負けてしまった。ここまで1000万を維持してきたのに現在のポイントは70。到底上位に入るポイントではない。オールマイトの期待に応えようと頑張ってきたのにここで終わってしまうのか。そんなことを考える緑谷に頬に涙が伝う。
『騎馬戦終了だーーー!!中々白熱してたぜお前ら!!早速上位4チーム!第1位!轟チーム!!』
まず最初は轟チーム。緑谷チームから1000万を奪い、1位を勝ち取った。
『第2位!爆豪チーム!』
続いて爆豪チーム。途中、物間チームに鉢巻を取られていたが無事取り返し、2位に入り込んだ。
『第3位!心操チーム!』
そして心操チーム。こちらはどうやって鉢巻を取ったかわからないが、3位に入り込む。
『そして最後!第4位!緑谷チーム!』
「....え?」
プレゼントマイクから出た言葉に緑谷は一瞬固まる。どういうことだ?今持っている鉢巻は70ポイント。上位4位に入るポイントではないはずだ。どうしてこうなったのか緑谷は考えていると、ふと巧の方に目をやる。巧は何かを握りしめていた。緑谷はよく見ると、巧が握っていたのは鉢巻であった。
「たっくん、それ.....」
巧はあの時、緑谷が轟から鉢巻を取った瞬間、同時に巧も鉢巻を何本か奪っていたのだ。巧はその鉢巻を無言で緑谷に見せつける。
『以上4組が!最終種目へ進出だああ!!!』
「うわああああああ!!!」
もう終わりだと思っていた緑谷はあまりの嬉しさに巧に抱きつき、滝のように涙を流した。
『それじゃあ1時間程の昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!おいイレイザーヘッド、飯行こうぜ....!』
『寝る』
『ヒュー』
●●●
昼休憩に入り、巧は食堂へと向かっていた。今日は何を食べるのか、勿論うどんだ。その前に巧はトイレに向かい、そこの水道で汗を洗い流すことにした。巧は入ってすぐそこの洗面所で頭から冷たい水をかぶる。手で髪を掻き、洗い流すと最後に顔を洗い、一息つく。もう夏も近い季節。暑がりの巧にとっては夏は一番嫌いな季節だ。巧は体操服の上着の袖を巻き上げジッパーを下す。スッキリした巧は食堂に向かおうとする。しかし食堂に向かう途中、曲がり角で巧は緑谷と轟が話しているところを目撃した。巧は角に隠れて盗み聞きをする。
「———俺は右だけでお前の上を行く。........時間取らせたな。」
なんの話をしていたのかわからないが、思い詰めた緑谷の顔に何か重要な話をしていることだけはわかった。話し終わった轟は立ち去ろうとするが緑谷が止める。
「.......僕はずっと助けられてきた。さっきだってそうだ....僕は....誰かに助けられてここにいる。オールマイト.....彼のようになりたい....そのためには一番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたら些細な動機かも知れない。みんなに比べたら小さな理由かも知れない。でも、僕だって負けらんない!僕を助けてくれた人たちに応えるためにも....!さっきの宣戦布告も改めて、僕からも、君たちに勝つ!」
轟は緑谷の言葉に黙って小さく頷き、その場から立ち去った。影に隠れていた巧は緑谷の言葉に、もう昔の緑谷じゃないことを実感し、どこか嬉しいような寂しいような妙な気持ちになり、その場から立ち去った。
●●●
食堂に着いた巧は早速うどんを注文する。しかし今日はいつもと違う。巧はうどんを注文した後もう一つ注文をした。
「なぁ、ここジョッキってあるか?......あ?いや酒飲むわけじゃねぇよ、生卵5つくれ。......なんでって、週間だからに決まってんだろ。動き回った後は飲むようにしてんだ。.....なに?いやプロテインは飲むけど、今持ってねぇんだよ。だからくれ、いくらだ?.....は!?500円!?スーパーでも1ダース300円もしねぇのにテメェぼったくるつもりか!!舐めんじゃねぇぞコラ!!」
どうやら巧はいつもの週間に生卵を5つ飲むようにしているらしい。といってもそれはプロテインがない場合。今はプロテインは持っていないため生卵を飲む。そのためにうどんを売っている店で生卵を買おうとしたがぼったくりに合いそうになっていたため、巧は店主と揉めていた。
「くそっタレが....!ガキだからって舐めやがって....!」
最終的にスーパーに売っている生卵の値段まで値下げさせることに成功した巧はさっさと食事を済ませようと席に座る。やっと一人になった巧は気楽に昼食を食べることができる。割り箸を割っていざうどんの麺を啜ろうとしたその時、巧の前に誰かが座る。せっかく一人で食べられると思っていたのに一体誰が来たんだと顔を上げると、そこにいたのは結花であった。
