音楽の皇帝   作:スココLU

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遅くなりました。いろいろあって書く暇ありませんでした。

やっとウタ登場です。
次で前日談が終わりで、その次から映画本編です。


人って勝手だよな

「♪~♬♪~」

 

“歌”が聞こえる。歌は風に乗って、島中へと響き渡っていた。

 

ここはエレジア。

世界一の音楽の都であった島であり、十年前近くにとある海賊に滅ぼされた島。そして、一人の音楽家の故郷でもある。

その島を一望できる切り立った崖の上に少女、ウタは歌っていた。

 

「♪~…」

 

突如歌うのを辞めたウタ。彼女は膝を抱え、沈みゆくオレンジ色の太陽と、それを反射する海を見ていた。

湿った潮風がウタの赤白の髪と服を靡かせる。

 

ウタはとある人物を待っていた。自身の父親であり、家族だった大切な仲間を十年以上前から待ち続けていた。

ここで歌い続けていたらいつか来てくれるのではないか、もしかしたら私に会いに来るのではないか、と淡い期待を抱きながら海を眺め続ける。

 

しかし、今日も来なかった。船一つすらなく、穏やかな海だけがウタの目に映った。

 

(やっぱり、私は捨てられたんだ…)

 

ウタは目尻に涙を浮かべると、膝に頭をうずめる。

しかし、すぐに顔を上げて涙を拭い、覚悟を決めた表情をしていた。

 

「大丈夫…私にはファンのみんながいる。みんなのために私は歌うんだ」

 

ウタはコートのポケットから電伝虫を取り出し、目の前に掲げる。

一年前に拾った不特定多数の人々に電波を発信できる特殊な電伝虫。ウタはこれを使用し、世界中の人々に歌声を届け始めた。

最初は数十人だった視聴者も一年たった今では世界中にファンが出来るほど有名になっていた。

 

ウタの歌声を聴いた人々にその歌に心が救われ、感謝の声を届ける。中にはウタを救世主として崇めるものもいた。

ウタはそんな彼らの声に救われ、ファンの期待に応えるように次々と歌を届けていた。

海賊嫌いの歌姫として歌っていた。

 

「それに…」

 

ウタは左手を優しく触れる。そこには片方が大きいひょうたんに赤い帯がくびれに描かれていた。

昔…まだ海賊のことが好きだったころにもらった大事なマーク。たった一人の友達と約束した“新時代”の証。

 

「…♫♪~♬~」

 

彼女は再び歌い始めた。

自分を必要としてくれるファンのみんなのために、どこかの海にいる最愛の家族へ向けて…かって夢を誓い合った遠く離れた少年を思い出して。

ウタは歌を歌う。

 

しばらくすると、突如後ろからガサっという音が聞こえた。

猫か何かが来たのかなと思ったウタは歌うのをやめ、ゆっくりと後ろを振り向く。

そして、後ろにいるものを確認すると悲鳴を上げた。

 

「うわっ!あなた誰!?」

 

ウタの後ろにいたのは一人の男性だった。

見知らぬ男に警戒するウタ。すぐに逃げられるように腰を落としながら目の前の男を見ていると、突如男が膝をついた。

 

「…ケ…クノ…イ…デア…ガ」

「え?何?」

 

何やら悲しんでいるようだが、ウタには何を言っているか聞き取れなかった。

ウタはすこし男に近づき、耳に手を当てて男の声に集中する。

 

「こんなクソガキに音楽で負けたぁぁぁ!?」

「キャッ!?…いきなりなんなの!」

 

突如大声を上げた男に驚き尻もちをついたウタ。その後、服に着いた土を払うと目の前の男を睨みつける。

しかし、男はウタの言葉や視線を気にせず、嘆き続けている。

ウタはそんな男に先程まで警戒していた自分が馬鹿らしくなり、呆れながら男を見ていた。

 

「はぁ…あなた誰なの?」

 

ウタがそう尋ねると、男は嘆くのをやめ、耳をピクッと反応させた。

すると突如立ち上がり、高らかに宣言した。

 

「俺の名はヴェン!ありとあらゆる楽器を扱い、古今東西全ての曲を演奏できる音楽の天才!【音楽の皇帝】とは俺のことよ!」

 

先程の嘆きはどこへやら、ヴェンはドヤ顔でウタへと名を名乗る。

世間では【音楽の皇帝】として名が知れ、昨年以前は救世主と崇められていたヴェンにウタは…

 

「…だれ?」

 

頬に手を当て、首を傾げていた。

そんなウタにヴェンはこの世に絶望したような表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「やっとエレジアに着いた~」

 

白ひげ海賊団と別れた、故郷が滅んだ日から十年が過ぎた。

その間、いろんなことがあった。…本当にいろんなことがあった。

 

その中でもやばかったのは白ひげ以外の四皇と出会ったことだ。

 

 

 

 

 

一人目はビック・マムだった。

 

