ラ・ベート 〜アレは本当に動物だったのか〜   作:川内かまぼこ

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久しぶりにこっちを投稿するな


鮫の話

 「サメに食われて死にてえなあ」というのが口癖なとある漁師町の老人がいた。この話をしてくれたのは私と同じゼミだった後輩である。その老人は海を眺めるたびに「サメに食われて死にてえなあ」と口に出していた。天涯孤独で身寄りのないその老人はその漁師町では関わってはいけない人物として有名だったらしい。後輩はある日、友達と釣りをするために防波堤に集まる約束をしていたそうだ。友達より先に来ていた後輩がせっせと餌の用意をしていると例の老人が現れて、「サメに食われて死にてえなあ」と呟いた。後輩は気になって、なんでサメに食われて死にたいのか聞いたという。老人は何も言わずにその場を後にした。後輩はその老人のことがどうしても気になって、自身の祖父に聞いてみたのだという。後輩の祖父は物凄く躊躇ったらしいが、後輩が「なら直接聞きにいく」と言い出したため、渋々話し出した。

 

******

 

「もうすぐ学祭だけどスイカちゃんはゼミで何かしないの?」

 

「西瓜です。ゼミではやりませんけど、サークルでならやります」

 

いつものカフェテラスでの暇を持て余した先輩を相手にするいつもの光景。なぜだか、とても久しぶりな気がするのは自分だけだろうか。

 

「スイカちゃんってサークル入ってたんだ」

 

「西瓜です。ほぼ幽霊ですけどね」

 

「ちなみになんのサークル?」

 

「コスプレサークルです」

 

「コスプレサークル?」

 

一年生の頃に当時のコスプレサークルの先輩(女性)に半ば強引に入部させられたサークルである。

 

「意外とガチ勢が多くて、服をつくるのがメインのサークルなんですよ。自分はたまにコスができた時にモデルになるのが仕事です」

 

「へぇーなんか意外だなぁ。スイカちゃんがそんな雄の巣窟みたいなところにいるなんて」

 

「西瓜です。サークルのほとんど女性ですよ。男性もいますけど2次元にしか興味ない奴しかいません」

 

「2次元にしか興味ない奴がコスプレ衣装つくるの?」

 

「そいつらはコスプレした女性を見たいんじゃなくて、コスプレ衣装を見たいだけの無害な奴等なんで」

 

「それって無害なの?」と先輩はケタケタと笑った。実際問題手を出されたことが無いので無害なことは証明されている。

 

「それでそのサークルでは何するの?」

 

「メイド喫茶です」

 

「予想をうらぎらないね」

 

本当はもっといろいろなコスプレ喫茶にしたかったらしいのだが、生産が間に合わないらしく泣く泣く断念したと聞く。

 

「メイド喫茶と言ってもさまざまなバリエーションのメイド服のメイド喫茶です」

 

「そうなんだ。ちなみにスイカちゃんは何するの?」

 

「西瓜です。自分はチャイナ系です」

 

「あ、着る方なんだ」と先輩はまたケタケタと笑う。

 

「チャイナかあーそういえばスイカちゃんは中華なら何が好き?」

 

「西瓜です。中華はそんなに食べないですが、強いて言うなら麻婆茄子です」

 

「俺はフカヒレスープ」

 

「あれって美味しいんですか?」

 

「食感がたまらない。あと単純に高級感があっていいよね」

 

なんだその理由と思いながら、先輩との無駄な時間は今日も過ぎていくのだった。

 

******

 

あの老人には二人の幼馴染がいたそうで、一人は男性、もう一人は女性だったそうだ。その老人と幼馴染の男は、幼馴染の女のことが好きでどうらが結婚するかよく喧嘩したらしい。結果、選ばれたのは幼馴染の男の方だったが老人は二人を祝福していたのだそうだ、表向きは。事件が起こったのは二人の結婚式の前日だった。老人と幼馴染が乗った漁船が高波に攫われて大破したのだ。しかし、二人とも小さな頃から泳ぎがめっぽう上手く幸い大破した海域と堤防までは目と鼻の先だった。だが、帰って来たのは若き日の老人だけだった。そのせいで、漁師町の皆は老人が横恋慕のために幼馴染を溺れさせ殺したと思ったのだ。それでも老人は幼馴染が鮫に食べられるのを見たと言い張った。しかし、この海域では鮫を見たものは誰一人いなかったので、老人のいい分は皆が嘘だと決めつけたのだそうだ。妻となるはずだったもう一人の幼馴染はただ泣き崩れるだけだった。結局、幼馴染の女は別の町に嫁ぐことになったそうだが、別れ際にその女は老人に「あんたが鮫に食われて死ねばよかったのに」と言い放ったという。それから、老人は口癖のように「鮫に食われて死にてえなあ」というようになったのだそうだ。私はその話を後輩に聞いた際にあまり気に留めなかった。なぜなら、それがアレに関係するとは思わなかったからだ。しかし、その後夏休暇に実家に帰った後輩から聞いた話で私は考えを改めることになる。ある日、地元の子が波に攫われて沖に流されてしまったという。老人はいち早くそれを見つけて浮きと縄を持って海に飛び込んだ。いつも、幽霊のような老人とは思えないほどに見事な泳ぎで子供に近づく老人。数分後、漁船で子供と老人を追いかけた漁師たちは浮きにくくり付けられた子供だけを見つけた。漁師は子供に「爺様はどうした」と聞くと、子供は虚な声で「鮫に食べられて死んじゃった」と呟いた。

 

  『アレは本当に動物だったのか』

  第十六章 本当にいたアレ 一部抜粋

         著者 梅咲東風




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