構成物質から考えるモンスターとヒトの科学   作:安代圭

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教科書のおまけとして無料配布した8ページ折本です


短編「あなたの紡ぐ未来の話」
あなたの紡ぐ未来の話


 

【挿絵表示】

 

(イラスト提供:あ様@r_ego999

 

「なあ、学校で、友達できたか」

 スパンコールのついていないバーガーにかぶりつく子供に、なんとなしに聞いてみる。外は残暑が厳しく、先ほどまでフリスクは滝のような汗をかいていた。冷房の効いたファストフード店の中は涼しくて快適らしく、表情にいつもの元気が戻りつつある。まあ、暑さも涼しさも、骨の体には関係のない話だ。

「うん! 学校のある日は一緒にお昼食べてるよ。この前は遊びにも行ったし」

 フリスクは口いっぱいにバーガーを頬張ったまま、元気よく頷いた。

「美味いもんは食えてるか」

「このバーガー好きだよ。それに、ママのバタースコッチパイは格別だって、サンズも知ってるでしょ」

「気の利いたジョークは?」

「ママから毎日。……寒いのもあるけどね」

 ちゃんと充実した毎日を過ごせているようだ、とほっとする。

 一週間ほど前に、学校は二学期が始まったらしい。夏休みはご近所さんとして頻繁に会っていたものだから、たった数日ぶりなのに、この子供と顔を合わせるのが久々な気がした。

「自由研究は好評だったか?」

「とっても! 先生にも友達にも誉められたよ! まあ、トリエルから当時の話を聞けたし、他にもアズゴアとかガーソンとか、色んなモンスターに手伝ってもらえたから、当然かもしれないけど」

 フリスクの自由研究が八割がた仕上がったあたりで、途中経過を見せてもらっていた。モンスターの歴史について、戦争の発端からイビト山への封印、地下文明の独自の発展について、拙い字ながらも詳細に書き綴られていたのを覚えている。

 巻末に並べられていた、証言をしたモンスターたちの顔触れの豪華なことといったら、思わず苦笑いしそうになるほどだった。歴史学者が羨む姿が容易に想像できた。

「あのね、来年の自由研究は、イビト山についてやってみようと思うんだ。ちょっとサンズに手伝ってもらいたいかも。雪の降る地域と溶岩の流れる地域があんなに近くにあるの、地上じゃありえないんでしょ?」

 この子供が未来のことを話すのを聞くたびに、肋骨の中の緊張が少しずつ解けるのを感じる。

「いいぜ。地学も環境学も専門外だが、多少は手伝ってやるさ」

 二代目のタイムトラベラーのこの無害さを、今はありがたく思いたい。無闇に好奇心を刺激しすぎないようにしなければ、と何度思ったことだろう。子供というのは、良くも悪くも純粋なものだ。あの地下で見極めようとした平和主義を、今は少しだけ信じられるようになった。

「夏休み、色々できて楽しかったなぁ」

 机の下で、フリスクは足をぶらぶらと揺らした。

「特に、みんなで作ったツリーハウス。あれは本当に楽しかった!」

 フリスクが紙コップを持ち上げると、氷がじゃら、と音を立てた。子供の口にくわえられたストローの中を、メロンソーダの鮮やかな緑色が通り過ぎる。

「そう言えば、提案してくれたの、サンズだったっけ」

「そうだったかもな」

「サンズがあんなに設計図をかけるなんて知らなかったな。切ったり組み立てたりはだいぶ怠けてたけど……」

「おいおい。オイラの魔法はだいぶ役に立っていたはずだぜ?」

 細い目に何とも言えない視線を返されて、サンズは苦笑いをした。

 重い木材の組み立ての時に重力魔法が活躍していたのは事実だ。だけれども、パピルスとフリスクが板やら何やらを切っているとき、昼寝をしてしまったことがあった。木陰が涼しくて気持ちが良すぎたのだ。サンズがうたた寝していることに気がついたパピルスにひどく怒られてしまった。その後ろで笑いを隠しきれないフリスクが、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていたのを覚えている。

 努めて、さりげない口調で言い添えてみる。

「まあ、なんだ。……頑張って作った物があると、なかったことにするのは惜しいだろ」

 その瞬間、バーガーを頬張るフリスクの動きが止まった。

 向かい合って座るふたりの間に、ぴん、と見えない緊張の糸が張る。目の前の小柄な子供が、サンズの言った言葉の意味を正確に理解していることだけはわかった。

 この子供は何を考えているのだろう。それを恐ろしく思わないでもない。時間の支配者は最も神に近い存在だ。

「この幸せに満足しているなら、わざわざ裏返そうだなんてしないでくれよ」

 この際、多少、直接的な物言いでも構わない。気づかれるのは時間の問題なのだ。それよりも、言葉にして伝える方が重要だろう。

 こいつは対話のできる相手なのだから。

「……サンズがいろんな遊びを提案してくれたのって、やっぱり、全部そのためだったんだ」

 フリスクはバーガーを持つ手を机の上に下ろし、長く息を吐いた。口元をへにゃりと歪めて、苦笑いをする。

「日記とか工作とか色々さ、手間がかかって残るものを作らせようとしてたから。何となく、気づいてはいたんだ。サンズはリセットされるのが嫌なんだよね」

「……そうだ。不満か?」

 脆い骨の中にある自分の魂が、この上なく緊張するのを感じた。──初めて、あの雪の積もる道でこの子供と会った時のように。

 子供は緩く首を横に振った。

「みんなの幸せを壊すほどのものが、あると思う?」

 そう言って、フリスクは周囲のテーブルに視線を向けた。店内にはたくさんの人間とモンスターが座っている。

 この地域の人口の三分の一はモンスターだ。ニューホームやスノーフル出身のモンスターの多くがこの地区に移住していた。多くの席で、人間は人間同士、モンスターはモンスター同士で固まって座っているが、混合で和気藹々と話しているグループも珍しくはない。談笑する人々とモンスターたちを見つめるフリスクは、穏やかな顔をしていた。

「それにね、サンズ。色んなものを作るのは本当に楽しかったし、一緒に作ってくれたことには感謝しているけど、一番、なかったことにするのが惜しいものは、みんなとの思い出なんだ」

 子供は少しだけ、声を潜めた。

「みんなと過ごしたことを、誰も覚えてくれていないのは、結構寂しいことなんだよ。背後から話しかけられた時に初対面のふりをするのも、バタースコッチパイを初めて食べたような顔をしなきゃいけないのも」

 サンズはたくさんのことを知っているけど、これは知らないでしょ、とフリスクは言う。

「だからさ、みんなと並んで同じ時間を歩いて、未来を作っていく幸せを、大事にしていきたいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏返す

 

 























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