最強女王となったヘリオシースは、十二月頭のチャレンジカップを人気通りに難なく制し、トレーナーとの話し合いの末に有馬記念への挑戦を決めた。
調子はいい。有馬の二五〇〇はヘリオシースにとっては適正範囲内の距離だ。中山の坂はきついが、一年前のホープフルステークスから比べてヘリオシースも成長していた。
「出れば勝てるってわけでもないけど、君が最高の走りができるようには仕上がったはずだ。悔いのないように走ってこい」
トレーナーにはそう背中を押された。
できることは全てやった。あとは全力を出すのみ。
十二月最終週。
この年最後の重賞、最後のGⅠレースを見に、寒空のなか人々は中山レース場に押しかけた。入場チケットは制限され、会場に入れなかった人々も多い。
それもそのはず、出場するのはアイドルウマ娘たちばかり。人気の差異はあれど、誰が勝ってもおかしくないのがこの有馬記念だ。
一枠一番、エアシャカールは三番人気。
一枠二番はマチカネキンノホシ。
二枠三番は二番人気のダイワテキサス。
二枠四番はトゥザヴィクトリー。
三枠五番のテイエムオペラオーは七番人気に推される。
三枠六番はローズバド。五番人気。
四枠七番、エリモブライアン。人気薄から逆転を狙う。
そしてヘリオシースは四枠八番。堂々の一番人気。
五枠九番にメイショウドトウ。
五枠十番はスティンガー。
六枠十一番、クラシック級のチアズブライトリー。
六枠十二番、テンマオリンピオ。エリザベス女王杯惜敗の無念を晴らさんと意気込む。
闘志みなぎるキンイロリョテイが七枠十三番。
八番人気のマンハッタンカフェが七枠十四番。
八枠十五番にジャングルポケット。
大外枠十六番はアグネスゴールドとなった。
『いよいよ今年のG1も、このレースで終わりを迎えます。今年一年、ターフを沸かせたスターウマ娘たちが、冬枯れの中山レース場に集結。さぁ日本競バの総決算、夢のグランプリ。有馬記念の発走です!』
ファンファーレが終わり、ゲートインがはじまる。ウマ娘たちはそれぞれのペースでゲートに入っていった。
交わす言葉はない。それぞれの意地とプライドをかけ今年最後のレースを最高のものにして終わらせようとしている。ただそれだけだ。
大外枠のアグネスゴールドがゲートに入り、体制が整う。
『スタートしました!
そろった綺麗なスタートです!
先頭を行くのはどのウマ娘か⁉︎』
すぐに抜け出したのはダイワテキサスとトゥザヴィクトリー。メイショウドトウと昔年のライバル、テイエムオペラオー。その外にはキンイロリョテイとスティンガー。
内からは今度こそとの闘志を燃やす、ローズバドが続く。アグネスゴールドはその外から、隣にジャングルポ
ケット、エリモブライアンがその内を行く。
第四コーナーを回って、最初のホームストレッチを駆け抜けていくウマ娘たち。観衆は固唾を飲んで見守っていた。
『ここでウマ娘たちが正面スタンド前を通過していきます。
マンハッタンカフェ、テンマオリンピオ、その後ろ。
すぐ後ろにはチアズブライトリー。
ヘリオシースは後方からになりました。
どのあたりで仕掛けるのでしょうか』
第一コーナーを回っていく。レース半ば、バ群に動きはなくそれぞれが牽制しあって勝機を伺っている。先頭から最後方までは十バ身。よどみなく向こう正面へとなだれ込んでいく。
『もう一度先頭から見ていきましょう。
先頭はトゥザヴィクトリー、一バ身から二バ身離れてダイワテキサス。
メイショウドトウもこのグループ。
間が空いて、テイエムオペラオー。
並んで二冠ウマ娘スティンガー。
その外にキンイロリョテイ。海外G1を制した末脚はここでも見られるのか。
ここで各ウマ娘、第三コーナーのカーブに差し掛かりました。
前はトゥザヴィクトリー』
先頭集団はまだ粘っている。ヘリオシースはといえばスティンガーのすぐ後ろ、前の開けた中団に位置していた。場所は悪くない。
第四コーナーに入り、スティンガーが動いた。キンイロリョテイ、ヘリオシースがそれに続く。
『後続がぐんぐん追い上げていきます。
さぁ、先頭は依然トゥザヴィクトリー。
ダイワテキサスが続いています』
第四コーナーを回り切った。ウマ娘たちが横一線に並ぶ。トゥザヴィクトリーが粘るが、残り一ハロンでもういっぱいになっていた。ヘリオシースの前はクリア。加速勝負、スピード勝負。純粋な力勝負が勝敗を分ける。
——キツい、こんな……ッッ!
