徐々に近付いて来る俺を恐れたのか、一気に俺から距離を取ると仮称『新種のバグス』は、突然漆黒の気(オーラ)を立ち上らせて、広げた透明な羽根も暗黒に染め上げられた。
《・・・奴め、何かするつもりだな・・・》
そう考えて、俺はどうとでも対応出来る様に、やや前屈みで即座に動ける体勢で奴の様子を窺う。
10秒程の溜めを行った仮称『新種のバグス』は、奴の腹部にある宝石の様な突起物内部に、黒く燃え盛る炎を滾らせると其処から、超圧縮された暗黒物質(ダークマター)を発射した。
其の暗黒物質(ダークマター)は、広範囲に広がる様に波の様に拡散されたので、俺は『神鎧ジークフリート』の権能である次元断層を作る事で、一切を遮断した。
暫く其の状態を奴が発射し続ける暗黒物質(ダークマター)の所為で、次元断層を作り続ける羽目になり、外の様子が一切判らなくなった。
やがて暗黒物質(ダークマター)の波が消え去り、次元断層を解除すると外界の全ての状況が判別出来た。
周りを観察すると仮称『新種のバグス』の存在していた場所に、何やら漆黒の球体が存在している。
其れ以外に奴の痕跡が無いので、漆黒の球体の中に仮称『新種のバグス』が内包されていると推察出来る。
そんな風に考えながら漆黒の球体を眺めて居ると、漆黒の球体が形を変え始め、やはり内部に居た仮称『新種のバグス』の身体に纏わり付いた。
形を変えた漆黒の球体は、主に『新種のバグス』の手足を覆っていて、やがて完全に一体化した。
其の形はどうやら、奴等にとっての武器の形状らしく、鋭さが良く分かる刃物状の鎌や斧の様な武器、更には突起が付いた球形のボールの様な物も有った。
其れが、6本全ての手足に武器として装着され、禍々しい程の黒光りする奴の得物と化した。
《・・・ふむ・・・、ならば!》
俺は決断して、両手を前方に突き出し声を上げた。
「招来、『レーヴァテイン』!」
次の瞬間、突き出された両手の中に、神器『レーヴァテイン』が出現した。
神器『レーヴァテイン』とは、父上が強敵に対して使用する決戦用の切り札である。
恐らく自信が有るのだろう、奴は己の武器を打ち鳴らし堂々と近付いてきて、6本の武器を次々と繰り出して来る。
其の速度と其れ其れの武器が秘めた力は、神器『レーヴァテイン』に匹敵するらしく、打ち合わせても欠片も刃毀れせずに、其の威力も凄まじい様で振り回す度に、『虚無(ヴォイド)』空間は宙震を起こして揺れていた。
《・・・確かに武器の持つ力と強度は、神器『レーヴァテイン』に匹敵するし、其れを振るう速度などは凄まじいものだ、だが・・・》
ほぼ同時に奴が両手に装着している黒光りする鎌を、上段から振り下ろされたが、其のあまりの判り易い攻撃を、簡単にいなす形で力の力点を軸に絡め取り、そのまま跳ね上げてレーヴァテインの柄頭を、奴の胸部に叩き込む!
「グケケケケケッ?!」
そう叫ぶと奴は後退して行き、戸惑いながら此方を見上げてくる。
恐らく自身が用意した暗黒物質(ダークマター)を圧縮した武器の威力に、相当な自信が有ったのだろうが、あまり効果が無い事に訝しんでいる様だ。
《・・・結局奴等バグスには、単なる数値的な攻撃力や防御力の物理的な意味は理解できるが、力の力点や作用点を把握して其れを逸らすことで、例えどの様に強い武器や早い振り回しだろうと、武術の理屈が理解出来ない為に本当の意味での武器を使用した攻撃にならない・・・。》
ある意味、俺は仮称『新種のバグス』を哀れに思いながら、そろそろ決着を着けるべく準備に入る。
レーヴァテインを腰に差して、再度両手を前方に突き出し声を上げた。
「招来、『エクスカリバー』!」
そう、俺が『神機メタトロン』に搭乗した際に使用する、俺の愛剣である『聖剣エクスカリバー』を招来したのだ。
『聖剣エクスカリバー』は、俺の手に馴染み完全にフィットして来る。
右腰に『聖剣エクスカリバー』、左腰に『神器レーヴァテイン』を携えて腕を組んで仮称『新種のバグス』を見下す。
禍々しい黒い後光を後背に背負いながら、怒りの為か複眼を赫く光らせて仮称『新種のバグス』は、武器を構え直して此方に対峙して来た。
俺も2剣を腰から抜いて片手に1本ずつ握ると、コリント流剣術に於ける『二天一流』の構えをとる。
いよいよ此の戦いも、終末に向けて動き出す。