メツブレイド   作:ヤケイ

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04『トラ』

 

 

「小僧!どこに逃げる!?雲海にでも飛び込むか!?」

 

メツが上げた粉塵に紛れ、レックス達は路地裏の奥へ走り出す。

しかし後方からの追手とは別の足音が周囲から聞こえてくる。おそらくメインの通りから回りこんできている追手と屋根伝いに走ってくる追手の足音だ。

 

「いや、この近くに隠れれるような崖はなかったはずだ!」

 

レックスは道の端から見える雲海を横目に考える。

トリゴの街は雲海に接するように作られた港町。大きな岸壁に沿って作られているため、グーラに流れ着いた時のような下層と呼べる場所は近くに存在しない。

 

「ならこのまま反対か!?」

「…そうなんだけど…ッ!」

 

走りながら少し上を走る道を見上げる。

グーラの東側は雲海面に少し飛び出た桟橋の階層構造になっている。レックス達が走っているのはその最下層。

そしてその階層構造を更に東に進んだ先。そこには自然だらけで長閑なトリゴの街には似つかわしくない、大きな鉄壁が立っていた。

 

「この先にはスペルビアの軍港がある!向こうからも追手が来てるかもしれない!」

「ハサミうちじゃねえかクソッ!」

 

走りながらレックスは必死に逃げ道を考える。

ここでつかまってしまえばニアを助け出す手段がなくなってしまう。しかしレックスはこのトリゴの街に詳しいわけではない。ここに住むスペルビアの駐屯兵をかいくぐって逃げ続けるのはどう考えても無謀だった。

 

「やっぱ雲海に飛び込むしかないか…?」

「こっちだも!」

 

覚悟して雲海の方をのぞき込んだその時、近くの壁から声が聞こえた。

視線をやるが、そこにあったのは何の変哲もない壁。

 

「急ぐも!気づかれるも!」

 

だが、その壁がギィと音を立てて開く。

空いた壁…扉の先には誰もいなかった。

 

「どうしたも!?こっちだも!」

 

否、声は足元から聞こえていた。

扉を開けたのはレックスの股下ほどの高さの丸っこい生物。ノポン人だ。

ジーンズでできたオーバーオールを着たノポンの少年が扉の奥で手招きをしていた。

 

「誰だか知らないけどありがとう!」

 

急いで扉をくぐるレックスとメツ。扉を閉め、しばらくその場で息をひそめる。

少しして複数の足音が聞こえてきたが、その足音は壁の裏を通り過ぎて遠くへと向かっていった。

 

「助かった…のかな」

「ああ。間一髪だったみたいだがな」

 

大きなため息をつき、レックスとメツは腰を下ろす。

その目の前で扉を開けたノポン人は「よかったもー!」と小躍りをする。

 

「ホント助かったよ、えーっと…名前は?」

「トラだも!奥でお話するも!」

 

トラと名乗ったノポンは跳ねるように壁とは反対に伸びた通路を進んでいった。

 

 

 

 

トラが案内した先は、リビングのような小部屋だった。

家具はどれもノポンサイズでヒトが使うにはちょっと小さかったが、流石に文句を言える立場ではなかった。

とりあえずトラが「どうぞどうぞも」と勧めた椅子に腰かける。

 

「改めてありがとうトラ。俺はレックス。こっちのはメツで、こっちはじっちゃん」

「よろしくなんだも!」

「もしかして…あの水道管の爆発もキミが?」

「そうだも!試作型ジェットカムカムなんだも!凄いも!?」

 

えっへんも!と胸を張るトラ。

レックスの見る限り、トラの体は一般のノポンより若干大きい。張った胸で顔が見えなくなる。

 

「なんでワシらを助けたんじゃ?」

「試作型ジェットカムカムを試したかったのが一つ、あと威張り散らしたスペルビア兵に立ち向かうのかっこいいと思ったのが一つも!あと…」

「おぬし…ワシらが犯罪者とは思わなかったのか?」

「もも!?犯罪者なのかも!?怖いも!!」

 

