ラ・ベート 〜アレは本当に動物だったのか〜   作:川内かまぼこ

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ある日、森の中、熊さんに出会ったって歌ありますよね。あれよく考えたら変な歌ですよね。熊逃げろって言っておきながら追って来て最後には一緒に踊るんですよ。ていうか、熊喋ってるし。はたして、少女が出会ったのは本当に熊だったのでしょうか。


熊の話

 私は民俗学を学ぶ者として、それなりに各地をおもむき研究のための資料を探すことがよくある。私自身も旅好きということもあり、今まで数多くの場所に行き、見て、学んだ。旅の醍醐味の一つといえば、旅館やホテルで過ごすことも入ると私は思っている。これは東北地方に行った際に、泊まった女将から聞いた話である。

 昔、とある村が冬眠することが出来なかったヒグマに襲われたという。その時期にでる熊は穴持たずと言って、冬籠りに失敗したために、食料の不足した冬の山で過ごすことになり、気性が荒くとても危険だと聞く。また、人の味を覚えた熊はなぜか人間を積極的に狙う。男を最初に食べれば男に、女を最初に食べれば女に執着する。「その時の熊が最初に食べたのは、年端もいかない女の子で、その村はあたしの当時住んでいた村の隣だったから、あたしは毎晩怖くて怖くてね。熊が駆除されたって、聞くまでよく寝れなかったのを今でも覚えているよ」と当時のことを思い出してか、身震いしながら女将は語った。駆除されたヒグマは地元にある熊塚と呼ばれる祠に埋葬されたという。この辺では熊を信仰しているから、熊を殺しても決して食べずにその祠に埋葬する決まりだったそうだ。女将は最後に「熊が駆除された日から翌週ぐらいまで、その村のみんな喪服を着てました」と付け加えた。

 

*****

 

「パンダってさ、笹だけじゃなくてお肉も食べるらしいよ」

 

「らしいですね。所詮獣ですよ奴ら」

 

今日も今日とて、東風先輩との雑談が花開く大学のカフェテラス。パンダって美味いのかなとつぶやく先輩に、自分は絶滅危惧種食べないでくださいよという。すると先輩はいつものようにケタケタと笑うのであった。

 

「熊はなあ。食べたけど、ものによっては臭みがあるんだよなあ」

 

「ジビエはだいたいそうでしょう。そもそもなんで日本は熊を神格化してるのに食べるんですかね?アイヌとか」

 

「まあ、それは宗教観によるとおもうよ」

 

アイヌはとった獲物を無駄にしないってのがモットーだからという先輩。白い動物は神の使いだから殺してはいけないと聞く。牛や豚は神聖な動物だから食べない国がある。逆に羊は神聖な動物だから食べる国がある。馬は暮らしを支える友だからと食べない国がある。牛も豚も羊も馬も、みんな人間が家畜として育てているのに、それを食べる食べないで争う人間は、やはり傲慢な動物なんだろう。

 

「もし野生のパンダが襲ってきたらどうする?絶滅危惧種だから殺せないだろたぶん」

 

「先輩を囮にして逃げます」

 

「ひどいなスイカちゃん」

 

西瓜(にしうり)です」

 

結局のところその違いなのかもしれない。人間に危害をくわえる動物を殺して食う。腹が減れば愛玩動物でも、人間でも食べるのが人間だ。所詮、人間も獣というわけだ。

 

「そうだ!パンダを増やすいい方法を思いついた!白熊と黒熊を交配させればパンダになる!」

 

「……馬鹿だコイツ」

 

「なんか言った?」

 

「いや、何にも。ていうか、それはパンダじゃないのでは?」

 

「おいおい、夢のないこと言うなよスイカちゃん」

 

「西瓜です」

 

「実際にはパンダじゃなくても、姿形がパンダならそれはもうパンダなんだぜ」

 

と言ってまたケタケタと笑う先輩。やっぱりこの人は馬鹿だ。あと黒熊ってなんだよ。

 

*****

 

 女将から話を聞いた翌る日に件の熊塚へと私は向かった。現在熊塚のある村には数人の村民がいるだけで、ほぼ廃村となっている。熊塚には村民から番人と呼ばれる高齢の猟師が常住していた。その番人に、昨日女将に聞いた話をすると、この村のものしか知らないという話を聞かせてくれた。「あの日、オラたちは今まで見た事もねえヒグマをとった。オラのほかに仲間が六人いた。ヒグマの腹を裂いて、食われちまった奴らの骨を拾ってやろうと思った。だが、ヒグマの腹の中からは人骨は見つかんなかった」と話す番人の顔は険しく、両手で猟銃に縋り付く様に握りしめていた。「なんでだ、この熊じゃなかったのかと、仲間たちと困り果てていると、アレがあらわれた」と番人はあの日を思い出してか、猟銃を握る力が強くなったように私は感じた。私は「アレとはヒグマですか」と尋ねると番人は「わからねぇ」と答える。「ヒグマだったのか、違う何かだったのか。アレはとにかく闇の中からオラたちを睨んでやがった。威勢のいいやつ三人がアレに向かって言ったが、しばらくすると悲鳴が聞こえてきた。一番臆病なやつがそれを聞いて逃げ出した。残りのオラを含めた三人もこれはいけねぇと思って村に走った。必死に走って村に辿り着いたが、一番足が遅かった奴が、いつのまにか居なくなってた。最初に逃げたやつも同等帰って来なかった。残ったオラともう一人とで、次の日あの場所に戻ったが、オラたちが獲ったヒグマの死体だけがあった」番人は山を睨みつける。「アレはまだこの山にいる。だから、山に入っちゃいけねぇ。オラはここでアレがこないように見張っていなきゃいけねえ」と言う番人の目には仲間の仇を討つと言う確かな決意が灯っていた。はたして、番人が見たという“アレ”とはなんだったのか。熊だったのか、それとも別の何かだったのか。山に入ることが許されなかった私には知る術はない。

 

 『アレは本当に動物だったのか』

  第三章 番人がいうアレ 一部抜粋

         著者 梅咲東風

 




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