二人のヘリオ   作:てすん†G.NOH

2 / 9
♞ 戦術 ♞

 八月、新潟レース場。苗場特別。

 一八〇〇メートルで行われるダートレース、三番人気のヘリオスフィアは序盤、中団以降に張り付いて様子を窺っていた。

 ヘリオスフィアも当然、走るのが何よりも好きだ。だが過去のレースで分かっていた。自分の脚は周りと比べてあまり速くはない。並ばれたときの粘り強さも、瞬発力も、お世辞にも秀でているとはいえなかった。正直に白状するならば、明確に見劣りした。しかし、彼女にはたった一つだけだが誇れるものがある。それは頭の良さだ。

 ヘリオスフィアは本来逃げの脚質だったが、それでは勝てないことを悟るとレース中は脚を溜め、じっくり勝機を伺うことに徹することにした。もちろん、うまくいかない時もあった。しかし周りのウマ娘たちもクラシック級でまだ若く経験が浅い。

 最終コーナー手前、先頭を逃げていたウマ娘がバテ始めると、先行のウマ娘たちに一瞬の油断が生じた。そこを突く。

 

『第四コーナーを回って、ヘリオスフィアが上がってきた! ヘリオスフィアだ!

 一番人気のマイネルーツはまだ後ろ! 新潟の直線は長いぞ! この位置から届くか⁉︎ 届くか⁉︎』

 

 ——最後の直線勝負なんて、そんなことは分かりきってる。私が、私だけが、今このときのために脚を溜めて

きたんだ。今日ここで、私に追いつける相手はいない!

 

『届いた‼︎ ヘリオスフィア、ヘリオスフィアだ!

 三番人気のヘリオスフィア、差し切っていま一着でゴール!

 マイネルーツ敗れました!

 ようやく二着争いといったところ!』

「わー、やった! スフィアが勝った!」

 

 予告通り、ヘリオシースは新潟まで応援に来てくれていた。オープンでもなんでもない、ただの二勝クラスのレース。それでも、ヘリオスフィアはやり遂げた充実感を感じていた。ヘリオシースに情けないレースを見せないで済んだ、その安堵も大きい。

 

「かっこよかったよ、スフィア!」

 

 最前列で応援していたヘリオシースの元に駆け寄ったレースの主役に、相変わらずの笑みで祝辞を掛ける。能力的にはヘリオシースの方が上だ。それはヘリオスフィア自身がよく分かっている。でも、彼女の言葉には皮肉は感じられない。そんなことを思いつきもしないのだろうヘリオシースは、どこまでも純粋だ。

 

「ありがとう、シース」

「この調子でいけば、重賞も狙えるよきっと!」

「あはは」

 

 笑うしかない。重賞勝利、これはヘリオスフィアにとっては夢だ。そう、目標というより夢に近い。まるで遥か高い空に浮かぶ雲。どんなに背伸びしても届かない。でも、いつかきっと——

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。