じっちゃんがガオーと脅すのを見て、トラは脂汗をかきだす。

あわわわと慌てるその様子に、メツがククと小さく笑う。

 

「ももも。確かによく見ると、そっちのニーチャンは顔が怖いも」

「ああ!?」

 

指をさされたメツがトラに睨みを返す。それに更にトラは震え上がる。

 

「でも、犯罪者だとしても!トラにはやらなきゃなもう一つの理由があるんだも!」

「いや犯罪者じゃないんだけど…理由って?」

「それは…」

 

トラが話そうとしたその時、ぐぅううと大きな音が部屋に響いた。

視線が音の出処に集まる。鳴ったのはレックスの腹の虫だった。

 

「お腹ぐーぐーなのかも?」

「あ、いやえっと…確かにそろそろ夕食の時間か」

 

気まずそうに目を逸らすレックス。

昼食はしっかりと食べていた。しかし、縄張りバルバロッサから逃げたり、スペルビア兵と戦闘したり、そこから全力で走って逃げたり。ここまでかなりのエネルギーを使ってしまったらしい。

笑ってごまかそうとしてみたが、一度認識してしまったためか隠す間もなく腹の虫が再び鳴く。

 

「何かごちそうするも!ご飯を食べながら話した方が楽しいも!」

「え、いやそこまで世話になるわけには」

「もも!しまったも!お客さんにふるまえるような料理スキルがないも!大変も!」

 

レックスの言葉を無視してキッチンへ向かったトラだったが、そこであわあわと慌てだす。

席を立って覗いてみると、確かにそのキッチンにはそこまで使い込まれた形跡はなかった。

 

「どうするもー!さすがに素材そのままはダメも!!」

「…しょうがねえな。俺にまかせな」

 

言葉と共に立ったのは意外な人物だった。

 

「…え、料理できんの?」

 

立ち上がったメツは、キッチンの横に置かれた食材を見まわしてから首を鳴らす。

その様子にトラは横でももー!と喜んでいたが、レックスはその姿をいぶかしむ。

 

「ふっ…まあ見てな」

 

しかし、レックスの不安とは裏腹にメツは自信ありげに笑う。

 

「楽しみだも―!」

「大丈夫かな…」

 

 

 

 

「おら。出来たぞ」

「これ何…?」

 

待つこと暫く。料理を終えたメツが出来上がったものを机に運んできた。

しかし、運ばれてきたのはただ一品。机の上にドンと置かれた鍋一つ。

 

「何って鍋だろ。ほかのなんかに見えんのか」

「いやそれはわかるんだけど」

 

レックスは恐る恐る鍋の中身をのぞき込む。

そこに入っていたのは統一性の無い野菜や肉、処理も適当に放り込まれたと思われる食材、そもそも香り付け等に使用するための食材、そして食材なのか?と疑われるような素材類、エトセトラエトセトラ…。

とにかくありったけ入れてみたみたいな鍋だった。

 

「これ料理なの!?」

「料理も料理。超料理さ!」

 

大げさに両腕を掲げ、高らかに宣言するメツ。

そのまま机から離れるように歩きながら声を上げる。

 

「コイツは、俺の経験と知識と直感と思い付きとひらめき…その他もろもろの判断基準から『コイツは旨い』と判断した食材を惜しげもなく鍋に投下し加熱した究極の鍋…」

 

「名付けて!"闇鍋"だ!!」

 

バッとレックスの方を振り返りながら高らかに料理名を告げる。

トラはももー!っと拍手し、レックスはポカンと口を開ける。そしてじっちゃんはメツから見えないように地面で笑い転げていた。

 

「闇を使った料理ならなんでもござれ…だぜ?」

「えぇ…」

 

 

 

 

 

「美味しい」

「だろ?」

 

実際その鍋は美味しかった。

流石に食えないものを入れてるわけではないのだから食べれるのは最低限間違いなかった。

ただ、このごった煮で美味しいのは奇跡だとレックスは思った。その奇跡が実は本当にメツの直感や経験によるものなのか、あるいは今回偶々上手くいったものなのかは、レックスはとりあえず考えないことにした。

