ダンまち ベル・クラネル超英雄化計画   作:膝に矢うけたった

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みんな大好きベートくん




 酒を片手に声をあげる冒険者達、その間を見目麗しいウェイトレス達が駆け回る。ここは『豊穣の女主人』という名の酒場だった。そのカウンター席の一角にベル・クラネルはいた。

 彼は今朝、朝食も食べずにダンジョンに向かっていたのだが、視線を感じて足を止めた。立ち止まっていたら、この店のウェイトレスであるシル・フローヴァに朝食をもらい、代わりに今日の夕飯をこの店で食べる約束をしたのだ。ヘスティアも誘ったのだが、彼女は用事があるらしく来ていない。

 

「あんた、私を唸らせるほど大食いらしいじゃないかい?」

 

 女将さんにそんなことを言われ、シルの方に視線を向けてみると、可愛くウインクする彼女の顔があった。成長期のおかげで、少しだけお金には余裕があるが、それでも無駄遣いはできない。なにより、そんなに大食いでもないので普通に困る。

 ただ、ベル・クラネルは初心な男の子。可愛い女の子にウインク付きで、対応されれば何も言えなくなってしまう。なので、がんばって食べることにしたのだ。

 

(あ、おいしい。師匠とはまた違った味付けだし、何より手の込み方が圧倒的に違う……)

 

 などと、家庭料理と比較して考えているのだが、客相手に出す料理の比較対象がそれというのは貧乏故か、それともそれほど雪姫の料理が好きなのか。尚、余談だが祖父がハーレム話をした日の夕食は決まってマーボードーフという激辛激旨料理だったらしい。ベルのはまだ食べれる範囲だが、祖父の分は食べたあと数時間トイレに篭る程やばかったらしい。

 シルとの会話を楽しみながら、食事をしていると、突然多数の足音とともに酒場のドアが開かれた。

 

「にゃぁ、ご予約のお客様ご来店にゃー」

 

 猫人(キャット・ピープル)のウェイトレスがそう告げて、続々と冒険者が店内へと入ってくる。先頭を歩くのは赤い髪の女性と金髪の小人族、後ろに続く面々も一目で強者とわかる者達だった。一瞬、ベルはその中の一人、赤みがかった黒髪の少年と目が合ったような気がした。だが、その少年はすぐに視線をそらしたので、偶然だったのだろうと納得する。

 彼らが足を踏み入れると同時に、酒場の空気が一変する。誰もがその堂々たる姿に手を止め、視線が釘付けになる。圧倒的なオーラと、存在感、その場にいるだけで完全に空気を掌握してしまう。

 

「おい、ロキ・ファミリアだぜ……」

 

 冒険者の誰かがそう口にする。団体の中には、昨日ベルがダンジョンで出会ったアイズ・ヴァレンシュタインの姿もあった。

 席に着いた彼らは、注文した酒がくると赤い髪の女性の音頭で宴会を開始する。オラリオの二大派閥、そう呼ばれる片割れだけあって、注文の仕方も豪快であった。たくさんの料理に、たくさんの酒類、その注文が津波の様に押し寄せる。厨房がフル稼働してもまるで追いつくことがない。

 そんな彼らをベルは憧れの篭った瞳で見つめる。

 

(いつか、僕もあんな風に……)

 

 思い描くのはたくさんの仲間と共に、彼らの様に酒を飲みかわし、笑顔で称え合う姿だった。

 

 

 

 

 

 ――師匠、僕は約束します。必ず、英雄になると。才能はないかもしれない、師匠は無理だと言うかもしれない、それでも絶対に英雄になってみせます。だから、その時は■■■ください。心からのあなたの■■を見せてください。

 

 

 

 

 

「アイズ、そろそろあの話をみんなにしてやろうぜ。ほら、いただろ。俺らが十七階層で逃したミノタウロス、そいつに追いかけまわされて、半べそかいてた白頭の話だよ」

 

 宴も進み、ロキ・ファミリアの多くの酔いが回ってきたころ、銀色の狼人(ウェアウルフ)の青年がその話題を口にした。その声は、遠くの席にいるベルの元までしっかりと届いている。

 

「その白頭の野郎、狐人の女に助けられて、震えたまんま、抱きかかえられて連れてかれてやんの。なさけねーったらありゃしねーぜ」

 

 話の内容が内容だけに、周りも苦笑いしかできない。というのも、五階層でミノタウロスに出会うなどという異常、その原因が自分達にあるだけにあまり気持ちのいい話ではないのだろう。

 酔いが回って気持ちよくなっているせいか、その空気に気付くことなく青年は話を続けようとするが、彼は大事なことを忘れていた。ロキ・ファミリア二大酒乱の片割れが今、ジョッキに口を付けているということを。

 

「べーちょー、おめーにゃぁに、こーしゅーのめんぜんでー、ちゅんでれわんわんしてんだよー」

 

 その声を発したのは、黒髪の青年だった。ベート・ローガもその声でさすがに状況を理解したのか、引きつった表情で視線をそちらに向けようとする。だが、次の瞬間……。

 

