二人のヘリオ   作:てすん†G.NOH

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「二人のスフィア」最終章


♘ 有馬記念 ♞ 〜 ♘ 新たな道へ ♞

 最強女王となったヘリオシースは、十二月頭のチャレンジカップを人気通りに難なく制し、トレーナーとの話し合いの末に有馬記念への挑戦を決めた。

 調子はいい。有馬の二五〇〇はヘリオシースにとっては適正範囲内の距離だ。中山の坂はきついが、一年前のホープフルステークスから比べてヘリオシースも成長していた。

 

「出れば勝てるってわけでもないけど、君が最高の走りができるようには仕上がったはずだ。悔いのないように走ってこい」

 

 トレーナーにはそう背中を押された。

 できることは全てやった。あとは全力を出すのみ。

 

 十二月最終週。

 この年最後の重賞、最後のGⅠレースを見に、寒空のなか人々は中山レース場に押しかけた。入場チケットは制限され、会場に入れなかった人々も多い。

 それもそのはず、出場するのはアイドルウマ娘たちばかり。人気の差異はあれど、誰が勝ってもおかしくないのがこの有馬記念だ。

 

 一枠一番、エアシャカールは三番人気。

 一枠二番はマチカネキンノホシ。

 二枠三番は二番人気のダイワテキサス。

 二枠四番はトゥザヴィクトリー。

 三枠五番のテイエムオペラオーは七番人気に推される。

 三枠六番はローズバド。五番人気。

 四枠七番、エリモブライアン。人気薄から逆転を狙う。

 そしてヘリオシースは四枠八番。堂々の一番人気。

 五枠九番にメイショウドトウ。

 五枠十番はスティンガー。

 六枠十一番、クラシック級のチアズブライトリー。

 六枠十二番、テンマオリンピオ。エリザベス女王杯惜敗の無念を晴らさんと意気込む。

 闘志みなぎるキンイロリョテイが七枠十三番。

 八番人気のマンハッタンカフェが七枠十四番。

 八枠十五番にジャングルポケット。

 大外枠十六番はアグネスゴールドとなった。

 

『いよいよ今年のG1も、このレースで終わりを迎えます。今年一年、ターフを沸かせたスターウマ娘たちが、冬枯れの中山レース場に集結。さぁ日本競バの総決算、夢のグランプリ。有馬記念の発走です!』

 

 ファンファーレが終わり、ゲートインがはじまる。ウマ娘たちはそれぞれのペースでゲートに入っていった。

 交わす言葉はない。それぞれの意地とプライドをかけ今年最後のレースを最高のものにして終わらせようとしている。ただそれだけだ。

 大外枠のアグネスゴールドがゲートに入り、体制が整う。

 

『スタートしました!

 そろった綺麗なスタートです!

 先頭を行くのはどのウマ娘か⁉︎』

 

 すぐに抜け出したのはダイワテキサスとトゥザヴィクトリー。メイショウドトウと昔年のライバル、テイエムオペラオー。その外にはキンイロリョテイとスティンガー。

 内からは今度こそとの闘志を燃やす、ローズバドが続く。アグネスゴールドはその外から、隣にジャングルポ

ケット、エリモブライアンがその内を行く。

 第四コーナーを回って、最初のホームストレッチを駆け抜けていくウマ娘たち。観衆は固唾を飲んで見守っていた。

 

『ここでウマ娘たちが正面スタンド前を通過していきます。

 マンハッタンカフェ、テンマオリンピオ、その後ろ。

 すぐ後ろにはチアズブライトリー。

 ヘリオシースは後方からになりました。

 どのあたりで仕掛けるのでしょうか』

 

 第一コーナーを回っていく。レース半ば、バ群に動きはなくそれぞれが牽制しあって勝機を伺っている。先頭から最後方までは十バ身。よどみなく向こう正面へとなだれ込んでいく。

 

『もう一度先頭から見ていきましょう。

 先頭はトゥザヴィクトリー、一バ身から二バ身離れてダイワテキサス。

 メイショウドトウもこのグループ。

 間が空いて、テイエムオペラオー。

 並んで二冠ウマ娘スティンガー。

 その外にキンイロリョテイ。海外G1を制した末脚はここでも見られるのか。

 ここで各ウマ娘、第三コーナーのカーブに差し掛かりました。

 前はトゥザヴィクトリー』

 

