エレファントオルフェノクを倒した巧は駆け寄ってくる緑谷と轟と飯田の方に振り向く。
「やったね!たっくん!」
「すごいじゃなか乾君!」
「ああ」
「お前にしては上出来なんじゃないか?」
「うっせぇ、ぶっ飛ばすぞ」
もう巧は迷わない。人間のために、夢のために、この力を使う。巧はそう決意した。すると遠くの方からエンデヴァーと結花がこっちに来るのが見えた。
「皆さん!大丈夫ですか!?」
結花は巧たちに駆け寄ってくる。轟は結花を見るなり、あまり見せない笑顔で結花に駆け寄る。
「結花!無事だったんだな!怪我はないか!?」
「いえ、怪我はありません。そんなことより焦凍さんたちの方が怪我してるじゃないですか!早く見せてください!」
乾は大した怪我をしていないため緑谷と轟と飯田の三人は言われるがままに結花に傷を見せて、治してもらった。
●●●
「一体何があった?」
エンデヴァーがこの状況に質問すると近くにいた警官が説明をした。
「脳無の対処にあたっていたのですが、全て制圧しました。しかし、その後未確認生命体第2号が現れて.....」
「何!?そいつは今何処にいる!!」
「す、すでに死亡しました」
警官がさす方向に目をやると、そこにあるのは灰の山だけだった。エンデヴァーが灰の山に駆け寄り、触れてみるがただの灰としか思えなかった。これが人間に化けた怪物とは到底思えなかった。
「誰がこいつを?」
「あの少年です」
警官が指す方向に巧がいた。エンデヴァーは巧みに近づく。巧もエンデヴァーが近づいてくるのに気づいた。エンデヴァーは話しかける。
「......お前が未確認生命体を殺したのか?」
「......ああ」
「.......そうか、それじゃあ.....」
「!?伏せろ!!」
エンデヴァーが何かを言おうとした時、突然グラントリノが叫ぶ。すると上空から巧が倒したはずの翼の生えた白い脳無が血を垂らしながら巧たちめがけて迫ってきた。
「あいつ!まだ動けたのか!?」
脳無は巧のベルトを狙っているのか、巧に襲い掛かろうとする。巧は避けるが、脳無は今度は緑谷の方に狙いを定め、緑谷を捕らえた。
「緑谷君!!」
「え、ちょ........!」
巧は飛び上がり緑谷の足を掴もうとするがギリギリで届かず、取り逃してしまう。緑谷は叫び声をあげ必死に巧に手を伸ばした。
「わあああああ!!」
「出久ーーー!!!」
今度は衝撃で飛び上がるが、脳無の飛行速度が速く、追いつくことができなかった。その時、飯田の横に誰かが通り過ぎた。あまりの速さに一瞬気が付かなかった周りはステインが女性ヒーローの頬に付着した脳無の血を舐め、脳無の動きが硬直する。そしてそのまま落下し、その間に脳無の背中に飛びかかり、持っていたナイフで剥き出しになっている脳無の脳を突き刺した。ステインは緑谷を人質をとるように掴む。周りはステインが助けたことに驚いていた。
「偽物が蔓延るこの社会も、徒に力を振りまく犯罪者も、粛清対象だ。全ては、正しき社会のために.....!」
ステインは頭から出血して痙攣しているもう虫の息の脳無に視線をやる。
「助けた.....!?」
「バカ、人質とったんだ.....!」
「躊躇なく人殺しやがったぜ.....!?」
「いいから戦闘態勢をとれ!とりあえず!」
皆口々に語る中、エンデヴァーが前に出る。
「貴様ら!犯人を前にして何を突っ立っている!!」
エンデヴァーがここにいる全員に喝を入れるように叫ぶ。エンデヴァーは脳無を確認するとステインを睨む。
「うう....はなっせ....!」
地面に下ろした緑谷はステインから逃れようと必死にもがくが、なかなか離さない。ふと、ステインのマスクが外れ素顔が露わになる。ステインはエンデヴァーを睨みつける。
「エンデヴァー.......!」
「ヒーロー殺し!!」
「待て轟!!」
ステインに飛びかかろうとするエンデヴァーにグラントリノは止めようとする。その時だった。
「贋物.....!」
「「「「「!!!」」」」」
ステインから放たれる強烈な殺気と憎悪、そして執念がここにいる全員が動けなくした。ステインは一歩ずつ歩む。
「正さねば——.....!誰かが....!血に染まらねば....!
