二人のヘリオ   作:てすん†G.NOH

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♘ エリザベス女王杯 ♘

 十一月、京都。

 昨年のデイリー杯ジュニアステークス、そして前走秋華賞と京都のレースは全て勝ってきている。

 エリザベス女王杯は二二〇〇、芝。

 ヘリオシースにとって得意とする距離だ。天気はこれ以上ない快晴。バ場は稍重。

 海外からはミレータックが参戦。しかし、人気は次の三人のウマ娘に集まった。

 三番人気、トゥザヴィクトリー。前走が三月のドバイであり、八ヶ月近くのブランクがあるものの、その人気ぶりは絶大だ。

 二番人気にはローズバド。過去幾度となくヘリオシースと名勝負を繰り広げてきた。前走の秋華賞、その前のローズステークスと二着に甘んじているが、これをひっくり返そうと闘志を燃やしている。

 そして一番人気。ヘリオシース。ここ今日の京都レース場において、最も大きな歓声を受けて登場する。風格と貫禄は見事なものだった。

 それを眺めるヘリオスフィアはようやく気付く。ヘリオシースは、自分にとって親友であるだけでなく、憧れでもあったのだ。幼い頃に見たホクトベガのような、そういう憧れの対象。まるでキラキラ輝くようなターフのステージで、最も身近なウマ娘が、最も大切な親友が、自分にとっての最大のヒーローでもあったのだと。

 

 ——この顔ぶれを見る限り、逃げようとするのはトゥザヴィクトリーさん一人。あとは数人がそれを追って先行、シースたちはそれを追走していく形になる。位置取りさえ間違わなければ、勝機は十分にある!

 

 そんな予測を立てる中、ヘリオシースに対し只ならぬ殺気を向けているローズバドが視界に入る。

 

 ——うわぁ、怖い顔してる。シースは大丈夫かな。

 

 だが、心配は無用だった。ヘリオシースはローズバドを見てはいない。他のウマ娘のことはなにも気にしていなかった。ただ、スタートとゴールだけが彼女の視界の中にある。

 

「よかった。上手く集中できてるみたい」

 

 そしてファンファーレが鳴りはじめ、人々は私語をやめる。これからゲートインするウマ娘たちを送り出すように、あるいは背中を押すように、応援の気持ちを込めて手拍子を打つ。ヘリオスフィアも、精一杯の気持ちを込めて手を叩いた。

 ファンファーレが止み、再び大きな歓声が湧き上がった。人々はそれぞれ応援するウマ娘の名を叫ぶが、やはりヘリオシースの名を呼ぶ声が多かった。それはヘリオスフィアにとって自慢であり、優越感の感じられる瞬間でもあった。私のヘリオシースの走りをその目に焼き付けなさいと、ちょっと傲慢だと思いつつも心の中で得意げに語るのだ。

 

『さぁ京都レース場、まもなくGⅠエリザベス女王杯の発走です。クラシック級ウマ娘が、秋華賞での勢いそのままにシニア級の壁すら飛び越えてしまうのか。それともシニア級ウマ娘が実力の違いを見せつけるのか』

 

 実況が始まる。ゲートインが着々と進み、大外枠のプリエミネンスもゲートに入る。

 短い沈黙の後、ゲートが開き各ウマ娘が勢いよく飛び出した。

 

『ハナにたったのは予想通り、トゥザヴィクトリー。

 綺麗なスタートを切りました。

 続いてミレータック、さらにはロイヤルクラウン、十六番トウカイロープその後ろ。

 グランパドドゥ、その内に続いています。

 外から外からテンマアルビレオ、内からはテンマナイキ、青と純白の勝負服ヘリオシース、いい位置につけています』

 

 バ群は第一コーナーを曲がり、第二コーナーへと入っていく。ローズバドはヘリオスシースをマークするように、左斜め後ろにつけている。

 向こう正面、早くも一〇〇〇メートルを通過した。

 

 ——ペースは平均的。これなら大きくレースが荒れることはないばす。大丈夫、いけるよシース。頑張って。

 

 ストップウォッチを握りしめる手に力が入る。自分が走っているわけでもないのに手の汗が止まらない。ヘリオシースは、ヘリオスフィアの夢も乗せて走っているのだ。それはヘリオスフィアがよくわかっていた。

 

『先頭から最後方までおよそ十バ身といったところ。

 よどみのない展開になりました。

 前はトゥザヴィクトリー。

 トゥザヴィクトリー、後方を引き離しにかかります! 

 第三コーナーを回って逃げる逃げる!

 二番手はロイヤルクラウン、ミレータック三番手、七番ヘリオシース、まだこの位置!

 はたして届くのか⁉︎』

 

 ——大丈夫。この差、このペースなら届く。トゥザヴィクトリー、逃がさない。

 

 先頭は以前としてトゥザヴィクトリー。しかし、第四コーナー途中からヘリオシースがスパート。ぐんぐんと差が縮まっていく。

 

『ヘリオシース、上がってきた!

 さあ、決着をつける時だ!

 トゥザヴィクトリー先頭!

 しかしその差はわずか!

 さぁここが踏ん張りどころだ!

 ロイヤルクラウンが外から接近する!』

 

 残すは一ハロン、二〇〇メートル。最後の追い比べ勝負!

 

『一気に後続が襲いかかってきた!

 ここで先頭はヘリオシース!

 粘り込みを図る!

 だが追ってくるローズバドの脚色もいいぞ!

 だがヘリオシース、譲らない!

 譲らない!

 二冠バの意地が、矜持が、ねじ伏せる!

 ねじ伏せる!

 ねじ伏せた!

 ねじ伏せました!

 ヘリオシース!

 ヘリオシースが一着でゴールイン!

 二着にはどうやらローズバド、三着は僅かに及ばずテンマオリンピオ!

 宿命のライバル対決、この一戦を制したのは二冠ウマ娘ヘリオシース!

 クラシック級ウマ娘のヘリオシースが、数々の強豪を押し除け、今年最強女王の座を手にしました!』

 

 これでGⅠ四勝。大観衆のコールに応えてヘリオシースは手を振る。

 視線がしばらく彷徨った後、最も見たかった顔を見つけ止まった。

 駆け寄る。ヘリオスフィアも思わす外埒を飛び越え、コースへと入った。

 そして勢いよく抱き合う。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「あはは、スフィアのこんな姿、今まで見たことなかったよ」

「おめでとう、シース、おめでとう!」

「ありがとう! 約束、ちゃんと守ったからね!」

「偉い、偉すぎる!」

 

 人目も憚らず頭を擦り付けてくるスフィア。この感動をこんなことでしか表現できないのがもどかしく——

 

「罰ゲーム、楽しみにしてるね!」

「‼︎」

 

 そんなやりとりなど露知らず。割れんばかりの歓声が二人を包んだ。

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