最近、気に食わない奴が増えた。
ある日の任務で銃取引現場にいたそいつを尋問しろと司令から言われ、尋問が終われば殺す予定だった。
でも、そうはならず司令の判断でそいつを情報屋として活用するという決断が下された。別に、不服というわけではなかった。あたしはただ上の命令に従うだけであり、それに意見をするリコリスは少ない。
どっかの電波塔の下で茶でも入れてるアホとそこに飛ばされた奴は例外だが。
仮に意見をしたとしても、それが通るはずがない。
あたし達リコリスはDAに拾われて、ここまで育ってきた。その恩を仇で返す様な真似はあたしはしたく無いし、するつもりもない。
会いたい人に会えなくとも、任務外の不必要な外出は避けた。それが、リコリスとして最善の行動だと信じているから。それをあたしはリコリスとして生きる様になって、一度も破った事はなかった。
今日という日が来るまでは──
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「ねぇフキさん、デートに行かない?」
「……何言ってんだお前」
とある休日の早朝、そいつはムカつくほど明るい笑顔でとんでも無いことを言ってきた。
その目はまるであたしが断らないことを知っている様な、それを信じている様な目立った。
「──行くわけないだろ」
「え?! なんでさ?」
「任務外の不必要な外出はしない様にしてんだよ。お前も分かるだろ」
「そりゃまぁ分かるけど……でも偶にはいいじゃん?」
あたしが断ってもなお食い下がるそいつに若干のイラつきを覚えていると、どこからともなく聞きなれた声が聞こえて来る。
「え〜、良いじゃないっすか先輩。偶にはゆっくりして下さいよ〜」
「サクラ、お前なぁ……」
「流石乙女さん! 分かってるねぇ!」
「まぁ、一応先輩の相棒っすからね!」
わいわいと盛り上がる二人を横目にあたしは視線を落とす。
DAに拾われて、リコリスとしてもう何年も過ごしてきた。戸籍のないあたし達は海外に行くこともなければ、国内の旅行に行くこともない。ただ、人を殺して今まで生きて来た。
それを疑問に思った事はないし、対象が犯罪者やテロリストだと割り切って任務にあたって来た。苦労してようやく成れたファーストは誰のお手本にもなれる様、私生活もきっちりしてきた。
今更、その考えを変えることは難しかった。
リコリスとして任務外の不必要が外出はしない。そもそも、DAにある程度の設備は整っている。生活で、不自由をしているということは一切ない。ゆえに、外出するのは必然的に任務の時だけになる。
その考えが、先生へ会いに行く理由を遠ざけているのもまた事実。会いたい人に会えないとのにと千束に言われたがそれでもファーストとして、自分の決めた事は曲げられない。
「……無理なら別に、断ってもいいよ?」
「え?」
「俺はただフキさんが喜んで来てくれるなら本望だけど、嫌々で一緒に出かけてくれるのは俺も嫌だから」
「あたしは別に行かないとは──」
「でも、君はリコリスの模範になる事を意識している。俺はその邪魔はしたくない」
あたしの事を常に理解しようと、常に考えて常に行動している。あたしが本気で嫌と言えばそれ以上踏み込まないし、詮索されたくなければ何も聞かない。
本当につくづくムカつく。
「……楠木司令に聞いてからだぞ」
「ああ、それで良いよ」
「先輩、楽しんできてくださいね!」
「別に行けると決まったわけじゃないだろ」
サクラに呆れつつも、司令のもとへと足を向ける。おそらく司令の事だ、ダメだと一言で斬り伏せられて終わりだろう。楠木司令がダメと言えばアイツも諦めがつくだろう。
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「フキさんとお出かけ〜」
「どうしてこんなことに……」
思いの外、あっさりと楠木司令に了承されてしまった。
本当に良いのか再度確認しようとしたが「何度も同じ事を言わせるな」と弾き出されてしまった。しかし、許可された以上行かないわけにも行かずこうしてリコリスになって初めて仕事以外での外出をした。
「それで、どこに行くか決まってんのかよ」
「そりゃ勿論。そのボーイッシュな服もカッコいいし好きだけど、やっぱり女の子なんだしかわいい服着ないとね」