「——っ!!」
「何......だ.....!?奴から感じるその殺意.....!?」
女性のヒーローはそのあまりの殺気から腰抜かす。無理もない、その場にいる全員がステインの殺気に気圧され、エンデヴァーですら後退りしてしまっていた。しかしエンデヴァーはあることに気づく。
「.....気を......失っている.....」
強烈な殺気を放っていたステインは、白目を剥いて立ったまま気絶していた。緊張が解けた巧、轟、飯田の三人はさっきの戦闘の疲労と怪我のせいで膝から座り込んでしまう。その後ステインと脳無三体は警官に拘束され、連行された。巧は震えている腕を見て無理やり押さえつけた。
「.............」
●●●
「クソッ」
さっきまでの状況を死柄木は双眼鏡で見ていた。苛立ちを隠せない死柄木は手に持っていた双眼鏡を粉々にする。
「......帰ろ」
「満足いく結果は得られましたか?死柄木弔」
「バァカ、そりゃ明日次第だ。あの野郎ぉ、前払いで酒一本持ってったくせに、ベルト奪えてねぇじゃねえか役立たずが....」
「そういえば、また新しい助っ人が来ていますよ。今回は三人です」
「まだそんなにいんのか?まあいい、次はそいつらに期待するか」
そう言って死柄木はと黒霧はワープゲートを通り抜けて消えてしまった。
●●●
ステインとエレファントオルフェノクの戦いから一夜が明け、緑谷たちは保須総合病院に搬送されていた。巧以外はある程度結花が治してくれたとはいえ、まだ完全に治っていない。なので医者はまだ安静にしておくように言われた。巧はそのままホテルに泊まった後、緑谷たちの見舞いを結花と一緒に来ていた。
「皆さん、大丈夫でしょうか。まだ完全に治せていないのに」
「あいつらなら心配すんな。あれぐらいでへこたれるほど柔じゃない」
結花は三人のことを心配していたが、巧はそこまで心配していなかった。しばらくして緑谷たちが入院している部屋まで来た。巧は扉を開けると、包帯でぐるぐる巻きになっている三人がいた。緑谷は右腕と左脚。轟は左腕と胸元。飯田は両腕に巻かれていた。
「たっくん!長田さん!」
「結花!.......チッ乾か」
緑谷は巧と結花を見ると笑顔で迎え入れ、轟は結花を見ると笑顔になるが、巧を見ると嫌な顔をして舌打ちをする。
「皆さん怪我は大丈夫ですか?」
「全然大丈夫だ。結花のおかげでこの通り、もう平気だ」
ほんとはまだ怪我が治っているわけではないが、轟は結花を心配させないために平気なフリをしていた。
「それだといいんですけど、まだ安静にしておいて下さいね?」
結花は念の為に安静にしておくように言った。そして隣にいた緑谷があの時のことを話す。
「冷静に考えると......すごいことしちゃったね」
「そうだな」
冷静に考えるとかなりすごいことをした。学生の身でありながら、何人ものヒーローを葬ってきたステインを倒したのだ。信じられない事実な上、当の本人たちもあまり実感がなかった。
「でもあんな最後見せられたら、生きてるのが奇跡だって.....思えちゃうね。僕の足、これ多分.....殺そうと思えば殺せたと思うんだ」
「あぁ、俺らはあからさまに生かされた」
「たっくんも、ヒーロー殺し以外に脳無とオルフェノクとも戦ってたのに、殆ど怪我してないって、やっぱりたっくんはすごいな」
「俺は大したことねぇよ。天哉なんてヒーロー殺しに一人で立ち向かったんだからな」
「いや、違うさ。俺は.....」
「おお、起きてるな怪我人ども!」
「グラントリノ!」
「マニュアルさん.....!」
飯田が何かを言いかけたとき、病室にグラントリノとマニュアルが入ってきた。緑谷は座り直そうとするが、グラントリノが止める。
「すごい.....グチグチ言いたいが....」
「あっ....す.......?」
「その前に来客だ」
グラントリノが後ろを指差す。全員が視線を向けると、スーツを着た大柄の男が入ってきた。何より特徴的なのが、顔が人の顔ではなく犬の顔であった。
