保須事件から二日たち、緑谷、轟、飯田の三人は無事退院し、それぞれの事務所で職場体験も最終日を迎えていた。今エンデヴァーは忙しいためこの場にはいないが、代わりにサイドキックのバーニンに別れの挨拶をしていた。
「短い間でしたが、お世話になりました」
「全くあんたらとんでもないことをしたもんだな!まだまだ未熟だけど!」
「はい、まだ未熟ですけど、今回のことで成長するきっかけになったんじゃないかと思います」
保須事件により、巧、轟、結花は職場体験では得られないような経験を得た。この経験を次にどう活かすかは、彼らに委ねられるのだ。
「そうかい!まぁ、あんたらにはいい経験になったろう!別れの言葉はこれで終わり!ファイズ!ショート!クレイン!あんたらの未来に期待しているよ!」
それを最後に、轟と結花は車に乗って帰って行った。巧もオートバジンに乗る。巧は今回の職場体験のことを思い返した。殆ど嫌な思い出しかないが、それでも巧にとっていい経験をした。この経験を夢を守るヒーローになるための糧として、立派に成長していく。巧はエンジンをかけ、走り出した。
●●●
「「アッハッハッハッ!!まじか爆豪!!」」
翌日。教室では切島と瀬呂の笑い声が響いてた。ベストジーニストの事務所に行っていた爆豪は髪を綺麗に8:2に分けられ、あまりの似合わなさに笑い転げていたのだ。
「笑うな!癖ついちまって洗っても直せねぇんだ!おい笑うな!ぶっ殺すぞ!」
爆豪は周りに笑われている状況に恥ずかしさと怒りで体が震えていた。その姿に巧はニヤけながら眺めていた。
「おい勝己。似合ってるぜ」
その言葉に、爆豪の怒りが頂点に達した。
「表でろやゴラァァァァ!!」
「「やってみろ8:2坊や!!アッハハハハハハハ!!ヒーーー!!」」
怒りが爆発した瞬間。8:2分の髪が爆発し、元の髪に戻り、爆豪は巧の飛びかかり後ろに回り込んでヘッドロックを決めた。
「あー。また喧嘩してるー」
「ほんと、男ってバカばっか...」
「ケロ、私も同感よ」
それを見ていた女子たちはいつもの光景に呆れていた。すると芦戸が耳朗に職場体験について質問をした。
「響香ちゃんは職場体験どうだったのー?」
「え?ああ、ウチは"デステゴロ"さんのところに行ったけど、めぼしい活躍は人質で立てこもった
「へー!
「避難誘導とか後方支援で実際交戦はしなかったけどね」
「それでもすごいよー!」
「いやいや本当それぐらいだよ。暇な時間は町中走り回って体力作り。ぶっちゃけ学校の授業よりしんどかった」
耳朗は苦笑いしながら職場体験のことを話す。すると今度は蛙吹が職場体験の出来事を話した。
「私もトレーニングとパトロールばかりだったわ。一度隣国からの密航者を捕らえたくらい」
「それすごくない!?」
「そうかしら?」
「いや十分すごい体験だよそれ....」
何気にすごい体験をしていた蛙吹に芦戸と耳朗は驚くが、蛙吹にはあまり自覚はないようだった。そこに麗日が通りかかり、蛙吹は声をかけた。
「麗日ちゃんはどうだったの?この一週間」
「......とても、有意義だったよ」
麗日を白目を向けながら、悟りを開いたようなオーラのようなものを放ちながら何かに目覚めたようだった。
「目覚めたのねお茶子ちゃん」
「バトルヒーローのとこ行ったんだっけ」
拳を突き出し素振りをしている麗日はバトルヒーロー"ガンヘッド"のところで対人戦の基礎を学んでいたらしい。その様子に上鳴と峰田は少し引いていた。
「たった一週間で変化スゲェな.....なあ、お前んとこはどうだったのよ?」
「変化?違うぜ上鳴。女ってのは.....元々悪魔のような本性を隠し持ってんのさ!!」
「Mt.レディのとこで何見た....?それ止めろ」
峰田は自分の爪を噛みながら震えていた。上鳴はその行為を止める。そして上鳴は緑谷と飯田、轟、そしてまだ爆豪と取っ組み合いをしている巧に話題をふっかけた。
「俺は割とチヤホヤされて楽しかったけどなー。ま、一番変化というか大変だったのは.....お前ら四人だな!」
「そうそうヒーロー殺し!」
「命あって何よりだぜマジでさ」
「....心配しましたわ」
「USJのあのバケモンと同じやつが出たんだろ?そんでエンデヴァーが助けてくれたんだよな!」
