…」

「…レックスか?」

 

じっちゃんの言葉にメツは小さく頷く。

それとは対照的に、じっちゃんの眉根にはしわが寄る。

 

「ああ…多分そいつだ」

「…何を根拠に。というか何故お主が…」

「分からねえ。ただ…確信がある」

「確信?」

「"視たんだ"」

 

メツの不明瞭な発言にじっちゃんはより深く眉をひそめる。

しかし、メツのその目は確かに何か確信を持ったような目。少なくともじっちゃんにはそう見えていた。

だがその確信とは別に、じっちゃんの心の中には一つの疑問が生まれていた。

 

「…ワシが聞きたいのは"何故お主が助けようとする"ということじゃ」

「…それもわからねえ…」

 

メツはうつむく。じっちゃんはそんな態度に困惑した。

500年前、実際に相対した機会こそ少なかったが、かつての仲間たちからメツの話は何度も聞いていた。

そのイメージと今のメツが重ならない。まるで別人かのように。

 

「信じられねえかもしれないが頼む。俺を小僧の元へ連れて行ってくれ」

 

じっちゃんは少し考えこみ、やれやれと首を振る。

事情はよく分からないが、よく考えればメツは天の聖杯と呼ばれるブレイド。

特別ではあるが、ブレイドならば別人のようであるということも有り得なくはない。じっちゃんはそれを経験談として知っていた。

何よりもそれ以上に、メツの言うレックスの危機があまりにも気がかりだった。杞憂と思っていた不安が的中している可能性は捨てきれない。

 

「…しょうがないのう…まあ、ワシも気になっておったしな。乗れメツ」

 

体勢を低くしたじっちゃんにメツは飛び乗る。

じっちゃんは体を動かし、レックスの向かった方向へと進路を取る。

 

「時間がねえかもしれねえ。急いでくれ」

「全く…誰も彼も巨神獣使いが粗いわい…!」

 

じっちゃんは大きく翼を広げる。

飛び立った竜はすぐにアヴァリティアから見えなくなった。

 

 

 

 

「…見てください、シン。あの紋章、アデルの紋章です」

 

中に住み着いていたモンスターたちを退けながら船の中を進むこと暫く。ホムラは目の前の扉に描かれた紋章を指さした。

レックス達がいる場所はおそらく船の中の最深部。目の前の扉以外に道はなく、その扉はレックスの身長の数倍の高さで通路を閉ざしていた。

 

(アデルの紋章…?)

 

アデル…聞いたことあるようなないような単語に首をかしげるレックス。故郷のコルレルおばさんが話してたような曖昧な記憶を想起していた。

 

「おい、その扉を開けろ」

「へ?」

「この扉は"お前達"でなくては開かん」

 

シンがレックスの方を向いて突然告げる。

突然の言葉に、意味の解らない内容。レックスの首が大きく傾く。

 

「オレ達ってどういう…」

「早くやってもらえますか?それがレックスさんの仕事でしょう?」

「な、なんだよアンタまで…」

 

差し込まれたホムラの言葉により深く困惑する。しかし、ホムラもシンもそれ以上は何も話さない。

逃げるようにニアの方に視線を向けるが、ニアはわざとらしくレックスから顔を背けていた。

レックスは大きなため息を一つ。諦めるように、足を扉の方へと向ける。

 

「…どうやって開けるのかな…」

 

とりあえず周辺を探ってみるが、扉はうんともすんとも言わない。

そもそも自分は探検家ではなくサルベージャーなのだ。確かに各地を転々とするためのノウハウはある程度あれど、こういう仕掛けをとくスペシャリストではない。

 

「…これ…」

 

辺りを調べ終え、最後の頼みとばかりに扉の中央に手が伸びる。ホムラが指さした紋章だ。

伸ばした指先が紋章に触れる。すると振れたそのそばから淡く青い光が紋章に灯った。

 

「扉を開けるスイッチ…?」

 

紋章全体が青く輝き、ついでゴゴゴゴ…と轟音が響く。

土煙を起こしながら、レックスの目の前で扉が2つに割れていく。

扉の奥にはまだ少し通路が続いていた。そしてその通路の終端。そこには開けた空間のようなものが見えている。

 

「行くぞ」

 

シンの声を合図にニア達が歩いてくる。

扉の前にいたレックスはシンたちよりも先に進んでいき、奥の空間へと一番にたどり着く。

 

「な…何だあれは?」

 

その空間は円形の部屋だった。

床にはエーテルらしき青い光が流れており、その中央にこれまた円形の島があった。

その島の中央。その床に、部屋に満ちた青い光とは対照的な"真っ赤な剣"が突き立っていた。

 

「赤い…剣…」

 

レックスが近づくと赤い剣から翠色の光があふれる。

粒子状に漂う翠の光。見るとその剣の柄から出ているらしく、見るとそこにあったのは"メツを閉じ込めていたのと同じ"長方形のプレートの意匠。

 

「あれは…」

「ええ…間違いありません。"アデルが封印した私の剣"」

「ホムラの…剣…?」

 

レックスの後ろでニアとホムラが何かを呟く。しかしレックスにその言葉は届いていない。

レックスの意識は今、剣だけにあった。レックスはそのまま導かれるようにその光へと手を伸ばし

 

「っ!レックス!それに触らないで!」

「え!?」

 

ホムラの叫びに驚き、レックスの肩が跳ねる。

だがその言葉は少し遅かった。手が引かれるよりも早く、その指先が剣に触れる。

剣から淡い翠の光が広がり、レックスの周囲を明るく照らし、

 


ドスッ

鈍い音と鋭い痛みがレックスを襲った。


 

 

「ガハッ」

 

身体が持ち上がり、胸の痛みが増していく。

レックスの口からは生暖かい液体が零れる。口いっぱいに広がる鉄の味。

 

「あ…ゴポ…何で…」

 

声と共に口から泡が漏れる。

恐る恐る視線を下に向けると、自身の胸を銀に光る刃が貫いていた。

 

「悪く思うな。せめてもの情けだ。この先の世界を見ずとも済むようにな」

 

レックスのすぐ後ろから聞こえたその声はシンの物だった。

そう言ってシンは刀を引き抜く。鋭い痛みがレックスの体を襲い、支えを無くしたその体はドサッという音と共に床へと倒れ込んだ。

 

「ご苦労様シン」

 

横になったレックスの視界に入り込んでくる赤い靴。

霞んだ視界の中で、ホムラが赤い剣に近づいてそれを引き抜く。周囲の翠の光が、ホムラの胸のところに集まっていく。

 

「大丈夫か」

「ええ…一瞬でしたし問題ないでしょう。行きましょう」

 

朦朧とする意識の中、そんな声が聞こえてくる。レックスの視界はもはや何の輪郭も保っていない。

レックスの視界が真っ赤に染まる。もはや痛みも感じない感覚の中で、それが自分の血なのだろうと不思議なほど冷静に理解する。

 

「シン!なぜ殺した!?レックスが…何をしたって言うんだ!?」

 

ニアの声が響く。

だがその言葉にこたえる声はレックスの耳に届かない。代わりに聞こえてくるのはカツカツと遠ざかる足音。

 

「シン!?」

「脱出しますよニア。モノケロスを呼んでもらえますか」

 

ホムラのその言葉が、レックスの耳に届いた最期の言葉だった。


続く

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