ラ・ベート 〜アレは本当に動物だったのか〜   作:川内かまぼこ

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動物ってかわいいのもいれば怖いのもいるよね!
ちなみに私は動物全般が苦手だよ!
アイツら予測不可能な動きするからね!
1番好きな動物はクジラだよ!


猪の話

 これは私がまだ幼い頃に父から聞いた話である。私の曽祖父、つまりは父の祖父は怖がりな人で、常に一人でいることを嫌がったそうだ。特に動物をとにかく怖がったらしく。散歩中の犬が前からやって来ようものなら、一目散にきた道を逃げ帰る人だったという。そんな曽祖父は結構な長生きで、私がまだ赤ん坊だった頃は多少ボケてはいたが存命だった。ある日、父が赤ん坊の私を連れて田舎に帰った時におきたことである。親戚一同が集まる中で、酒を飲み騒ぐ大人たちの片隅で、子供たちはその当時人気だったアニメ映画のビデオテープを観賞していた。大きな白い猪がでてきた瞬間に、いつも大人しい曽祖父が急に騒ぎ始めた。「俺はこいつを知ってる!アイツだ!海を泳いで来やがった!」そう叫ぶ曽祖父を「よく知ってんなあ!じいちゃん!」と酔っ払った叔父が茶化す、その間も曽祖父は「来た!みんな殺される!逃げろ!はやく!」と騒ぎ立てた。しかし、あまりにも鬼気迫る表情で騒ぎ立てるので、次第に幼い順に子供達が泣き出してしまう。それでも、なお一層騒ぎ立てる曽祖父に、これはただごとでは無いと祖父母が曽祖父を宥めにかかる。「お父さんテレビのお話ですから」と宥める祖母に曽祖父は「違うんだ!ほんとにいるんだ!」と叫ぶと「何がいるって言うんですか!いい加減にして下さい!」と祖母が叫び返した。その言葉を聞いた曽祖父はフッと我にかえった表情を浮かべ、あたりを見渡す。「そうか…そうか…」といいながら今度は泣きじゃくり始めた。その一部始終を見ていて、すっかり酔いも覚めた父母、叔父叔母たちはシーンと気まずい空気の中、ただただ謝りながら涙を流す曽祖父を見ていた。そんな中で赤ん坊の私だけがケタケタと笑っていたという。「だからお前の性格が悪いのは生まれつきだ」と父は花瓶を割って悪びれもしない私を叱りながら言うのだった。

 

*****

 

「ていう話なんだけど」

 

某県某市にある大学のカフェテラスにて、先輩はそう呟いた。

 

「うちのひいじいちゃんの話レポートにつかえる?」

 

「そんなん使えるわけないでしょう。『世界の宗教観でみた動物』のレポートですよ」

 

「相変わらず物言いがきついなスイカちゃんわ」

 

西瓜(にしうり)です。変なあだ名つけないでください先輩」

 

自分の目の前にいるのは大学院1年生の先輩で、梅崎東風(うめさきこち)という旧知でもなんでもない、今日あったばかりの赤の他人である。ちなみに自分の名前は西瓜那月(にしうりなつき)という普通の大学3年生である。

 

「先輩のひいおじいさんが幻獣の類なら話は別ですけど」

 

「いやいや、俺のひいじいちゃんはちゃんと実在するって、島育ちでね。釣りがうまかったらしい」

 

じゃあ尚更使えないでしょうが、というと先輩はケタケタと笑い出す。この先輩に出会ったのは、つい先程だいたい1時間前のことである。民俗学の研究室に立ち寄った際に教授から紹介された。いや、押しつけられたという方がまとを得ているだろう。この先輩、用もないのにあらゆる研究室に立ち寄っては無駄話をして、他人の時間を無駄にすることで有名である。仕方がないので、レポートのテーマの題材について何かいいのがないか聞いたところ、長々と自身の曽祖父の話をして終わった。本当に時間の無駄だった。

 

「スイカちゃんは猪たべたことある?」

 

西瓜(にしうり)ですって、無いですよ。先輩はあるんですか?」

 

「うちは実家が九州の方だから、よく近所の人がとって来てくれたよ」

 

「島にも猪っているんですね」

 

「俺は島育ちじゃねえよ。ひいじいちゃんは島育ちだけど、ひいじいちゃんが若い時に島をでてからは帰ってないらしい。まあ、その島も実家からすぐ行ったところにある防波堤から見える位置にあるんだけどね。でも、猪は長い距離泳げるから島に泳いでいって鶏が全滅したなんて話も聞くけどな」

 

それからと話を続ける先輩。本当に無駄話が好きだな、この人と思いつつ。うむ、と考え直す。猪か、たしかに猪ならばレポートのいいテーマになるかもしれない。日本では伊吹大明神が白猪になって、倭建命と対峙したという話もあるし、中国でも最遊記や十二支で有名だ。西洋にも探せば何かあるかも知れない。先輩との話は無駄が多いけれどまあ、収穫はあった。自分が席を立つのを見て立ち上がる先輩。そういえばと思い、先輩に質問する。

 

「先輩は、ひいおじいさんの故郷の島に行った事あるんですか?」

 

「無いよ。ていうか、今無人島で許可が無いと入れないんだよね。なんでだろ」

 

「いや、知りませんよ」

 

こうして、自分と東風先輩との奇妙な関係が始まったのである。

 

*****

 

 曽祖父は釣りが趣味で、暇な時はよく釣りをしていたそうだ。だが船に乗るのも怖がったため、もっぱら陸釣り専門。しかも魚を怖がるので、誰か魚を釣り針から外す係が必要だったという。父は幼い頃、よく曽祖父に連れ出され、魚を釣り針から外す係に任命されていたらしい。だが、不思議なことに家から一番近く、さらに自信の故郷であるはずの島が見える防波堤では、一度も釣り糸をたらすことはなかったそうだ。父はそれが疑問で、「なんでじいちゃんはあの島が見えるところで釣りをしないの?」と一度曽祖父に尋ねた。曽祖父は声を震わせながらこう答えた。「あんなところで釣りなんかしたら、アイツに見つかっちまう。見つかったら食われちまう」と。父は「アイツって?」と聞くと曽祖父はこえぇ、こえぇと言うばかりで答えてはくれなかったそうだ。そんな曽祖父は私が3歳になる頃に亡くなった。最後は私の父に向かって泣きながら「あんちゃんごめん…俺だけ逃げちまってごめんよ…俺はビビりだから許してくれよ…こえぇこえぇよ…あんちゃん、あんちゃん…ごめんよ」という言葉を残したそうだ。「オラァじいさんが島を出るときに亡くなったじいさんの兄貴に1番似てるらしいから、死に際に勘違いしたんだろう」と父は語る。今でも父は昔を思い出して「じいさんはあの島にいる、何をそんなに怖がってたんだろうな」としみじみとしながらいう。ちなみに、曽祖父のいた島は波島としいい、別名鳴き島という。年に一度、一日の数秒だけ獣の鳴き声の様な音が島から聞こえてくるからである。そして、その日は曽祖父が島を離れた日であり、その島が無人島になった日である。あの島に住んでいたという人を私は曽祖父以外聞いたことがない。

       『アレは本当に動物だったのか』

       第ニ章 曽祖父が見たアレ 一部抜粋

         著者 梅咲東風




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