あ゛ぁぁ…
その日、ゴードンはエレジアにある学校に訪れていた。
世界一の音楽の都と言われているエレジア。国民200~300名ほどである小さなこの島の国王として君臨しているゴードンは、音楽学校の学長でもあった。
ありとあらゆる音楽の専門家や天才が集まるこの場所で、ゴードンもまた音楽の天才であった。
彼とすり違う生徒や先生には敬礼するものや笑顔で近づいてくるものがいた。
ゴードンは怪物のような見た目をしているが、その穏やかな雰囲気から避けられることはなく、笑顔で彼らに対応していた。
ゴードンは学校の隅にある棟に向かっていた。
その棟は世界中の楽器が保管されている場所であり、エレジアの国民であれば誰でも使用できる場所でもあった。
音楽の都として国民が音楽に触れられるようにするのが目的の場所でもあるが、もう一つの目的もあった。
それは音楽の才能を持った人を見つけるものであった。現に世界で活躍している音楽家や学生として音楽を学んでいる彼らの中にはそこから見つけられたもの居る。
ゴードンは彼らのような存在がいないかを探すため、そこへ向かう。
中に入ると、老若男女問わず様々な人が楽器を操作していた。彼らの中には熟練者も初心者も混じっており、様々な音程が聞こえてくる。
皆が訪れたゴードンに挨拶する中、ゴードンはある少年が目に入った。
その少年はゴードンに気づくことなく、古今東西様々な楽器に囲まれていた。
ゴードンは自分に合う楽器でも探しているのかな、と思い、音楽の先導者として何かアドバイスをしようと少年に歩み寄る。
すると、少年は突如傍にあったフルートを手に取り始めた。しかし、その手はぎこちなく、あまり慣れていないように見られる。
ゴードンは少し心配し、気持ち早めに足を進めた。だが、少年の演奏を聴き、足を止めた。その顔は驚愕に満ちている。
それはゴードンだけでなく、その場にいた全員がそうであった。
先程まで演奏していて、大小無数の音程が響いていたその空間は一人の少年が奏でる演奏に支配されていた。
誰もが驚きの表情を浮かべながら、その心は穏やかになっていく。
ゴードンを含めその場の全員が行動を止めていると、少年の演奏が鳴り止む。
その場にいる皆が呆然としていると、再び少年の演奏が始まった。ゴードンを除いた皆は再度の演奏に心を打たれている。
しかし、ゴードンだけは冷静に頭を働かせ、少年の行動に驚いていた。
なぜなら少年が演奏で使用したのがヴァイオリンだったからだ。
楽器の中でも弦楽器は扱いが難しく、さらにヴァイオリンはその中でもトップの扱いづらさだ。
子供の頃から練習していなければ正確な姿勢を取ることは難しく、ましてや初心者がいきなり演奏してもろくな音はでない。
しかし、目の前の少年はその行動からヴァイオリンに触るのが初めてであるにも関わらず、プロ並みの演奏を奏でていた。
それは国王として、音楽学校学長として長く在籍しているゴードンでも初めて目にするものだった。
ゴードンがその場で固まっていると再び演奏を終え、次の楽器に手を伸ばそうとする少年が視界に入った。
ゴードンは脇目も振らず、少年に駆け寄る。そして、少年の手を握ると、彼に言い放った。
「素晴らしい!君は音楽の天才だ!ぜひ、学校で音楽を学んでほしい!学費の心配はいらない!全て私が負担しよう!…君の名前は何かね?」
興奮気味に少年へとまくしたてた後、少し落ち着いたゴードンは少年の名前を尋ねる。彼の耳は少し赤く染まっていた。
いきなり見知らぬおじさんに言い寄られた少年は驚きながらも、自身の名前を口にする。
「ええっと、俺…私の名前はヴェン、です。その…よろしくお願いします…?」
「あぁよろしくヴェン君。それと敬語は結構だよ」
ヴェンはゴードンの勢いに乗せられ、語尾が疑問形になりながらも了承する。
こうしてヴェンは状況を完全に理解できていないまま、流れに任されて学校に通うこととなった。
