ラ・ベート 〜アレは本当に動物だったのか〜 作:川内かまぼこ
牛は様々な神話において登場し、神もしくは神獣として祭り上げられてきた。時に人と牛とで子を成すという神話が語られる事もある。かの有名なミノタウロスだ。牛とは神に最も近い動物とも言える。話は変わるが、食べた後に寝ると牛になるという話があるが、それは飢餓で苦しむ村で最初に寝た人を牛として殺して食べていたからという都市伝説があると聞いた。話は戻るが、ミノタウロスが産まれた経緯としては、神から贈られた神牛を返さなかったことから始まる。神は怒り、王妃が牛に欲情するように仕向けた。そして、神牛と人とが交わって産まれたのがミノタウロスである。それと似た話を、私がまだ大学一年生の時に聞いた。四年生の先輩の研究を手伝って日本各地を旅していた時での話だ。とある伝染病で全滅した村の記録だ。“村は土地が枯れて、作物が育たないほど疲弊していた。ある日、神から見たこともない大きな牛を授かった。この牛で耕した土地は潤い、実りを生んだ。しかし、村人たちは作物が育つまで待てなかった。それ程までに村人たちの心は疲弊し、飢餓に喘いでいたのだ。村人たちは神から贈られた牛を殺して食べた。あれほど大きな牛だ、村人全員が腹を満たしてもまだあまりある程肉はあった。しかも、この肉はいつまでも腐らない。しかし、このままではまた村人たちが空腹に苦しむのも時間の問題だろう。そんな時、神の牛と交わって子供を成した雌牛がいることがわかった。雌牛は雄と雌の二頭を産んだ。村人たちは喜び勤しみ、二匹を番わせた。子供は十頭産まれた。三頭が雄だったので、役目を終えた親二頭と雄の子供三頭を殺して、村人で分けあった。残った七頭の雌牛はまたほかの雄と交わらせて子供を産ませた。これで村人は飢えることは無くなった。”私と先輩は、その伝染病で滅んだ村に向かって見ることにした。
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「最近誰かにつけられている気がするんですよね」
「何、ストーカー?スイカちゃん、見た目だけはかわいいからね」
「西瓜です。自分の可愛さは見た目だけじゃないです」
いつものカフェテラスでいつも通りの無駄話に興じる東風先輩と自分。
「警察には言った?」
「いえ、言ったところでなんで。それに、自分の気のせいかもしれないですし」
「そういえば、俺も最近向けられてるんだよね」
「視線ですか?」
「いや、殺意」
そっちの方がよっぽど警察案件のような気がするが、先輩はあいも変わらずケタケタと笑うだけだ。
「気をつけてくださいよ。ただでさえ最近、ラ・ベートとかいう猟奇的連続殺人鬼が出没してるんですから」
「大丈夫、大丈夫。俺、殺意向けられ慣れてるから」
何が大丈夫なのだろうか。危機感がないのか、多分この人頭空っぽなんだろうな。
「アンちゃんみたいな彼女いるんだよ。そりゃ、殺意向けられるよ。女子から」
「ああ、確かにそうですね」
庵さん現役モデルで、相当女子に人気らしいし、そりゃ女子に嫉妬されるよな。
「そういえば、アンちゃんが今度スイカちゃんと3人で、ご飯食べたいって」
「西瓜です。なんであの人地味に自分のこと気に入ってるんですか?」
「焼き肉行こうぜ。和牛も安く食べられる店があるんだよ」
「肉、そんなに好きじゃないんですよね」
「え〜行こうぜ!激安の和牛の肉か何かわからない食べ放題に行こうぜ」
果たしてそれは本当に和牛なのか。ていうか、そもそも牛の肉かさえ怪しい。
「しゃぶしゃぶならいいですよ」
「OK。和牛たくさん食おうぜー。アンちゃんが奢ってくれるらしいし」
「クズですか?」
「いや、アンちゃんが奢るのはスイカちゃんだけだよ。アンちゃんは俺には奢らないって」
とケタケタ笑う先輩。じゃあ、いいか。
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廃村に辿り着いた先輩と私は、さっそく散策が始まる。廃村には倒壊した空き家がそのまま残されていた。少し、散策したところで先輩は急に帰るといいだした。「どうしてですか。まだ、十分に散策できてないと思うんですが」と言う私に先輩はこう答えた。「これは、私の専門分野ではない。どちらかと言うとお前の分野だろう」と。当時から私はアレについて研究していたが、これがアレと関係があるとは思えなかった。なぜなら、アレは人に悪意を持って接する。アレが人を食うことがあっても、人がアレを食べたという事例は聞いたことがなかった。しかし、そんな私に先輩は「君の言うアレとはいわば神や精霊といった分類だ。それは自然の摂理であり、人にとって不条理であり、意味を求めても意味が無いものだ。それに対して、私の専門分野は呪いだ。それは、人の間で起こる摂理のある、意味のあるものだ。一言でいうなら汚れだね。汚れは積み重なることによって、濃くなり、より広がっていく。しかし、アレが現れるのは突発的だ。発生するのに条件はあるのだろうが、行動原理は謎としか言えない。つまり、あまり決めつけて考えない方がいいだろう」と言い聞かせてきた。私は「どういうことですか」と尋ねると、先輩は続けてこう言い放つ。「食べることに困っている村に果たして雌牛がいたのかな。普通なら真っ先に食べられると思うんだけど」と。私は改めて周りの空き家にある表札を見る。表札には
『アレは本当に動物だったのか』
第十二章 食べられたアレ 一部抜粋
著者 梅咲東風
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