破廉恥な服装をしたフキさんから逃げ、接客を再開してしばらくが経ち少しずつフリースペースにいるリコリスは少なくなり始めていた。
ちょうど持ってきていた駄菓子屋も全て売り切れそうなところまできているし、残りはここにセルフ駄菓子として置いておこう。
DA本部はリコリスは勿論、他の支部とは違い多くの職員が働いている。その姿を見る機会は少ないがいつも忙しなく歩き回っているイメージがある。
リコリスという命ある少女達を死地に向かわせている以上、彼らにもある程度の責任感があるのだろう。まぁあくまでも本部の人間しか知らないので、どの支部もそうだとは言い切れない。
わさびのりを片手に少しばかりの散歩をしていると、リコリス塔の大広場にある噴水のベンチに見覚えのある紺色の制服に身を包んだリコリスの姿が見えた。前回見かけた時にはツインテールだったが今回は何処も結んでいない様だ。
「よっ、君もライセンス更新かい?」
「──貴方は?!」
「一昨日ぶり。君もリコリスだったんだね」
「そう言うあなたこそ、DAの関係者だったんですね」
少し警戒されているがそれくらいが丁度いい。
変に気をゆるされても逆にこちらが警戒してしまうし、俺にデレるのはフキさんが最初だと決めている。まぁ中々デレてくれないんだけど。
「駄菓子屋兼何でも屋さ、今はDAやリコリスの情報屋でもある」
「何でも屋……」
「ん? 何か引っかかることでも?」
特に怪しまれることは言っていないはずだが彼女は少し考える素振りをして二、三秒ほどするとゆっくりと口を開いた。
「──分からないんです」
「分からない?」
「私たちリコリスは孤児としてDAに拾われた。そして誰もが本部を目指して努力して努力して……そしてようやく私は本部のリコリスになれました。あの日、この制服に袖を通した時も嬉しかったんです。でも、あの日私は命令無視をしてこの本部からリコリコへと転属しました。それでも私にとっての居場所はここだけであり、何としてでも戻りたい──戻りたかったはずなんです。失うことで得られることもある。千束が言っていたことが分からないんです。私にはDAだけが居場所のはずなのに、分からないんです。自分がどうしたいのか、何をすべきなのか」
暗い声色で話す彼女の横顔は今にも崩れてしまいそうなほど脆く、そして悲しそうな顔をしていた。
こんな時フキさんなら何て言うんだろう。
いや、そもそも彼女は銃取引で命令無視をしたリコリス。つまりはフキさんが殴ったリコリスであるわけで、フキさんが優しい言葉をかけるとは思えない──フキさんは不器用でツンデレだからその言葉の中に優しさがある事を彼女はまだ知らないのだと思う。
ふと、ポケットに残っていたわさびのりを思い出し彼女の前に差し出す。
「それは?」
「わさびのり。知らない?」
「かりんとうしか食べたことがないので」
「あ〜、そういえば中々来ない子がいると思ってたけどまさか君かい? 仕方ないなぁ──じゃ、この二つのわさびのりのうち一枚を選びたまえ」
「? なぜです?」
「いいからいいから」
俺が何をしたいのかを理解できずに首を傾げる彼女を催促する様に目の前にはわさびのりを突き出す。
一見外見は同じの駄菓子、味の違いなんてものは勿論ない。彼女もそれは理解できている様で不信に思いながら少し考えている。
しばらく考えたのち、左のわさびのりを手に取り口に運ぶ。
「──っ! 辛っ!」
「お? あたりだ」
「あたり?」
「そ、偶に異常に辛いわさびのりがあるんだけどそれを君は引き当てたって訳さ」
「そうですか。それではこれと今の私の状況の何が関連しているのですか?」
「そうだなぁ……決断かな」
「決断?」
「君は僕の差し出した二枚のわさびのりを見てどちらかに何かが仕込まれてると思って少し考えただろう? 外見なんて一切変わらない、普通の駄菓子にだ。そして自分で考えた末にそのあたりのわさびのりを引いた訳さ。実際、人生ってのはそう言うものだよ。選択の繰り返し。何処が悪くて何処がいいのか、それを見極めて人は常に選択する。勿論、投げやりな選択をする時もあるだろう。でも、投げやりな選択でもその思考の間には確実に『考える』事をしてるんだ。あの日、銃取引現場で君は仲間を助けるためにどうすれば良いのかを考えそれを行動に移した。そしてその結果本部ではなくリコリコに行くことになった。でも、それは必ずしも悪い事とは言えないだろう? リコリコでしか出来ない経験、出会い、感情。DAに居るだけの人生なら君には体験できなかった事さ。そしてそのあたりの味もここで君が選択し、得た経験さ。DAにはいつでも戻ろうとすれば戻れるかもしれない。でも、君が今いる環境は常に変化するんだよ。人と人との接客は新鮮な事でいっぱいさ、こんな人が居るんだって世界は広いんだって確かめられる。DAに戻れてもリコリコに戻れる確証なんてないんだ。確かに、君にとってここは大切な居場所なのかも知らない。でも、居場所が一つだけなんて悲しいだろ? リコリコは良い店だ。人と人が笑い合い、店の雰囲気は常に暖かい。君の相棒の言う通り、DAという場所を失ってもリコリコという新たな居場所を君はもう見つけているんじゃないかな? 君の人生は命令だけで終わる様な、そんな味気ない人生を送るよりリコリコという場所で君の意思で生きて行くのもいいんじゃないかと俺は思うよ」
「結局は君が決める事だけどね」と付け足すと、模擬戦が始まるというアナウンスが流れリコリス達が次々と移動していくのが分かる。
「君の相棒はそれを君に伝えようとしてくれてる、居場所を作ろうとしてくれてる。なら、答えない義理はないだろう?」
「──私、行ってきます」
そう言って立ち上がる彼女の目は何処が吹っ切れた様な、目指すべき場所を見つけた様な。そんな希望に溢れた目をしていた。自分で話していても後半何を言いたいのか訳がわからなくなっていたが、俺が言いたいことが伝わった様で何よりだ。
さて、誰と誰の試合なのだろう。
「錦木さん、井ノ上さんペアと……フキさんと乙女さんのペア?!」
やべぇ、わさびのり食ってる場合じゃねぇ!
