「・・・緊張しているのかい? アポロに褒姒殿・・・。」
と僕と褒姒が舷側にある展望室から、進路に見えてきた月をじっと見ていて微動だにしていないのを、後ろから見つけた父様は、僕達を驚かせない程度の音量で尋ねて来た。
「・・・そうですね、少しくらいは緊張してるかも知れないけど、ワクワク感の方がとても大きいですよ!」
と返答すると父様は、
「嗚呼、お前達にとっては半身とずっと引き離されていた様なものだからな!
だが、判っていると思うが、此の惑星アレスの月は神々(調整者)の防衛システム『ADAM』が存在している。
此の防衛システム『ADAM』の防衛攻撃能力は凄まじく、超空間に居た私とセリーナ・シャロン、そしてイーリスが乗っていた『宇宙戦艦イーリス・コンラート』に攻撃を仕掛けた程だ!
本来は、超空間に対して通常空間から攻撃する術は無い筈だが、防衛システム『ADAM』は其れを可能とした。
恐らく、この攻撃手段は現在確認されている攻撃方法としては、防ぐ手段が存在しない最強の攻撃手段だ。
我々も、久しく此の攻撃手段を警戒して、一定の距離から月に近付く事が叶わなかった。
だが、明らかにアポロと褒姒が宇宙ステーションに上がって以来、月からの反応が敵意では無く友好的なものに変化している。
其れを踏まえて、今回の月への探索行動と『神機』の回収行動なのだよ。
大いにアポロと褒姒殿には、本当に期待しているよ!」
と力強く言われたのだが、言葉の端々に防衛システム『ADAM』への恐怖が滲んでいる。
とは言え、正直僕と褒姒にとっては、自分自身ではどうしようもなく、ある意味全ては天に委ねるしか無い。
そんな事を考えていると、何と僕の『星の涙(スターティア)』と褒姒の殺生石から作った首輪が、かなり強い光を発っした!
僕の『星の涙(スターティア)』は赤い色の光で脈動する様に点滅している。
褒姒の首輪は、白い色で僕と同じく脈動する様に点滅している。
父様と3人で暫くの間、その光の明滅を眺めていると、突如艦内放送が3人の耳朶を打った。
「アラン皇帝陛下! 直ぐに艦橋まで御出で下さい! つ、月がっ! 月が割れていきます!」
非常に焦った声で、艦内放送の担当官が父様を呼び出している。
月に何かが起こった事を理解できたが、割れたとはどういう事だろう?
その艦内放送を受けて月を改めて見直すと、半透明の奇妙なバリアーの様なフィールドが月面を全て覆い、確かに月面に真一文字の亀裂が走っている。
3人で顔を見合わせて、直ぐに艦橋に向かった。
艦内のエレベーターを使い艦橋に入ると、艦橋に有る超巨大モニターや立体プロジェクターには、詳細な月面状況がライブで資料と共に映し出されている。
そのデータ込みのライブ画像を見ていると、月面に走る真一文字の亀裂が徐々に開いて、亀裂に沿って光が漏れ出している。
その光は細かい光の明滅であるとのデータでの説明が、画面横に出ながらライブ映像は続き、暫くそのまま亀裂は開き続けたが、やがてある程度開くと亀裂は其れ以上開かなくなった。
その亀裂の中の様子を詳細に見るべく、ズームアップをして行くと、やがてその亀裂の奥から線状の光が僕を走査する様にスキャンした!
次に、褒姒をスキャンした線状の光は、納得したのか其れ以上スキャンして来なかったが、代わりに月面を全て覆っていたバリアーの様なフィールドの一部が開かれ、我々をまるで招き入れる様にレーザー光線の道が象られて、僕達の乗る『宇宙探査船』に続いている。
「・・・どうやらアポロと褒姒殿は、月の防衛システム『ADAM』の審査を乗り越えたらしいな・・・。
それでは、『ADAM』の導きに従い我々も招かれ様ではないか!」
との父様の言葉に従い、僕達の乗る『宇宙探査船』はレーザー光線の道を、ゆっくりと進んで行った。
やがて、月面の表面を詳しく見れる程に近付いて行くと、明らかに人工物で出来ている場所が、月面上の随所に見受けられる。
《やはり、僕と褒姒の『神機』が封印されていると、知らされた段階で判っていた事だが、神々(調整者)自身が相当なレベルの封印を施しているとは思っていた、月面がこの状態なら想定通りだから案の定だな》
そんな事を考えながら褒姒の方を見ると、褒姒も僕の方を向いて大きく頷いている。
《・・・褒姒も僕と同じ思いか・・・。》
父様の指示に従い、『宇宙探査船』は月面上の亀裂に沿って進み、ある地点で月の内部に侵入して行く事になった。
そう、僕達は惑星アレスの衛星でありながら、ある意味この星系に於ける神秘の塊である、月に導かれて入る事になったのだ。