ラ・ベート 〜アレは本当に動物だったのか〜 作:川内かまぼこ
皆さんは落語の『らくだ』という話を知っているだろうか。江戸時代で初めて駱駝を見たものが、あんな動物なんの役に立つのか、ということで、図体がでかい者やのそのそした奴をらくだと呼ばれていた。この話は、らくだと呼ばれるある乱暴者が亡くなってから話が始まる。らくだの兄貴分と屑屋(今でいうリサイクル屋)が、らくだの葬式を上げるために奮闘するというあらすじだ。苦労をかけられただけで、恩も何もないらくだに対して、渋る大家にらくだの死体でかんかんのう踊りをさせるという場面が見どころだろう。さて、私が聞き及んだ話にも、らくだのような話が登場する。その男は、まさしく乱暴者で図体がやたらでかく、らくだにでてくるらくだそのものだったという。ここではAと呼ばせて貰おう。Aは仕事仲間のBと、ある日大喧嘩をし、その拍子に、BはAを殺してしまった。Bは、自身がAを殺してしまったことを誰にもバレないように、Aの死体をどこかに埋めた。話はこれで終わらない。Bは、仕事仲間からAが何をしたどこにいたと目撃情報を聞く。しかも、Aが死んだ次の日からである。
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「駱駝ってさ、あいつらすげえよな。砂漠の中を水無しで何キロも歩けんだろ」
「なんか、コブに水を溜めてるらしいですよ」
今日も今日とて、いつものカフェテラス。あいも変わらず、無駄話に興じる自分と先輩とウサギ。
「ていうか、スイカちゃんなんかタバコ臭くねぇ?」
「西瓜です。さっき吸ってきたんで」
「やめてよー。オディールちゃんは繊細なんだか、残り香でも嗅がせるなよ」
先輩の彼女のペットの黒うさぎオディール。現在は、すやすやお休み中。
「オディールちゃんにもしものことがあったら、俺が彼女に殺される」
「いいざま」
「なんて?」
おっと、本音が。
「で?今日はまたなんで駱駝の話なんかしたんですか?」
「いやさ、この間教授と本場の落語を聞きに行ったんだけどさあ。江戸時代では駱駝って、ダメな感じのあだ名だったらしいからさあ。ちょっと、駱駝サイドで弁護してやろうかと」
「そうですか。ちなみに先輩は駱駝食べたことあります?」
「あるよ。くそまずかった」
「化けてでますよ駱駝」
「かんかんのう踊ってくれるかな?」
と先輩はケタケタ笑うのだった。
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BはAが生きているはずがないと思いながも、恐ろしくなり、Aを埋めた場所へと向かった。Bしか知らない薄暗い竹林の奥深く。そこで見たのはなんと、なんらかの獣に彫り戻され骨だけ食い残されたAの死体だった。Bの恐怖は安堵に変わる。Bは、今度は獣に掘り返されないような深い穴を掘り、そこにAの骨を捨て、穴を埋め直した。翌る日、人の混み合う道でBは見た。のそのそと歩く、図体がやたらでかい男を。Bはギャーと叫ぶと、人混みを掻き分けてAとは反対方向に逃げた。そういうわけでBは、縁もゆかりも無い私が当時出向いた田舎町に逃げてきたという訳だ。Bは、ここまで逃げてこられた安堵のためか。飲み屋で酔っ払い、隣に座っただけで初対面の私にそんな話をした。Bは、「あいつは昔から足がおせーから、簡単に逃げられた」と自慢げに話した。しかし、私はこう言った「でも、らくだはスタミナがあるからどこまでも付いてきますよ」と。ちょうどその時、店に図体がやたらでかい客が入ってきた。
『アレは本当に動物だったのか』
第七章 蘇ったアレ 一部抜粋
著者 梅咲東風
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