「さて、始めましょうか!」
その僕の言葉に、『源 義経』殿は此の元平城京跡地の広大な荒野で、嬉しそうに飛び跳ねながら、身体の調子を整えている。
僕もインナースーツの上にサイズの合う練習着を貰い、着心地を確かめて関節部分の屈伸運動をして試合に備える。
「其れでは、試合始め!」
審判役の『八幡太郎(はちまんたろう)義家』殿が、開始の合図を出すと僕と『源 義経』殿は衝突した!
「ガカカカカカカッ!」
僕と『源 義経』殿は両の手足を旋回させる様にぶつけ合い、周囲には細かい波状の衝撃波が巻き起こる!
《・・・やはり僕のスピードに余裕で付いてくるな・・・。》
想定はしてたが、『源 義経』殿は完全に僕の繰り出す拳や蹴りを、捌きながら己の攻撃を僕にぶつけて来る。
《さて、ギアを上げて行くか・・・。》
僕はスピードの段階を2段階ずつ上げながら、何処まで『源 義経』殿が付いて来れるか確かめる。
そして通常状態でのトップスピードにまで、速度を上げても『源 義経』殿は付いて来た。
《素晴らしいな、此処まで通常な状態で、僕と遜色無いスピードに付いて来れるとは・・・!》
正直な処、まさか此処まで速いとは想定外で、僕は口の端を歪めながら笑顔を作る。
《面白いっ!》
僕は一旦攻撃を止めて距離を取り、『源 義経』殿に話し掛けた。
「お互いに、どうやら此のレベルでは埒が明かないと思う!
ならば、双方共に『ナノム玉』の恩恵を受けている身なのだから、『循環魔法』による身体強化を限界まで上げて闘おうじゃないか?」
「俺もそう思っていました! このままでは面白く無いとね!
では、早速俺も限界の『循環魔法3』まで上げて、此の広い荒野一杯に使い闘いましょう!」
その言葉と同時に、『源 義経』殿の身体を纏う気(オーラ)が周囲を歪ませた。
《・・・大したものだ、此処まで緻密で練り上げられた『循環魔法』は、父様に匹敵する・・・!》
嬉し過ぎて、ワクワクが止まらなくて、僕は自分の中の『ナノム』を統合させた『メタトロン』の権能の一つである、『ウリエル』の能力『リミットブレイク』の第1段階を発動させた!
僕が『リミットブレイク』の第1段階を発動させた瞬間、『源 義経』殿と同じく身体を纏う気(オーラ)が周囲を歪ませた。
双方が己の限界である『循環魔法』レベルに身体能力を上げきって、再度向かい合った瞬間、周囲に居た人々の視界から消えた!
僕も久しぶりに限界ギリギリまで速度を上げたので、耳元には「キィーン」という耳鳴りが鳴り響き、視界に入る辺りの時間はゆっくりと動いて行き、僕と『源 義経』殿だけが普通の速度で動いている様に映る。
此の加速空間で、剣王『カイエン』様並に動ける『源 義経』殿は、褒姒とクーガーよりも明らかに速い!
嬉しすぎて、半ばにやけながら僕は、コリント流格闘術の技を繰り出す!
コンボ技『旋風』!
左右の蹴りを、身体を横に旋回させつつ繰り出し、その蹴りを『源 義経』殿は流れる様に躱し、一気に後方に宙返りしながら跳んでいく。
その姿は美しく、芸術的にすら見える。
《・・・理に適った動きは美しいな・・・。》
そう思いながら、僕は『源 義経』殿の着地点に距離を詰めて、至近距離の肘打ちを叩き込む!
『裡門頂肘』!
そのモーションが殆ど無い鳩尾への肘打ちは、流石の『源 義経』殿も躱し損ねて、十字受けをしたのだが思ったより簡単に吹き飛んだ。
《・・・成る程、大凡の『源 義経』殿の秘密と弱点が見えたな・・・。》
恐らく『源 義経』殿の素早さの秘密は、その身体能力に比べ圧倒的に体重が少ないのだ。
それ故に速度は信じられない程だが、攻撃力を増す為の踏み込みに使わねばならない体重が足りなくて、充分な大地への踏み締めが出来ない。
躱すことが得意なので、カウンターは上手いが威力の有る先制攻撃は得意では無い。
《ならば、その弱点を自覚させて解決策も教えてやろう》
距離が開いた『源 義経』殿は、僕との距離を一気に詰めてジャブを凄まじい速度で放って来たが、その尽くを片手であしらい、震脚を伴った『崩拳』を少ないモーションで放つと、それだけで簡単に『源 義経』殿の体勢は崩れ、隙が顕になった。
「吩!」
僕は一瞬の溜めを置き『発剄』を放ったが、案の定先程と同じく一気に後方に宙返りしながら跳んで行く。
《其れこそが、弱点だ!》
その飛び退いていく『源 義経』殿に、ピタリと寄り添いながら僕は跳んで、技を仕掛けた。
通常、空中では体勢を自由には変えられないが、しかし、僕は『リミットブレイク』した段階で、空気を足場に蹴る事が出来る、なので此の『シャロン』母様からの直伝である奥義を使用可能だ!
『神音(カノン)』!
其れは、純粋な格闘能力では僅かながら、父様に勝っていた筈のシャロン母様が、ある時から全く父様に叶わなくなり、その理由が父様が過去の武術の秘技や奥義を徹底的に学ぶ事で、実力差を覆したと云う事実に気付き、父様が学んだ『地球』とは別の惑星の武術の秘技や奥義を研究し、そして編み出した奥義である。
『神音(カノン)』を諸に喰らってしまった『源 義経』殿は、一旦立ち上がる事が出来たが、直ぐに足をふらつかせて倒れ伏してしまった。
その様子を見て、審判役の『八幡太郎(はちまんたろう)義家』殿は僕を指差し、
「勝負有り、勝者アポロ皇子!」
その宣言を受けて、僕は礼をして『源 義経』殿を背に担いで『源頼光』様の元に向かい、笑顔の『源頼光』様は僕から『源 義経』殿を受け取り、用意されていた救護車に運ばせて、僕達も此処まで来た車両に乗り、『平安京』に帰還する事となった。