皇太子はツラいよ!   作:ミスター仙人

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最終章 第24話

 速度を越えた速度で俺と仮称『新種のバグス』は激突した。

 

 信じ難い程の威力を秘めた鉤爪の脚からの攻撃は、一振り毎が惑星を滅ぼす程の威力で然も其れが連続して繰り出される。

 

 下手に受ければ如何に『神鎧ジークフリート』と言えど、俺自身は人の身だから当然吸収しきれない力は諸に喰らう事になる。

 

 もし、父上との修行で『鏡花水月』を会得していなければ、恐らく直ぐにやられて居ただろう。

 

 しかし、『鏡花水月』を会得している俺は、適切な力の流れを掴み取り其れを反転させて、仮称『新種のバグス』に攻撃自体を跳ね返し、奴の腹部に叩き込んだ。

 

 「ウボボボボゲゲゲゲーー!」

 

 始めて仮称『新種のバグス』が呻き声を上げて腹を抱える様に後退した。

 

 《好機!》

 

 俺は、腹を抱える事で手足の数が人間と同じになった、仮称『新種のバグス』に技を仕掛けた!

 

 敢えてゆっくりと近付く事で奴の方からの攻撃を促す。

 

 するとやはり自由な右上腕部の鉤爪で横に薙いで来たので、其の鉤爪を避けながら裏側から手を添えて更に加速させて右上腕を振り抜かせる。

 

 当然、奴の右上腕は予定していた以上の加速を得てしまい、己自身の左脇腹に鉤爪を叩き込んでしまった。

 

 「グギャギャギャギャッ!」

 

 恐らくは痛みの所為であろうが、再度呻き声を上げて一気に距離を取り奴は俺に対し、睨み付ける様に複眼を赫く染めて俺を見つめて来る。

 

 其れに対して俺は、自然体のまま如何様なる攻撃にも対応する体勢となる。

 

 俺の構えに何を感じたのか、奴は己の手足を全て折り畳み身体の中に収納すると、背中の甲殻と同じ物が腹部を覆っていく体勢に己を変身(メタモルフォーゼ)させた。

 

 そして、背中に有る甲殻が両側に開くと、其の下に仕舞われて居た透明な羽根が姿を現す。

 

 其の透明な羽根が震えた瞬間、仮称『新種のバグス』が消える。

 

 消えたように見えたのは一気に最速(トップスピード)で加速して、俺の周囲をかなりの距離を取りながら旋回し始めたからなのだが、速度が尋常ではなく光速とほぼ同速で旋回し続けている。

 

 突如、俺に向かい急角度で仮称『新種のバグス』が突進して来るが、当然見えている俺にとっては避けるのも容易く、最小限の動きで避ける。

 

 其れを何度か繰り返すと、無駄と判ったのか奴は旋回し続けながら突進して来る事を止め、或る地点でピタリと止まり何やら奴の居る前面の空間に、6本の手足を伸ばして奇妙な仕草をした。

 

 《何だ?》

 

 疑問に思っていると、何やら6本の手足の先端である鉤爪が黒い球形に包まれた。

 

 其の黒い球形が途轍も無いエネルギーの凝縮された物であると気付き、俺は自分の前面にバリアーを展開する。

 

 「ディストーション・バリアー(歪曲防御壁)」

 

 そう唱えたタイミングで黒い球形から、6本の黒いビームが放たれて来たが、ディストーション・バリアー(歪曲防御壁)は其の黒いビームをアッサリと明後日の方向に逸らす。

 

 しかし、此の黒いビームは逸らされた筈なのに屈折しながら、俺の背後から襲い掛かって来た!

 

 「・・・集束・・・」

 

 だがそんな事は想定済みで、左手の平を頭上に掲げながらそう唱える事で、6本の黒いビームは吸い込まれる様に集まりそのまま掻き消える。

 

 「ガアッ!」

 

 短い吠え声を上げると奴は、6本の手足の先に黒い球形を付けたまま殴りかかって来た。

 

 其れに対して俺も、両手両足を光らせて殴り合いに応じる。

 

 「ゴゴゴゴゴゴカカカカカカッ!」

 

 音では無く衝撃波の波動が、周囲の空間に撒き散らされて行き、宙震が立て続けに起こる中、奴の6本の手足を駆使する打撃の理が見えて来たので、俺は今迄の修行で培ってきた武術を試して行った。

 

 奴が、右ストレートで殴りかかれば、其の肘部分に被せる様に左フックを叩き込み、軌道を逸して奴の顎にそのまま押し付ける。

 

 其れを嫌がった奴は、両足を揃えて俺に蹴りを放つが、所詮無理な体勢で蹴ってきたので、両膝を抱え込む様に易易と躱して、一気に伸ばした両足で奴の顎を搗ち上げる。

 

 苦し紛れに奴は両脇の腕で殴りかかって来たが、其れを避けながら両肘で其の関節肢部分を攻撃し、がら空きとなった奴の腹部にある宝石の様な突起物に技を叩き込んだ!

 

 「徹し(とおし)」

 

 其れは決して素早い動きでも無ければ、ましてや振りかぶっての威力を込めた攻撃でも無い。

 

 謂わば、そっと奴の腹部に片手の平を当ててゆっくりと突き込んだ様に、他人が居たら見えた事だろう・・・。

 

 しかし、其の攻撃を受けた奴は吹っ飛んでいき、6本の手足の先端に有った黒い球形も消滅してしまった。

 

 次に奴は、真正面からの蹴りを放ってきたので、最小限に身体を逸らすとそのまま奴の体表を滑る様に内側で回転し、背中を奴の両胸に預けてまたも技を叩き込んだ!

 

 「鉄山靠(てつざんこう)」

 

 不可視の衝撃波が奴の身体全体に叩き込まれ、奴は明らかに意気阻喪してしまった様で蹈鞴を踏んで、攻撃を躊躇している。

 

 《判るか? お前にも・・・、此れ等の武術の技は、生物としては弱い部類に属する『人類に連なる者』が外敵と素手で戦わざるを得ない場合の為に、悠久なる昔から必死の思いで修行し鍛え上げた代物だ!

 たかが先程産まれたばかりのお前程度では、理解も納得も出来まい!

 例え星系を簡単に滅ぼせる力を持とうと、連綿と受け継いで来た技術の系譜は決して其の様な物に見劣りするものでは無いのだ!》

 

 そう強く思いながら、俺は仮称『新種のバグス』にゆっくりと近付いて行く。

 

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