前書き
モンスターの歴史を語る上で、ヒトの存在を無視することはできない。我々は彼らから発生し、彼らによってこの地下に閉じ込められた。そして、この地下のバリアを破壊する鍵となるのも、ヒトの魂のエネルギーである。我々の悲願である地下脱出の成就のためにも、ヒトについて学ぶことは欠かせない。
本講義では科学的な立場からヒトとモンスターの関係に光を当て、彼らと我々の物理学的な違いを紐解いていく。前半の第1章ではモンスターとヒトを構成する粒子の種類を学ぶとともに、簡単な計算を用いて高校レベルの量子力学の復習を行う。後半の第2章では、第1章で紹介した3種の粒子を軸として、モンスターとヒトの体と魂の性質を学ぶ。
本大学には数多くの学科があるため、学生が受験において選択した科目は様々である。この講義ではどの学科の学生でも理解できるように、比較的初歩的な内容も盛り込んで解説する。
第1章 地下世界を構成する物質
第1章 地下世界を構成する物質
全ての物質は原子からできている。原子は、中心に存在する重い原子核と、原子核の周りを取り巻く一つあるいは複数の軽い衛子からなる。原子核は核子で構成されており、電荷や魔荷を持つ核子を荷子、持たない核子を中性子と呼ぶ。衛子はそれ以上分解することのできない素粒子であり、荷子と中性子は3つの素粒子から構成される複合粒子である。
この原子同士が結合することによって分子を作り、この分子同士が複雑に組み合わさることによって、我々の体や植物などを構成している。このように自然の構造は階層的になっており、スケールによって様々な顔を見せてくれる。この授業では原子のスケールに着目し、この世界がどのような性質を持つ粒子によって構成されているかを説明する。
図1.荷子と衛子1つずつからなる、最も単純な構造の原子
1.1. 3種の粒子の分類
衛子、荷子、中性子には3つのグループが存在し、それぞれ異なる性質を持つ。
Common粒子*1 地球の大部分を構成する粒子
Shadow粒子 モンスターの体の大部分を構成する粒子
Psyche粒子*2 モンスターやヒトの魂の大部分を構成する粒子
これらの粒子は保存量である「荷(charge)」を持つ。粒子の性質として電荷(electric charge)と魔荷(magic charge)の2種類が独立に存在し、荷による相互作用も独立であるため、粒子同士の相互作用の総計はこれらの足し合わせで表現される。これらの電荷・魔荷による相互作用は自然界における基本的相互作用のうちの2つを占める。表1に、それぞれの粒子グループにおける衛子、荷子、中性子の名称と、荷の大きさ(相対値)をまとめた。
表1. 物質を構成する粒子の持つ荷の一覧
中性子はその名称の通り、電荷・魔荷的に中性である。中性子はいずれも3つの素粒子によって構成される粒子であり、素粒子同士の荷を合計すると0になるため、巨視的には電荷や魔荷による相互作用の影響を受けない。これらの中性子は荷子を結びつけて大きな原子核を作るための役割を担っている。
原則として、これらの荷による相互作用が起こるのは同じ種類の荷同士のみである。この相互作用は異符号の荷同士では引力として、同符号の荷同士では斥力として働く。原子は異符号同士の荷の引力によって原子核と衛子が結びついており、これは電荷と魔荷の両方とも同じメカニズムで理解できる。1.2節ではCommon粒子と電磁相互作用を使って、その相互作用の考え方と電子の安定軌道の導き方を示す。
1.2. Common粒子と電磁相互作用
地面や金属など、身の回りにある物体の多くは陽子を含む原子核(common nucleus)と電子(electron)からなるCommon粒子によってできている*3。Common粒子は電荷しか持たないため、電磁相互作用しか働かず、最も単純な式で表すことができる。他の荷を持つ粒子にも共通する考え方であるが、この系の計算において、陽子(proton)は正の電荷を持つ点電荷、電子は負の電荷を持つ点電荷とみなすことができる。
電荷が$q$及び$q^\prime$の2つの点電荷が存在し、距離$r$離れている場合、この2つの電荷には大きさFの力が2点を結ぶ直線と並行に働く。
$$ F = \frac{q q^\prime}{4 \pi \epsilon_0 r^2} $$
この力はクーロン力と呼ばれる。$q$と$q^\prime$が同符号の時は斥力、異符号の時は引力として働く。ここで、$\epsilon_0$は電気定数と呼ばれる以下の量である。
$$ \epsilon_0 = 8.85 \times 10^{-12} F/m $$
電荷だけでなく、魔荷の相互作用も、荷の単位と、相互作用の大きさを示す定数以外はクーロン力と全く同じ形で記述することができる。
図2.水素原子
