皇太子はツラいよ!   作:ミスター仙人

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第一章 第21話

 4面の試合場を使わせて貰う形にして、僕が屈伸運動をしていると、焦った様子で師範代と大人の道場生達が、考え直すように進言して来たが、当然その言葉は受け入れられない。

 

 「貴方方も武術を志す者として、当然ながら相手を傷つけたり自分自身が傷つくことも承知でしょう。

 其れは僕も覚悟した上で、常に武術を学ぶ上で臨んでいます。

 まあ、心配しないで下さいよ。 当たり前ですが別に死合いをする訳では有りませんので、クーガー君が満足するまで付き合うだけですよ!」

 

 「・・・判りました・・・。 これ以上はアポロニウス皇子殿下を誹謗する事になりそうですね・・・。

 ですが、明らかにやり過ぎだと感じましたら、試合を無理矢理にも止めさしますので、ご了承下さい!」

 

 「了解しましたが、双方が傷を負っていないのに止めないで下さいね」

 

 「了解です。 では存分に試合なさって下さい!」

 

 こうして、師範代と大人の道場生達の了解を取り付け、僕は用意の出来たクーガー君を見た。

 どうやら、自動調整してくれたインナースーツを気に入ってくれたらしく、手足の動きを確認しながら僕に近づいて来て、「ニカッ!」と云う音がしそうな笑顔を僕に向けて来てクーガー君は、

 

 「どうもありがとう、アポロ! オイラは生まれて一番今が幸せだよ!

 オイラの村で魔物狩りをしていた時でも、どんな魔物だろうとオイラの全力は出さない内に倒しちまった。

 オイラを捕まえられるスピードを出せる魔物はいねえからな! 

 これでやっと、オイラは全速力を出せるんだよ、あー、夢みてえだ!」

 

 と心底から嬉しそうに其の場でジャンプしながら、ヨダレを垂らさんばかりに顔を綻ばせている。

 

 僕は苦笑しながら、試合をするべくクーガー君の前に立ち、師範代に審判役をお願いしてお互いに礼を交わし、試合を開始した。

 

 「行っくぜーーーーー!」

 

 と咆哮の様な掛け声と共に、突進して来てそのまま前蹴りを放って来た。

 そのスピードはかなりのものだが、一直線なのでスイッと横に躱すとそのまま突っ込んで行く。

 しかし、僕の横を通り抜けて3メートル程進み、両足で地面を蹴ると後方宙返りをして、空中から僕の横顔目掛け爪先蹴りを放ってきた!

 その爪先蹴りを肩に担ぐ形で躱して、担いだ両足を回転しながら投げると、空中で体勢を立て直し見事に着地した。

 

 「やっぱり、この程度のスピードでは物足りないな、一段ギアを上げるぜ!

 『衝撃のファースト・スピード』!」

 

 その言葉を吠えると、「フオン!」と云う音を残して、かなりの速度でクーガー君は横に走り出しジグザクに僕の傍らを通り過ぎると、斜め後ろから横に回転しながら、回し蹴りを凄いスピードで放って来た!

 

 その回し蹴りの回転軸に合わせて、僕も横回転して蹴りのタイミングをずらし、彼の腹に蹴りを入れると、その威力を利用して彼は横っ跳びして距離を取る。

 

 「スゲエなーーッ、ホントにスゲエよ、このスピードに難なくついていける、その余裕!

 だけど、まだまだだから、もっと味わってくれよ!

 『光速のセカンド・スピード』!!」

 

 いきなりクーガー君は消えた?!

 僕と親友達、そして師範代とテオさん達は問題無く見えているが、他の道場生達には正に消えた様に見えたのだろう、ざわつき始めたがクーガー君は、道場全てを利用して走り始め、曲がる時は道場の壁を蹴る様に移動しているので、時折「バンッ!」と音を立てている。

 さぞ、見えない道場生には気味が悪いだろうな。

 

 【サスケ、クーガー君の身体状況のデータをドローンで把握出来たか?】

 

 【ハイ、観測データと彼に入って居る『ナノム』の状況から、把握出来ました!】

 

 【それで、凡その結論は?】

 

 【アポロ様の仮説の通り、彼は誰の助けも借りず教えも受けずに、天然の素質と能力によってかなり高度の『循環魔法』を使用しております】

 

 【・・・やはりそうか・・・、レベルは?】

 

 【現在はレベル3ですが、恐らくまだまだ上がるでしょう】

 

 信じられない話しだ! 本来如何に『ナノム玉1』を服用してるとは云え、『循環魔法』を教えられずに習得出来る事は有り得ないのだが、クーガー君は明らかに通常習得した者よりも、完璧な制御の元で身体能力を引き上げているのだ。

 彼をひと目見た時に感じた違和感は、やはりその異常なまでの『ナノム』の完全制御と、『循環魔法』の馴染み具合である。

 しかし、

 

 「・・・まあ、リクエストに応えてあげないと、ガッカリされるからな・・・。」

 

 そう独白し、僕も『循環魔法』のレベルを上げた。

 

 「キュン!」

 

 と云う音を残して、僕はクーガー君に寄り添う形で疾走した!

