ラ・ベート 〜アレは本当に動物だったのか〜   作:川内かまぼこ

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うーさーぎーおーいしーかーのーやーまー


兎の話

 『今夜は月が綺麗ですね』は夏目漱石が英語教師をしている時に、学生がI love youを「あなたを愛しています」と訳したところ、それは日本的ではないとして、そう訳させたという(諸説あり)。それに対する数多くの返しの中に『わたしもう死んでもいいわ』という文句がある。これはもうなんとも、月の兎を想わせる回答だと私は思う。飢えた人に対して、己が身を焼き捧げるような一種の人間的狂気が見える。さて、ここに月の兎を想わせる女がいた。女はいずれ有名な役者になる事を夢みる男のために身を捧げていた。朝晩とつかず働き、身体も売ったそうだ。しかし、男は女をただの金蔓としか見ておらず、いずれ役者として売れると女を平気で捨てたという。その男が女を口説いた口説き文句が、先程語らせていただいた『今夜は月が綺麗ですね』だった。隠して、月の兎はその献身が報われる事なく、病で死んだという。ちなみに女は昔、実家の庭に迷い込む獣によく餌をやっていた。

 

******

 

「オディールちゃん、今日も可愛いねぇ」

 

嫌な顔をする黒うさぎの腹に顔を埋める東風先輩。今日も今日とて暇なカフェテラス。

 

「あんまり構い過ぎるのもストレスになるらしいですよ」

 

「しょうがないじゃん。明日にはお別れなんだから」

 

「え?」

 

「明日には彼女が帰ってくるんだよ」

 

「え⁉︎先輩の彼女ってイマジナリーじゃなかったんですか!」

 

「バカにしてんのか!」

 

こんな人にも彼女が出来るとは世も末である。

 

「彼女さんウサギ好きなんですね」

 

「いや、別に好きでも嫌いでもないらしいよ」

 

じゃあなんで飼ってるんですかというと先輩はケタケタ笑い、友達から譲ってもらったらしいと言った。

 

「なんか、沢山生まれたから貰い手を探してたらしいよ」

 

「ウサギって万年発情期っていいますもんね」

 

それは人間も同じだなとまた先輩はケタケタ笑う。どうも、彼女が帰ってくるせいか。先輩のテンションがいつもより高い気がする。この先輩の彼女が急に湧いてきた。

 

「なんで好きでも嫌いでもないのに貰い手になったんですか?」

 

「ああ、あいつ根っからの王子属性だから。困ってる女の子を放って置けないんだよ」

 

根っからの王子属性ってどんな彼女だよ。

 

「じゃあ、先輩が姫なんですか?どっちかっていうと道化師でしょ」

 

「褒めてんの?貶してんの?」

 

「道化師って褒め言葉なんですか?」

 

先輩は最後にまたケタケタと笑い。俺は月から帰ってくるかぐや姫を待ち望むさと言った。意味がわからないし、結局王子なの、姫なの、と思った。

 

******

 

男は今日も酒場で見つけた女を口説いていた。「今夜は月が綺麗ですね」と言って、意味を伝え博識だの詩人だの言われることを期待して。今夜も哀れな女に言葉をかける。「今夜は月が綺麗ですね」と。するとその女は「だけど、月は欠けてしまうわ」と言って男を振り切った。男は唖然としてしまう。まあ、こういう事もあるかと今日は女と遊ぶのは諦めて自身の家へと帰る。次の日、満月夜。月は満ちたとばかりに、男の家が謎の放火にあった。焼け跡からは男の焼死体ととある女の子の焼死体の2体が出てきたという。それは、昔病死したはずのあの女だった。かくして、男と女は己が身を燃やしてようやく結ばれた。放火犯は分かっていない。ただ、焼けた庭には何かの足跡があったという。

 

 『アレは本当に動物だったのか』

 第八章 人を愛したアレ 一部抜粋

         著者 梅咲東風




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