「ハッ!巧はどうせビビってメソメソしてたんだろ!?」
「ああ!?誰がビビってメソメソしてただ!?俺に負けた負け犬がほざいてんじゃねぇ!」
「誰が負け犬だゴラァ!!」
皆がヒーロー殺しのことについて口々に語る。思い返せばかなり無謀なことをしていたと緑谷は思っていた。
「俺、ニュースとか見たけどさ。ヒーロー殺し、
「でもさぁ、確かに怖ぇけどさ。尾白動画見た?アレ見ると本気っつーか執念つーか、かっこよくね?とか思っちゃわね?」
「上鳴君.....!」
「え?あっ.....飯....ワリ!」
上鳴の軽い発言に緑谷が止める。上鳴は咄嗟に飯田に謝る。上鳴のいう通り、今ヒーロー殺しの話題で盛り上がっている。誰かがネットにあげたヒーロー殺しステインの執念。【ヒーローとは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない】彼のその【英雄回帰】という思想に多くの賛同が寄せられていた。
「いや.....いいさ、確かに信念の男ではあった....。クールだと思う人がいるのもわかる。ただやつは、信念の果てに粛正という手段を選んだ。どんな考えを持とうともそこだけは間違いなんだ。俺のような者をこれ以上出さぬためにも!改めてヒーローの道を俺は歩む!」
「飯田君....!」
「俺も負けらんねぇな」
以前よりも前向きになっていた飯田に緑谷は安心し、轟も飯田の言葉に意気込む。
「さあそろそろ授業だ!席につきたまえ!」
「うるさい....」
「なんか.....すみませんでした」
●●●
今回のヒーロー基礎学は学校から少し離れた運動場で行うこととなった。しかしそこの運動場というのが、まるで工場地帯のような場所で、雄英にはどうも似つかわしくない場所であった。するとオールマイトがA組の前にヌルッと現れる。
「ハイ、私が来たってな感じでやっていくわけだけどもね。ハイ、ヒーロー基礎学ね!久しぶりだ少年少女!元気か!?」
「ヌルッと出たな」
「久々なのに」
「パターン尽きたのかしら」
普通に出てきたオールマイトに周りは口々に語る。オールマイトは図星だったのか冷や汗を流す。しかし、それだけではなくオールマイトは今、
「職場体験直後ってことで今回は、遊びの要素を含めた救助訓練レースだ!」
「救助訓練ならUSJでやるべきでは!?」
救助訓練と聞いて、飯田はUSJに行けばいいのではと疑問を提示する。オールマイトはその疑問に対してしっかりと答えた。
「あそこは災害時の訓練になるからな。私は何て言ったかな?」
「レースだろ?」
「YES!そうレース!」
今回やるのは救助訓練を兼ねたレースであり、USJの災害時の訓練とはまた違う。オールマイトは説明を続けた。
「ここは運動場
そう言いながらオールマイトは巧と爆豪に指を差し、二人は舌打ちをする。
「じゃあ最初の組は位置について!」
オールマイトの指示でまず1組目が並ぶ。最初にレースすることとなったのは緑谷、尾白、飯田、芦戸、瀬呂、巧の6人。6人は位置につく。因みに飯田はヒーロー殺しの一件で、コスチュームが破損してしまったため、今は体操服を着ている。巧はファイズドライバーをつけており、ファイズに変身して挑むようだ。最初はファイズに変身してもいいのだろうかとは思ったが、後に他のオルフェノクたちと戦うこととなるかもしない、そのため今のうちにファイズの力を使いこなしておいた方がいいとオールマイトに言われたため、ベルトをつけている。他の生徒はモニターで様子を見ていた。
「飯田まだ完治してないんだろ?見学すりゃいいのに....」
「クラスでも機動力の良いやつが固まったな」
「うーん、強いていうなら緑谷さんが若干不利かしら....」
「確かにぶっちゃけあいつの評価ってまだ定まってないんだよね」
「何か成すたび大怪我してますからね....」
緑谷は個性を使う度に大怪我をしてしまうほど、個性が強力であるため今回も使用すれば怪我をすることは間違いないだろう。そんな中で、このレースで誰が1位になるか予想をしていた。
「それでは救助訓練スタート!!」
オールマイトの合図により5人は一斉に走り出す。乾は走らずファイズフォンを開き変身コードを入力する。
『5 5 5』
『Entar』
Standing by
そしてファイズフォンを上に掲る。
