蒼寂   作:水豆腐

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プロローグ 翠

「深海の水面をひっくり返したような空だ」

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「...これでわかったよね。アンタ、ワタシの名前を気安く呼んだらどうなるかはアンタの惨めな頭脳でも分かるでしょ?」

そう耳打ちをしながら女子トイレから出てきたのはクラスでもカースト上位、いやトップと言っても過言ではないだろう。彼女の名は古河 翠だ。カーストトップなのだからもちろんそれに付いてまわるトリマキもいるわけで、

「翠ちゃん、今の超かっこよかったよ!」

「ためらいもなくそういう風に呼ばなきゃそんなことにはならなかったのにねー」

はたから見ればかなり悪質なグループである。彼女らに自覚はないようだがもちろんイジメの常習犯であり、だが報復を恐れてか誰も立ち向かおうとはしないためやりたい放題である。そうなれば普通は教育委員会が止めに来るのだろうが、そんなものはここには来ない。信頼が落ちるのを恐れてか、先生が告発しても学校長で止められてしまう。そのため先生たちはもう諦めていた。

 

...とある日の夜、その状況が一転す

いつものように女子テニス部で活動をしていた彼女は、突如として起こった耳鳴りに顔をしかめた。「なに...これ...」と小さく口に出すのも無理はないだろう。従来の高い音が小さい音量で鳴る耳鳴りならまだラケットを持つ手を止めずに対処できたのだが、今回はいつもとはひと味違う、まるで異世界へのゲートが発している音のような低い音と高い音を交互にグリッサンドでつなげた音であった。その音が鳴った直後、いくつもあるテニスコート全体に響き渡るようなホイッスルが叫んだ。

そしてすぐさま顧問と審判の生徒は彼女に駆け寄る。「大丈夫か、けがはないな」などと彼らは言った。顧問がすぐに駆け寄るほど心配するのには訳がある。彼女は選手として部活の中では最もいい成績を残している。普通の人なら審判だけが傍についているのだが、彼女には顧問も傍につくほどの価値が存在することを示しているのだ。

「いえ、大丈夫です。ただの耳鳴りですので」それはよかったな、とでも言うように胸をなでおろす顧問と審判。彼女がいなければこの高校は弱小から卒業出来なかったかもしれない、いや絶対に卒業出来なかった、と顧問は思っているのでそう行動するのもわかるだろう。

とは言え彼女には未だに耳鳴りが残っていた。

 

帰路に着くと耳鳴りはもう止んでいたが、それと引き換えに1か月分相当の疲れがどっと押し寄せてきた。それでも何とか足を動かしてバス停まで歩いた。幸運なことに1分ほどでバスは来たのでそこまでつらくはなかったものの、バスの中はほぼ満杯で座るところもなかったため、普段の何百倍ものスピードで溜まる疲労に耐えながら25分乗った。

家に着いた頃には時計の針は20時、いつもより遅かったと彼女は感じた。帰った後は彼女なりのルーティーンがいつもならあるはずなのだが、あまりの疲労に耐えかねて全てをすっ飛ばし制服のまま眠ってしまった。

 

次の日、眠りで疲れも取れたため元気に学校に行くと教室の雰囲気は一変していた。彼女が「おはよー-!」と挨拶をするがみんなは聞こえていないかのように振る舞う。そして彼女は気付いた。全ての生徒の目が私への蔑みに変わっていることを。

「...え?なんでよ」そう呟き彼女は友達、ここで言うトリマキに話しかけるが、彼女らは何もなかったかのようにふるまっている。「何があったの」と聞くが誰も答えてくれない。「今日のみんななんか変じゃない?いつものアンタを返してよ」と言って彼女は近くにいる男子の胸ぐらを掴み問い詰めようとするが、彼らもそんな弱くはないので一蹴(物理)される結果となった。

彼女は涙が零れ落ちそうな瞳を閉じ、涙腺の奥に引っ込ませてから瞼を開けた。

 

朝のHRが終わり、彼女は「一緒にトイレ行かない?」と連れションする人を探したが勿論誰も来ない。なぜそうなったのか、トイレに行く途中でLINEを開いてみた。この時はLINEを見ればなんとなく情報が得られるだろうと考えていた。

LINEを開いてまず目に入ったのはクラスLINEの通知である。そこには「動画が送信されました」とだけ書いており、何が起こったと驚愕した。従来は彼女のクラスの中には動画を送る人など一人もいないはず...と勘繰ったら、一人可能性のある人物が浮かび上がった。ただそいつはスクールカースト底辺で、発言権をもらわないと発言どころか相槌代わりのスタンプも発せないような人であった。勿論許可は出しておらず、何勝手に発言してんだよと言いたいところではあったがまだそいつであると確認できてないので仕方なくチャットを開いた。

投稿者を確認すると「Sui.F」と書かれていた。「これはもしかしてワタシ...?」と呟く。寝てる間に間違えてTikTok用に撮った動画をあげちゃったのかな~と思い、一度は肩をなでおろした。しかし次の瞬間目に映ったのは衝撃的なものであった。

「これが、ワタシ...?」動画の処理が終わって出てきたサムネイルには素っ裸の女性と男性3人が。女性側はほとんど同じといっていいほど彼女だった。動画を再生して見ると彼女らが4人でイチャコラしているのが目に見えた。

あまりの驚きによって彼女はふらつきその後彼女の視界は一瞬で吐瀉物一色になった。幸いにもトイレの前であったので、1時間目が始まる前の先生によって保健室に連れていかれた。

保健室の先生は彼女と会話を試みたが、彼女の顔は真っ青を越えて真っ白になっていたために、危険だと判断され家に連れ帰られた。

家に帰って布団に入るまでの数分間は酷い頭痛と昨日の耳鳴りのような症状が出ていたが意識は保っていた。布団に入ってからはとてつもない速さで意識を失っていた。

 

 

 

次の日の朝、起きるとまずこれまでずっと寝ていたことに驚いた。お母さんは....そういえば今日仕事だって言ってたな。じゃあお父さんもいないのかな。そういうふうな考えで少し探した後、ようやくお父さんはこの世にいないことに気付いた。

そうだ、お父さんは過労で自殺したんだ。そう気づいた瞬間、ワタシの目は涙であふれていた。たぶん1時間ほどぶっ続けで泣いたろう。涙腺も枯れ果てた。

気付いたら8時ほどになっていた。今から学校に行っても遅刻するだけだし、今日ぐらいは休もうと思って普段朝早くにしているランニングを今からしようとした。とりあえず着替えてドアをあけたら、いつもと同じ風景がそこにはなかった。

 

 

 

「なにこの空の色...?」空は明るいのにもかかわらず、黄昏時のような青い蒼い空が視界一面に広がっていた。

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