僕達は、アラム共和国に出来て創業10年になるデパートに来訪した。
此のデパートは、帝国でも有名な『タルス・デパート』のアラム共和国での本店で、元タルス商会の番頭であるヨーナスさんが支配人(オーナー)となっている。
ヨーナスさんが、
「アポロニウス皇子殿下、ご来訪有難うございます!
どうぞ、専用の販売員を付けますので、売り場を廻って色々とお選び下さい。
品物は、空港に係留しておられる『アーガマ』に配送して置きます」
と言ってくれたので、親友達とテオさんや護衛騎士達、そして家来のクーガー君を伴って、様々な売り場に出向きアラム共和国特有の名産品や、クーガー君用の普段着や靴(今までクーガー君は、素足のまま)等を買い揃えた。
午後になってホテルを出立して、アーガマに搭乗して荷物の搬入手続きの確認をして、次の目的地である『クライナ公国』に向けて出発した。
[ケント視点]
『クライナ公国』へのアーガマでの旅路を高空で進んで行く。
雲の上から山脈の稜線を見る景色は、太陽の光の当たり方次第で色んな姿を見せるので、全然見飽きない。
俺の両親は、帝国空軍のトップなので様々な高空の映像記録が家に有り、3歳くらいから空に憧れがあって度々機会があれば、空を飛ぶドラゴン・飛空挺等の乗り物に乗ってきた。
だが、中々此処までの高空に来れる事は少ないので、ゆっくりと観察出来る現在を、俺は喜んでいた。
しかし、そんな俺にとっての憩いの場が、近くに居た男によって乱されてしまった。
「スゲエ、スゴすぎるぜ! オイラは今、空の上にいるんだ!」
と叫んでいる。
この小煩いクーガーと云う男は、先日親友のアポロの家来になったんだが、詳しく生まれを聞いてみると、どうも昔の戦争の際に難民となった両親が、疎開先の村に置き去りにした孤児で、それ程いじめに遭っていた訳では無さそうだが、学校が近くに無い事もあって幼い頃から近隣の山へ狩りに出向き、大人顔負けの狩りの腕だったらしい。
然も、刃物等の道具も使用せずに、素手で獲物を獲って来るので、村では山の申し子と言われて尊敬されていたそうだ。
ある日、アラム共和国の役人が村にやって来て、帝国から供給された『ナノム玉1』を村人全員に渡して来て、病気や怪我をたちまち治す魔法の薬だと説明してくれて、実際に役人が自分の腕にナイフで切りつけたが、アッサリと傷口が治るのを見て、争うように『ナノム玉1』を服用したそうだ。
服用した翌日には、病気で動けなかった老婆が普通に起き出して来て、怪我で辛そうだった爺さんが徐々に怪我が治ってきたので、村人は帝国と云う有り難い存在に感謝したそうだ。
中でも、このクーガーと云う男は病気や怪我を治すだけで無く、身体能力の向上と云う『ナノム玉1』の真実の効能に気付いた様で、帝国に興味を抱いて都会に向かうべく村から出て、地方都市に到達して辻辻に有る巨大モニターで俺たちの出場した『武道大会』の特別放送を観たらしい。
その特別放送で、例のアポロと褒姒のエキシビジョンマッチに感銘を受けて、格闘技に興味を持ち拳王『ダルマ』様の道場に幾つも来訪したそうだ。
だけど、当然ながらあのエキシビジョンマッチの様な感動を味わえなくて、失望して首都の『ムンバイ』の本部道場までやって来たのだが、結局本部でも強いと思える道場生や師範に出会えず、どうにかして帝国に行く方法は無いものかと考えていると、ある日アポロ自身がこのアラム共和国に来るニュースが放送されたので、アポロ自身に会う為にホテルまでやって来たと云う訳だ。
然も、実際に会ってみたアポロは想像以上の強さと速さを兼ね備えたクーガーにとって神の様な人物だったので、どうしても一生仕えたいと思い無理を言って家来にして貰った。
まあ、俺にとってもアポロという存在は、本人にこそ言明していないけど主君と仰ぐ程の、尊敬できる人物だ。
俺の親父も、アラン皇帝陛下と年齢が近い事もあり、友人としてかなり親密にしてくれて、一族上げて皇帝一家に忠誠を誓っていて、非常に良好な家族ぐるみの付き合いを続けている。
俺も、アポロとは友情を培いつつ、主君と仰ぐ関係を築きたいと思う。
ならば、将来の家臣として、初の家来となる人物の見極めは俺自身がすべきだろう。
「さて、そんなに空からの景色が気に入ったのなら、外に出て見ようじゃないか!」
とクーガーを誘ってみた。
俺の誘いに何のことか判らずに、頭の上に疑問符を浮かべたクーガーに、
「外に出てみようじゃないか! と誘ったんだよ!」
と解説してやった。
その解説に飛び上がって喜んだクーガーは、僕の先導の元、格納庫に有る外部ドアを一緒に開けて外に出た。
アーガマは、現在スピードを落として世界の屋根と言われる、『ヒヤラマ山脈』を横に見ながら『クライナ公国』に向かっている。
その白銀に染まっている山肌を見ながら、俺とクーガーは吹き下ろして来る冷気を全身に受けながら、下界に広がる世界を見渡した。
「クーガー、お前は稀に見る幸運でアポロに仕える事になったが、本当に命を賭けてアポロの役に立つ事が出来ると考えているか?」
「なるほど、オイラを他の人が居ない所に連れ出したのは、オイラのホンネが聞きたかったんだな!
アンシンしてくれよ、オイラは学が無えからふざけてるようにみえるかも知れねえが、アポロ殿下をソンケーする気持ちはホントだぜ!
きっと、アンタもアポロ殿下をスゲエソンケーしてるんだろ?
オイラは学が無えが、ハナは効くから人の気持ちがなんとなくワカる。 アンタとは同じ気持ちを持つモノ同士仲良くやろうぜ!」
思わず苦笑しながら、一片の邪心も持たない瞳を確認し、俺はクーガーに右手を差し出し、クーガーは直ぐに理解して握手をしてくれた。
こうして、クーガーを俺は信じる事にした。