電磁相互作用の具体的な例を示す。水素原子において、電荷によるクーロン力が向心力の役割を果たす。よって、運動方程式は
$$m_e \frac{v^2}{r} = \frac{e^2}{4 \pi \epsilon_0 r^2} \qquad\qquad (1)$$
となる。ここで、電子の質量を$m_e$、速度を$v$、電荷を$e$、陽子・電子間の距離を$r$と置いた。
これに加え、電子の波としての性質*4により、安定して存在できる軌道が限られることを考慮する。電磁波を出さない定常状態となるのは、電子の軌道の周長が電子波の波長$\lambda$の整数倍の時のみである。
$$2 \pi r=n \lambda \quad (n=1,2,…) \qquad (2)$$
ここで、物質波はプランク定数 $h=6.63 \times 10^{-34} J\cdot s$ を用いて
$$ \lambda =\frac{h}{mv} \qquad(3)$$
で書き表せるため、式1・2・3から以下の式を導くことができる。
$$r= \frac{h^2 \epsilon_0}{\pi m_e e^2} n^2 \quad (n=1,2,…) \qquad (4)$$
式3は水素原子内の電子が取ることのできる軌道半径を表す。
1.3. Shadow粒子
Shadow粒子はモンスターの体の大部分を構成する粒子である。魔法によって作られた物品も同じく、Shadow粒子が主成分となる。モンスターの体や魔法を構成していない、自然環境下のShadow粒子は、地球を構成するCommon粒子のように複雑な分子構造を取らず、主に気体として存在している。電気的に相互作用することはないが、地球の重力に囚われているため、地球内部や地表の空間に豊富に含まれている。
Shadow粒子を構成する素粒子は魔荷を持つが電荷を持たないため、電場・磁場の波である光(電磁波)と相互作用しない。このため、Shadow粒子単体からなる物体(純Shadow体)はCommon粒子からなる機械で観測することはできない。モンスターがCommon粒子からなる物品を触ったり、機械でモンスターを撮影したりすることができるのは、モンスターがShadow粒子のみからなる純Shadow体ではなく、Psyche粒子やCommon粒子が混ざった複合体であるためである。
魔荷相互作用を表す式は、電磁相互作用と全く同じ形をしており、異なるのは荷の単位と、相互作用の大きさを示す定数のみである。原子核と負霊子を結びつける力は、異符号の魔荷同士のクーロン力である。絶対値が等しい正魔荷・負魔荷を持つ原子核(shadow nucleus)・負霊子(nega-magion)間の結合は、Common粒子の水素原子の例と同じ計算で理解することができる。負霊子の魔荷をaと表し、魔気定数$\alpha_0$を使うと、Aethel原子の正霊子(posi-magion)と負霊子の間に働く力は以下のように記述することができる。
$$ F = \frac{a^2}{4 \pi \alpha_0 r^2} $$
負霊子の質量をm_nmとして水素原子と同様の計算を行うと、負霊子が取ることのできる軌道半径として以下の式を得ることができる。
$$r= \frac{h^2 \alpha_0}{\pi m_n a^2} n^2 \quad (n=1,2,…) $$
図3.Aethel 原子
1.4. Psyche粒子と電荷・魔荷による相互作用
モンスター及びヒトの魂はPsyche粒子を主成分とする、3種の粒子の複合体である。前述した2種の粒子と異なり、Psyche粒子を構成する素粒子は電荷、魔荷の両方を有しているため、2種の粒子両方との結合が可能である。また、Shadow粒子とは異なり電荷を持ち、電磁相互作用をするため、光を発したり反射したりすることができる。原子核(psyche nucleus)と負魂子(nega-soulon)を結びつける力は、異符号の電荷同士のクーロン力と異符号の魔荷同士のクーロン力の重ね合わせであるため、以下のように書き表せる。
$$ F = \frac{ 3.8^2 \times 10^{-4} e^2}{4 \pi \epsilon_0 r^2} + \frac{a^2}{4 \pi \alpha_0 r^2} $$
負魂子の質量を$m_{ns}$として、水素原子やAethel原子と同様の計算を行うと、負魂子が取ることのできる軌道半径として以下の式を得ることができる。
$$r= \frac{h^2 }{\pi m_{ns}} \left(\frac{e^2}{\epsilon_0}3.8^2 \times 10^{-4} + \frac{a^2}{\alpha_0} \right)^{-1} n^2 \quad (n=1,2,…) $$
図4.pneuma原子