 

「もももー!こんなおいしい料理食べるのいつ以来だも!?助けてよかったも―!」

 

トラも感激しながらバクバクと食べている。じっちゃんもうまい!と言いながら食べているが、よく見るとまだ口の端が上がっている。

 

「…で、結局助けた理由って何だったの?」

「もも!そうだったも!」

 

もぐもぐごっきゅんとトラは勢いよく皿の上のものを片付ける。

 

「いや、食べながらでも…」

「ひと段落なんだも!あとであまあまういんなも入れるも!」

 

ポンっとお腹を叩くトラ。レックスの見立てでは、すでにお腹いっぱいのレックスの1.5倍は食べていたように見える。

 

「理由はさっき言った二つと、あともう二つあるも!」

「結構多いな」

「どっちもじゅーよーなんだも!」

 

そう言ってトラはこほんと咳ばらいを一つ。

そのまま席を立って、レックスの傍へと歩み寄る。

 

「トラを…トラをオトモにしてほしいんだも!」

「オトモ?」

 

予想外の提案にレックスは首をかしげる。

文字通りではなく、ノポンの文化か何かかと考えてみたが、そんな文化は聞いたことなかった。

 

「オトモ…何で?」

「ももも。トラ実はドライバーに憧れてるんだも。特に強くてかっこいいドライバーに憧れてたんだも!スペルビア兵やあの強いブレイド相手に戦うレックスはかっこよかったも!アニキって呼びたいも!」

「かっこいいって…照れるな」

「だから、アニキの下で色々見てみたいんだも!ダメも?」

 

トラはレックスの顔を上目遣いで覗き込んでくる。

ノポンは自分の背丈の小ささと見た目の愛くるしさを武器にして戦っていることがあることをレックスは知っている。

ただそれでも、その視線は幾ばくか純粋なものだと感じた。

 

「ええ!?いや、いいけど…俺、ドライバーなり立てだよ?」

「大丈夫も!トラなんかドライバーでも何でもないも!」

「え?ドライバーじゃないの?」

「違うも。前に試したら三日三晩鼻血が止まらなくなったも!」

「適性か」

 

メツの指摘に「そうだも」とトラは頷く。

ブレイドとの同調には適性が存在する。その仕組みは解明されていないが、全ての人間や生物がドライバーとなれるわけではない。適性のないものが同調を試みると、治療が必要なほどの出血が生じ、最悪死に至る。

だからブレイドを扱えるドライバーというのは貴重な存在なのだ。

 

「だからトラたちはドライバーに憧れて…」

「…それは分かったけど、それでなんでオトモなの?普通に友達でいいじゃないか」

「もも!?いいのかも!?」

「ぜーんぜん!ほら、友達の握手!」

 

そういってレックスは掌をトラに向ける。

トラはそれを暫く見つめた後、自身の小さい手を着ていたジーンズで拭って、強く握る。

 

「よし!これで俺達友達だな!」

「ももも~!!感激なんだも~~!!!!」

 

レックスの腕をぶんぶん振るトラ。少し痛いくらいだったが、本当に嬉しそうなトラの様子をみてレックスの顔も少しほころぶ。

振ること暫く、トラの視線は今度はメツの方へと向けられる。

 

「も、じゃあメツともオトモダチになれるも?」

「ああ?…まあ別にそれでもいいんじゃねえか」

「ホントも!?じゃあオトモダチの握手するも!」

 

キラッキラの目で今度はメツに手を差し出すトラ。

しかしメツが返したのは苦々しい顔。

 

「いや、そういうのは」

「なんでも!?メツもトラと握手するも!」

「おいやめろトラ!」

 

握手しようとメツの手めがけて走るトラに、それから逃げるメツ。

二人が食卓の周りをぐるぐる走りまわる様を見ながら、レックスは闇鍋から大根を一口かじったのだった。

 

 

 

 

「で、最後の一つは?」

 