白ひげ海賊団と別れた後、次の島に向かうため交易船に乗っていると一羽のニュースクーが飛んできた。

新聞配達にしては早いな、と思っていると、ニュースクーが持っていたのは一通の封筒だった。

ニュースクーが飛び立つのを横目で見ながら中の内容を読むと…

 

「ビック・マムの、お茶会招待状…ビック・マム!?」

 

そこに記されていたのは鬼すら顔出すお茶会…四皇からのお誘いだった。

突然のことに驚き、手足が震え、歯をガタガタ鳴らしながらも封筒を手放さない。もし、この紹介状を失い、茶会に参加できなければ…どうなるかは容易に想像ができる。

 

「いきたくね~。けど行かなかったら…行くかお茶会…地獄へ。」

 

体を一度ブルッと震わせた後、覚悟を決める。

その風貌は戦場へ赴く勇敢な戦士だったが、顔は大変嫌そうな表情だった。

 

 

 

結局のところ危惧していたことはなかった。

どうやらビック・マムは自分の音楽に興味があったらしく、お菓子を食べながら楽しみにしていた。

美味しいお菓子を食べさせてもらったお礼に、甘くとろける演奏をしてあげたら余程気に入ったのか、縁談を進められた。

 

相手はシャーロット・ガレット。

シャーロット家18女の娘で、歳は二歳上。綺麗な顔でスタイルも抜群。ぶっちゃけ自分の好みだった。

でも断った。

 

だって怖いも~ん。

その後は他の兄弟と仲良くなり、さっさと島を出た。特に、次男のカタクリやブリュレ、プラリネとは連絡を交換し、頻繁に連絡をするようになった。

 

 

 

 

 

二人目は百獣のカイドウだった。

 

場所はどこかの島の崖。当時は誰だか分からなかったが、海岸で演奏していたら巨漢の男…カイドウが崖の上に立っているのが目に入った。

海でも眺めてんのかなと思っていたら突然身を投げ出し、海へと落ちる。ドボンと盛大な水しぶきを上げていた。

 

「…ん?えっ?」

 

あまりの光景に数分固まり、呆然としていると飛び込んだはずのカイドウが海岸へと上がってくる。

彼は悲愁漂う雰囲気を纏いながらこちらへ向かってきた。

 

「…くそ、やっぱ死ねねぇもんだな…あぁ?なんだお前?」

 

カイドウが目の前にたち、ようやく自分に気づいたのか気迫を放ち、目を細めていた。

その時自分はというと…

 

「いや、お前がなんだよ」

 

よく死ななかったなと褒めてほしいものだ。

 

 

 

「ウォロロロ!おめぇ面白れぇな!」

「ガハハハ!俺は天才だからな!ほれ、もっと飲もうぜ!」

「気が利くじゃねぇか!ウォロロロ!」

 

何か仲良くなったわ。

自分の音楽を聴かずに自殺するなんてもったいないことすんなと啖呵を切り、血沸き肉躍るような曲を演奏すれば、それが気に入ったのか、共に酒を交わすようになった。

持っていた酒を渡せば、もっと上機嫌になって絡んできた。

 

その後、カイドウは自身が主催する次の祭りに参加しろと言い、連絡を交換した後、島を出て行った。

しばらくして、男が四皇のカイドウであることを知った時は目玉が飛び出し、顎が一週間外れたままだった。

ちなみにカイドウとは連絡を取る機会が減ったが、幹部であるクイーンとうるティ、ページワンと連絡先を交換した。どうやらファンらしい。でもページワン以外ちょっと変なんだよな~。

 

 

 

 

 

最後はエレジアを滅ぼした赤髪のシャンクスだった。

 

ある日、交易船の甲板で演奏をしていると、突如嵐が現れ、強風と高波が船を襲った。

その時逃げることが遅れた自分は揺れる船に体がぐらつき、木製の椅子が飛んできて、海へと落ちた。

 

目を覚ますと、知らない天井が映り、誰かのベッドにいた。ここがどこなのかと周囲を見渡していると、突如扉が開き、金髪の男が入ってきた。

 

「起きたか。どうだ容態は」

 

男が心配そうな様子で見ていると、その背後から別の男が現れた。

その男はいつかの日に新聞で見た男だった。

 

「ホンゴウ。どうだった?」

「あぁ、もう大丈夫そうだお頭」

 

現れたのは赤い髪に黒いコート、一振りの大きな剣に、失った左腕、そして一番特徴的な左目の三本の傷がある男。

四皇、赤髪海賊団の大頭シャンクスだった。

 

既に他の四皇と遭遇しており、うろ覚えだが原作からもその人なりは温厚であることを知っていたため、緊張することはなかった。

だが、エレジアを滅ぼしたという情報と自身がエレジア出身ということから恐怖を感じていた。

どうか目を付けられませんようにと祈っていると、考えていることが分かっているのか。

 

「そう怖がることはない。エレジア出身だからと言って襲うことはしないさ」

 

