小川が大河に至るまで   作:しぃ君

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 ハロウィンです。
 ハロウィンだと思って読んでください。


ハロウィンに甘い恋を添えて

 ◇スーパークリーク◇

 夏を開けて、秋。ハロウィンがやってきた。学内はイベントの熱気に当てられてか、様々な衣装を身に纏う生徒が目立ち、「トリックオアトリート」の声が響く。かくいう私も、トレーナーさんと一緒にハロウィン用の服に着替えて、訪ねてくる子達にお菓子を配っていた。

 トレーナーさんは魔女で、私はミイラ。

 惑わす人と、惑わされた人。そんなコスプレ。

 

 

 四度目の経験だと言うのに妙に落ち着かないのは、あの夏祭りの──告白(間違い)のせいだ。耳に残って消えない言葉が、声が、心を掻き乱す。抑えようとして、何回も杭を打った欲望が限界の一歩手前まで来ていた。

 私と会う度に魅せる表情一つ一つが輝いて見えて、それが他の人に向けられている時は苦しくて、思考が歪んでいく。

 

 

 わかっている。

 あの日の言葉に嘘がないことは。

 

 

 わかっている。

 トレーナーさんが私を大事にしてくれてることは。

 

 

 わからないのは、彼女の好きが私の好きと同じかどうか? 

 ただそれだけ。

 

 

 触れたい、触れて欲しい。

 想いたい、想われたい。

 ずっと、これからも私だけを見ていて欲しい。ずっと傍に居て欲しい。そんなわがままな好き。わがままな恋。

 

 

 捨てられるほど大人じゃなくて、壊したいと思えるくらいにはギリギリで、私は今日もトレーナーさんを見つめる。目が合うだけで微笑む彼女はとても綺麗で、思わず頬が緩む。

 あぁ──私だけの人に、なってくれないかな。答え合わせ、させてくれないかな。ずっと待ってるだけは……苦しいや。

 

 

「……あ、ごめんクリーク! そろそろお菓子のストック切れちゃいそう。わたし、急いで寮の方から持ってくるね!」

 

「ま、待ってください! 私も行きます!」

 

「え? でも、そんなに多くないから、わたし一人でも平気だよ?」

 

「いくらお菓子でも、両手が塞がったら大変でしょうし……なにより、それでお菓子が崩れちゃったら元も子もありませんから。……だから、私も行きます!」

 

 

 鬼気迫ると言えば語弊があるが、私が捲したてるようにそう言うと、トレーナーさんは「それもそっか」と、納得し。一緒にトレーナー寮まで歩いていく。軽く雑談を混じえながら、辿り着いたトレーナーさんの部屋。二人して入って、扉を閉めたあと。

 

 

 悪い子の私は、トレーナーさんの部屋の鍵を──そっと閉めた。

 

 ◇結花◇

 ガチャリ、と鍵が閉まる音がして振り返ると、クリークがいつものように柔らかい笑顔を浮かべて立っている。気のせいかと彼女の奥にある扉を見ると、鍵は閉まっているのがわかった。

 

 

「……クリーク?」

 

「トレーナーさん。夏祭りのこと、覚えてますか?」

 

「──覚えてるよ」

 

「なら、教えてください……! 私のこと、どう想ってるのか」

 

 

 必死に目を逸らした。

 過ちから、目を逸らした。

 何も言われなかったから、濁して濁して、濁し続けた。

 

 

 それが、回り回って今返ってきている。罰だった。罪だった。わたしからした告白を誤魔化して、彼女の気持ちを弄んだ。でも、わからない。わからないんだ。恋なんて、したことなかった。好きに違いがあるなんて、知らなかった。

 夢だけ見てて、追いかけて、そしたら今になってたから、わたしはなにもわからない。この気持ちが、この想いがクリークと同じなのか、違うのか。それすらわからない。

 

 

 きっと、生半可な気持ちで言葉にするべきじゃなかったんだ。

 好きだ、とか。ずっと一緒に居たい、とか。

 口にするには、全部全部足りなくて……わたしは……

 

 

「……………………」

 

「大事にされてるのはわかってます! 好かれているのも……わかってます! だけど、だけど……トレーナーさんの好きが私と同じなのかわからなくて……」

 

「それは……」

 

「違うなら違うでいいんです。それなら、諦められるんです! でも、あなたは何も言わないから!! 勝手に期待しそうになって……勝手に傷ついて……苦しいんです……!」

 

 

 一歩、また一歩後退るわたしを追い詰めるように、クリークは歩み寄る。けど、ベッドが邪魔になって、もう逃げられなくて、ふんわりと押すように彼女をわたしを押し倒した。

 優しかった。

 ウマ娘の力なら無理矢理にでも組み伏せられただろうに、ただ優しく押して、わたしの上に覆い被さる。

 

 

 さらりと、クリークの長い髪が頬にかかり。ポタポタと涙が落ちてくる。

 泣かせたくなかったのに。

 泣いて欲しくなかったのに。

 結局はわたしの傲慢で、彼女を傷つけてしまった。

 

 

「……教えてください。答えてください。私は……あなたの言葉で、聞きたいんです……」

 

「わた、しは……」

 

 

 なにもない。

 幼い頃の夢だけがわたしの原動力で、多くを捨ててここまできた。友人も多くない、恋人なんてできたことない。クリークに会うまでスカウトも失敗続きで、いっそ辞めてしまおうかとすら考えて、それでも『夢』まで捨てたら何も残らないから、ただ縋って。

 

 

 空っぽだ。

 あぁ、空っぽだから──怖いんだ。

 彼女のため、自分のため、そうやって嘘をついて逃げてきた。失望されたくなくて、嫌われたくなくて、トレーナーではない自分がクリークの隣に立てるイメージが湧かなくて、怖いんだ。

 

 

 けど、それがどうした? 

 怖い、怖いから、大切な人を泣かせていいのか? 

 

 

 違う。違うだろ。わたしは彼女に笑っていて欲しくて、笑う顔が好きで、一生懸命やってきたんだ。逃げなんて選ぶな。離れるなんて考えるな。ただ、今はクリークのことだけ考えればいい。

 

 

「……クリーク。わたし、あなたが好きだよ。同じ好きかはわからないけど、離れたくないって思ってる。ずっと傍に居たいって、思ってる。これじゃあ、ダメかな?」

 

「ダメじゃ……ありません。すごく、嬉しいです……!」

 

「ありがとう。……それと、ごめんね。もう絶対、あなたを泣かせたりしないから」

 

 

 涙を流すクリークを、包み込むように抱きしめて言葉を紡ぐ。

 許されるつもりはない。

 許してもらおうと思わない。

 謝っておきたかった、それだけだ。

 

 

 身勝手で、ズルい、大人らしいやり方。

 本当にズルい、やり方。

 だけど、それでいいんだ。クリークを幸せにできるなら。クリークを笑顔にできるなら、わたしは喜んでズルい人になる。

 

 

 お菓子は……もういらないな。




 次回もお楽しみに!

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