ダンまち ベル・クラネル超英雄化計画   作:膝に矢うけたった

6 / 9
一人称難しくね?


閑話 ボクノミタユメ

 僕がその人と出会ったのは、たぶん偶然だったんだと思う。金色の美しい髪をなびかせて、舞うようにゴブリンを倒す彼女はとても美しくて、まるでおじいちゃんに聞いた天女様のようだと思ったのを覚えてる。

 それは否定されてしまったけど、あの日、彼女の言った言葉を僕は一度も忘れたことはない。

 

『怖かったんやろ。辛かったんやろ。せやったら、泣いたらええ。泣いて、泣いて、そしたら、最後に涙を拭うんや。泣くのも転ぶのも恥ずかしゅうことやあらしまへん。そのまんまでおることも恥ずかしゅうことやあらしまへん。立ち上がれたら万歳したる。ただ、それに蓋をしてまうんわ、あかん。それだけはしたらあかん。坊は人や、人の子や。やから、人として泣いてええんよ』

 

 ゴブリンに襲われたことを思い出して、震えている僕を抱きしめて、彼女はそう言ってくれた。彼女から伝わってくる暖かさが、優しさが、とても心地よくて、僕は散々泣いた後眠ってしまった。

 目が覚めた時、僕は自分の家にいて、いつも通りおじいちゃんがいるだけだった。あの出来事は夢だったのかと思い、また泣き出しそうになった時だった。

 

『ん、坊、目ぇ覚めはったん?』

 

 すぐ近くから聞こえる声に、顔を傾けると、そこには彼女が確かにいた。僕が頭を置いていたのは彼女の膝で、彼女は僕が起きるまでずっとそうしてくれていた。

 僕には両親がいない。物心ついたころにはおじいちゃんと二人で暮らしていた。

 

『お、かあ、さん……』

 

 そのせいだろうか、彼女の顔を見てそんな言葉を口にしてしまった。彼女のぬくもりを、その時の僕はそうだと思ったんだ。会ったこともない、おじいちゃんも話してくれない、そんな誰かと目の前の彼女が重なったような気がしたから。

 そんな僕に彼女は小さく笑いかけてくれた。それが恥ずかしくて、僕は枕にしていた彼女の膝に顔を埋めてしまった。女の人のいい匂いがして、慌てて飛び起きる。

 

『ご、ごご、ごめんなさい……』

 

 自分が何をしたのかわかって、恥ずかしくなって謝ってしまったけど、彼女はそんな僕をもう一度抱きしめてくれた。

 

『そんな謝らんでもええよ。甘えたい時に、甘えたらええ』

 

 その一言が嬉しくて、僕は自然と彼女の服を掴んでいた。やっと出会えたお母さんを離したくなかったんだと思う。僕はただ、必死に彼女に縋りついていた。

 それから、二人分の音しかなかった家が三人分の音を響かせるようになった。どうして彼女がここに住もうと思ったのかはわからないけど、それでも僕はそれがとても嬉しかった。

 毎日暖かくて美味しいご飯を作ってくれるお母さん。怖くて泣きだしそうな夜に僕を抱きしめてくれるお母さん。たまにおじいちゃんが何かしようとして、帯でグルグル巻きにされたりもした。僕はそんな普通の子どもと同じ毎日がとても嬉しくて、楽しくて、ただ彼女に甘えていた。

 

 だから僕は何も気付かなかった。

 

 だから僕は何も見えていなかった。

 

 僕はただの甘えたがりな子どもでしかなかった。彼女の悩み、苦しみ、何一つ僕は目を向けることがなかった。あの日までは……。

 

 それは僕が遊んでいて、誤って崖から落ちた時だった。彼女はすぐに飛び込んで僕を抱きしめたけど、そこから起きたのは驚く程の偶然の連続だった。

 偶然木の葉の生い茂る木にぶつかって大した怪我もなく落下速度が落ち、偶然強風が吹いて崖のでっぱりを避けて、偶然落下地点に大きな水たまりができていた。そして、極めつけは偶然馬の暴走でここに来ていた行商人に助けられるといったものだった。

 僕は無傷だったし、彼女もほとんど怪我をしていない。更に帰りは行商人さんの馬車に乗せてもらって楽に帰ることができた。でも、その日の彼女の表情はとても暗く、いつもの明るいお母さんの顔はなかった。

 

『どうしたんですか、おかあさん。ぼくがあぶないことしたからおこってるんですか?』

 

 子どもながらに感じたことを口にしたが、彼女は首を横に振って、小さな声でそれを話してくれた。

 