そうシャンクスは落ち着かせるようにフッと優しく微笑む。

なぜエレジア出身であることを知っているのか疑問に思っていると、それもシャンクスが答えた。

 

「お前、ヴェンだろ。世間じゃ【音楽の皇帝】って呼ばれてる…昔ゴードンに聞いたことがある、すごい天才だってな」

 

ゴードンと面識があることに驚いていると、シャンクスは突然酒ビンを取り出して笑いかける。

 

「それよりお前、音楽得意なんだろ?一曲演奏してくれよ」

 

突然の提案に虚を突かれた顔をするが、看病してくれたお礼のために演奏をすることにした。

曲は赤髪海賊団のリクエストに応え、昔の思い出に浸れる穏やかなものを演奏した。

 

 

 

「そうか、嵐に遭遇して海に落ちたのか。それは災難だったな」

「全くだよ。楽器は全部なくすし、金は無くなるし…散々な目にあったよ」

 

赤髪海賊団の副船長ベン・ベックマンの横で彼に慰められながら、ちびちびと酒を飲んでいた。

目の前には主役である自分よりバカ騒ぎをする赤髪海賊団がいた。そんな彼らを尻目にベックマンへと顔を向ける。

 

「…それにしても意外だな」

「何がだ?」

 

ベックマンはちらっとこちらを見て、聞いてきた。

彼からバカ騒ぎをするシャンクスたちへと視線を変える。

 

「これまで多くの人に演奏してきた経験からあんたたちは激しい曲とか好むと思っていたんだが…何でまた落ち着いた曲をリクエストしたんだ?しかも家族をテーマにしたものを」

「…たまには俺たちもそういうものが聴きたかっただけだ」

「…そうか」

 

何かあったのだろう。これ以上聞くことはやめ、お猪口に残った酒をすべて飲み干した。

横目にベックマンが空を眺めているのが見える。

 

 

その後は途中の島で下ろされ、いくばくかの金品をもらった。どうやら楽器代らしい。

彼らは他の海賊団とは違い、勧誘をすることはしなかった。勧誘されないことはありがたいが…なんか腹立つな。

それと一応電伝虫の連絡は交換しておいた。ベックマンとホンゴウ、ボンクと。

 

シャンクスは…あれはダメだね。何か嫌いだわ。こう…生理的に無理。

 

 

 

 

それからもたくさんのことがあった。

海軍の英雄モンキー・D・ガープや大将青雉に会って連絡先交換したり、天竜人に目を付けられて奴隷にされかけたが、たまたまいたドンキホーテ聖によって免れ、定期的にマリージョアで演奏することになったりなど様々なことがあった。

 

そして、一年前…

 

新世界のとある島。

その日も人々のためという名の、自身の欲望のために演奏をしようとした。手にはヴァイオリンを持っている。

しかし、誰も集まらない。老人も主婦も子供も、いつもであれば視界を埋め尽くすほど集まるファンがそこにはいなかった。

 

「何で誰も来ないんだ?俺の演奏だぞ?」

 

首を傾げながら原因を探しにある民家へと近づく。すると少女の歌声が聞こえ、それに歓声を上げる声が聞こえてくる。

窓から中を覗くと、そこには三人の親子と電伝虫からの映像に映る一人の少女がいた。親子は目を輝かせ、満面の笑みを浮かべていた。それはまるで天国にいるかのような表情だった。

その光景に驚き、別の民家を除くとそこでも同じ光景が映っていた。次の、そのまた次の民家も同じだった。

 

皆が同じ状況だったことに驚愕と絶望を感じ、広場で黄昏ていると、家から続々と子供たちが出てくる。それに大人たちが続く。

皆、口にするのはウタという人物に対する賞賛の声だった。

 

「おい、ウタって誰だ?」

 

今の状況に不満を感じながらも近くにいた数人の子供に聞くと、満面の笑みで各々答えた。

 

「ウタはすごいんだよ!歌がとても上手いんだ!」

「私たちのために歌ってくれるの!」

「あの歌を聴いたら元気になるよ!」

 

子供たちがウタを褒めると、その声が聞こえたのか周囲にいた人々も感謝の声を上げた。

 

「彼女の歌が私は兄を喪った悲しみを忘れさせてくれる」

「貧しくても心が温かくなるのじゃ」

「彼女は苦しみから解放してくれる」

「「「彼女は私たちの救世主だ」」」

 

その場にいた老若男女問わず、全ての村人がウタという人物を褒めたたえていた。皆先程のことを思い出し、幸福そうな表情を浮かべていた。

一方、その光景を見ていたヴェンは…

 

(えぇ気持ち悪。それより、俺の演奏よりあのガキの歌の方がいいのかよ…よし!そのウタというクソガキに会って思い知らせてやる!)

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在。

ヴェンは故郷エレジアに戻り、国王であったゴードンと再会し、もう一人の生存者ウタと三人で過ごすことになった。

 

 




次回は今週中に出します。
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