 先頭集団はまだ粘っている。ヘリオシースはといえばスティンガーのすぐ後ろ、前の開けた中団に位置していた。場所は悪くない。

 第四コーナーに入り、スティンガーが動いた。キンイロリョテイ、ヘリオシースがそれに続く。

 

『後続がぐんぐん追い上げていきます。

 さぁ、先頭は依然トゥザヴィクトリー。

 ダイワテキサスが続いています』

 

 第四コーナーを回り切った。ウマ娘たちが横一線に並ぶ。トゥザヴィクトリーが粘るが、残り一ハロンでもういっぱいになっていた。ヘリオシースの前はクリア。加速勝負、スピード勝負。純粋な力勝負が勝敗を分ける。

 

 ——キツい、こんな……ッッ!

 

 ヘリオシースは、絶好調のはずだった。

 最後の二五〇〇メートルくらい、走りきれると思っていた。だが、脚が前に出ない。前との差が縮まらない。

 右には加速していくテイエムオペラオーが見える。

 ジリジリ下がりつつも、差の縮まらない先行バ、メイショウドトウもいた。そして何より、大外から稲妻のように駆け上がっていったのは——

 

『マンハッタンカフェ!

 マンハッタンカフェだ!

 疾風のように大外から、駆け上がっていったのはマンハッタンカフェ!

 ごぼう抜き、これはごぼう抜き!

 有馬の直線を、一気に駆け抜けて今、マンハッタンカフェが一着でゴールイン!

 勝ったのはマンハッタンカフェ!』

 

 スピードの差、パワーの差。そして何より、ピークを過ぎてしまったウマ娘の、絶対値との差だった。ヘリオシースはギリギリまで粘ったがハナ差が届かず六着。写真判定で掲示板から外れた。

 一番人気だったのに、裏切ってしまった。ヘリオスフィアに話した夢が目標が、届かなくなってしまった。勝ち続けるって約束したのに、破ってしまった。

 そして何より、自分の限界があとちょっとのところで届かず、あっさりと終わりを迎えてしまったこと。言葉にならないほど残酷な現実を突きつけられた気がした。

 しばらく放心状態になるヘリオシース。呆然とただ、祝福されるマンハッタンカフェを眺めていた。

 悔しさよりも、後悔よりも、虚無感とか寂しさが彼女の心の中に広がっていた。自分は今日限りで、ターフを去ることになる。

 

 

 年度最優秀クラシック級ウマ娘の一人に選ばれたヘリオシースの電撃引退は、新聞でもテレビでも、SNSにおいても話題になっていた。

 早すぎるのではとか、トレーナーの力不足とか、それはもう散々な言われようだったが、トレーナーの方は特に気にしてないようだった。

 

「まぁ、こんなのは慣れっこだよ。それより君たちの方が大事だからな。この先のURAファイナルズに進めなかったのは残念だけど」

 

 ヘリオシースはヘリオスフィアと共に引退した。入学した時期は違えど、まさか同じ年に引退するとは思ってもみなかった。性格も違う、素質も違う、得意なことも違う。でも、走ることは共通して好き。

 お互い励まし合い、支え合ったこの二年間は、二人にとって宝物となった。

 レースが主体のトレセン学園いる必要は無くなったので、二人は別の学校へと編入することになる。新たな人生を歩むために。

 一時代を築いたウマ娘を世間はすぐ忘れるだろう。その親友のウマ娘の存在を知る者はもっと少ない。

 だが、彼女たちが戦った記録は消えることはないのである。

 

「ねぇ、スフィア。あれ飲んで帰ろうか」

「えぇ……本気?」

 

 

【挿絵表示】

 




以上で、ヘリオスフィアとヘリオシースのお話は終了です。
読了ありがとうございました。(/´ ω ` )/

ローズバドの孫娘スタニングローズが2022年のティアラを戦っています。
オークスでは10番人気からスターズオンアースの2着になっています。
9月のGⅢ紫苑ステークスでは1着。今後のレースがとても楽しみですね( ˘ω˘*)
GⅠに勝てなかったローズバド。その最初の産駒のローザブランカ、その娘がスタニングローズ。
薔薇一族の牝馬がGⅠを制する姿を見たい(´ω`)


【挿絵表示】
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