「かわいい服なんてあたしに似合うわけないだろ……そういうのは千束とかの専門だ」
「何言ってんのさ、俺はどんなに美人でもアウトオブ眼中だよ。なんだって俺の中で一番綺麗でかっこいいのはフキさんだけだからね」
やはり、こいつは平然とした顔でとんでもない発言をする。勢いで銃を引き抜きそうになるがDAに置いて来てしまっているため、に気兼ねを引く事はない。
常に肌身離さず持っていたものがなくなると、少し違和感を感じるが隣の奴がうるさ過ぎて気にする余裕もない。
「取り敢えず善は急げ、早速行こう!」
「ちょっ、分かった! 行くから引っ張るな!」
こうしてあたしとムカつくコイツの一日は始まった。
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「ん〜、こっちも良いんだけどなぁ……」
「いつまで悩んでるんだよ」
初めに連れられて入ったのは街中でよく見かける様な、あたし達リコリスとは無縁のキラキラとした洋服屋だった。しかも、あっちを見てもこっちを見ても可愛らしい様な服ばかり。
あたしを連れ込んだ当の本人は現在、ウキウキしながらあたしの服を選んでいる。正直、殆ど外出はしないので必要以上の服はいらない。
「だってフキさんが着る服だよ?! 一番似合うもの着せたいじゃん?」
「じゃん? じゃねぇよ。あたしにはこう言うキラキラした服は似合わねぇんだよ」
「そりゃまぁボーイッシュな服を着たフキさんはカッコいい可愛いけど、やっぱり女の子なんだしスカートも似合うと思うんだよね。フキさん、素材がいいからね」
「人を素材とか言うんじゃねぇよ」
「じゃあルックスがいい」
「……別に、サクラの方がいいだろ」
「ちっちっち、分かってないなぁフキさんは」
人差し指を立てて左右に振る様子にイラっと来る。いっそその指をへし折ってやろうか。
「好きな人だから誰よりも可愛く見えるんだよ」
「バカだろ、お前」
「恋は盲目って言うしね。お、これが一番可愛い。ほら、フキさんも鏡みて」
「は? だから似合ってる訳──」
催促されて立たされた鏡に映るあたしの姿は通気性の良さそうな黒のシャツに灰色の足首まであるスカートと、まるで普通の女子高生の様な姿だった。
「ね? 似合うでしょ?」
「……悪くはない」
「よかった。じゃあ会計済ませちゃうからそのままの服装で次の場所行こっか」
「は?! いや、待て! 他のリコリスに見られたらどうするんだ?」
「え? だって今日はお出かけでしょ? 誰も文句は言わないよ」
そう言って笑うアイツは心底楽しそうで、それがどこか羨ましかった。リコリスに娯楽と言えるものは少ない。つい最近サクラとゲームをしたが、娯楽に触れる機会は極端に少なく知らないまま任務で散っていく仲間も居る。
だから、今を楽しんで生きているアイツが少し羨ましい。
「ほら、フキさん。置いてっちゃうよ〜」
「別に困りはしねぇよ」
「それもそっか……でもやっぱデートじゃなくても好きな人と出かけられるってのはいいもんだ」
「またそんな事言って……」
調子のいい事ばかり言って、人の喜びそうな事ばかりをする。どこまでもムカつく──でも、憎めない。
「フキさ〜ん!」と叫ぶアイツはどこまでも楽しそうに笑っている。例えるならそう、太陽の様に。どっかの電波塔の麓で茶でも入れてるバカの顔が横切るが頭の中で振り払う。
「やっと来た……って痛っ!」
「ホラ、さっさと行くぞ」
「も〜、フキさんってばツンデレなんだから〜」
「あ? うっせぇバーカ」
「なんでそんな楽しそうななさ」
たまにはこんな日もありなのかもしれない。
そんな柄にもない事を考えながら、連れられるがままに休日を過ごした。
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「それで? 買ってもらい過ぎて帰ってくるのが大変だったと……」
「アイツぜってぇ許さねぇ」
そんな事を言いつつ、買われたものはしっかり飾るタイプのフキであった。
フキさんは必ずプレゼントされたものは飾るタイプだと信じたい。
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