『さあ、最終種目の準備に取り掛かるぜぇ!それまでは少しの間休憩しといてくれ!』
巧はレクリエーションには参加せず、ただずっと誰もいない場所で筋トレをしていた。そろそろやめにしようと休憩を入れる。それにしても、夏も近いためか筋トレをしていたことも相まって物凄く暑い。巧は滝のように汗を流し、自動販売機で冷たい水を2本買って1本を一気に飲み干し、もう1本を頭から被り体を冷やす。しかしまだ暑い。巧は体操服の上着を脱ぎ腰に巻く。少しは楽になったのか伸びをしながら首を回す。そろそろ試合も始まるだろう。巧はA組たちが集まっている場所へと向かう。その間、巧は周りの人、特に女子たちからチラチラと視線を向けられていた。巧は上半身裸の状態、巧の肉体美に女子たちは釘付けなのである。巧はそんな視線には気にも止めず歩いていき、A組が集まっている場所に着く。最初に気づいたのは麗日であった。
「あ!乾君どこ行ってうわぁあ!?」
麗日は巧の方に振り向くと、上半身裸の姿に思わず目を覆う。麗日の驚く声に他のみんなも振り向き、また驚く。
「お前乾!なんで裸!?」
「暑いからに決まってんだろ」
「だからって上半身裸になることないだろ!?」
「うわぁ、筋肉スゴ.....」
「とにかく上着を着るんだ乾君!!」
「どんな格好でも俺の勝手だろ?指図すんな」
そう言って巧はA組のみんなから少し離れた場所で座る。視線の先ではセメントスがフィールドにバトルリングを作っており、もう直ぐ完成間近であった。
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「オッケーもうほぼ完成」
やっとバトルリングが完成し、もうじき第一試合が始まる。
『サンキューセメントス!ヘイガイズ!アァユゥレディ!?色々やってきましたが!!結局これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!!ヒーローでなくてもそんな場面ばっかりだ!わかるよな!!心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!』
プレゼントマイク演説に会場は大いに盛り上がる。第一試合は緑谷VS心操。心操は先日A組に宣戦布告をしてきた男。それほどまでに勝てる自信があるのか、どういった個性を使うのかはわからないが、緑谷はみんなの期待を背負って会場へと上がる。
『成績の割になんだその顔!ヒーロー科緑谷出久!!VS序盤ではあまり目立たなかったが騎馬戦では活躍していた普通科!!心操人使!!ルールは簡単!相手を場外に落とすか行動不能にする。後は『参った』とか言わせても勝ちのガチンコだ!!怪我上等!!こちとら我らが威力教師!リカバリーガールが待機してっから!!道徳倫理は一旦捨てとけ!!だが命に関わるようなのはクソだぜ!!アウト!ヒーローは
歓声を浴びながらリングへと上がっていく緑谷と心操。お互い緊張する中、心操は緑谷に話しかける。
「『参った』か....分かるかい緑谷出久。これは心の強さを問われる戦い。強く思う
『そんじゃ早速始めようか!!レディイイイイSTART!!』
そしてプレゼントマイクの合図が入り、いざ対決というのに心操は何をしているのかまだ緑谷に話しかけていた。
「あいつはプライドがどうとか言ってたけど.......チャンスをドブに捨てるなんて、馬鹿だと思わないか?」
「.......っ!なんて事を言うんだッッ!!」
「俺の.....勝ちだ」
心操の挑発に激怒した緑谷は突然電池が切れた人形のように動かなくなった。
「デク君!?」
「出久.....!」
突然動かなくなった緑谷に会場は騒めきはじめる。
『オイオイどうした!?大事な緒戦だ、盛り上げてくれよ!?緑谷開始早々ーー!!完全停止!アホ面でビクともしねぇ!!心操の個性か!?』
「...悪いな、卑怯でもなんとでも言われても俺は構わない。これが俺なりの戦い方だ。『振り向いてそのまま場外に歩いていけ』」
心操の言葉に従うように緑谷は後ろを振り向いて場外へとゆっくり歩いてゆく。
『あーー!緑谷ジューージュン!!』
「み、緑谷君言っちゃダメーー!!」
「あんなやり方漢らしくねぇ!!」
「フン、術中にハマったクソナードが悪い」
「お前幼馴染だろ!?緑谷を応援すべきだろ普通!!」
「黙ってろ!この勝負は友達ごっこなんていらねぇんだよ....」
みんなが負けないように緑谷を応援しているが全く無反応に、ただ命令を聞くだけの機械のように心操の言葉に従って歩いていくだけ、巧はそんな緑谷を応援もせずじっと見ていた。10年も一緒にいた巧にはわかっているのだ。緑谷はこんな所で負けるようなやわな男ではないということを。