 

 途端に驚愕しながらも笑顔を深めて、クーガー君は近寄ってくる僕に対して、走りながら両手両足を使用して連打を繰り出して来た。

 だが、僕はその尽くを払い除けると、次々と彼の荒い攻撃の合い間を縫う形で、拳と足刀による軽い打撃を当てて行った。

 

 すると、開始線の所で止まったクーガー君は、荒い呼吸を繰り返しながら、

 

 「信じられねえぜ! ここまでオイラを超えるスピードを出していながら、ぜんぜん息を切らせないなんてありえねえよ!」

 

 「そんな事無いさ。 単に短い深呼吸をして息を落ち着かせているだけだよ。

 それよりも、まだ限界じゃ無いんだろう?」

 

 「ああ、ここからがオイラの初めて見せる全力だぜ! アンタも付いて来てくれよ!」

 

 「及ばないかもしれないが、頑張ってみるよ」

 

 クーガー君は、子供とは思えない凄まじい喜悦の表情を見せて唱えた。

 

 「行くぜー! オイラの全開スピード!!

 『瞬速のサード・スピード』!!!」

 

 「ボッ!」

 

 という空気が破裂する音が聞こえると、今度こそ親友達はクーガー君を捕捉出来なくなったが、僕とテオさんは辛うじて残像を見る事が出来た。

 

 《しかし、これ以上は僕も見えなくなるな、使用するぞ『リミットブレイク1』!》

 

 自分の中のリミッターを解除する事で、周りの映像が一気に遅くなった。

 

 「キィイイイーーーーン!」

 

 甲高い金属音が鳴り響き、この場に居る全ての人間が僕を認識出来なくなった!

 これこそは、あの5年前に僕の中に封印されていた、『メタトロン』の権能の一つである、『ウリエル』の能力『リミットブレイク』の第1段階だ。

 

 空中を駆ける様に飛ぶクーガー君を、僕が空気を蹴りながら追い越して見せたので、引き攣った顔を見せて無理矢理蹴りを浴びせて来たので、僕は横の空気の壁を蹴りクーガー君の背後に回り込み、クーガー君の関節部分に打撃を打ち込み、四肢の結節点を尽く外してしまったので、クーガー君はあまりの痛みに悶絶した様だ。

 

 そのままクーガー君を羽交い締めにして、僕を眼で追えていなかった師範代の目の前に降りて上げた。

 

 突然、目の前に現れた僕に驚いた師範代は、一瞬狼狽えたが直ぐに落ち着くと、クーガー君の状態を確認し僕の片手を上に掲げて、僕の勝利を宣告した。

 

 親友達とテオさん達護衛騎士は手を叩いて、僕の勝利を称えてくれたが、道場生達はポカンとして僕とクーガー君をただひたすら見つめている。

 

 テオさんがやって来て、クーガー君の関節部分に高レベルの『ヒール』を掛けてから、背中のツボを押して活を入れると、クーガー君は目を覚ました。

 

 「あ、あれ、オイラは一体どうなったんだ?」

 

 クーガー君はフラフラと頭を揺すりながら立ち上がると、僕に尋ねて来たので、答えて上げた。

 

 「君のスピードは確かに素晴らしかったけど、やはり素質だけの『循環魔法』には欠陥が有るんだよ。

 本来の『循環魔法』とは、筋力の増加をする場合、必ずそれを支える為に関節や腱そして筋の部分強化を行うんだよ。

 君は、スピードに拘る割にはこの基本を学んでいないから、弱点だらけだったんだ。

 だけど、無理も無いよ! 君は正式に学校に行ってないし、モニターでのイメージ訓練も受けて無いみたいだからね。

 だから、クーガー君には正式な学校に入学して貰い、睡眠学習でのダウンロードをして貰う。

 きっと、君はもっと上の段階に飛躍出来る筈さ。

 僕はクーガー君、君の成長を楽しみにしているよ!」

 

 そして僕は、師範代にクーガー君を預けて、今後の彼への支援を僕のポケットマネーで依頼すると、道場生が最敬礼する中道場から、退場してホテルを出た。

 

 その後、諸々の行事を帝国の皇子として熟してホテルに戻り、親友達とバイキングの夕食を摂ろうと、ホテルのロビーに降りた。

 

 何故か其処にはクーガー君と師範代が居て、僕を見つけるとやって来て頭を下げお願いをして来た。

 

 「本当に失礼なのは重々承知なのですが、アポロニウス皇子殿下!

 どうか、彼の願いを聞いてくれないでしょうか?」

 

 との師範代の言葉を聞いて、クーガー君に目を向けると顔を紅潮させて、いきなり土下座して願いを口にして来た。

 

 「どうかお願いを聞いてくれ、アポロニウス殿下!

 オイラは、アンタの強さに感動しちまったんだ!

 オイラをアンタの家来にしてくれ! 必ずアンタのお役に立ってみせるぜ!」

 

 何とも、直截的な頼み事だが、それだけ嘘偽りのない真摯な願いなのだろう。

 

 《・・・さて、どうするかな・・・。》

 

 と若干悩んだが、師範代が付いて来たと云う事は、道場でも手に負えないと云う本音が見えてきたので、悩みは吹き飛んだ。

 

 「・・・良いだろう、クーガー、君を僕の家来として抱えよう!

 だが、そうなると君は、僕の一般人と異なる人生に巻き込まれる事になるので、様々な事件と対峙する事になる。

 その覚悟は有るか?」

 

 「勿論だぜ! オイラが必ずアンタの盾の一枚になって見せるぜ!」

 

 こうして、後の円卓の騎士(ナイト・オブ・ラウンズ)の一人、『瞬速の騎士クーガー』が僕の帷幕に参加したのだった。

 

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