ラ・ベート 〜アレは本当に動物だったのか〜 作:川内かまぼこ
表紙のイラストを描いてくださったのは“開いたアジ”さんです!
ありがとうございます!
送り狼という妖怪を知っているだろうか。地域によっては送り犬と呼ばれる事もある。山に入った者の後をずっと追いかけて、転んだ者に食らいつくという伝承が各地に残っている。送り狼は人を食らう悪き妖怪だが、転びさえしなければ山の危険から守り、安全に返してくれる良き妖怪とされることもある。さて、私の高校の同輩に送り狼と呼ばれる者がいた。たいへん女子に人気でいつも大勢の女子を引き連れていた。なぜ、送り狼と呼ばれるかというと、必ず全ての女子を安全に家まで送るからである。しかし、何ヶ月かに一度その中の女子が行方不明になる。当時、オカルト研究会に所属していた私の元に同輩はやってきた。同輩はいう、「昔から自分と遊んだ女の子を家までおくらないと、次の日その子は行方不明になる」。それは小学生から起こった現象だそうだ。この体質をどうにかしたいと泣きながら私に訴えてきた。
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「百合に挟まる男は死んでもいい」
いつもどおりどうでもいい話題をだしたのは東風先輩ではなく、自分だった。いつものカフェテラスではなく、居酒屋でのことだ。
「どしたのスイカちゃん」
「西瓜です」
今日は、東風先輩に誘われて居酒屋に飲みにきた。もちろん先輩の奢りである。先輩はタコワサと清酒、自分はきゅうりの一本漬けと柚酒で呑んでいる。
「百合の間に挟まる男は死ねばいい」
「より過激になってない?」
居酒屋に設置されてるテレビには連日騒がせている未解決連続殺人事件の犯人特番が報道されていた。遺体をまるで食い散らかしたような損傷を与えているため、ラ・ベートと巷で呼ばれている。しかし、今はそんなことはどうでもいい。
「どしたの急に」
「昨日百合モノだと思って表紙買いした本が、2人の女の子が1人の男を取り合うラブコメでした!チキショウ‼︎」
吐き捨てるようにいい柚酒を一気飲みする。
「あらすじ読んでから買いなよ」
「先輩はわかってない!表紙買いの冒険心を!それでも男ですか!」
「男だよ。彼女いるし、ほら焼き鳥きたよ」
すいません、林檎酒くださいと店員さんにいいねぎまのネギだけを食す。
「あと上げます」
「なんでネギだけ?肉食えよ!」
「肉は最近食べたんで当分野菜だけでいいです。すいません、パリパリキャベツください」
「普段どんな食生活おくってんの?」
林檎酒ときゅうりと届いたばかりのパリパリキャベツを味わいながらグチがとまらない。
「花は花だけで綺麗なんです。それに踏み入ろうとする男は害虫です。それを受け入れる花なんて花じゃない。ノミにタカられて喜ぶ雌犬だ」
「いいずきじゃね」
と先輩はまたいつものようにケタケタ笑う。しかし、フッと我に帰ったように真顔になる。
「花を花と名づけて愛でるのは人間だけだ。また、狼の亜種を家畜化して友にしたのも人間だ。毒の花は取り除かれて、人に噛み付いた犬は殺処分される。俺個人の意見だけど、犬は幸せなのかね?厳しくても孤高で美しい狼の頃の方が幸せだったんじゃないのかって。でも、まあ人に尻尾振ってる犬も可愛くて大好きなんだけどね。まあ、とにかく…」
かくも人とは度し難いと先輩は付け加えた。テレビではラ・ベート関連でジェヴォーダンの獣が紹介されている。
「そういう話をしてるんじゃないんですよ!百合の間に挟まる男は死ねばいいって話をしてるんです!」
「ん?そうだっけ、まあ俺もスイカちゃんもだいぶ酔ってきたみたいだからここでお開きにしようか。会計お願いしまーす」
店員さんがやってきて先輩が会計を済ませてから店を出る。
「じゃあ、俺彼女が待ってるから帰るね」
「お疲れ様です」
本当は自分も花になりたかった。虫なんかに産まれてきたくなんかなかった。だから、せめて花に擬態するハナカマキリのように生きようと決めたのだ。家路につこうとした時に見知らぬ男に声をかけられる。ナンパという奴だ。ほら、また虫が向こうからやってきた。
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アレには大きく大雑把に分けると2種類に分類できる。力の強いものと頭が賢いものだ。力の強いものはその有り余る力で人を蹂躙する、まさに暴力的な自然の化身だ。頭が賢いものはあらゆる手段で人を欺き、魅了し、利用する、美しくも恐ろしい自然の化身だ。どちらも人間に対して悪意を持っていることは変わりないが、後者は一見すると人に有効的な様に見せる習性がある。今回の同輩の件は後者が当てはまるとみて、私は捜査を始めた。そしてついに、同輩と遊び家まで送っていないにも関わらず行方不明になっていない女性を発見したのだ。現在、その女性は同輩とは違う学校に通っている中学生の同級生だった。彼女は語った、あの頃同輩はみんなの憧れの存在で人気者だったと。彼女はいけないと思いながらも同輩の持ち物を盗んでしまったという。「その日は後ろめたくて、いつものみんなと遊んでいる最中にこっそりと帰りました」とその女性は語った。その日の夜に事は起きた。彼女が夜中にフッと目を覚ますと、後ろに何がいる。はあ、はあというあらい息と獣の匂いがするそれはただジッと、彼女の後ろに居座り続けた。「私は恐くて、後ろを振り返ることができませんでした。そうしている間に朝になって、それはどこかに行ってしまいました」と彼女は語る。今思えばきっと自分の後ろめたい気持ちが募ってみた悪夢だったのだと彼女は教えてくれた。同輩から盗んだ持ち物は次の日こっそりと返して、それっきり同輩を避ける様になったという。果たして、本当にそれはただの後ろめたい気持ち産んだ悪夢なのだろうか。もしかしたら、彼女が助かったのは振り返らなかったからかもしれない。いなくなった者達は振り返ってしまったから助からなかったのかもしれない。しかし、飼い主に悪さを働いた者を懲らしめるような働きをアレがするとは思わなかった当時の私は、それらは関係ないとして同輩に彼女の名前を伏せて調べた事を報告した。同輩はやはり自分が悪いと思ったのか、次の日から女子を侍らせるどころか話すこともなくなった。今思えば、アレは女性を無意識に集める同輩に目をつけてあのような方法で狩りをしていたのかもしれない。同輩に後ろめたい気持ちを持った者のみを狙ったのは同輩への宿賃がわりだったのかもしれない。いや、それも同輩に迷惑をかけるためだけの悪戯だったという線もある。私が言えることは都会だからと言ってアレの脅威に触れないとは限らない。闇を好むアレらは光を嫌う。だが、どんなに明るい都会でも必ず闇はあるのだから。
『アレは本当に動物だったのか』
第九章 アレを飼っていた人間 一部抜粋
著者 梅咲東風
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