アロハシャツアフロが来てから暫くして、俺はなぜかDAに召集された。
特に呼び出されるような悪さをした覚えもないのだが、取り敢えずフキさんに会えるからなんでも良いや。
現在はDAに向かうべく車を走らせているのだが、いつもラジオしか流れていない一人の寂しい空間の筈が今日は一段と賑やかである。
「ほら見てたきな! このイッヌ! 可愛くない!?」
「千束、うるさいですよ。綾木さん、うるさくてすみません」
「いや、いいさ。賑やかなのは嫌いじゃないしね」
主にフキさんと
後部座席でキャッキャとはしゃぐ千束ちゃんとそれをなだめるたきなちゃんもDAに呼ばれているらしく、ミカさんから頼まれる形で車に乗せている。
千束ちゃんは愛関わらず元気なようで、たまに本部で見かけると大抵フキさんと喧嘩というか言い合いをしている。俺には見せない一面を見せるなんて、流石っす千束パイセン!
俺の方はおそらく情報収集の進捗の確認とDA側の情報提供と行ったところだろうが二人はなぜ呼ばれたのだろう。ライセンスの更新は少し前にしていたし、まさかリコリス狩りと遭遇してたりするのだろうか。
フキさんの平穏のためにも、いち早くとっ捕まえておきたいが相手も情報に強い奴を雇っているのか中々情報が掴めないのが現状だ。もしかしたら、俺よりもリコリスを抱えているDAの方が多く情報を仕入れていても不思議ではない。
この先の不安を感じながらも気にヤカな後部座席をBGMに車を走らせる事に集中する事にした。
****
DA本部に着くと、以前よりもピリピリとした空気が流れていた。流石にリコリスが立て続けに襲撃されたとなればDAも警戒せざるを得ないという事だろう。
流石にここはバレないだろうが、リコリスの存在を知っている彼方側がリコリスの情報を利用しない手はない。そういう部分でも、DAは警戒しているのかもしれない。
検査を終えると、楠木さんとフキさん、乙女ちゃんが待っていた。
「ってフキさん!?」
「お前毎回驚いてるよな。そろそろ慣れろ」
「いやぁ、それは無理かなぁ……」
毎回好きな人がお出迎えしてくれるとか最高か? いや、最高だわ。一生ついていきます。
「いやぁ、フキさんがお出迎えなんて」
「はいはい、アホは置いて行くぞ」
「無視ぃ!? いや、それもまたイイッ!」
「先輩、この人病気なんじゃないっすか?」
なにぃ!? これでも病院の検査で一度も引っかかったことのないピチピチの健康体だぞぉ!? 仮に病気だとしてもフキさんに看病して貰えれば速攻で治っちゃうぜ。
「おい、次変なこと考えたら頭撃ち抜くぞ?」
「アッ、スミマセン」
何故俺が今フキさんのことを考えていたことがバレたんだ。いや、毎日どころか毎秒考えてるか。
「まぁいっか。取り敢えず俺は楠木さんに報告行ってきや〜す」
「どこに行く、楠木司令もこっちに居るぞ」
「え、マジぃ?」
ほへぇ、あの人司令室か自室から出てくるんやな。悪いけど仕事人間だと思ってたから意外だな。
と言うか向かってる先どう考えても事情聴取する部屋だよな? 拷問される? いや、フキさんから拷問されるのはありか。……なんだか最近フキさんにキモがられることしか考えてねぇ気がする。
「やっと来たか」
「うい、情報提供しに来ました……とは言え、正直やっこさんかなり手強いですぜ。結構探り入れてますけど中々情報が掴めねぇんですよ」
知り合いのハッカーも今回の件にはやたら嫌そうにしてるし、一人の足で情報を集めるしかないのが現状だ。
「やはり、そう簡単には分からないか」
「リコリス狙ってるんで俺よりもこっちの二人の方が情報持ってるんじゃないですか?」
「そうだな……今回千束とたきなを呼んだのはそれが理由だ」
「──え? マジっすか?」
****
話によると、千束ちゃんの方が負けてリコリス狩りに襲われたそうでその時見たボスらしき男の似顔絵を描きに来たとか。
いや、流石に当事者よりも良い情報を提供しろは無理だろ。
「と言うか、よく生き残れたね……流石、電波塔のリコリスってわけか」
「いやぁ、結構ギリギリでしたけどね〜」
電波塔のリコリスと呼ばれ、多くのリコリスから尊敬されている彼女でさえギリギリの戦いを強いられたリコリス狩り。以前千束ちゃんとフキさんの模擬戦を見てその強さを見たからこそ、今回の事件の犯人がどれほど強いのかを実感させられる。
「そういや楠木さん、二人は一生懸命何書いてるんですかね?」
「リコリス狩りの似顔絵だ、実感に見たものは千束とたきなだけだからな。お前の情報と合わせて真島についてこちら側でも色々と探りを入れて居る。情報が出次第、お前にも通達しよう」
「……うっす」
真剣な眼差しで紙と向き合い一心不乱にリコリス狩りの似顔絵を描く二人を眺めること数分、ようやく出来たのか勢いよく顔を上げるとこちらに完成した似顔絵を見せてくる。
「……それが真島か」
「「はい! コレが真島です!!」」
ドヤ顔で似顔絵を見せてくる二人の絵を見比べてみると──なに一つ同じ箇所が見られなかった。
いや、実際に見たんだよね? それでここまで合わないことってあるんですか?