「またお前かよ....」
巧は結花の顔を見るなり嫌な顔をする。
「そんな顔しなくてもいいじゃないですか.....」
嫌な顔をする巧に結花は少し膨れっ面になる。結花が持ってきたのはクロワッサン二つ。そういえば最初に一緒に食べた時はフレンチトーストだった。
「なんでお前俺の前にくるだよ」
「前に言ったじゃないですか。お昼の時間は一緒に食べましょうって」
「じゃあなんで俺にばっかり話しかけんだいつもいつも。友達いねぇのか?」
そんなことを言いながら巧はうどんを啜る。その言葉に結花は更に膨れっ面になる。
「俺は一人でいるのが好きだって前にも言っただろ。わかったならさっさと失せろ」
「なんでそんな突き放すような態度とるんですか?そんな態度じゃ周りの人たちが離れていっちゃいますよ」
「.......お前控えめな性格の割にズケズケもの言うんだな」
「乾さんほどじゃないですよ」
その言葉に巧はイラッとし、睨みつけるが結花は全く気にせずクロワッサンをちぎって食べる。巧はため息をつくと、食べ終わったうどんを隅にやり、ジョッキの中に卵を入れ始めた。卵の殻を机の角で割り中身の卵をジョッキの中に五つ入れる。結花はその光景を不思議そうに見ていた。
「それ、美味しいんですか?」
「一度も上手いと思ったことはねぇな」
そんなことをを言いながら巧は卵を口の中に流し込む。喉を鳴らすたびに卵の黄身が巧の口の中に一つずつ入っていく。そして最後まで飲み干した巧は大きく息を吐く。その直後に結花の隣に誰かが座る。二人は視線を向けるとそこにいたのは蕎麦を持った轟であった。巧は面倒くさい奴がまた増えたと思い、さらに深いため息を吐く。
「焦凍さん」
「ごめん、待たせてしまって」
轟は軽く謝ると睨みつけるように巧を見る。巧はさらにイラつき轟を睨み返す。
「お前、なに結花と気安く話してるんだ?」
「先に話しかけてきたのはこいつの方だ。なんなんだお前ら?俺になんか恨みでもあんのか?」
「別にそんな....」
「大有りだ。お前があの時俺たちのこと見逃していたら俺と結花はずっと二人っきりだったんだ。なのにお前は邪魔をした。お前を恨まない理由がどこにある?犬野郎」
「犬じゃねえ狼だ。河童野郎」
「河童じゃない蜘蛛だ」
完全な逆恨みに巧は更に怒りが募る。お互い煽り合いと睨み合いで一歩も引かない。轟の隣にいた結花はどうすればいいか分からず戸惑っているとまた一人、今度は巧の隣に座った。睨み合っていた巧と轟は巧の隣に視線を向ける。巧はその正体に目を見開いた。
「ここにいたんですか、乾さん」
「.........っ!」
そこにいたのはまたしても面倒くさい奴。というより巧にとってやばい女であるサポート科の発目明であった。
「あの、知り合いですか?」
「クソッ....!」
巧は悪態を吐くと立ち上がりその場から立ち去ろうとする。しかし、それを許す筈もなく、発目は乾の腕を掴む。
「どこに行くんです!?あなたには話したいことが沢山あるんですけど!」
「しらねぇよそんなの!」
腕を引っ張る発目だが、巧は無理矢理引きずって歩く。轟と結花はその光景をじっと眺めていた。
「私のドッカワイイベイビーがあなたのせいで壊れちゃったんです!まだまだ改良の余地ありです!その為にですね!あなたのバイクを私に譲ってくれないでしょうか!?」
「何度も何度もしつけぇんだよ!!お前のガラクタなんざ知るか!!あれは俺のもんだって言っ....てん...だっ.....!離せテメェ!!」
「離しませんよ!」
巧は発目を振り解こうとするがなかなか手を離してくれない。このままでは埒が開かない。決心した巧は振り解くのをやめ、発目に振り向く。
「どうしたんですか?渡す気になったんですか?」
「そのことなんだが.....まずはその手を離せ」
発目は言われた通りに手を離した。そして次の瞬間巧は発目に背を向け、全速力で走り始める。
「あ!乾さん卑怯ですよ!!待ってくださーーい!!!」
発目の呼び止めも聞かず、巧は発目の姿が見えなくなるまで走り続けた。
「あんな女に構ってられるか!」
●●●
しばらく走った巧は曲がり角を曲がり身を隠す。かなり速く走った為、発目の姿は見えない。
「ここまで来れば追ってこねぇだろ」
やっと発目から解放された巧は一息つく。今日は何かと自分に突っかかってくる奴が多い。巧はまた面倒なやつが来ないことを祈り、立ち上がるとまたまた知り合いに鉢合わせた。
「乾.....」
「あ......?耳郎か」
今度は面倒なやつではないと安心する乾。耳朗はここで何をしているのか尋ねる。
「あんた、ここで何してんの?」
「お前には関係ねぇことだ」
