皇太子はツラいよ!   作:ミスター仙人

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最終章 第22話

 頭を振って、何とか気を取り直して直ぐに、他の神機達の状態と揚陸艦の状況を確認し、俺の『神機メタトロン』の権能であるシフト(位相差ジャンプ)を使い捲り、全員を揚陸艦に退避させる。

 

 神機達の中枢機関たる『ゴッド・ハート(神の心臓)』と、仲間達の居るコックピットだけを揚陸艦に退避させ、『神機メタトロン』内に居た星猫のアルとドラゴンのミネルヴァも同様に退避させた。

 

 【・・・メインパイロット『アポロニウス』・・・、後残り一回しかシフト(位相差ジャンプ)は使用出来ません・・・、本当にご自身と私メタトロンだけを残して、他の面々を全員『殴り込み艦隊』にまで跳ばせるのですね・・・?】

 

 「・・・嗚呼そうだ・・・、俺とメタトロン以外の者は、全て安全圏にまでシフト(位相差ジャンプ)させるんだ・・・。」

 

 そうメタトロンと俺が会話していると、突然会話に割って入ってくる者達が居た。

 

 「オイッ、どういう事だよアポロ? まさかお前だけ残るつもりなのかよ?」

 

 「どうしてよアポロ、私達は仲間なのよ! 最後まで一緒に戦うわ!」

 

 「そうだよアポロ、なんで君だけが残るんだ?」

 

 「こんな事、みんな納得しないわよ!」

 

 「他の仲間は兎も角、吾だけは嫌よ! 貴方だけ残るなんて!」

 

 どうやら、仲間達のコックピットでは俺とメタトロンの会話は丸聞こえだったらしい。

 

 「・・・みんな何か勘違いをしているな。 俺は別に殿(しんがり)を務めて所謂、薩摩軍法の『捨て奸(すてがまり』をしようとしている訳じゃないぞ!

 神機の中でも比較的に被害の少ない、俺のメタトロンで仮称『新種のバグス』を足止めして、シフト(位相差ジャンプ)では無いが、もう一つの権能である中性子を使用し、連続で中性子をぶつける事で、疑似ブラック・ホールを生成して繋げ合わせて、『虚無(ヴォイド)空間』からの脱出を図る。

 此の方法は、他の神機では出来ないし、ましてや今の半壊の状態のお前達の神機達では、絶対に耐えられない!

 これ以上は問答無用だ! みんな元気でな! お前達との生まれた時からの人生は、本当に楽しかったよ!

 それでは、さらばだ!」

 

 そう告げて、最後の一回であるシフト(位相差ジャンプ)を行う。

 

 「ま、待て・・・・・・・」

 

 まだ会話しようとする誰かの呟きが途切れ、全ての者達を回収した揚陸艦を俺の『神機メタトロン』は、『殴り込み艦隊』の居るワームホール出口へ最後のシフト(位相差ジャンプ)で転移させた。

 

 【・・・良ろしかったのですか、既に権能など全て使用出来ないどころか、最早身動き一つ出来ませんが・・・。】

 

 「・・・良いのさ・・・、他の者達と俺では、課せられた責任が違う・・・。

 嗚~呼、全く皇太子なんて立場は辛いものだよな~。

 人前では、決して弱音は吐けないし、人々の規範にも成らなければならないしな。

 まあ、そう云う覚悟がなければ、人々を死地である戦場に駆り立てる資格は無いよ・・・。

 願わくば、来世では貧しくても貧弱でも、市井の人として終われる人生が良いなぁ~」

 

 今迄決して言えなかった本音を、メタトロン以外聞く者の無い状態で呟いた・・・。

 

 そんな愚痴の様な独り言を知ってか知らずか、非常にゆっくりと近付く仮称『新種のバグス』を、先程までの怯えが綺麗サッパリ無くなって、何だか愉快で面白く思う気分でじっくりと眺めた。

 

 《・・・思えば、お前等も哀れな存在だよな・・・、超次元存在である『古きものども』の尖兵として創造されて、唯ひたすらに侵略行動をさせられた上に、生物としての楽しみや自由などは一切与えられず、一生を使い潰される・・・、其れは哀しむべき生では無いのか? もしかするとそう云う思考も出来ない程の兵器でしか無いのか・・・?》

 

 何だか物悲しくなりながら、俺は最後の準備行動に移る。

 

 其の最後の準備行動とは、『ゴッド・ハート(神の心臓)』を暴走させ、仮称『新種のバグス』がメタトロンの近くに寄った段階で、反転エネルギーに切り替える事で、人為的に次元乱流を引き起こし、そのまま此の次元に二度と来れない様にしてしまうのだ。

 

 当然、俺とメタトロンも巻き込まれるし、次元の乱流に捉まる前に発生する超重力に押しつぶされて消し飛ぶだろう・・・。

 

 まあ、此れしか無いのだから仕方無い。

 

 俺は寧ろサバサバした気分で準備を整えると、何を考えているのかサッパリ判らない仮称『新種のバグス』の複眼を見つめた。

 

 もう直ぐ訪れる俺の最期を、どうか家族や仲間達が、あまり悲しんでくれないでくれと、願いながら・・・

 


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