音楽の皇帝   作:スココLU

6 / 7
前日談ラストです。
映画本編の方は一話で終わらせます。
そのためすごく長くなります。

あと出てくる登場人物変わります。


思うがままに生きるのが一番

【エレジア】

十年以上前は音楽が絶えない賑やかな島だったが、ある日からは小鳥の声すらさえずらない静かな島。

人が全くいない、崩壊した建物だらけのエレジアに似合わない声が聞こえてくる。

 

「ガハハハ!これをファンに見せればお前の人気は谷底へまっしぐらだ!」

「ちょっと!?待ってってば!」

 

周囲が瓦礫の山の中、二人の男女が道を走っていた。

男はその手に映像電伝虫を持っており、その男を少女が追いかけている。

 

「キリンに髪を食べられている映像を見せればさぞ面白くなるだろうなぁウタ!」

「だから!待ちなさいって、言ってるでしょ!ヴェン!」

 

ヴェンと呼ばれた男はウタという少女へ振り向き、バカにしたように笑う。そんなヴェンにウタは青筋を浮かべ、息を吸った。

 

「…♪~」

「あ、おいそれは…グ~」

 

歌を聴いたヴェンはウタに何かを言おうとしたが、全てを言い切る前に眠ってしまう。

走っている最中に眠ってしまったヴェンは頭から地面へと倒れ、そのまま数度回転した後民家へと激突した。

しかし、ヴェンは目を覚まさない。ウタはあきれた表情でヴェンに近づく。

 

「はぁ…この状況何度目だろ…いい加減学べばいいのに」

 

ウタはヴェンを見下ろし、ヴェンの手に握られている電伝虫を手に取る。慣れた手つきで電伝虫を操作すると、自分の恥ずかしい映像を消した。

再びウタは冷たい目線でヴェンを見る。彼は苦しそうな表情で寝言を言った。

 

「ウ、ウタ…俺が、悪かった…だから、もう」

「…べー。まだ許しませーん!」

 

ウタはウタワールドに囚われているヴェンに対して取った行動と同じポーズをした。彼はより一層顔を歪め、許しを請うた。

ウタはヴェンから視線をそらし、上空を見上げる。雲一つない晴天の空が広がっている。

その光景を見ながらウタはこの一年間を思い出していた。ヴェンが来てからの騒がしい日々を。

 

 

 

 

 

「おぉ、戻ってきたのかヴェン」

「久しぶりゴードン。元気にしてた?」

 

ヴェンと最初に会った日、ゴードンに紹介すると、二人は親しそうにしていた。

その光景に不満を持っていると、ゴードンが説明してくれた。

どうやら彼はエレジアの国民で、十年以上前に海へ出たそうだ。その時のエレジアで一番音楽の才能があったらしく、今では【音楽の皇帝】と呼ばれていることを知った。

 

「へ~救世主ね…」

 

自分と同じように世界の人からそう呼ばれている彼に少しの不満と共感を覚えていた。

ヴェンはその言葉を気にもせず、ゴードンに話しかけていた。

 

「新聞では見たが、ここでいったい何があったんだ?」

「それは…」

 

ゴードンが言いづらそうな顔でこちらを見る。

 

「…シャンクス…赤髪海賊団がエレジアを滅ぼしたの。私を利用して…」

 

唇を噛み、拳を強く握りしめてヴェンに何があったのかを伝えた。彼は何も言わず、ずっとこちらを見ているだけだった。

沈黙の空気に居心地が悪くなり、駆け足でその場を出ていった。その日はもう何もする気が起きなかった。

 

 

 

 

次の日の朝。

いつもとは違い、ヴェンを交えて三人で朝食を食べていると、ヴェンが話しかけてきた。

 

「なぁ、配信をやってるって本当か?」

「ん?…本当だけど…」

 

ホイップマシマシのパンケーキを半分残しながら彼の質問に答える。

その返答にヴェンは意地悪い笑みを浮かべ、手に持ったフォークをパンケーキへと刺した。

 

「ならその邪魔をしてやるぜ。これ以上俺の人気が取られてたまるか」

 