「保須警察署署長の
「面構!!署、署長!?」
「かわいい....」
「........まじか」
皆面構の顔に驚驚く中、面構は続ける。
「掛けたままでで結構だワン。君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね。ヒーロー殺しだが....火傷と骨折でなかなかの重症で現在治療中だワン」
ステインは今、巧と轟の総攻撃によりかなりの重症を負っていた。
「超常聡明期.....警察は統率と規格を重要視し、個性を武に用いないこととした。そしてヒーローはその穴を埋める形で台頭してきた職だワン。個人の武力行使.....容易に人を殺められる力。本来なら糾弾されて然るべきこれらが公に認められているのは、先人たちがモラルやルールをしっかり遵守してきたからなんだワン。資格未取得者が保護管理下の指示なく個性で危害を加えたこと、たとえ相手がヒーロー殺しであろうともこれは立派な規則違反だワン。君たち四名及びプロヒーローのエンデヴァー、マニュアル、グラントリノ、この七名には厳正なら処分が下さなければならない」
面構の説明に轟は立ち上がり待ったをかけた。
「待って下さいよ。飯田が動いてなきゃネイティブさんが殺されてた。先に来た緑谷が来なけりゃ二人は殺されてた。誰もヒーロー殺し誰もヒーロー殺しの出現に気づいてなかったんですよ。規則を守って見殺しにするべきだったって!?」
「ちょっと焦凍さん!」
怒りで声を上げる轟に結花は止めようとする。すると結花の隣にいた巧が口を開いた。
「これに関しては俺も同意見だ。誰かが動かなきゃ、誰かが死んでた。これは規則云々の話じゃねぇ」
「結果オーライであれば規則など有耶無耶でいいと?」
面構の言葉に轟はたまらず反論する。
「っ!人をっ....助けるのがヒーローの仕事だろ」
「だから君は卵だ。全く。いい教育をしてるワンね。雄英もエンデヴァーも....」
「っ!この犬っ!!」
「吠え面かかせんぞテメェ!!」
感情任せに反論する巧と轟に面構は呆れ、巧と轟はさらに激怒する。しかしそこでグラントリノが止める。
「まあ.....話は最後まで聞け」
巧と轟は不満気ながらも、一旦落ち着きその場に座る。二人が落ち着いたのを見て面構は鼻をいじりながら話す。
「以上が......警察としての意見。で、処分云々はあくまで公表すればの話だワン」
「「「「「!?」」」」」
「公表すれば世論は君らを褒め称えるだろうが処罰は免れない。一方で汚い話公表しない場合、ヒーロー殺しの火傷跡からエンデヴァーを功労者として擁立してしまえるワン。幸い目撃者も極めて限られている。この違反はここで握り潰せるんだワン。だが君たちの英断と功績も、誰にも知られることはない」
面構は五人に向かってサムズアップをし、そして四人に提案を持ちかけた。
「どっちがいい!?一人の人間としては.....前途ある若者の偉大なる過ちにケチをつけたくないんだワン!!」
「まぁ、どの道監督不行届で俺らは責任取らなとだしな」
そこに付け足すようにマニュアルが涙目になりながら答える。
「申し訳ございません....」
「よし!他人に迷惑がかかる!わかったら二度とするなよ!!」
そう言ってマニュアルは飯田の頭にチョップを入れた。面構の提案に緑谷と轟と飯田と結花の四人は頭を下げる。
「よろしく....お願いします....」
「私からもお願いします!」
「フンッ」
四人が頭を下げる中、巧はそっぽを向くだけだった。そんな態度の悪い巧に緑谷は怒る。
「ちょっと!たっくんも!」
緑谷に怒られた巧は渋々頭を下げる。
「大人のズルで君たちが受けていたであろう称賛の声はなくなってしまうが.....せめて、共に平和を守る人間として......ありがとう!」
再度面構は頭を下げ、緑谷、飯田、結花は安心する。巧と轟はそうなら最初からそう言えと言わんばかりにため息をついた。
●●●
保須総合病院で麗日と電話をしていた緑谷は電話を切ると、向こうから巧ため息をつきながらが歩いてくるのが見えた。
