三勝クラスの
「その悔しさをバネにして、次こそ勝とう! スフィアならきっとやれる!」
「私より次はあなたの番でしょ。来週、応援に行ってあげるから、しっかり勝ってきなさいね」
「スフィアが応援に来てくれるんなら、きっと負けないよ! ゴール板のところで待っててね!」
「自信満々じゃない。じゃあ負けたら罰ゲームであなたの開発したまずいジュース飲んでもらおうかしら」
「お、いいよ。じゃああたしが勝ったらスフィアが飲んでね!」
「え、なんであなたが勝ったら私が罰ゲームなのよ!」
「いいからいいから」
「よくないー!」
翌週、ヘリオシースが笑顔で見守る中、ヘリオスフィアはこの世のものとは思えない味の液体を飲み干すことになった。
食べ物で遊んでいると思われているのか、周りの客の視線が心なしか痛い。
「うぅ、この罰ゲームは金輪際なしにしよう……」
「えー、なんでさ。面白いのにぃ」
「どこが面白いのよ」
「スフィアの顔」
「——あなたね……」
十月も後半に入り、東京レース場でヘリオスフィアは多くの観衆が見守るコースの中にいた。もちろん、前日のGⅡ富士ステークスに比べるべくもない。しかし、ヘリオスフィアは今日のメインレースを走る。準重賞とも言えるリステッド競走、ブラジルカップ。そう、彼らはこのレースを見に来ている。
距離は二一〇〇メートル。ヘリオスフィアにとっては得意の距離だ。
——見せつけてやる。私の走りを、存在を。
彼女はやる気に満ちていた。日頃の肉体トレーニングはもちろん、イメージトレーニングや研究も欠かさなかった。そして勝ち取った一番人気。これをモノにする。
ヘリオスフィアの闘志は燃え盛る炎のように静かに揺らめいていた。
「あんたがヘリオスフィアか? なんだ、そんなちっちゃい体で、ちゃんと走り切れるのか?」
ゲート前で話しかけてきたのはハギノハイグレイド。
その恵まれた体格はヘリオスフィアより頭ひとつ大きい。
そんな彼女を一瞥し。
「あなたこそ、そんな重そうな体でちゃんとついて来れるんですか?」
ゲートに入る。
「言ってくれんじゃん、ちびっこが」
挑発に挑発で返せるほどの気迫。この日、ヘリオスフィアの足は非常に軽やかだった。
『ヘリオスフィア、ここで仕掛けた!
前に出る、ヘリオスフィア前に出る!』
「な、ここでかよ、くそっ、逃すかっ!」
『ハギノハイグレイド、追い縋る!
残りは二〇〇メートル!
差は縮まらない!
ヘリオスフィアだ、ヘリオスフィアだ!
ブラジルカップはヘリオスフィア!』
そして続く十二月の中山、師走ステークス。
『またしてもヘリオスフィア!
ハギノハイグレイド届かない!
ヘリオスフィアが見事差し切りました!』
ヘリオスフィアの戦術は、まくりとよばれるものだった。スタミナを温存し、早めに仕掛ける。そうすることで、差し脚の切れ味やトップスピードが劣っていても前に出て最後の直線で逃げ切ることができる。ハギノハイグレイドにはまだ、ヘリオスフィアの仕掛けるタイミングが掴めなかった。
ヘリオスフィアはその後、年が明けてからさらに二つのオープン戦もモノにし、メイクデビューから数えて通算八勝を挙げた。次の挑戦はいよいよ重賞競走、三月の名古屋大賞典。JⅢと言われる、地方トレセン所属のウマ娘との交流重賞競走である。
ヘリオスフィアは波に乗っていた。負けられないという思い、負けたくないという思いがあった。