『うちな、昔からすっごく運がええんよ。それもただ運がええだけやない。何をするにもご都合主義のようにうまくいきはる。何をやっても失敗せず、何をしてもうまくいきすぎる。坊、うちのこと何歳くらいに見えはる?』

 

 どれだけ高く見積もっても、三十代には見えない。僕が二十代半ばくらいの予想を彼女に告げれば、彼女は少し困った表情をしていた。

 

『うちの年齢はな、300歳超えてはるんよ。生きよう、生きよう、そう思とったら、こんな身体になってもうたん。この身体が嫌で戻す方法を探そうにも、生き物やから、本気で死のうとも思えんで、結局その方法にも巡り合えん』

 

 彼女の話す言葉は難しいものもあって、子どもの頃の僕には全部を理解することはできなかった。けど、それでもなんとなくでもそれを理解することができたから、だから僕は……。

 

『いかないで、いかないでください、おかあさん……』

 

 そう言って、彼女の服の裾を掴んでいた。彼女がどこかへ行ってしまうんじゃないか、そう思えてならなかったんだ。

 

『ぼくが、おかあさんをもとにもどすほうほうをみつけます。だから、どこにもいかないで……』

 

 それが当時の僕にできる精一杯のことだったから、だからただ僕はそうして彼女をこの場所に引き留めたかった。

 その後、彼女から聞いた話は幼い僕を驚かせ、時に英雄譚のような話に胸も躍らせた。彼女の歩んできた300年という時間は、人がそれだけのことを経験するには十分すぎるほどだったんだろう。

 

 極東の裕福な家に生まれ、何をしてもうまくいき、朝廷にも目をかけられ、順風満帆の人生だった。でも、少しすれば失敗のない人生への疑問が湧き出てくる。彼女はこの世界を『できすぎている』と感じるようになっていった。

 彼女は朝廷より賜った名を、家名として弟に託して旅に出た。一年中雪が降る場所に行った。雨が降らず、水で命の奪い合いが行われる場所に行った。秘境と呼ばれるような場所で強大なモンスターと戦った。だが、その全てで彼女は成功を収めてしまう。

 気付けば彼女は何にも本気にならず、ただ無気力に生きるだけだった。世界に飽いて、世界で生きているという実感もなく、ただ彼女はあり続けた。

 

 それが僕が彼女から聞いた話だった。その話を聞いた時、僕は大好きな英雄を、アルゴノゥトを思い浮かべた。彼女の今までの笑顔がどこか笑っていなかったように思えて、そこには必ず悲しみがあったように思えたから。だから、僕はみんなを笑顔にしようとした彼を思い浮かべたんだと思う。

 翌日から僕は自分を鍛えようと鍛錬を始めた。それらしい木の棒を見つけて、冒険者の真似事をしたり、筋トレやランニングなどをするようになった。そんなことをしていれば、家族の二人には当然バレるわけで、彼女は手慰み程度ではあったのだろうけど色々と教えてくれた。そうやって少しづつだけど、前に進めていると思っていた。

 ある日の夜、僕が目を覚ますと、家の外で彼女とおじいちゃんが話しているのを耳にした。

 

『坊には才能なんてあらしまへん。あんたがあの子に期待しとるんわ知っとるけど、酷やろ。やめたれ、坊が冒険者なんかなっても、数ヶ月生きれれば奇跡、この村で嫁でももろて、静かに暮らす方がええわ』

 

 僕はその夜、現実を突きつけられた。あの日から努力してきたが、彼女の目にはその成果は些細なものにしか見えてなかったんだと思う。その時の僕は世界が真っ暗になってしまったかのように感じていた。そのまま、ベッドに戻って、全部忘れて以前のように彼女に縋って生きていきたいとさえ考えた。

 

『期待か……。確かにわしはあの子に期待しているのだろう。お前さんの言うことの方が正しいのかもしれない。だが、それでも、あの子がそれを選ぶならわしは止める気はないぞ。男子ならば誰もが憧れるはずだ。強大なモンスターから美少女を救う、そんな英雄の姿に。それ目指すのを止める権利など誰にもないさ』

 

 おじいちゃんの言葉が背を向けた僕の背中に突き刺さる。

 

『憧れを、夢を止めることなど誰にもできんのじゃよ』

 

 その時、僕の頭の中にあったのは彼女と出会ったあの日に見た舞うように戦う姿と、強くなりたいと願ったあの日に知った彼女の苦悩だった。そして、今も胸に確かに残っているあの言葉。