「あ、たっくん。どうだったの?」
「どうだったって?最悪だ。オルフェノクのことを散々訊かれたぜ。答えられるわけねぇだろあいつらのこと」
「そうだよね.....」
どうやら巧は警察にオルフェノクのことについて事情聴取を受けていたらしい。巧はオルフェノクの情報を漏らすのは政府から禁止されているため、答えることができなかった。仮に答えたとしても信じてもらえるかわからなかった。
「それにしても、USJの時といい、今回の時といい、オルフェノクのやつら、鳴りを潜めてたって話だが、今回になってどうして表舞台に出てきたんだ?それにあいつら、俺のベルトを狙っていた。一体なんのために?」
「僕にもわかんないけど、たっくんのお父さんとお母さんが作ったあのベルト、本当にすごいよね。オルフェノクを簡単に倒せてしまうだなんて、もしかしてだけど、あのベルトに何か秘密が.....」
緑谷はファイズギアに何か秘密があるのではないかと考えるが、今はまだ何もわからなかった。
「考えても仕方ねぇ。取り敢えず帰るか」
今考えていたところで何かわかるわけではない。巧は立ち上がりさっさと帰ろうとする。
「あ、僕は飯田くんのとこに行くよ。心配だし、多分診察も終わった頃だろうから、先に帰ってて、僕は電車で帰るよ」
緑谷はそろそろ診察が終わったであろう飯田のところに向かおうとし、巧と反対方向に向かう。巧は緑谷を送ろうと思っていたのだが、その後ろ姿を見てなんとなく嫌な気分になった。
「...........やっぱ俺も行くわ」
「?」
病室に向かい、飯田と轟のところに向かった。扉を開けるとそこには飯田が深刻な顔をして俯いていた。そんな飯田に轟と結花は心配そうな顔を向けていた。
「あ、飯田君。今麗日さんがね.....」
「緑谷、乾。飯田、今診察が終わった頃なんだが....」
「「?」」
飯田は包帯で巻かれた左腕を見つめる。
「左腕、後遺症が残るそうだ....」
飯田の言葉に二人の顔が強張る。長田はそのことに対して飯田に謝罪する。
「ごめんなさい。私、ここまでが限界で.....」
「いいんだ、長田君。両腕をボロボロにされたが.....特に左のダメージが大きかったらしくてな。腕神経叢という箇所をやられたようだ。とは言っても手指の動かしずらさと多少の痺れくらいなものらしく、手術で神経移植すれば治る可能性もあるらしい。ヒーロー殺しを見つけた時、何も考えられらくなった。マニュアルさんにまず伝えるべきだった。奴は憎いが......奴の言葉は事実だった。だから、俺が本当のヒーローになれるまで、この左手は残そうと思う」
「.............」
「.........あ.......」
緑谷は何かを言いかけたがすぐな押し黙り、傷が残っている右手を見る。
「飯田くん、僕も.....同じだ。一緒に強く.....なろうね」
「.......緑谷君......。ああ、勿論だ」
緑谷は拳を突き出し、飯田はその拳を見ながら強く頷いた。そんな二人を見ていた巧と結花は小さな笑みを浮かべる。すると結花の隣にいた轟が申し訳なさそうな顔で自分の手を見つめていた。
「なんか....悪りぃ。俺が関わると手がダメになるみてぇな感じになってる。ハンドクラッシャー的な存在に.....」
「何言ってんだお前?バカなのか?」
「なんだと?俺は真面目な話しをしてるんだ」
轟の発言に緑谷と飯田は笑ってしまい、巧は変なやつを見るよな目で見て、結花は少し困ったような笑みを浮かべていた。緑谷は結花に轟について質問する。
「轟君って、ああいうとこあるんですか?」
「はい、ちょっと天然っていうか....」
「意外な一面もあるものなのだな」
三人は睨み合いながら口喧嘩をしている巧と轟を見ながらなんとなく気が軽くなったような気がした。
「俺が飯田のことを心配してるのに、バカとはどういうことだ」
「バカにバカって言って何が悪りぃんだ。ハンドクラッシャー?クラッシュしてんのはお前の頭だろ」