審判役の剣王『カイエン』様が開始の合図をしたタイミングで、「ブゥオオオーーン!」と云う唸りを上げて風車の様な旋回を見せる、『関雲長』殿の振る練習用の木製の大薙刀。
其れに対して僕は『コリント流杖術』に於ける基本の構え、『水月』を取る。
「吩!」
『関雲長』殿が短く吐息をつくと、袈裟斬りに木製の大薙刀を旋回させながら斬りつけて来たが、その回転エネルギーをいなして、身体を横回転させて僕は杖術用の棒を横薙ぎに『関雲長』殿の横腹に叩き付ける!
その叩き付けを木製の大薙刀の柄で受けて、石突部分を鋭く僕の鳩尾に突いてきた。
バックステップして間合いを外し、突き切って手元に引いて行くタイミングに合わせ、杖術用の棒で『関雲長』殿の右腕に『小手打ち』を放ったが、『関雲長』殿は簡単に持ち手を切り替えてアッサリとその打ち込みを空振りさせた。
しかし、その打ち込みは次の技への繋ぎだ。
そのまま打ち込んだ杖術用の棒を縦回転させ、反対の先端部分を青眼に構えて『コリント流杖術』の技の『五月雨』を放つ!
五月雨とは、5段階の突きを連続させて放ち、其れをあらゆるバリエーションを変えながら繋げる技で、断ち切られなければ半永久的に打ち込める。
その五月雨を問題無く捌いていた『関雲長』殿だが、全然打ち終わらずに続いて行く事に気付くと、強引に木製の大薙刀を大回転させて僕の突きを力付くで跳ね除けた!
《・・・やはり『関雲長』殿の膂力と体格差を利用した技術は相当なものだ・・・、だが!》
一旦距離を取り、僕は『関雲長』殿に宣言した。
「・・・『関雲長』殿、貴方の実力はとても中等部の学生とは思えない高みに有る!
故に今から、僕は幾つものリミッターを解除させて貰う!
此れは、貴方の技量に対する僕なりの賞賛であり、また礼儀でも有る!
其のために恐らく貴方は、怪我を負うだろうが覚悟していただきたい!」
「・・・当然だ! 武人を志す以上、某は練習中であろうとも怪我をする事に躊躇は無い!
寧ろ、アポロ皇子に感謝する! 某に対して本気になってくれるのだからな!」
その『関雲長』殿の言葉に、『漢』を感じ僕はリミッターを解除する。
《使用するぞ『リミットブレイク1』》
そう、『メタトロン』の権能の一つである、『ウリエル』の能力『リミットブレイク』の第1段階だ。
但し、クーガーとの対戦時に使用したものと違い、スピードでは無く攻撃力を上げる為の『循環魔法』の『筋力増加』である!
次の瞬間、身体の筋肉が膨張し、纏っている気(オーラ)が焔の様に揺らめく。
その姿に、喜悦の表情を浮かべて『関雲長』殿は、大上段に木製の大薙刀を振りかぶり『龍の構え』を取った。
僕も、其れに対して杖術用の棒を下段にして『虎の構え』で挑む!
「ゴガガガガガガッ!!」
とても練習用の武器が立てる音ではないが、両者の得物は凄まじい剣戟音を炸裂させた!
そして案の定、30合の打ち合いで双方の練習用の武器は砕け散り、そのまま殴り合いの格闘を繰り出し始めた。
本来なら、練習用の武器は砕け散った段階で、「勝負無し」の判定が審判役の剣王『カイエン』様から下りそうなものだが、あまりにも自然に殴り合いが始まり、周囲の門下生達も固唾を飲んで見守っている。
手刀・前蹴り・鉤突き・上段蹴り・正拳突き・足刀蹴り・下段突き・回し蹴り。
双方の繰り出す大人顔負けの威力有る技に、周囲は歓声も上げずにひたすら目を凝らしている。
そして『関雲長』殿は、トドメとばかりにその巨体であるにも関わらず、旋風の様に身体を回転させ胴回し回転蹴りを僕に放った!
その颶風の様な回転蹴りを、僕は宙に跳び上がりながら避け、更に蹴りに来た『関雲長』殿の右脚の上に両足を屈めて乗り、其処を支点にして技を仕掛けた!
「メキッ」
と嫌な音が『関雲長』殿の顔の中央、つまり鼻から聞こえ鼻骨が折れた事を僕の繰り出した肘から伝わり、続けざまに鳩尾に僕の膝が叩き込まれた!
流石の『関雲長』殿も、急所の二点を攻撃されてはどうしようもないらしく、そのまま突っ伏す形で悶絶した。
直ぐに、審判役の剣王『カイエン』様が、『関雲長』殿の様子を確認している間に、僕は少し離れた場所に移動し、呼吸を整える為に『息吹』を行い、残心の構えで『関雲長』殿の様子を伺う。
「勝負有り」
と剣王『カイエン』様が宣言して、直ちに周囲に居た門下生達に担架を持ってこさせ、『関雲長』殿を救護室に運ばせた。
『劉玄徳』殿との勝負と違い、歓声は起きずに静まり返る道場内に、大きな声が響き渡った。
「見事! 御見事! 長兄と次兄を此処まで真正面から倒すとはな!
全く、噂や放送で見る姿では実感出来なかったが、この様に目の前でその闘いを見せられれば納得が行く!
アポロ皇子! 貴方こそは同年代の武人として最高位に立つ存在な御方だ!
是非にも、挑ませて頂きたい!」
そう宣言すると、試合場に上がって来て益徳(えきとく)は僕に頭を下げて来て、
「俺は、姓は張(ちょう)、名は飛(ひ)、字を益徳(えきとく)と言う!
長兄は玄徳(げんとく)、次兄を雲長(うんちょう)とする義兄弟の末弟だ!
ただ折角、アポロ皇子が相手してくれるというのに、次兄との勝負で判ったが、俺たちの勝負にこんな練習用の得物では、かえって危ない事が立証された。
ならばこの際、最初から格闘での試合を挑みたい! 受けてくれるだろうか?」
「ええ、構いませんよ。 どちらにしても此の後の試合では、格闘戦が控えてますので」
その僕の答えに、その厳つい顔で嬉しそうに笑うと、『張益徳』殿はその太い腕をグルンと回して中央まで来て堂々たる構えを取る。
此の義兄弟達との最後の試合が、開始されようとしていた。