皇太子はツラいよ!   作:ミスター仙人

20 / 188
第一章 第12話

 昼食を終えて、午後の高等部の試合の為に、エラさんの応援横断幕を二階席の手摺に括り付ける。

 エラさんは飛び級なので年齢は達していないが、高等部3年生なので此れが最後の武道大会参加最終年になる。

 然も彼女は勿体ない事に、大学にもましてや士官学校等の特殊専門学校に通うつもりも無いようで、事実上此の武道大会が彼女の武術を見れる最後となるのだ。

 会場に居る全ての観客がそれを判っているので、彼女が最後にどの様な勇姿を見せてくれるか話題が尽きないようだ。

 

 高等部は、小等部と中等部の演武項目では無く、試合形式となり彼女は剣術と格闘術の双方のグランドチャンピオンを5年間重ねているのだ。

 

 先ずは剣術の試合がトーナメントで争われる。

 1試合目からエラさんの試合なので、いきなり会場はヒートアップしている。

 だが、試合内容は会場の雰囲気と正反対で、アッサリと終了してしまった。

 始め! の合図と共に斬りかかった相手に対し、エラさんは体を躱して簡単に面を防護服越しに放ち、相手はその一撃で意識を失ったので、一本勝ちで終わった。

 

 別にエラさんは、凄いスピードで動いた訳でも、力強い打ち下ろしをした訳でも無い。

 ごく自然に避けて、その流れで剣を振り下ろした様に見えて、まるでその動きが当たり前の様に一連の舞の動きの様だった。

 

 次の試合の準決勝も同じ様にエラさんは、相手が先ず動いてその後切り返す様に胴を薙ぎ、決着を着けた。

 

 「・・・後の先か、見事だ・・・。」

 

 僕の後ろに何時の間にか立っていた人物が、呟く様に言葉を発した。

 

 「「「「師匠!!」」」」

 

 僕達親友5人の内4人の師匠で有る剣聖と拳聖が、気配を感じさせずに背後に立っていたのだ。

 

 「師匠達は、来賓席に居なくて良かったんですか?」

 

 「あんな、暇な場所で見てられるかよ!」

 

 「お主らと一緒に見学をし、弟子がどの様に天才を観察出来るか見に来たのだよ!」

 

 と僕の質問に答えてくれたが、何とも立場というものを考えない師匠達だ。

 

 その後、僕達がエラさんの技術を師匠達と論じていると、準決勝も終わりエラさんと崑崙皇国の生徒との決勝戦が始まろうとしていた。

 

 此の決勝戦の相手はエラさんにとって中等部以来のライバルで、双剣を使うかなりの強敵だ。

 お互いに手の内をある程度把握しているので、始めの開始号令されても間合いを保ったまま、同心円に双方動きながら、神剣流の技の一つ『斬撃』を放ち合う。

 

 だが、やはり双剣を使う分崑崙皇国の生徒の方が手数が多く、それに伴ってエラさんが防御している時間が長くなる。

 幾つかの斬撃を防御だけでなく跳ね返して、斬撃が返って来た相手は素早く避けると双剣の柄部分を繋ぎ合わせた。

 すると双剣をいきなり回転させ始めジャンプした!

 

 「『紅孔雀』!」

 

 と恐らく技名だろうと思われる言葉を叫び、炎を纏った斬撃が6方向から繰り出された!

 それに対してエラさんは、ゆっくりと剣先を円形に大きく回し唱える様に言葉を紡いだ。

 

 「・・・『円月殺法・一の型・下弦の月』・・・。」

 

 その言葉と共に、回っていた剣先が下段に来た瞬間、吹き上がる様な閃光が6筋、空中の崑崙皇国の生徒に向かい放たれて、途中の炎を纏った斬撃6つはその閃光6筋に切断され、そのまま崑崙皇国の生徒の防護服越しに6箇所の急所に閃光が貫いた!

 

 どうやら空中で悶絶してしまった相手選手を、素早く落下地点に向かったエラさんが受け止めて、ゆっくりと横たえる。

 

 「勝負有り! 勝者エラ選手!」

 

 審判の気合いの乗った宣告に礼を返したエラさんは、気がついた相手選手に歩み寄り、手を取り合って相手を称え合った。

 

 「やっぱり凄いはエラ! 此の1年間貴方に一矢報いようと、剣王『カイエン』様から徹底的に鍛えられたのに、『紅孔雀』をこんなにアッサリ破られるなんて!」

 

 「大したものだわ! 私達の年齢で神剣流の奥義を使い熟す女性は、剣王の『オウカ』様以来じゃないかしら? きっと剣聖様も貴方の資質に目を見張るわよ!」

 

 「でも、貴方が先年から編み出した『円月殺法』は、貴方のオリジナル何でしょう?

 私は、剣王方の目を引くかも知れないけど、恐らくは貴方なら互角の敵と認識させられるんじゃないかしら?」

 

 「ありがとう。 お互いの剣の道をこれからも進みましょうね!」

 

 と固く握手を交わして、一緒に武闘場を降りて退出して行く。

 会場は、そのとてもではないが学生レベルを越えた技術の応酬に、暫くの間溜息が漏れていたのだが、やがて歓声が上がり始め会場全体が喧騒に包まれた。

 そんな中、拳聖様と剣聖様が本当に愉快そうに、僕等に感想を求めて来た。

 

 「坊主共、どうだあのエラの佇まいは? とても学生とは思えないだろう?」

 

 「実際、儂もあの『円月殺法』の完成度には、信じられない思いで、アラン陛下と共に必死に剣術家を目指さないか? と勧めているのだが、どうしても『皇帝一家の女官兼護衛隊になる!』と言って聞かないのだよ。

 アポロ殿下、何とかならないかね?」

 

 と剣聖様に至っては感想では無く、僕に懇願して来る始末である。

 

 正直な処、そもそも僕には何の権限も無いどころか、エラさんは父様とクレリア母様それに妹達の専属の様な存在で、僕と弟とはあまり関わりが無い。

 

 「父様が勧めても無理なんでしょう? 僕にはとても無理ですよ。

 それより、次の格闘技の試合前に拳聖様と剣聖様は、来賓席に戻らないと」

 

 と告げると、拳聖様と剣聖様は何だか戻りたくない様子で、足取り重く一階に降りていった。

 さて、もう直ぐエラさんの最後の勇姿だ、しっかりと瞼に焼き付けよう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。