「おいバカっ、このバカ一、てめー、人の尻尾触んじゃねぇ! おい、やめろ、撫でるな、やめ、やめ……、おぉぅっ」

 

 尻尾を撫でまわし始めた。この男コトシロ・峰一は酔うと獣人の尻尾を撫でまわす癖がある。しかも、すごいテクニシャンである。ベートは現在、超絶テクニックで尻尾を撫でまわされて、頬を赤くしている。しかも、軽く喘ぎ声っぽいものが漏れている。

 この光景に、拳に力を入れて俯いていたはずのベル君も完全にフリーズしてしまっている。

 

「あー、ずっこいでー。峰一ー、うちも混ぜてー」

 

 赤髪の女性がその楽しそうな空気に当てられてベートの耳に手を伸ばす。もはや、先ほどまでの空気はどこへやら、すでにそこには剣呑な空気など欠片も残っていなかった。

 

「コラァア、なぁに、うちの店でいかがわしいことしてんだっ!」

 

 女将、ミア・グラントの叫びが木霊し、フライパンが峰一の顔面に向けて飛んでいく。それは見事に命中して、彼はギャグマンガのように吹っ飛んでいく。そのまま彼はダウン、ベートも気色悪い声を上げながら四つん這いになっていた。

 

「ところで、さっき言ってた白頭君って……」

 

 二人がダウンしたことを確認した後、アマゾネスの少女――二人いる内胸の小さい方――がカウンター席にいる少年を指さす。二人を除く全員の顔がそちらへ向いた。そこには未だフリーズしたままの少年、ベル・クラネルがいた。

 ロキ・ファミリア、そして店内の多くの客の視線を集めることになった少年は、ようやく意識を取り戻して、懐からお金を取り出す。そして、代金分のお金を置いて……。

 

「……す、すいませんでしたぁああああああああああああ!!」

 

 逃げ出した。なんともまぁ、情けない話ではあるのだが、初心な少年に酒場の注目を集めるという試練は少し早かったようだ。先ほどまでの、ベート撫でまわしショーも間違いなく原因の一つだが。

 

 

 

 

 

 ――まだ、まだ、お願いします。僕は、ずっと、座り込んでいたくない。必ず立ち上がる。立ち上がって前に進みます。師匠がそう教えてくれたから、師匠が繋いでくれた道があるから。だから、僕は絶対に諦めないっ!

 

 

 

 

 

 少年は夜の街を走り回って、頭が冷えた後ミノタウロスのことを思い出していた。あの時の少年は生き残ることに必死だった。ただ逃げ回って、追い詰められて助けられた。

 

(立たなきゃ……)

 

 彼はまだ、その時から立ち上がれていない。助けられた時のまま夜を超えた。

 

(立ち上がらなきゃ……)

 

 彼はまだ、何もなしてはいない。この街に来てから半月、日銭を稼ぐばかりの毎日だった。それは当たり前のことかもしれない。

 

(前に進め、僕っ!)

 

 英雄になると誓った少年はそんな自分を決して許しはしない。進んで必要のない危険を冒す愚行はしない。それでも自分にできること、その一歩先に行かなくてはいけない。少年の手は自然と、いつも持ち歩いている短刀の柄へと伸びていた。

 

(じゃなきゃ、あの人に追いつくことなんてできるわけないだろ!)

 

 彼には誓いがある、彼には願いがある。だから彼は止まるわけにはいかない。

 

(あの人の『本当の笑顔』を見るって、僕は誓ったんだろ!)

 

「坊、こないな夜中に何してはるん?」

 

 彼の誓いはここにある、彼の願いは道の先にある。

 

「師匠……」

 

 目の前の女性こそが彼の誓いであり願い。世界に飽いた、世界に生きることができない、そんな彼女を知って、彼は英雄になること誓った。

 

「師匠、僕は強くなります。今よりももっと、明日よりももっと。力だけじゃない、どんな苦境でも必ず立ち上がれる強い心も……」

 

 夜中の街中、英雄の生まれる街オラリオに少年の誓いだけが木霊する。

 

「だから、見ていてください。僕は前に進み続けます。あなたに未知を見せるために。あなたの笑顔を見るために」

 

 少年が一歩前へと足を踏み出す。そして歩みを進め、彼女の横を通り過ぎていく。夜の街、その先にあるのはバベル、ダンジョンの入り口である。

 

「坊、朝ご飯用意して待っとるよ」

 

 その声を受けて、彼は走り出す。誓いを、願いを現実にするために、ただがむしゃらに走り続ける。その姿を見ることなく、雪姫は星空を眺める。

 

(セリフちゃうけど、これ、神はんのイベントやなかったっけ?)

 

 彼女もまた、転生者なのであった。

 




ベート絶対許さない。ボーイズラブタグを保険で付ける必要がでたのは奴のせいだ!
尚、峰一は酔ってるせいで、原作イベントぶち壊したことに気付いてないです。
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