ラ・ベート 〜アレは本当に動物だったのか〜   作:川内かまぼこ

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猿の惑星が洋画で1番好き。


猿の話

 人間は猿から進化したという進化論を唱えるのは間違っている。そもそも進化論の父であるダーウィンは人間が猿から進化したとは一度も発言していない。ただ、人間と猿は同じ祖先を持つといっただけである。では、人間と猿の違いはなんなのだろうか。以下は、この問いかけに答えた私の敬愛する先輩たちや恋人の意見である。先輩曰く、『罪悪感を感じるかどうかじゃないか』。黒猫曰く、『自分で木から落ちるのが猿、たまに他人に木から落とされるのが人間じゃにぇーの』。恋人曰く、『そもそも猿はそんな事考えない。そんな事考えるのは人間か、それ以外の化け物だけ』。私のただの傲慢な人間の一人としての意見として言わせてもらうなら、『食べやすいのが猿で、食べにくいのが人間』ではないかと思う。私の敬愛する先輩との旅の中こんな事があった。とある村の宿に泊まった際の話である。その村には彼方此方に猿の置物が置いてあった。聞く話によるとこの村は猿神信仰が盛んだという。「猿から四六時中見られるとゆっくりできにぇーだよ」と言いながらも黒猫はゴロゴロと転がっている。「まあ、確かにこうも猿だらけだと落ち着かないな」と先輩も居心地が悪そうだ。確かに彼方此方から見られているようで、私自身も居心地は良くなかった。

 

******

 

「確実に見られてるんですよね」

 

「何が?」

 

「後、つけられてます」

 

「誰に?」

 

久しぶりに自分の方から話をふったのだが、いつになく覇気のない東風先輩。

 

「多分、女性ですね。面識はないと思います」

 

「ヘイヘーイ、やるじゃんスイカちゃん。女子にモテモテー」

 

「西瓜です。茶化さないでください」

 

なんだか変だ。いつもの先輩だったら率先して話を聞きたがるのに今日はなんだかやる気がない。

 

「なんかあったんですか?」

 

「何が?」

 

「いや、なんかいつもよりテンション低くないですか?」

 

すると先輩はんっと、とある紙切れを渡してきた。そこにはサスペンスドラマの犯行予告さながらの文章『ラ・ベートさまにこれ以上近づいたら殺す』という内容が書かれていた。

 

「先輩、まさか例の殺人鬼のこと調べてたんですか?それで警告文届いたとか?」

 

「んなわけないじゃん。俺はアンちゃん以外の人間に興味ないし。しかも、多分これラ・ベート信者の仕業だと思う」

 

「ラ・ベート信者?」

 

聞きなれない言葉に頭を傾ける。

 

「今、ネット上で面白半分で立ち上がった新興宗教団体だよ。曰く、ラ・ベートは虐げられてきた動物たちの代弁者。人間を裁くために現れた神の使い。愚かなる人間を捕食する食物連鎖の頂点とかなんとか」

 

「あの殺人鬼そんなに人気なんですか?」

 

「ただ単に暇な奴が面白おかしく囃し立ててるだけだよ」

 

ラ・ベートは一年ぐらい前から姿を現した連続狂気殺人鬼である。特徴的なのは発見された被害者の遺体で、殺してなのか、殺す前からなのか、分からないが遺体は獣に食い荒らされたかのように損傷しているという。通称、食い残しと言われている。

 

「ただ最近は、その囃し立てる奴らに動物愛護団体やヴィーガンも加わったんだよ」

 

「なんでまた?」

 

「被害者の中に動物虐待をしてた奴や動物で非道な実験をしてた奴、果てわ食肉加工会社の職員、ヴィーガンを批判していた動画配信者なんかが混じってたんだよ」

 

「それでそういう輩に祭り上げられたんですか?」

 

「まあ、一部の過激派の目に留まったんだろ」

 

それによって産まれたのがラ・ベート教なる信仰宗教だと先輩は語った。まあしかし、動物を解放の象徴として人間を食べる殺人鬼を祭り上げるのは少し筋違いな気もするが、家畜の気持ちをしれという事だろうか。

 

「スイカちゃんはそういうヴィーガニズムをどう思う?」

 

「西瓜です。自分の意見を言わせて貰えばくだらないとしか」

 

「へぇ〜意外。俺、スイカちゃんが肉食べてるところ見た事ないからそっち寄りなのかとばかり」

 