結局、追いかけっこの勝者はトラとなった。メツが「めんどくせえ」と折れたのだ。

走り回って疲れたのか、そのままメツは床に倒れ込み、トラがその上で嬉しそうにポンポン跳ねる。メツは怒ろうと手を振り上げたが、結局上げた手はそのまま力なく床に落ちていった。

 

「もも、そだったも。これがサイジューヨーなんだも!」

 

トラはそういってメツの上から飛び降りる。

そのまま椅子に座るのかと思ったが、トラが向かった先は食卓とは別方向。

そこにはカーテンで区切られた部屋があった。

 

「これを見て欲しいんだも!」

 

シャーっとトラはそのカーテンを開く。レックスも食卓から立ち上がり、その奥を覗きに行く。

そのカーテンの奥、食卓より一回り小さなその部屋に置かれたものを見て、レックスは眼を丸くした。

 

「こ、これは!?」

「もっふっふ。驚いたも?これこそ、トラ家が三代にわたって開発してきたケッサクなんだも!」

 

えっへん!と自信満々に胸を張るトラ。

レックスに遅れてじっちゃんとメツも同様に部屋のぞき込み、レックスと同じような表情になる。

 

「こりゃすごいのう!」

「驚いたな…」

「で、これが俺達を助けたのとどう関係が?」

 

それを見ながら、レックスが尋ねる。

しかし、中々返事が来ない。どうしたのかと見てみると、ラはちょっと気まずそうな顔をしていた。

 

「もも。実はこれまだ未完成なんだも。いくつかパーツが足りないんだも!」

「珍しいパーツなのか?」

「そんなことはないも。割と一般的なものだも。ただ…」

「ただ?」

 

「お金が、ないんだも」

 

「…なるほど」

 

その言葉を聞いてレックスは苦笑いと共に頷いた。

気持ちがよくわかるのと、この先に言われることの予測がついたからだ。

 

「無理なお願いだとはわかってるも。でもあとホント少しで完成するんだも!それに…完成すればアニキのことも手伝えると思うんだも!だから…」

「わかった!皆まで言うな!」

 

トラが言葉を続けようとしたところを、レックスは掌を見せて制する。

あえて振り向かなかったが、後ろからメツとじっちゃんの視線をレックスは感じた。

 

「おい小僧…」

「分かってる。でも困ってる友達をほっておけない…だろう?」

「アニキ…!」

「金は俺が払う!!」

 

任せろ!とレックスは胸を張る。

…が、その足が若干震えてることをじっちゃんは見逃さなかった。

 

「で、何が必要なんだ?あ、あんまり高かったら俺でも払えないかも…」

「『かんぺき測距センサ』と『ビヨンコネクタ』だも」

「あ、それなら俺もってるぞ!」

 

レックスは腰のポーチから小さな機械片を取り出す。

トラが言った2つの装置、それはこの時期のグーラでサルベージできる機械だった。

実はトリゴの街に来るまでの道中、縄張りバルバロッサにで会う少し前。街についた時に少しでも小遣い稼ぎになればと、サルベージを一回だけ行っていたのだ。

 

「もも!?ホントも!?」

「お金にしようかなって思ってたけど、あげるよ」

「ありがとうもありがとうも!ありがとうもありがとうも!!」

「あんまり繰り返すと逆効果だぞ」

 

パーツを受け取り、レックスの手をもう一度ぶんぶん振り回すトラ。

ひとしきり振った後、パーツをもって部屋の横に備えらた作業机に向かう。

 

「じゃあさっそくトラは準備に取り掛かるも!時間がかかるから二人はもう寝てていいも。あっちのベッドを使うも!」

「わかった。…何から何まで悪いな」

「いいも!なんたって兄貴はオトモ…違った。オトモダチなんだも!」

 

トラは満面の笑みをレックスに向ける。

食卓部屋の横の方に置かれたベッド(客人用なのか、ヒトでも問題なく寝れるサイズだった)で横になると、一日中動き回ったからか、睡魔はすぐにやってきた。

レックスとメツ、じっちゃんが眠りにつくまでの微睡み。その間中奥の部屋から機械音が響いていた。


続く

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