「「ねっ!」」
二人が顔を見合わせて互いの絵を見ると、たきなちゃんは渋い顔を、千束ちゃんは笑いを堪えきれず吹き出していた。千束ちゃん、人のことは……言えないと思うよ。
「全然違うじゃねぇか!!」
「だってそれ似てない……」
「似てないですね」
「そう言うから書かせてんだろ……」
どうやら俺と同じくらい役に立たない情報らしい。楠木さんを一瞥すると、呆れた顔をしながらやれやれと言った表情で部屋を去っていった。
「帰っていいぞ」
「待って下さい司令! 私のは似ています!」
「ならフキが書けよ!」
「お前らしか真島見てないんだから書けるわけなだろ!」
「あ、そうか」
楠木さんが去る中、部屋の中はまさにカオスとしか言いようの無い状態にあった。
そんなカオスな状況を見ていた乙女さんがポツリと呟く。
「リコリスは絵も必修にすべきっすね」
皆が呆れながら部屋をさる中、俺は一人似顔絵を見つめていた。
「緑髪にアフロ、そしてピンクのシャツ……まさかな」
拭いきれない不安と嫌な予感を胸に抱きながらも、フキさんに呼ばれて一室を去る。その嫌な予感が当たらないことを祈りながら。
****
「よぉ、来たぜ」
「アンタ、暇なのか?」
お昼過ぎ頃、誰も来ないな〜とか考えて居るとアロハシャツの男が再び現れた。この男、ここ最近ずっとお昼頃になるとウチに来るんだが怪しさ満点でならない。
ここら辺は住宅街で働いている社会人がわざわざ立ち寄るような場所じゃないし、そもそも男の身なりが社会人では無い。
フリーターの可能性も捨てきれないが、こう毎日来られると無職を疑い始めている。
「連れねぇこと言うなよ。友達なんだろ? それに、定期的に来るって言ったはずだぜ」
「はぁ……まぁいい。しっかりお金を払って買い物してくれればこっちとしては文句はないが──お友達、どうにかならない?」
チラリと店先に目を向けると、グラサンをかけたゴツい男達が店の前で男が出てくるのを待っている。さっきからウチの前を通る人たちが怯えてるんでやめて欲しいな〜なんて。
「あ? あぁ、すまねぇな。アイツらはちと繊細でな」
「あの厳つさで……繊細……?」
世の中、どんな人がいるのか分からないな。まぁ、今の時代は多様性だって言うし気にすることはないだろう。
「で? 今日は何を買うんだい?」
「そうだな……今日はコイツをもらおうか」
「ココアシガレットねぇ……40円だ」
この男も子供時代のようにココアシガレットをタバコ風に加えてコートをたなびかせたい小年頃なのだろう。野暮なことは言わないぜ、それが男ってもんだからな。
「ほらよ」
「毎度あり〜、今度はお友達もなんか買ってくれると嬉しいんだけど?」
「……まぁ、機会があればな」
そう言って去っていくアロハシャツを見送ると、昨日の真島の似顔絵を思い出す。アランチルドレンを匂わせる発言と言い、ハッカーの話と言いリコリス狩りの可能性が高まってきている。いや、おそらくアイツが真島なのだろう。
「……少しは友人を信じたいって思うのは我儘なのかもな」
翌日、あのアロハシャツが本当に真島だったと知らされた。
別に驚かなかった訳ではない、少しは驚いたさ。でもそれ以上に衝撃的なことが俺の目の前で起こっていた。
喫茶リコリコ。開店前の店内で、真島についての話を聞く中で俺は見た──ミカさんを前にして頬を赤く染め、俺には見せたことのないようなまさしく乙女の顔をしているフキさんの横顔を。
なお、次がいつ出るのかは不明