進化する人々   作:奥歯

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期末試験
意外な相手


もうすぐ6月の終わり、もうすぐ夏休みの時期が近づいていた。夏、となると巧にとって一番嫌いな季節。暑いのが大の苦手な巧にとっては試験よりも厄介な地獄のような時期だ。そのおかげで、ネクタイもつけず、シャツのボタンもつけず、シャツの中から素肌が見えていてかなりだらしない格好でいた。窓の外を見ると遠くの方で一部景色が歪んで見える。巧は額から流れる汗を拭い、席についた。みんなは暑がってはいるもののまだ巧と比べて涼しい顔をしている。巧は自分だけなのかのかと妙に腹が立つ。その間にチャイムが鳴りそれと同時に相澤が教室に入る。喋くっていたみんなはスッと黙り席についた。HRが始まる。

 

「みんなおはよう。えーそろそろ夏休みも近いが、勿論君らが30日間一ヶ月休める道理はない。夏休み林間合宿やるぞ」

 

「「「「「知ってたよやったーー!!」」」」」

 

林間合宿。その言葉に周りは大騒ぎする。それもすぐに相澤が黙らせ静まりかえる。

 

「ただし、その前の期末テストで合格点に満たなかったやつは学校で補習地獄だ」

 

「みんな頑張ろうぜ!」

 

林間合宿に行くためには期末試験という壁を乗り越えなくてはならない。もし試験の合格ラインを越えなければ、林間合宿の期間ずっと学校で補習という残酷すぎる罰が与えられてしまう。そうならないためにも期末に向けて皆努めていくのだが、すでに猶予は一週間しか残されていなかった。

 

「全く勉強してねーー!!」

 

この現状に上鳴は声を上げて焦る。中間テストでは最下位の成績を叩き出していた上鳴は絶対絶命のピンチだ。

 

「体育祭やら職場体験やら!ドタバタ続きで全く勉強してねーー!!」

 

「確かに」

 

「あっはっはっは、どれも楽しかったねー」

 

中間テストの成績が上鳴の一個上だった芦戸はもはや楽観的になっている。因みに中間試験の成績の順位はこうだ。

 

1位 八百万百

2位 飯田天哉

3位 乾巧 爆豪勝己

4位 緑谷出久

5位 轟焦凍

6位 蛙吹梅雨

7位 耳朗響香

8位 尾白猿夫

9位 峰田実

10位 障子目蔵

11位 口田甲司

12位 砂藤力道

13位 麗日お茶子

14位 常闇陰踏

15位 切島鋭児郎

16位 葉隠透

17位 瀬呂範太

18位 青山優雅

19位 芦戸三奈

20位 上鳴電気

 

「中間はまー入学したてで範囲狭いし、特に苦労なかったんだけどなー。行事が重なったのもあるけどやっぱ、期末は中間と違って.....」

 

「ああ、筆記試験に加えて演習試験が行われるんだろ?」

 

「ま、その試験が辛ぇんだよなぁ」

 

中間テストが上から数えて9番目の峰田はあっけらかんとした態度で余裕な表情を見せていた。

 

「あんたは同族だと思ってた!」

 

「お前みたいなやつはバカで初めて愛嬌出るんだろが....!どこに需要あんだよ....!」

 

「世界かな」

 

裏切り者を見るような目で峰田を見つめる上鳴と芦戸に峰田は背を向け調子に乗っていた。

 

「芦戸さん!上鳴君!が、頑張ろうよ!やっぱ全員で林間合宿行きたいもんね!」

 

「こんなやつらほっとけよ出久」

 

「普通に授業受けてれば赤点はでねぇだろ」

 

「お前ら言葉には気をつけろ!!」

 

成績上位の緑谷に励まされても、嫌味にしか聞こえない上鳴は胸を抑えながら怒鳴る。

 

「宜しいですかお二人とも、座学なら私がお力添えできるかれません」

 

「「ヤオモモーー!!」」

 

八百万の救いの手に上鳴と芦戸は喜びの声を上げる。

 

「演習の方はからっきしでしょうけど....フッ」

 

今八百万は何か言ったような気がしたが、誰も聞こえていなかった。

 

「お二人じゃないけど......ウチもいいかな?二次関数応用ちょっと躓いちゃってて......」

 

「悪りぃ俺も!八百万古文わかる?」

 

「俺も」

 

「え、え......!良いデストモ!では週末にでも私の家でお勉強会催しましょう!」

 

「マジで!?うん!ヤオモモん家楽しみー!」

 

「ああ!そうなるとまずお母様にご報告して講堂を開けていただかないと....!」

 

( ( (講堂....!?) ) )

 

「皆さんお紅茶はとこか贔屓ありまして!?我が家はいつもハロッズかウェッジウッドなのでご希望がありましたら用意しますわ!」

 

( ( (あ!?) ) )

 

「そうと決まれば早速家内のお手伝いの皆様にも報告して皆さんが喜べる様に最高のおもてなしをしなくては.....!必ずお力になってみせますわ....!」

 

