ダンまち ベル・クラネル超英雄化計画   作:膝に矢うけたった

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あるぇ、こんな予想以上に筆が滑った
大丈夫かな、これ、紐神様のキャラとちょっと違う気がする
紐神様視点のお話です


閑話 女神の願い

 ボクはあの日、愛するベル君に嘘を一つ吐いてしまった。ボクのたった一人の眷属であるあの子に、朝知り合った女の子に誘われた酒場に一緒に行かないかと言われた。昨日の師匠君のこと、また新しい女の子と仲良くなったこと、芽生える嫉妬心。だから、ボクはありもしないバイトの打ち上げを理由に、その誘いを断ってしまった。

 ボクはただ独り、星空を見上げながらベル君のことを考えていたんだ。あの子と出会ったのは、ボクがヘファイストスの所を追い出されて少しした頃だった。それまで、地上の子ども達と一緒に生きる生活に憧れて、地上に降りてきたボクは碌に眷属の勧誘もせず神友であり姪でもあるヘファイストスの所で怠惰な生活を送っていた。

 長い間、彼女はボクの生活に目を瞑ってくれていたけど、ついに追い出されてしまったんだ。それは自業自得だから仕方ないと思う。それに追い出されたとは言っても、結局住む場所は彼女の管理する場所を使わせてもらっているわけで、未だ世話になっているままと言ってもいいと思う。

 それで、ボクが街中で眷属になってくれそうな子を探している時、その子は現れた。いきなりボクと出会ったわけではなく、彼は様々なファミリアに足を運んでいるところだった。ロキの所では門前払いされ、ヘルメスやゴブニュの所では面接はできたみたいだけど、肩を落として重い足取りで出てきた。あの子を受け入れるファミリアはどこにもなかった。

 

(何が炉の女神だ。何が孤児の保護者だ……)

 

 そんなその子の姿を見て感じたのは自分への憤りだったのを覚えている。ボクはただ、あの子の後ろを追いかけるばかりで、あの子に自分から手を伸ばすことをしていない。あの子なら、僕の眷属になってくれるかな、なんて考えで、あの子が今路頭に迷おうとしているのを遠くから見ている。

 何故あの子が門番に追い返された時、支えてあげなかった。何故あの子が肩を落としている時、励ましてあげなかった。そこまでしなくたって、一言言葉をかけて、あの子がどんな子か知ろうとすらしなかった。

 

『こんなところで何をしているんだい? ファミリアを探しているのかい?』

 

 何を白々しい、ずっと見ていただろう。そんなことはわかっている。それでも、その子に何て声をかけていいかわからなくて、ボクはこう口にしたんだ。

 

『神様……、ですか?』

 

 その子は泣きそうな顔で、つらそうな顔で、それでも真っ直ぐ、折れる様子もなくボクを見てそう言った。ボクはただ、精一杯の笑顔を浮かべてその子に手を伸ばした。その子がボクの手を取る。

 

 これがボクとベル君の出会い。怠惰で臆病なボクが大切な眷属と出会った時の話だ。

 

 それからファルナを刻んだんだけど、その時には驚かされたよ。『全能超越』『英雄宣誓』、二つもスキルがあったんだ。正直、二つとも隠しておきたかったけど、後者はまだマシな部類だし、使わないように言えばいいし、前者は他の神々に知られるととてもまずい。だから、『英雄宣誓』のことだけ教えて、『全能超越』は写した紙からは消しておいた。

 スキルを隠すために、別のスキルを囮にする。そんなことを思いついたあの時のボクのことを褒めてあげたいくらいだ。

 でも、『全能超越』は名前だけ見れば、ベル君がどこかで『全能の女神』の何かに打ち勝ったということの証明なんだと思う。どこの、どんな女神が彼に粉をかけたのかは、知らないけれど、見つけたらギッタギタにしてやるつもりだ。

 

 驚いたことは何もスキルだけではなかった。服を脱いだベル君の身体は、あちこちに古いのから新しいのまで、数多くの傷が刻まれていたんだ。きっと、ずっと頑張って、自分を鍛えてきたんだと思う。

 

『ところで、ベル君はどうして冒険者になろうと思ったんだい?』

 

 彼にそんな質問を投げかけたんだけど、この時ほど自分の軽率さを後悔したことはなかったと思う。

 

『師匠と約束があって、おじいちゃんの託してくれた期待があって、だから僕はダンジョンで強くなりたいんです。おじいちゃんはハーレムはロマンって言うけど、そっちは僕はちょっと……』

 

 ベル君のおじいさんは何をこの子に教えているんだ! 今、その時のことを思い出しても腹が立ってしょうがないよ、まったく。ただ、その後聞いた話では、そのおじいさんはもう亡くなっていて、師匠君とは故郷で別れたらしい。

 

『僕は夢を諦めたくないんです。だから、神様、僕を眷属にしてくれて、ありがとうございます』

 

 そう言って、笑顔を浮かべるベル君はとても眩しかった。だからだと思う、ボクはベル君に抱き着いて、ずっと見ていたこと、すぐに手を伸ばさなかったこと、全部話して謝ったんだ。もしかしたら、ベル君は怒るかもしれない。ボクのファミリアなんて嫌だって言うかもしれない。それでも、ボクはこれを隠していたくなかった。

 

『アハハ、なんか、情けないところ見られちゃいましたね』

 

 彼はそう言って、恥ずかしそうに頭を掻くだけだった。ボクのことを責めることも、怒ることもせず、ただそうしているだけだった。

 

『怒らないのかい?』

 

『え、えぇえ!? どうして僕が怒るんですか? だって、神様は悪気があってそうしたわけでもないですし、何よりちゃんと僕に手を差し伸べてくれたじゃないですか!』

 