パンケーキを頬張り、これ甘すぎるなと文句を言うヴェン。

彼の言葉に思うところがあったが、それよりも激しい怒りが心を占めていた。

 

「ヨ…モ…ノ…ーキヲ」

「うん?なんだって?」

 

ヴェンは聞こえなかったのか耳に手を当て、横顔を近づけた。

下へと向けていた視線を上げ、その無防備な横顔を睨みつける。

 

「私のパンケーキを返せ!」

「ブベラ!?」

 

怒りを込めた拳を腹正しい横顔へ叩きつける。予想だにしなかった一撃を受けたヴェンは吹き飛ばされ、壁へと激突する。

ゴードンは息を荒げるウタと白目をむいているヴェンを交互に見てこう思った。

 

(食べ物の恨みは恐ろしい…)

 

 

その日からウタにとって怒涛の日々だった。なぜならヴェンが毎日のようにウタにちょっかいをかけるからだ。

ある日は食べ物にタバスコをかけられ、ある日は顔に落書きされ、ある日は配信中に演奏を始め、配信をめちゃめちゃにされた。

その度に激怒し、能力を使ってお仕置きをするウタ。しかし、ヴェンは懲りずに次の日も、その次の日も悪戯を仕掛けてくる。

 

「はぁ~全く、何度同じ目に合えば気が済むの」

 

目の前には白目をむいて気絶するヴェン。そんな彼へ小石でも見るような眼差しを向けるウタ。

彼女は彼の今までの行動に呆れながらもその顔はどこか嬉しそうであった。幼少期の頃に戻ったような感覚にウタは浸っていた。

 

「それにしても何で私の邪魔をするのかな~」

 

ウタは首を傾げながらヴェンを見る。以前、理由を聞いてみたが、何度聞いても私の人気を落とすだけという答えだった。

 

「絶対他に何かあると思うんだけど…ま、いっか!さて早く配信の準備をしないと!」

 

ウタはスキップしながらその場を離れた。その口からは小鳥の囀りのような歌声が聞こえてくる。

 

「♪~」

 

満面の笑みを浮かべるウタ。

ゴードン以外の相手がいないエレジアで、誰とも遊ぶことなく、ただ海を眺め、誰に向けたわけでもない歌を歌う十年間。

一切笑うことなく、生きていくことに絶望していたウタは配信以外で久しぶりに心の底から笑える一年間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映像に炎で焼かれた町が映る。人々は逃げまどい、瓦礫に埋もれたけが人を助けようと誰かが行動する。

しかし、男も女も子供も老人も等しく、業火の炎に焼かれ、瓦礫につぶされ、命を落としていく。

それらを生み出すのは一体の怪物。

 

『助けて!』『こっちに来ないで!』『誰か!娘を救ってくれ!』

『ウタという少女は危険だ!あの子の歌声は世界を滅ぼす!』

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ。私はっ…」

 

ウタは泣き叫ぶ。

自分が犯した罪に、奪ってきた命に、エレジアで過ごしてきた人々の平穏を奪ったこと…恨んできた家族に対して謝り続けた。

 

それから一年、彼女は二度と笑わなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ~どうすればウタの人気を落とせるんだ」

 

目の前でウタが配信の準備をしている中、ヴェンは楽器の手入れをしつつそんなことを言った。

その声が聞こえたのか、ウタは呆れた表情で手元を動かしながらこっちを見る。

 

「バカ言ってないで早く準備してよ。今日は新曲のお披露目なんだから。失敗したら許さないからね」

「俺を誰と思っている。俺は—」

「はいはい音楽の皇帝でしょ」

「…」

 

決め台詞を取られ、目を伏せるヴェン。しかし、その手は止まることなく、ドラムを調整していた。

 

「よし!じゃあ、始めるよ」

 

準備が終了したのか、手に腰を当て、胸を張るウタ。

ウタの声を聞いて、ドラムを予定の位置へと移動させる。数度叩き、音を確認した後、ウタへ視線を向ける。

その視線を受け取ったウタは頷くと、電伝虫を起動させ、電伝虫へと挨拶を始める。

 