説明するのも面倒くさい巧はさっさと通り過ぎようとするが、耳朗に呼び止められる。
「あのさ!乾.....」
「なんだ....?」
呼び止められた巧は面倒くさそうに振り返る。何かいいだけな耳朗は少し顔を赤くしながら答える。
「えっと....USJの時は.....ありがと........それじゃ!」
耳朗はあの時のことのお礼を言うと走ってどこかに行ってしまった。巧はその後ろ姿をただじっと見ていた。
●●●
昼休憩が終わり、一年生の全員が会場に集まる。昼休憩だというのに色々と疲れた巧は気だるそうに会場へと向かった。
『最終種目発表の前に予選落ちのみんなへ朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ....アリャ?』
プレゼントマイクが解説の中何か異変に気づきそちらに向き、隣にいた相澤も振り向いた。
『なーにやってんだ....?』
『どーしたA組!?』
二人が見る先にはチアリーダーの衣装を着て、両手にボンボン持ったA組の女子たちがいた。
「「よっしゃあ!!」」
「峰田さん!上鳴さん!騙しましたわね!!?」
どうやらこの格好をしているのは峰田と上鳴の策略によるものだったようだ。峰田が午後は応援合戦をしなくてはいけないと相澤が言っていたと嘘をつき、それにまんまとハメられたA組女子はこんな仕打ちを受けている。
「何簡単に騙されてんだよ」
巧はこんなことをする二人にも、それに騙される女子たちにも呆れてしまう。
「まぁ本戦まで時間空くし、張り詰めてもしんどいしさ。いいじゃん!やったろ!?おらぁああ!!」
「透ちゃん好きね」
中にはやる気満々にボンボンを持った腕をブンブン振り回している者もいるようだ。
『さぁさぁ!みんな楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目!進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!!一対一のガチバトルだ!!!』
プレゼントマイクの説明も終わった後、今度はミッドナイトが前に出る。
『それじゃあ組み合わせのくじ引きしちゃうわよ!組みが決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!レクに関しては進出者16人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人もいるしね。んじゃ1位チームから順にくじを.....』
その瞬間16名の中に居た尾白が驚くべきことを発する。
「あの.....!俺、辞退します」
「「「「「!!」」」」」
「尾白君なんで......!?」
「騎馬戦の時、俺殆ど何も覚えてなくて、そんな俺がここに立っててもいいのかなって思ってさ....。ここに立てることはチャンスかもしれないけど、俺のプライドが許さないんだ....」
尾白の辞退の言い分に今度はB組の庄田も辞退を宣言した。
「B組の庄田二連撃です。僕も同様の理由から棄権したい!実力どうこう以前に......何もしてない者が上がるのは、この体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか!」
ここに立つことはプロのヒーローが一番自分たちの姿を見てくれるいわば一種の試験のようなのも、ヒーローの卵としてこのチャンスを捨てることはあまりいい選択とは言えない。しかし、二人の意見ももっともな主張だ。張り詰めた空気の中ミッドナイトの答えは.....。
『そういう青臭いのはさぁ........好みっ!!尾白、庄田二人の棄権を認めます!!』
.......どうやら好みのようだ。
『そうなると.....2名の繰り上がり出場者は、騎馬戦5位の拳藤チームからになるけど.......」
「そういう話で来るんならほぼ動けなかった私らよりアレだよな?最後まで上位キープしてた鉄哲チームじゃね?馴れ合いとかじゃなくてフツーにさ」
「お、オメェらぁ!!」
こうして鉄哲チームの三人、鉄哲徹鐵と塩崎茨と長田結花の出場が決まった。
『というわけで鉄哲、塩崎、長田が繰り上がって16名!組はこうなりました!』
ミッドナイトの後ろのモニターから対戦相手が表示される。
第一試合 緑谷出久VS心操人使
第二試合 轟 焦凍VS瀬呂範太
第三試合 塩崎茨VS上鳴電気
第四試合 飯田天哉VS発目明
第五試合 芦戸三奈VS長田結花
第六試合 乾巧VS八百万百
第七試合 鉄哲徹鐵VS切島鋭児郎
第八試合 麗日お茶子VS爆豪勝己
全部で八試合。今勝ち抜きのトーナメント形式の最終種目が始まる。