彼女が取らなかったもう一枚のわさびのりを口に頬張り、急いで向かおうとするとあまりの辛さで思い切り蒸せる。
「あ〜、これもまた選択か」
****
結果、フキさんのペアが敗北した。
前半は錦木さんが二対一の状況で耐えていた所にフキさんの後ろに突如雄叫びを上げながら突撃してきた彼女にフキさんが殴り飛ばされ、ダメ押しと言わんばかりに急所にペイント弾を打ち込んでいた。
流石に殴られていた時には思わず席から立ち上がったが楠木さんから静止され、大人しく見ていた。
模擬戦が終わった後はフキさんに彼女は何かを言われていた様だが清々しい程のドヤ顔をしてどこかへ去っていってしまった。
そして、現在はというと──
「フキさん大丈夫? 痛くない? ほら、保冷剤だよ?」
「──うるせぇ! お前はあたしの親か何がか?!」
「ただのフキさんが好きな人ですが?」
「口答えするな!」
「理不尽?!」
フキさんの殴られた頬を全力で心配していた。
彼女とフキさんが互いに一発ずつ殴られた事でおあいこになった様だがあの勢いで殴られていたのだ、腫れが引くのに数日はかかるだろう。
「それにしても盛大にやられたね」
「わざわざ後ろから殴り掛かられるとは思っても見なかったけどな」
「それは彼女の選択であり、行動だ。誰も文句は言えない」
嫌そうな顔をするフキさんの頬に保冷剤を当て絆創膏を貼る。乙女さんは乙女さんで全弾避けられた挙句に弄ばれた様で悔しそうな顔をしていた。
「たきなが持っていたアレ、お前がやったんだろ?」
「そうだよ。まぁ、まさかああなると思ってなかったけど」
「本当だよ。しかも、あの後ドヤ顔でわさびのり?とか言うやつの話をされたよ」
え? あのドヤ顔わさびのりの説明だったの? それは流石にあ誰でも困るわ。困らないとすれば楠木さんくらいだろ。
「とは言え、殴られたにしては少し嬉しそうだけど……まさか?!」
「んなわけあるがよ!!」
安心した。もしもフキさんにそっちの趣味がったら色々フキさんにひどい事をしなければ行けなくなりそうだった。
「結局彼女はあそこに居る選択をしたんだね」
「そもそも、簡単には戻ってこれねぇだろうよ」
楠木さんがそう言ったのか、はたまた錦木さんが人を惹きつける魅力があるのか……それは定かではないがこれからリコリコに行く楽しみが増えたのよしとする。
「あ、そうだ。フキさんわさびのり要る?」
「たきなもってたやつか……上手いのか?」
「大人の味ってやつかな」
「大人の味ぃ? まぁいい、一つもらう」
「どうぞ」
「いただきます──辛っ!」
どうやら今日は珍しくあたりが多く入っている様だ。
フキさんは若干涙目になりながらこちらを睨みつけるがそれは俺にとってのご褒美だ、フキさん。
いや、別にそっちの趣味はない。ただ好きな人に向けられるものと言うのは敵意でも悪いものでもないとは思っている。
「後で覚えとけよ……」
「え? フキさんに何されるの? 楽しみ〜」
「コイツ……」
「あたしは何を見せられてるんすかね」
その後、無事フキさんにボコボコにされる事なく帰路につく。DAの外へ出ると日は既に地平線の彼方へと沈み、辺りは薄暗くなっていた。
「こりゃ着くのは明け方かな」
****
「先輩、なんだか嬉しそうっすね」
「あ? 何処がだ?」
「手当て受けてる時、少し頬が緩んでたっすよ」
「──気のせいだろ」
「え〜?! 絶対嬉しかったっすよね? ね?」
「よし、今からお前の性根を叩き直しに行くとするか」
「それは理不尽っすよ?!」
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どうしましょ
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オリ主視点だけで十分
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それよりもっとイチャコラさせろ