皇太子はツラいよ!   作:ミスター仙人

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第一章 第38話

 審判役の剣王『カイエン』様が開始の合図を受け、『張益徳』殿は中央の停止線から一足飛びに僕に近付くと、問答無用で前蹴りを放って来た。

 

 「ズドォオンッ!」

 

 力を測る為に敢えて腕で十字受けしてみたが、後方に2メートルも飛ばされた!

 

 《・・・重い!》

 

 腕に走る痺れと、芯が揺らぐ程の振動に改めて『張益徳』殿の実力を推測する。

 今の一撃は『関雲長』殿の蹴りとほぼ同じ威力だが、その身体の芯に来る衝撃は寧ろ『張益徳』殿に軍配が上がるだろう。

 

 直ぐ様『張益徳』殿は一直線に殴りに来て、かなりの大ぶりで拳を振り上げて僕に襲い掛かる。

 

 その正直過ぎる攻撃方法に些か呆れながらも、正面から受け止めずに捌くように腕でいなして避けた。

 

 そのまま『張益徳』殿の右拳は、試合場の地面を叩きかなりの振動を、試合場の地面に与えた。

 

 「あーあ、またやっちまったよ・・・」

 

 その言葉と共に、固く仕上げられた道場用の畳に無造作に開けられた拳大の穴は、見事に畳を貫いて床板まで届いていた。

 

 《大したものだ!》

 

 思わず脳裏に言葉が浮かんだが、逆に面白く感じて僕は言ってしまった。

 

 「『張益徳』殿! 面白い! どうやら貴方はあまり技術が無くて本当の打ち合いが出来ていないのだろう?

 恐らくは、貴方の次兄である『関雲長』殿くらいしか、殴り合いに応じてくれなかったのでは無いか?

 どうだろう、僕と1回ずつ殴り合う『決闘勝負』をやらないか?

 そして最後に立っていた者が勝者となる、どうかな?」

 

 最初ポカンと口を開けたままだった『張益徳』殿は、僕の言葉の意味を理解した瞬間、大笑いし始めてゆっくりと近付いて来た。

 

 「スゲエな、スゲエぜ、アポロ皇子! 俺の全力の攻撃を見て尚、殴り合いに応じてくれたのは確かに次兄だけだったし、それでも簡単には応じてくれなかった!

 なのに、アンタはアッサリと俺の希望を見抜き、それでも真っ向から受け入れてくれた!

 ああ、嬉しすぎるぜ! 今日は最高の日だ!」

 

 そう言い放った『張益徳』殿は、腰を沈めると剄を練り始めた。

 僕も立ったままで、シャロン母様直伝の『小周天の法』を用い、チャクラを発動させて身体の能力を一気に上げた。

 

 双方が、充分に剄を練り上げて身体を充実させた次の瞬間、爆発的な突進をしながら『張益徳』殿が『崩拳』を放ち僕の腹にぶちかました!

 

 「ドン!」

 

 だが、その凄まじい拳を受けた後、僕も同様に『張益徳』殿の腹に向けて、真正面からの『正拳突き』を喰らわす。

 

 「ドゴ!」

 

 その僕の拳を受けて、やや揺らいだ『張益徳』殿は、今度は回し蹴りを真横から叩きつけてきた。

 

 「ゴッ!」

 

 横っ腹に凄まじい衝撃を受けたが、僕は爪先からの前蹴りを『張益徳』殿の腹にめり込ませた。

 

 「ズンッ!」

 

 僕の蹴りを受けてくの字に身体を折り曲げたが、ニヤリと顔を歪ませて『張益徳』殿は肘を畳み『裡門頂肘』を僕の鳩尾に貫く様に放った。

 

 「ガッ!」

 

 僕もたまらずにたたらを踏んだが、身体を奮い立たせると、今度はつかつかと『張益徳』殿に歩み寄り、右腕をたぐり寄せながら、背中を相手に預けながら『鉄山靠』をかます。

 

 「ズシン!」

 

 僕の震脚で地面が震える中、まともに『鉄山靠』を喰らい、流石の『張益徳』殿も完全に意識を飛ばした様で、そのままズルズルと僕の背中からずり落ちる様に、試合場に倒れ込んだ。

 

 そして審判役の剣王『カイエン』様が、駆け寄ってきて『張益徳』殿の様子を確認してから、

 

 「勝負有り」

 

 と宣言して、直ちに周囲に居た門下生達に担架を持ってこさせ、『張益徳』殿を救護室に運ばせた。

 

 「どうやら終わった様ね!」

 

 2階席から飛び降りて来て、試合場の脇まで来た褒姒が、腕を組んだまま怒りながら言い放つ。

 

 何とも偉そうな態度だが、どうやら僕が他の人と勝手に試合をした事が気に入らないらしく、頬を膨らませているのが見て取れたので黙っていると、更に怒りを買ったらしく。

 

 「どういうつもりよ! 我が目を付けていた門下生の3人を全部倒してしまうなんて!

 折角、崑崙皇国でも指折りの若手のホープだったのにぃーーー!

 此の3人を倒して見せて、実力が上がった事を証明してやろうとしてたのに、計画がおじゃんよ!」

 

 と実に勝手な事を話し始めた。

 その話しを聞いて、近くに居た『劉玄徳』殿に視線を送ると、僕を見て肩を竦めて居る。

 

 《・・・嗚呼、そう云う事か・・・》

 

 その『劉玄徳』殿の態度で、僕は粗方の事情を察する事が出来た。

 確かに褒姒の速さと実力ならば、此の3人の得物に掠らせもせずに倒す事が出来るから、圧倒的な実力差と他社から見れば映るに違い無い。

 しかし、其れは本当に実力差なのかと云うと微妙な処だ。

 何故なら、未だ彼等3兄弟は中等部の学生なので、公式の大会等では対戦は禁じられていて、本当の実力での勝負は行われていない。

 

 彼等が高等部に進み、対戦試合が当たり前になれば本当の実力が出せるに相違無く、その時は如何に褒姒とて簡単には勝てないだろう。

 

 恐らくそんな不本意な試合をさせるべきでは無いと、判断した剣王『カイエン』様は褒姒との試合に臨ませずに、僕と事前に試合させたのだ。

 然も、僕が何時も相手の得意分野で限界まで実力を出し切らせて戦うスタイルなのを、把握した上での行動なのだろう。

 

 案の定、視線を剣王『カイエン』様に向けると、頷いているので僕の推測は的を得ている様だ。

 

 「さあ、アポロも3人と対戦したから、身体が暖まってるでしょう?

 早速、我と対戦するわよ!」

 

 と褒姒は言って来たが、

 

 「あら、それは待って貰えるかしら! この私との試合をして貰わないと困るわね!」

 

 と褒姒の後からやって来た、サクラちゃんが褒姒に挑む様に試合を申し込む。

 

 「そうね、貴方とも何時も対戦出来ずにストレスが溜まっていたから、この際そのストレス発散をしましょう、覚悟は良いわね!」

 

 「勿論よ!」

 

 という事で、急遽、褒姒とサクラちゃんの試合が始まる事になったのでした。

 

 《・・・しかし、何とも喧嘩っ早い女性達だよな・・・》

 

 些か呆れながら、僕は救護室に担架で運ばれた『関雲長』殿と『張益徳』殿の見舞いに、『劉玄徳』殿とクーガーを伴って向かった。

 

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