「変身!」
Complete
ファイズフォンをベルトにセットすると巧の全身にフォトンストリームが駆け巡り、巧はファイズに変身した。巧は少し遅れて走り出し、まわりの状況を確認する。ファイズの頭部に備わっているアルティメットファインダーによって先にいる5人の場所をX線で透視し確認する。瀬呂はテープで空中を走り、緑谷も個性でパルクールのように飛んでいた。
「なるほど...」
巧は瀬呂と緑谷の動きを見て自分も同じようなことをしようと空中に飛び上がった。
「乾のやつジャンプ力すげぇな!?」
「個性というよりあのスーツの性能でしょうか....」
八百万の言う通り、ファイズのジャンプ力は一飛び35m。目の前にある障害物などは軽く飛び越えられるのだ。そして巧は緑谷と同じように勢いよく壁を蹴った。しかし、蹴りの威力が強すぎたせいで壁が破壊されてしまう。
「うお!?」
巧はバランスを崩すしてしまったが、なんとか上手く着地しもう一度飛び上がり、今度はちゃんと力を加減して壁を蹴って進んだ。
「あー乾のやつ早速ぶっ壊してんじゃん」
「てか、もう追いついてるやん!」
言ってる間に巧はすでに、緑谷の後ろまで来ていた。
「たっくん!もう!追い!ついんたんだ!」
「ああ、なんとかな。足場気をつけろ、出ないと怪我すんぞ」
「うん!怪我するのは!慣れてるから!」
「慣れてもらっちゃ困るんだけどな。あんま人を心配させんなよ」
「うん......!」
そう言いながら、お互いはゴールに向かって全速力で走り抜けた。
●●●
「フィニーーーッシュ!!」
全員が到着し、オールマイトが終わりの合図を告げる。最終的にレースで1位になったのは巧であった。巧はオールマイトから【助けてくれてありがとう】と書かれたタスキを貰い、その辺に投げ捨てた。オールマイトは少しショックを受けるが気を取り直して続ける。
「みんな入学式よりも個性の使い方に幅ができたぞ!その調子で中間テスト及び期末テストへ向け準備を始めてくれ!」
「そっか、もうすぐ中間と期末が控えてるのか」
「普通にやれば取れるだろ」
オールマイトの言う通り、もうすぐテストが控えていた。巧は範囲的には難なくできるので焦る気持ちは微塵もなかった。その後は3組ともレースを終え、授業も終わりに差し掛かってきた時、上鳴が巧に話しかけてきた。
「なあなあ、乾。そのベルト貸してくんね?」
「は?なんで?」
「いやーさ、俺も変身してみてぇなぁって思って。すぐ返すから!ちょっと貸して」
巧は最初は嫌がったが、別にすぐに返してくれるのならいいかと思い上鳴に渡した。
「上鳴。お前変身すんのか?」
「あ!後で私も貸して!」
「まあまあ、まずは俺から。お前ら見とけよー!」
皆が上鳴の方に少し期待の視線を向ける。なんとなく嫌な予感がした巧は上鳴から少し距離をとった。上鳴はファイズドライバーを腰に巻き、ファイズフォンを開く。
「俺こういうの憧れてたんだよな〜」
そう言いながらファイズフォンに番号を入力する。昔見た変身ヒーローに憧れていた上鳴は胸を躍らせる。
『5 5 5』
『Entar』
Standing by
そして上鳴はファイズフォンを上に掲げた。
「上鳴電気!いきまーす!変身!」
そして上鳴はファイズフォンをベルトにセットした。
Error
「え?」
突然、鳴る筈の音声とは違う音声が流れたと思うと、ベルトから電流が流れ、勢いよく外れる。その勢いに上鳴は吹き飛ばされた。
「ぎゃあああああああああああああああ!!!?」
吹き飛ばされた上鳴は壁に激突し、埃が舞った。周りは唖然とその様子を見つめていた。巧は落ちていたファイズドライバーとファイズフォンを拾う。
「な、なんで.....?」
「すげぇ勢いで吹き飛ばされたな」
「や、やっぱ私やめとく.....」
「どうやら乾さんにしか変身できないようになっているみたいですわね」
妙な沈黙が流れているうちに、授業終了のチャイムが鳴った。ハッとしたオールマイトは振り向き、授業終わりの挨拶をする。
「えーそれじゃ少年少女!次のテストに向けて頑張れよな!それと上鳴少年!すぐに保健室に向かうように!それじゃみんなお疲れ!」
そう言って皆解散する。上鳴は切島と瀬呂に担がれ、保健室へと連れて行かれたのであった。