 僕はその時、確かに転んだんだ。そのまま何もせずにいることもできて、そうすればきっと彼女は最後まで僕のお母さんでいてくれたんだと思う。でも、僕はそれが嫌だった。

 相手はモンスターじゃないけど、場所はダンジョンでもないけど、僕には手を伸ばしたい人ができた。僕には笑顔になってほしい人ができた。この憧れを、夢を諦めることなんて僕にはできなかった。

 その翌日からも、僕は鍛錬を続けた。今まで以上に真摯に、より強くなるために、がむしゃらに自分を鍛えた。そうして何日かすぎると、彼女は僕を本気で鍛えるつもりになったようだった。その頃から、僕は彼女をお母さんではなく師匠と呼ぶようになった。

彼女から一本の短刀をもらったのはその頃だった。彼女は安物と言っていたが、初めて握る本物の武器に僕は感動していた。

 

『坊、武器っちゅうんわ、そんななまくらでも命を奪えるもんや。それを忘れたらあかん。せやから、それを坊にあげるんや。わかるな?』

 

 僕は初めて武器というものの怖さを知った。英雄達の使う数々の武器に憧れだけを抱いていたけど、その本質に初めて触れた。誰かを救うこと、誰かを傷つけること、どちらも同じ武器できてしまう、その事実を知ったんだ。

 以前彼女は、自分が本気になればできないことはないと言ったが、何事にも例外というものは存在したようだった。実際、僕は以前よりはマシではあるが、それでも予想の範疇を超える成長を果たすことはできなかった。

 そんな僕に彼女も最初は驚いた様子だったが、いくらか月日を越えた頃にはそれにも慣れたのか、僕の才能のなさを揶揄うようになっていた。

 

 僕は彼女との新しい生活が楽しかったんだと思う。以前の親子のような関係も好きだったけど、その頃には感じていなかった彼女の女性としての部分に目を向けるようなったのは大きな変化だった。

 彼女の行動や、言葉に時折胸が熱くなり、自然とその姿を目で追ってしまう。彼女の本当の笑顔を見たいという想いは日に日に強くなっていった。母親から女性へ、彼女に対する認識が変わった。

 その生活の中、おじいちゃんがモンスターに襲われて亡くなったと、村の人たちが伝えにきてくれた。自然と涙が溢れてきて、喉が熱くなるのを感じた。彼女はそんな僕をそっと抱きしめてくれたけど、僕はすぐにその胸の中から飛び出したんだ。涙を拭って、いつもの短刀を持って、家の外へ向かう。

 

『師匠、鍛錬お願いします。おじいちゃんだって、きっとそれを望んでくれているはずです』

 

 あの夜おじいちゃんの言った言葉、僕はその期待がどんなものかは知らないけれど、それでもただ立ち止まっていたらそこにはたどり着けないと思った。だから、それからも僕はがむしゃらに強くなろうと努力した。結局最後まで才能のなさを覆すことはできなくて、何度も彼女からオラリオ行きをやめないかと言われた。それでも僕の意志は変わることがなかった。

 

 英雄になる

 

 それは幾度となく口にしてきた僕の誓いだ。その場所におじいちゃんの求めたものがあるのだと信じている。その道が彼女を救う手段に通じていると信じている。その先に彼女の笑顔があるのだと信じている。だから、僕は立ち止まるわけにはいかない。

 

 進むんだ。前へ、前へ、転んでも、壁にぶつかっても、前に進み続けるんだ。諦めそうになることなんて今更だ。自分の弱さを突き付けられることなんて当たり前だ。僕は力も心もまだまだ弱くて、小さいんだから。だから、せめて、前に進むことだけはやめちゃダメだ。

 

 英雄になる。それは僕の誓いであり、僕の見た夢なのだ。

 




オリ主のやらかしver.ベル視点でした。
なんとく関わったら、ベル君をマザコンに変えちゃった後に、ヒロインになっちゃったやべー奴


転生特典 『幸運』
 
 デメリットは失敗という経験と無縁になること。
 幸運というよりももはやデウスエクスマキナ。ご都合主義に物事が進み、あらゆるできごとができすぎな結果で終わる能力。
 裕福な家庭に生まれたことも、妖術が使える狐人であることも、羽衣という武器を手にしたことも、古代の英雄にも引けを取らない実力を得たことも、全部この能力の結果である。
 現在、彼女自身にやる気が皆無のため、最良の結果というものが存在せず機能が弱まっている。
 ベルの『全能超越』にも何か関係があるようだが……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。