「わかんないだろうけど.....こんな個性でも夢見ちゃうんだよ。さぁ、負けてくれ」
あともう少しで緑谷は場外となり、負けてしまう。A組のみんなは必死に応援するが、それでも声は届かなかった。しかしその時だった。何かが折れるような音が心操の耳に届き、心操は身構える。
「.....っ!?何......!」
「.......っ!ハァ!ハァ.....!」
その直後、緑谷は息をあげながら場外ギリギリで立ち止まり、心操へと振り返っていた。何故このようなことになったのか心操は理解する。
『———これは....緑谷!!止まったぁ!?』
「やるじゃねぇか、出久」
「指が腫れ上がっているぞ....!」
「....暴発させたんか....!クソデク....!」
何故緑谷の洗脳が解けたのかは理解した。しかし、何故それができたのかが心操には理解できなかった。
「なんで....体の自由はきかないはすだ!何したんだ!」
心操は緑谷に問いかけるが、緑谷は応えまいと口を塞ぎ、心操へと近づく。
「なんとか言えよ....」
「.....!」
「〜〜〜〜!指動かすだけでそんな威力か!?あの乾とか言う奴といい本当に羨ましいよ!!」
「.......!!」
「俺はこんな個性のおかげでスタートが遅れちまったよ。お前にはわかんねぇだろうな。夢を持つことがどいうことか、俺から言わしてみればな、夢は呪いと同じなんだよ。みんな呪いを解くためには夢を叶えてなくちゃいけねぇ。途中で挫折した奴はずっと呪われたままなんだ。でも、ここでチャンスが来たんだ!俺はこの体育祭で呪いを解くチャンスを得る!!俺の苦しみがお前に分かってたまるかぁ!!!」
心操はもう一度洗脳させようと緑谷に問いかけながら思わず本音が出る。しかし、それでも緑谷は応えてくれない。心操も焦って呼びかけても緑谷は応えようとしない。そして緑谷は心操に突っ込み胸ぐらを掴む。
「っ!!何か言えよ!!」
そう言うと心操は緑谷の顔面を殴る。しかしそれでも緑谷は怯まず、そのまま心操を押し出していく。
「っ!!ああああああああ!!!」
「ぐっ!!(場外させる気か!?)」
心操は負けじと緑谷を押し返そうとするが緑谷はその腕を掴み背負い投げをし、心操はリングに叩きつけられる。そして叩きつけられた心操の足が、場外ラインへとはみ出していた。
「心操君場外!緑谷君、二回戦進出!」
『二回戦進出!緑谷出久ーーー!!』
第一試合、勝者緑谷出久。心操の洗脳により危うく場外になりかけはしたが、なんとか洗脳を解除し、勝利を納めた。
『IYAHA!緒戦にしちゃ地味な戦いだったが!取り敢えず両者に健闘を讃えてクラップユアハンズ!!』
心操は立ち上がりそのままリングから降りようとする。一度挫折してしまった人間は、もう二度と立ち直ることは出来ないのかもしれない。呪いを解くことは無理なのかもしれない。心操は歩きながらそんなことを考え、目頭が熱くなる。すると後ろから緑谷が心操を呼び止めた。
「心操君。君はさっき、夢は呪いと同じって言ってたよね。けど諦めるには早いでしょ?まだチャンスはあるんだから、君にもいつかヒーローになれる時が来るよ!絶対に!」
そう言った緑谷は後ろを振り向き、リングから降りて反対側の出口から出ていった。心操はその後ろ姿をじっと見つめる。
「(諦めるにはまだ早いか......)そうかも知れねぇな....」
緑谷の言葉を聞いた心操はどこか晴れやかな顔をしていた。
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第一試合、緑谷VS心操の試合が終わり、その他の試合も見ていこう。
第二試合 轟焦凍VS瀬呂範太
試合開始直後瀬呂が先にテープを伸ばして轟を拘束するが、それが逆に仇となり、轟は瀬呂のテープを伝って氷漬けにし、轟は二回戦進出を果たした。
第三試合 塩崎茨VS上鳴電気
これもまた試合開始直後に上鳴が先制攻撃をするが、後先考えなかった上鳴の思考回路がショートし、その隙をつかれ塩崎に縛り上げられ、またしても一瞬で勝負がつき、塩崎は二回戦進出を果たす。
第四試合 飯田天哉VS発目明
サポート科故のフル装備の発目と、何故かフル装備飯田。この光景を見て完全に利用されていると確信した巧。ほんのちょっとだけ飯田に同情する。そして第四試合は勝負というより発目が開発したサポートアイテムのお披露目会と言った方が正しい試合となり、結果としては発目のサポートアイテムが故障、発目は棄権し、飯田は2回戦進出を果たしたのであった。