「みんな、ウタだよ!今日も配信を始めるよ~!」

 

いつも通りの日常がウタとヴェンに訪れる。

 

 

 

 

エレジアで暮らすようになってから二年が過ぎた。

あんなに音楽であふれていたエレジアはその面影を残すことなく、閉散とした島となっていた。産まれ育った家も今では何も残っていない。

 

ゴードンからエレジアに起こった出来事を聞いたとき、結局何も思うことはなかった。

この世界に平和や平等なんかない、それは海に出て十分見てきた。だからこそ、自由に生きることを決めたのだ。たとえ故郷が滅び、家族が死んだとしても…。

それに海賊に滅ばされる島なんかこの世界では日常茶飯事なのだ。一々反応していられない。

 

その時のウタは居たたまれない表情だった。後で聞いた話だが、ウタは赤髪海賊団の元仲間であり、シャンクスの娘とのことだ。

難儀なものだなと思っていると、ゴードンからウタが配信をしているということを聞いて、配信で見た時とエレジアで最初に出会った時を思い出し、あることを思いついた。

 

(そうだ、ウタを蹴落とそう)

 

その日からウタへの悪戯の日々が始まった。

ウタの食事を奪い、ドッキリを仕掛け、配信にゲリラ参加し、注目を奪う。毎度ウタに仕返しをされながらも止めることはなかった。

しかし、いくらやってもウタの人気が落ちることはなく、逆にファンは留まることなく増え続け、何なら配信に出続ける羽目になる始末。

まぁ、楽しかったからいいけど…。

 

ただ、一年たったある日からウタは変わった。

それまでは自分の作りたい歌を作り、楽しそうに歌っていたウタは誰かのために歌を作り、常に何かに追い詰められたように歌うようになった。

ウタは配信以外で笑うことがなくなり、泣きそうな表情で日々を過ごすようになった。

悪戯にも反応しなくなり、ある日何かこっそりウタが集めていたキノコを食べようとしたらものすごい怒られた。…あんなに怒るとは。そんなに好きなのか?

 

 

そんなある日、笑みを貼り付けたウタからある提案をされた。

 

「エレジアでライブ?」

「そう!世界中にファンができたし、そろそろみんなの前で歌を歌おうと思って!」

 

ウタは身を乗り出して嬉しそうに言った。ウタの提案に少し考える。

 

(ライブか、癪だがウタにはファンが多い。なら俺の演奏を聴く人が増えるはず…それにウタの能力は長く持たない。ならその後に演奏すれば俺の人気が上がるはず…)

 

「よし!いいだろう!俺は協力するぜ!」

「本当!?なら早速ゴードンに連絡しないと!」

 

賛同を得られたウタは部屋を出ようと扉へ向かう。そんなウタを引き止め、あることを聞いた。

 

「そうだウタ。俺の知り合いも呼んでいいか?」

「知り合い?そんなのいたの?別にいいけど」

 

ウタはしれっと失礼なことを言うと了承し、部屋を出て行った。

ウタの言葉に少し傷つきつつも、電伝虫を操作し、彼らへと電話をする。

 

「もしもし。あぁカタクリ?俺だよ、ヴェンだよ。今度ライブやるから来ないか?妹も一緒でいいからさ—」

「ページワン君?今度ライブやるから来ない?うるティとクイーンも呼んでよ—」

「ガープさん?ライブ来ない?…え?その日は忙しいから後で来る?OK―」

 

次々と連絡交換をした相手に電話をし、ライブに誘う。彼らは快く了承してくれた。

その結果に満足すると、大分早いがライブに向けての準備をし始めた。自分の部屋へと戻り、楽譜にペンを走らせる。

 

(ライブ前には完成させないとな…この曲で驚くウタの顔が楽しみだぜ)

 

顔に満面の笑みを浮かべながら頭と手を動かす。自分のために作った世界最高の曲の完成へ向けて。




        次回
    【ONE PIECE FILM MUSIC】
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