ラ・ベート 〜アレは本当に動物だったのか〜 作:川内かまぼこ
私がゼミの手伝いで、とある図書館の児童文学コーナーの整理を頼まれたの時の話である。夏休み真っ只中であったためか、小中学生の姿がひらほらと見える中、私はせっせと児童本を運んでいた。すると、小学生のグループからひそひそ話が聞こえてきた。「今日の夜、昆虫おじさんの家に忍び込もうぜ」という今では珍しいガキ大将のような少年が、皆を仕切っている。私はその話がなぜだが気になり、その小学生達に話しかけた。「昆虫おじさんの家って何?」と聞くと小学生達はビクッとしてこちらを見た。すると件のガキ大将が「ここの近くにある空き家だよ。昔、虫をたくさん飼ってたおじさんが住んでたから、みんな昆虫おじさんって呼んでたんだって」と元気よく答えてくれた。「なんでそんなところにいくの?」と私が聞くと、どうやらそこは地元で有名な心霊スポットである事がわかった。私は好奇心から、もっと詳しい話を聞きたかったのだが、そこで図書館の職員に見つかり怒られてしまった。ちなみに小学生達も怒られた。昆虫おじさんの家は、今にも倒壊しそうな危険空き家のため立ち入りが禁止されているらしい。こっぴどく怒られた私は仕事に戻り、小学生達はとぼとぼと図書館から去っていった。
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「人間がこの世に産まれた時に泣くのはこの道化どもの舞台に引き出されたのが悲しいからじゃ」
「リア王ですか、あんたは」
と東風先輩が自分に話しかけてくる。大学のいつものカフェテラス、正午のことである。
「実際問題、赤ちゃんは何を思ってあんなに泣くんだろうね」
「いや、あれは産まれて初めての呼吸をしているだけで、泣いてるわけじゃないらしいですよ」
「夢のない事を言うなよ。それでも文系かい?スイカちゃん。ちなみに俺はこの世に絶望して産まれてきました」
「はいはい、あと西瓜です」
ちょっとスルーしないでよと、いつものように先輩はケタケタと笑うのであった。まったくこの世に絶望している人とは思えない。逆にこの世を間違いなくエンジョイしている。まあこの人、聞く話によると一家離散とかしてるらしいから闇抱えてそうだけど。まあ、捨て子で孤児院育ちで、養子の自分の方も人のことは言えないのだが。
「いかんよスイカちゃん。文系たるもの1を知って100を妄想しなければ」
「西瓜です。自分、本を読むのは好きですけど創作はちょっと苦手なんですよね」
供給だけ求める本の蟲なので、自分。昔から、人と馴染むのが苦手で、人に擬態しきれないのが自分という本の蟲だ。
「読書はいいですよ。心もお腹も満たせますから」
「いや、お腹は満たせないでしょ。ボケ担当は俺だからね」
何言ってんだこいつと思いながら、時間を見るとそろそろ午後の講義が始まる時間である。ということで、席を後にする。そうすると、先輩も席を立つ。なんでついてくんだこいつ。
「さっきの話ですけど、赤ん坊が泣く理由ですけど」
「なになに?どんなの?」
「暗い腹の中で、光求めて、這いずり出て、やっと出たその世界があまりに美しくて、感動して泣いたんだと思います」
「意外とロマンチストだねスイカちゃん」
「西瓜です」
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図書館の手伝いの休憩時間に先程叱られた職員に昆虫おじさんについて話を聞いてみた。すると、職員は最初は嫌そうな顔をして断ったが、好奇心が抑えられなかった私は食い下がらなかったためか、職員はポツリポツリと話始めた。「私が小学生の時に昆虫おじさんと呼ばれる人がいました。もう20年も前のことです。昆虫おじさんは虫の捕まえ方や育て方を近所の子供達に教えていました」と昔を懐かしむような顔をしている。「私たちにとっては優しいおじさんでした。ある日、おじさんは私たちに長年育ている芋虫が蛹になったので、もうじき羽化すると嬉しそうに話していました」職員の顔はみるみると青白くなってきた。「その数日後、おじさんは亡くなりました」と語る身体は震えていた。「そのおじさんの死に方がとても猟奇時なもので、おじさんは虫を口いっぱいに詰め込まれて、窒息死していました。さらにおじさんの近くには四肢を切断された12歳ぐらいの女の子の死体があったそうです」そこまでいくと職員の顔は恐怖の色で染まっていた。「女の子は腹部が裂けており、そこには大量の虫が引き詰められていたと言います。そして、女の子は妊娠していた形跡があったそうです」今にも吐きそうな顔で、職員は話を続ける。「子供は見つかりませんでした。ただ、何かが引きずり回ってできた血の跡が、外に繋がっていました」職員はその後の事は何も言わなかった。男は一体何をつくっていたのか、少女は一体何を生まされたのか、産まれた子供は一体どこに行ったのか。それは誰にも分からない。
『アレは本当に動物だったのか』
第五章 行方の知らないアレ 一部抜粋
著者 梅咲東風
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