その当の本人はというと…
(…だれこのおっさん?フランケンシュタインかよ)
自分が住む国の王に対して何とも失礼なことを考えていた。
【朗報】人生チョロすぎる。
国王ゴードンに誘われてから5年が過ぎた。
あの後、ゴードンと共に両親の下へと向かい、学校に入学することを伝えた。
その時、両親は目が飛び出るほど驚いていたし、自分も隣のおっさんが国王だということを知った。
思わず、「このミイラが!?」と叫んだときは、苦笑いをされ、両親からはとてつもなく殴られた。
それからは荷造りをして、学校の寮に住むことになった。幸か不幸か同僚はおらず、一人で住むことになった。
最初に受けた授業はゴードンとのマンツーマンで、音符や記号といった楽譜を読むことだった。
ゴードンに一曲引いてみようかと言われ、楽譜を渡されたが、全く読めなかった。
前世でも音楽について何も知らなかった自分としては当たり前だったが、ゴードンは大変不思議そうにしていた。
その後は楽譜を読めるようにひたすら勉強した。この時意外だったのが、あの雰囲気のくせして、ゴードンの教えが厳しかったことだ。
ミスしても殴ってきたりはしないが、理解するまで永遠に傍で教えられた。
しかも、楽器を演奏するのには支障がないにも関わらず、ペーパー試験で解けなかったら補習という。
ただ、途中で逃げ出すことはしなかった。せっかく見つけた才能を捨てるわけにはいかなかった。
ここで逃げ出したら、この世界で生きていくのが難しくなる。何も残せなくなると、思った。
それと両親やゴードンの期待に応えたかったというのも少しはある。
そしてようやくゴードンから合格をもらい、授業に参加できるようになった。
授業はそれぞれ楽器の操作や曲の演奏方法、作詞・作曲の作り方など様々だった。
本来であれば、楽器の演奏は決めたら一つに絞り、作詞・作曲は最後の方に行うものである。
しかし、自分は才能があるためか、全ての楽器の授業に出てもよいとゴードンから許可をもらった。
国王から許可がでたんだ。そこから自分は遠慮というものがなかった。
午前にトランペットの授業に出たかと思えば、午後にはドラムの授業…酷いときは1時間ごとに異なる授業を受けていた。
最初はいろんな人から反感があった。ゴードンにもクレームが出るほどだった。
でもゴードンは自分を信じてくれた。彼にはそれほどの才能があると不満を持つ人々を説得してくれた。
そのおかげか少しは自分を睨みつける目は減ったが、それでも妬むものはいた。
しかし、そんな奴らは実力で叩き潰した。そいつらが出る授業すべてに参加し、格の違いというものを分からせてやった。
心がすっきりしたぜ!…後にゴードンにめちゃくちゃ怒られたが。
そんなことをしていたせいか、次第に文句を言ってくるものは減った。
さらに、自分の演奏に感動してくれたのか尊敬の目で見るものが日に日に増えていった。
今やファンクラブが出来るほどだ。
自分の人生チョロくない?もう何も恐れる必要ないやん!
将来の安泰が約束されていることやみんなにちやほやされていることに有頂天になっていた。
そんなある日、自分はゴードンに呼ばれ、学長室へと赴いていた。
「ゴードンさん、ヴェンです」
「…あぁ、入りたまえ」
「?失礼します」
あれ?ゴードン落ち込んでる?珍しいな…と思いながら扉を開き、部屋へと入る。
部屋には歴代の王の肖像画が立て掛けられ、棚には様々な賞状が飾られていた。
その中央ではゴードンが窓を背後にこちらを見ていた。その表情はいつものような穏やかなものでなく、何かを決断しなければならない苦痛の表情だった。
いつもとは違うゴードンに顔を引き締めた。
しばらく静寂が空間を支配すると、ゴードンは重々しく口を開いた。
「ヴェン…君にはエレジアから出て行ってもらう…」
「…え?」
…え?
【悲報】ワイ、エレジアから追放される。
調子乗るからそうなるんや
あの世界で油断はアカン