「西瓜です。自分はあまり肉が好きじゃないだけで、動物由来の製品を完全に使わない食べないわけじゃないです」

 

そもそも家畜とは人間が食用にするために育て上げたものだ。それをあるべき姿である自然に戻すなんて、いえないほどまでに彼らは進化し過ぎている。

 

「そもそも、狩猟だって酪農だって人類が気付き上げた文化です。そこには動物に対する最大の敬意があります。だからこそ、動物は数多く神格化されているんですよ」

 

「まあ、一理ある。でも、俺はヴィーガニズムはいい考え方だと思うよ」

 

「先輩は肯定派なんですね」

 

意外も意外である。

 

「たとえばさ、昔は獣を狩って生きてたのが普通だったけど、農作文化が到来することによってより安全に安定した食料供給ができるようになった。それにより、狩猟文化は少数派になって、続けていく奴らは野蛮だと言われ出したんだよ」

 

「はあ?それで?」

 

「これは、ヴィーガニズムでも言える。現在では科学の進歩によって、大概の栄養や持ち物は動物由来のものを必要としないで作り上げる事ができるようになった。そんな時代に、健康被害というリスクを背負ってまで動物由来の製品を使い続ける必要があるんだろうか?」

 

「ヴィーガニズムは人類が進化した結果だと?」

 

「そうだな、所詮人間も猿と同じ祖先を持つ動物。それが、科学という神に変わる信仰を得て、進化した結果がヴィーガンなのかもしれない」

 

先輩が言わんとしていることは分からないでもない。でも、自分はそれでも納得いかない。

 

「そんなの、それこそ金持ちの道楽じゃないですか。先輩がいう理論なら、それは食糧や物資が安定供給されている場所でしか行えないじゃないですか。世界にどれだけの飢えに苦しむ人間がいると思うんですか?飢えた人間に動物性だとか植物性とかは関係ない。あるものを食べるしかない。食べられるものを食べるしかない。そんなの金を持ってる裕福層だけの考えじゃないですか。同じ種なら他の動物の前に、同種の人間を救えよ!だから人間は嫌いなんだ!」

 

「おいおい、スイカちゃん。落ち着きなって、熱くなるなよ」

 

いくら戦争反対や人種差別反対の本や歌をつくっても届かない場所が必ずあるし、買えない場所が必ずある。さまざまな主義主張があるのは勝手だが、優先順位だけは間違えないでほしい。

 

「これなら猿の方がよっぽど利口だ」

 

「まあ、人間は傲慢だからしょうがないよー。だからこそ、霊長の頂点を自負してるんだから」

 

進化の過程で分岐した猿と人間の分岐点。どちらを選んだ方が幸せだったのかなんて誰にも分からない。

 

「ていうか先輩、ヴィーガン肯定派ですけど普通にお肉食べてますよね」

 

「そりゃあ、俺は浅ましくも傲慢な人間だからね。この世の全ての動物を食べ終わるまでは野蛮なままでいいよ」

 

そんな何気ない、いつものカフェテラスでの起こった一幕だった。

 

******

 

先輩と私と黒猫が見たアレは今までに類を見ない奇妙なものだった。まるで、猿の惑星を見ているようだった。大群の猿に囲まれた一際大きな猿のようなアレ。村人たちはそれらに平伏している。あまりの光景に隠れているというのに興奮を抑えられずに飛び出してしまいそうな私を先輩がなんとか抑え込んでくれた。猿を支配下に置き、剰え人間を従えるアレが存在するなんて。当時の私は未知の存在に目を爛々と輝かせて見つめていた。すると、そこに村人たちに縛り上げられたのであろう、私たちと同じようにこの村の宿に泊まっていた客が次々と運び込まれてくる。私たちは異変に気づき、すぐさま隠れたので事なきを得たが黒猫が教えてくれなければ私たちもあの列の中に加わっていた事だろう。その後のことは私にもわからない。先輩が今のうちにと私を引きずって、逃げてくれたおかげである。あの後、あの宿客たちはどうなったのか私に知る術はない。今でも、あの村に行こうと努力しているのだが、何度やってもあの村には辿り着けないでいる。もしかしたら、アレが動物の一種なのだとしたら、アレも進化しているのかもしれない。霊長の頂点から人間が引き摺り下ろされるのも、案外近いのかもしれない。

 

 『アレは本当に動物だったのか』

 第十四章 進化したアレ 一部抜粋

         著者 梅咲東風




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