 その答えを聞いてわかった、わかってしまった。この子は優しい子なんだ。両親がいなくても、おじいさんに、師匠君に、たくさんの愛情を注がれて、夢を抱いて、ただ真っ直ぐに、優しく育った子だ。

 僕はこの時思ったんだ。この子の主神として、この子の家族として、この子の冒険を、この子の夢を支えていこう。冒険者にも、英雄にもきっと帰る家が必要なはずだから。炉の女神であるボクにできるのは、この子が休む家を護ること。その家が、帰ってきたい場所であり続けることなんだ、って。

 

 その日から、ボクとベル君のファミリアは歩き始めた。ベル君一人に収入を任せるわけにもいかないし、ボクもじゃが丸君の屋台でバイトを始めたりもした。戦いに関しては全然なボクには、彼に教えてあげられることはないけど、ボクのような無名の神様では新しい眷属の子を見つけることもできないけど、ベル君が帰ってきた時に『おかえり』を言うのだけは忘れない。

 その日々が半月ほど過ぎたころ、つい先日の出来事だ。師匠君がボクたちのホームにいきなり現れた。彼女の話はベル君から何度か聞いていた。その話をする時の彼は表情をコロコロ変えて、ずっと見ていても飽きない程だった。反面、すっかりベル君に惹かれてしまったボクとしては、嫉妬してしまう面もあった。

 その師匠君が現れたのだから、ボクとしては気が気じゃない。でも彼女の作ってくれたご飯はとても美味しくて、家族の温かみを感じるものだった。ボクにはこんなに素敵な料理をベル君に作ってあげることはできない。ボクはあの子に何をしてあげられているのだろうか。そう、考えさせられたんだ。

 

 ベル君はボクを独りにはしないと、一緒に頑張ろうと言ってくれる。ボクにできることをボクは見つけることができないのに。その気持ちは、師匠君と二人で話して、より強くなった。

 最初、ボクは師匠君が『全能の女神』であり、ベル君に何か試練を課していたと考えていた。でも、会えばわかる。彼女は神ではない。彼女は彼女の言う通り、おそらく普通ではなくとも地上の子どもたちの一人だ。

 地上の子どもたちは限りある時間を駆け抜けるように生きていく。短い間に、たくさんのことを学び、たくさんの変化を迎える。彼女もそんな中で、あの料理を覚えたのだろう。地上の子どもたちはすごいと思う。ベル君も師匠君も、自分の前に続く道を必死に歩き続けている。

 その姿を天上から見続けるボクが、ベル君に一体何をしてあげることができるのだろうか。一緒に過ごすことはできる。彼が躓いた時に支えてあげることもできる。抱きしめることも、恋することもできる。でも、ボクは同じ道を彼と同じ速度で歩くことはできない。ただ、彼の歩く道を上から追いかけることしかできない。ボクたち神は不変で、だけど地上に降りたボクたちは『神の力(アルカナム)』を使うことはできない。

 

 ベル君、ボクは君に何をしてあげられるのだろうか。ボクはまだ、きっと怠惰で臆病なままだったんだと思う。彼が必死に前に進もうとしているのに、彼が必死に足掻いていたのに、ボクはまた『今』に甘えて、あの子が前に進む後押しをしてあげることができなかった。

 僕は星を見上げて考えていた。気付けば、空は明るくなり始めていて、教会へ帰ろうと歩き始めた。ベル君に『おかえり』を言えなかったのは初めてかもしれない。少し、足取りが重くなっていた。

 教会の地下室の扉を開けると、ベル君の姿がなかった。驚いて、部屋中を探し回ったけど、その姿はどこにもなくて、ボクは教会の入り口に戻って彼を待ち続けた。もしかしたら、もう帰ってこないんじゃないか、とさえ思ってしまった。

 しばらくして、空が白くなった頃、ベル君は帰って来た。ボロボロの姿で、血を流しながら。

 

『ただいま戻りました。遅くなって、すみませんでした。神様』

 

 そう言って、ベル君はいつもの笑顔を浮かべた。

 

『僕、少しでも前に進めているでしょうか。少しでも夢に近づけているでしょうか……』

 

 あぁ、ボクはなんてバカなんだろうか。この子が帰ってこないかもなんてどうして思ってしまったのか。こんなにも真っ直ぐなこの子が何も言わずいなくなるなんて、そんなことはあり得ないのに。こんなに真っ直ぐなこの子のために何ができるかなんて、他の誰かと自分を比べてばかりで、もっとがむしゃらにならなきゃいけなかったのに。

 

『おかえり、ベル君。きっと、進めているさ。きっと、近づけているさ。でも、朝帰りは感心しないぞ』

 

 そう言って、ボクは出会ったあの日のように精一杯の笑顔を浮かべたんだ。この日、ボクは覚悟を決めた。

 

 そして、今日、ボクはガネーシャの主催する神々の宴にドレスもないまま出席する。神友達に会うのも楽しみだけど、一番の目的は一柱の神友に『あるお願い』をするためだ。そのお願いのためなら、誰に笑われてもいい、どんな苦労だってしよう。ベル君の背中を押すために、怠惰も臆病も今はなしだ。

 あの子が真っ直ぐ駆け抜けていく、その道のすぐ近くでその姿を見続け、寄り添い続けていたいから。それがボクの願いだから。

 




なんかこう、自分でもびっくりするくらい筆がのった。
少年 ―ベル・クラネル― はこれで終了になります。
次回からは 怪物祭 ―モンスターフィリア― が始まります。
今回と前々回はそこに繋がる話ですね。
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