ヘリオシースは、絶好調のはずだった。
最後の二五〇〇メートルくらい、走りきれると思っていた。だが、脚が前に出ない。前との差が縮まらない。
右には加速していくテイエムオペラオーが見える。
ジリジリ下がりつつも、差の縮まらない先行バ、メイショウドトウもいた。そして何より、大外から稲妻のように駆け上がっていったのは——
『マンハッタンカフェ!
マンハッタンカフェだ!
疾風のように大外から、駆け上がっていったのはマンハッタンカフェ!
ごぼう抜き、これはごぼう抜き!
有馬の直線を、一気に駆け抜けて今、マンハッタンカフェが一着でゴールイン!
勝ったのはマンハッタンカフェ!』
スピードの差、パワーの差。そして何より、ピークを過ぎてしまったウマ娘の、絶対値との差だった。ヘリオシースはギリギリまで粘ったがハナ差が届かず六着。写真判定で掲示板から外れた。
一番人気だったのに、裏切ってしまった。ヘリオスフィアに話した夢が目標が、届かなくなってしまった。勝ち続けるって約束したのに、破ってしまった。
そして何より、自分の限界があとちょっとのところで届かず、あっさりと終わりを迎えてしまったこと。言葉にならないほど残酷な現実を突きつけられた気がした。
しばらく放心状態になるヘリオシース。呆然とただ、祝福されるマンハッタンカフェを眺めていた。
悔しさよりも、後悔よりも、虚無感とか寂しさが彼女の心の中に広がっていた。自分は今日限りで、ターフを去ることになる。
年度最優秀クラシック級ウマ娘の一人に選ばれたヘリオシースの電撃引退は、新聞でもテレビでも、SNSにおいても話題になっていた。
早すぎるのではとか、トレーナーの力不足とか、それはもう散々な言われようだったが、トレーナーの方は特に気にしてないようだった。
「まぁ、こんなのは慣れっこだよ。それより君たちの方が大事だからな。この先のURAファイナルズに進めなかったのは残念だけど」
ヘリオシースはヘリオスフィアと共に引退した。入学した時期は違えど、まさか同じ年に引退するとは思ってもみなかった。性格も違う、素質も違う、得意なことも違う。でも、走ることは共通して好き。
お互い励まし合い、支え合ったこの二年間は、二人にとって宝物となった。
レースが主体のトレセン学園いる必要は無くなったので、二人は別の学校へと編入することになる。新たな人生を歩むために。
一時代を築いたウマ娘を世間はすぐ忘れるだろう。その親友のウマ娘の存在を知る者はもっと少ない。
だが、彼女たちが戦った記録は消えることはないのである。
「ねぇ、スフィア。あれ飲んで帰ろうか」
「えぇ……本気?」
以上で、ヘリオスフィアとヘリオシースのお話は終了です。
読了ありがとうございました。(/´ ω ` )/
ローズバドの孫娘スタニングローズが2022年のティアラを戦っています。
オークスでは10番人気からスターズオンアースの2着になっています。
9月のGⅢ紫苑ステークスでは1着。今後のレースがとても楽しみですね( ˘ω˘*)
GⅠに勝てなかったローズバド。その最初の産駒のローザブランカ、その娘がスタニングローズ。
薔薇一族の牝馬がGⅠを制する姿を見たい(´ω`)
【挿絵表示】