通称『殴り込み艦隊』全体へ届く形での演説を、自分は大会議室の壇上で行う。
「此れより、我等、帝国航宙軍は今後に続く、敵バグスとの戦いの狼煙を上げる事になる!
形としては、定期的に交戦する事により、常に敵バグスの大軍団が緊張を強いられて、戦力の再編成や布陣を再構築する様な余裕を失わせて、敵バグスを奔命に疲労させ続ける事を目的とする。
つまり、この体制をずっと続ける事で敵バグスは、『虚無(ヴォイド)』宙域にずっと繋ぎ止めて置いて、我等『人類銀河帝国』の生活圏内に侵攻出来ない様にする。
此れが、作戦の眼目であり其れを続ける事で、何時かは敵バグスを根絶せしめる事が出来るだろう。
さあ、その戦略の為の最初の砲火を交えに行くぞ!」
「「「「「オオオオオオーーーーーーーー!!!」」」」」
と、自分の拙い演説と云うより、此れからの戦いに置ける歴史的な重要性を、其れ其れが把握しているので、其の高揚感で意気が上がっているのだろう。
士気を上げた『殴り込み艦隊』は、続々とワームホールに侵入して行き隊列を整えて、ワームホールの中央部を大きく開けた形で布陣して行く。
其の間もワームホール内の終端には特別な艦である『次元修復艦』が、敵バグスの大軍団の至近距離にワームホールの新たな出口を開けるべく、ワームホールの終端を調整している。
そして、事前準備の為に自分の『神機メタトロン』の権能を使用し、3年前にも活躍した『超過重貫通弾』を使用する為の特異点をワームホールの終端のど真ん中に出現させた。
既にアルカディア星系とは遠く離れた場所に有る『ブラックホール』のシュヴァルツシルト半径を、スイングバイで加速させ続けている超過重物質の予定進路上に、特異点を出現させる準備は出来ている。
いよいよ、カウントダウンを5分前から始めてワームホールの終端を、敵バグスの大軍団の至近距離に開ける段階に入る。
「さて、もう少しで戦争の開始だけど、落ち着いて行動してくれよ!」
「大丈夫だぜ、アポロ! 此の戦争のシミュレーションは嫌と言うほどやり抜いたからな!」
「全くよ! 我等の3年間はほぼ此の時の為に費やされたと言って良いわ!」
「今回の目論見が成功すれば、数年間はバグス共の侵攻は有り得なくなるから、後は自動迎撃システムが暫くの間敵バグス共を削り続けてくれるよ!」
「私達も、漸く通常の軍務に戻れる様になるのね~、その為にも今回は何時にも増して張りきらなくちゃ!」
「そうね、久し振りに故郷の惑星アレスに戻って、錦を飾りたいわ!」
そんな風に、軽口を仲間同士で叩き合って、リラックス状態に無理矢理向かわせた。
何故なら、どうしても仲間全員がやや入れ込み過ぎになっているのが、生まれた時から仲間(褒姒は違うが)の心理状態は直ぐに伝わったからだ。
《・・・こんな事では、修行して『鏡花水月』を会得した意味が無くなる、落ち着こう・・・。》
ゆっくりとコックピット内で深呼吸し、軽く呼吸法を行い気分を落ち着かせる。
そして、とうとうカウントダウンが、10を切る!
「9、8、7、6、5、4、3、2、1、0、! ワームホール出口開放!」
予想通り、かなりの『宙震(空気の有る地表でマッハを越えると衝撃波が起こるのと似たような現象)』が起こり、空間が落ち着くのにかなりの時間が掛かる。
その様子を、徹底的な隠蔽措置を施している『超探査プローブ』は、敵バグスの大軍団の駐留する『虚無(ヴォイド)』宙域に、ありとあらゆる場所に配置している為、ほぼ完璧に現状が判る様になっているので、観測する事が出来る。
敵バグスの大軍団は、突如出現したワームホール出口の所為で宙震が発生した為、混乱していた様だが徐々に混乱を収拾して、ワームホール出口に対して布陣を完了させた。
だが、其れこそが此方の狙いで有る!
敵バグスの大軍団が布陣してくれたお陰で、何処に投射すれば効率良く艦隊及び『宇宙大怪獣』に当てれるか? 計算が出来たからだ!
案の定、敵バグスの大軍団がゆっくりとワームホール出口に近付いて来る。
其れを、我々『殴り込み艦隊』は爪を研ぎながら待つ。
やがて、回避不能な距離に敵バグスの大軍団の一部が到達した!
その瞬間に、、『神機メタトロン』の権能であるシフト(位相差ジャンプ)を利用した特異点の入り口を、超過重物質の予定進路上に出現させた!
次の瞬間、音も光も無く15個の大穴が敵バグスの大軍団に開き、更に凄まじい衝撃波が敵バグスの大軍団に襲い掛かった!
今回使用した『超過重貫通弾』には、先端部分に『中性子弾』と云う限り無くブラック・ホールに近い質量を持つ、とんでもない代物を使用している為に、物理現象に於いて防ぐ方法がほぼ存在しない攻撃である。
途轍も無い攻撃で混乱した敵バグスの大軍団に向けて、次の攻撃が襲い掛かる事となる。
其の攻撃とは、『レギオネル・カノン』!
砲塔代わりの無人艦隊50万隻が、溜めに溜め込んだエネルギー(壊れかけた人工太陽を敢えて超新星爆発させたエネルギー)を方向性に放射する兵器である。
『レギオネル・カノン』は一瞬の攻撃では無く、暫くの間放射され続けるエネルギービームなので、混乱していた敵バグスの大軍団は、容赦無く翻弄されて行く。
しかし、此等の凄まじい攻撃でも、兆単位のバグスの大軍団に取っては指先が熱いと感じた程度なのだろう、明らかにバグスの中核と覚しき辺りは、小揺るぎもしていない。
此れからの果てし無い戦いを思い、自分は遼遠たる不毛な大地を見ている様な気がした。