「信じられねーぜ、俺達は神様と会話したんだよな!」
そう言って、先程の興奮が冷めやらぬケントは、相部屋になった僕に詰め寄って来た。
まあ、無理も無いだろうなと思いながら、僕は資源衛星の居住区画に与えられた、2人一組の部屋でケントと会話していた。
「その通りだけど、此の12年間で幾人かの神様の顕現と、お言葉は動画で撮られているから、それ程驚かなくても良いんじゃないかな?」
「そんな事ねえよ! あくまでも動画で残っているのは過去の事だし、俺達も当事者じゃないから感動というより、畏怖を覚えただけだったんだけど、今回は目の前に現れて親しく話し掛けてくれたんだぜ!」
とまだ興奮が収まらないらしい。
暫くは放っておこうと決めて、僕は私物を部屋に有るロッカールームに入れてから、公共ブロックに有る展望室に向かった。
友人達の幾人かと廊下で合流し、僕達は重力が地上世界と同じ1Gの居住ブロックから、無重力の公共ブロックに有る展望室に入った。
《やっぱり慣れないな》
正直、もっと上手く動けると思っていたのに、空中に浮かんでしまうと何時もの姿勢を維持できず、魔力の微調整も地上と感覚が違い過ぎて進行方向に上手く合わせられない。
展望室に常駐している、専用の高機能ボットがそんな僕達を見兼ねたのか、圧搾空気を器用に使用して僕達の所まで来て、誘導する様にノーマルスーツに付いた圧搾空気のアポジモーター(姿勢制御装置)の使用方法を実地に教えてくれた。
確かに、感覚がまるで違う無重力状態では、基本のやり方を踏襲すべきだろう。
僕達は、靴底に付いた吸着用の磁力をオンにしてから壁に立って、専用の高機能ボットの指導を受けた。
10回ほどの実地訓練で、ある程度慣れてきて自信もついたから展望室から、宇宙空間を壁面一杯の硬化テクタイト越しに見上げた。
「・・・凄いな・・・」
誰の声だったのか判らないけど、僕達全員はその吸い込まれる様に雄大な真っ黒な空間を見つめた。
いや、真っ黒は言い過ぎた。 時折瞬く星の煌きや其れよりも大きい月の表面は、地上から星空を見る風景と明らかに異なり、宇宙まで来たのだと云う事実を僕自身に噛み締めさせた。
「どう感動した!」
と僕にチューブ入りの飲み物を横から差し出してきて、褒姒は悪戯っ子の様にクスクス笑いながら僕に問い掛けた。
「当たり前じゃないか、こんな凄い景色は地上では望めないし、此の景色を見れただけで此処まで来た価値は大きいよ!」
とやや大袈裟に言ってやると、嬉しそうに褒姒は自分のチューブ入りの飲み物を飲みながら、僕の隣に来て壁面に有る取っ手を掴むと僕を反対の手で掴み、引き寄せながら視線で僕を促し一緒に月面を見る。
「あれが、私達の『神機』2機が眠る月ね。 待っててね! 必ず私とアポロが成人になる前には、貴方達を封印から解いて上げて、此の世界を一緒に飛び回りましょうね!」
とうっとりとした表情で褒姒は月面を眺めている。
まあ、僕としてもなるべく早く月へ向かい、僕の『神機』である『メタトロン』を封印から解き放ち、その『神機』10機の中でも最強の力を保持する事で、やって来ている『バグス』に対しての迎撃用の切り札としたいと思っている。
そんな思いを抱きながら2人で月を見ていると、
「おーいアポロに褒姒ちゃん、こっちに来いよー!」
とロンの奴が、興奮しながら僕と褒姒を手招きしているので、圧搾空気を利用して展望室出口に向かうと、ロン以外の親友達も勢ぞろいしていて、『日の本諸島』の二人『源義経』殿と『安倍晴明』殿も合流していた。
「あのなアポロ、職員の人に聞いたら此の格好のままでも、ドラゴンの居住区画に行けて、丁度『ミネルヴァ』ちゃんも帰還しているんだって。
久しぶりだし、量産型の『雷電装備』を装着しているだろうから、見せて貰おうぜ!」
ロンは非常に乗り気で僕達を誘い、『源義経』殿と『安倍晴明』殿も初めて見れるドラゴン達に期待しているようで、結構興奮している。
「確か、褒姒は『ミネルヴァ』に何回も会ってるし、2、3回は背中に乗って一緒に飛んだよな!」
「・・・そうね、だけど途中から私との飛翔速度対決をして、ものの見事に負けちゃったのよねー・・・。」
と嫌な記憶なのか、褒姒はいきなりテンションを下げている。
僕達は、ドラゴン達の居住区画に向けて職員と共にエレカーに乗って向かい、人間用のドアから入室した。
「おおーー!」
とロンの驚く声が鳴り響き、その風景に興奮しているのが良く判った。
数々の未来的な巨大構造物が存在し、高機能ボットが大量に動き回る。
正直、こんな凄い未来的な風景は地上世界では重力が有るので無理だろう。
直ぐ外には、例のサイヤン帝国所属の宇宙船『コーラス級護衛艦コーラスⅢ』が停泊していて、その船との間にチューブ状の管から、様々な資源が運び出されていて、恐らく此の資源衛星からの資源を『宇宙ステーション』に運び入れて行くのだろう。
その周りには、不測の事態に備えているのか、ドラゴン達が量産型の『雷電装備』を装着して作業を手伝っているのが見える。
そのあまりの非日常な情景は、僕達から言葉を奪うのに充分すぎる光景だった。
そしていよいよ此の区画の重力ブロックに、職員と共に僕達は向かった。