興奮気味の八百万に周りは格の違いを見せつけられたような気がして少し変な気分になるが、八百万の笑顔を見ているとそんな気持ちもなくなってしまった。

 

「ナチュラルに生まれの違い叩きつけられたけど」

 

「なんかプリプリしてんの超カァイイからどうでもいいわなんだっけ?いろはす?でいいよ」

 

「ハロッズですね!わかりました!」

 

「この人徳の差よ」

 

「俺もあるわ!テメ教え殺したろかッ!?」

 

「おお!頼む!」

 

切島の煽りに爆豪はすぐに乗っかり、切島は遠慮なく教えてもらうこととなった。

 

●●●

 

昼休憩に入り、巧は食堂でそうめんを食べていた。食堂の机の隅でポツンと一人で座る巧は黙々とそうめんを啜る。巧は最近、悩みがあった。寂しさを感じていた。中学の時はいつも緑谷と一緒に昼食を食べていたのだが、最近は緑谷にも友達が増え一緒に食べる機会がほとんど減った。結花は轟と一緒に昼食を食べていて、今はここには来ない。それはそれで巧みにとってはありがたいので気にすることではなかった。緑谷に友達が増えたのは喜ばしいことなのだが、それでも二人で一緒にいた時の方が楽しかったのは覚えている。昔のことを思い出していると更に寂しさが込み上げてきて食欲が失せてくる。次第に箸も止まり気力も失せてきた。ここのところずっとこんな状態だ。ふと麺つゆを覗き込むと自分の顔が映る。その目には物悲しげな目をしていて、巧は箸でかき消す。嫌になった巧はその場で不貞腐れてしまった。

 

●●●

 

一方その頃、緑谷、飯田、轟、麗日、蛙吹、葉隠、そしてB組の結花の計7人はそれぞれの昼飯を食べながら、次の期末試験について話し合っていた。

 

「普通科目は授業範囲内からでなんとか行けるけど、演習試験が内容不透明で怖いね.....」

 

「そうだな。突飛なことはしないと思うがなぁ」

 

「普通科目はまだなんとかなるんやな....」 

 

「一学期でやったことの総合的内容」

 

「とだけしか教えてくれないんだもの、相澤先生」

 

「戦闘訓練と救助訓練、後ほぼ基礎トレだよね」

 

葉隠の言うように演習試験は一学期でやった総合的内容という曖昧なことだけしか相澤から教えてもらえなかったため、戦闘訓練や救助訓練などのことだろうと予想するが正直心許ない。

 

「普通に授業受けてりゃ大丈夫だろ....」

 

「焦凍さん。それでも無理な人は無理なんですよ」

 

「......そうだな。結花の言うことが正しいよ」

 

轟は授業を受けていればちゃんとテストの点数は取れると言っているが、それで点数が取れるのなら苦労はしない。結花は蕎麦を食べている轟に優しく答え、轟は簡単に理解を示した。

 

「そういえばずっと前に思ってたんやけど、轟君と長田さんってどういう関係なん?」

 

「そうそう!私も前から気になってた!」

 

突然麗日は轟と結花の関係を聞き始めた。葉隠も興味津々で、結花は少し答えるのに困ったが、隣にいた轟は自信満々に答えた。

 

「俺たちはいとこだ。そして結花は俺の心の支えだ。結花がいるから今の俺がいる」

 

「わ、私たち訳あって一緒に暮らしているんです」

 

自信満々に答える轟と少し顔を赤くしながら答えた結花に麗日と葉隠はニヤニヤしながら聞いていたが、少しずつ顔が真顔になっていった。てっきり幼馴染みか何かと思っていた2人だったがまさかいとこだとは知らず、こんなことを思ってしまうのはいけないはずなのだが、妙にくるものがあった。

 

「試験勉強に加えて体力面でも万全に...あイタッ!」

 

試験勉強に意気込む緑谷の頭に誰かが肘を当てる。緑谷は振り返るとそこにはB組の物間がいた。

 

「ああごめん。頭大きいから当たってしまった」

 

「B組の!えっと.....物間君!よくも!」

 

「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね」

 

「!」

 

緑谷はわざと肘を当ててきた物間に言い返そうとするが煽るように物間は保須事件のことを話し始めた。

 

「体育祭に続いて注目されることばかり続いているよねA組って。ただ注目って決して期待値とかじゃなくてトラブルを引きつける的なものだよね」

 

「!?」

 

「物間さん!なんでそんなこと言うんですか!?」

 

「あっはっはっは!ちょっと長田さん。君は僕たちと同じB組だよね?なんでトラブルメーカーのA組と一緒にいるのかなぁ?それに誤解しないでくれるかい?僕は今後起こり得る話をしに来ただけさ!あー怖い!いつか君たちが呼ぶトラブルに巻き込まれて僕らにまで被害が及ぶかもしれないなぁ!あー怖い!」

 

言いたいように言いまくる物間に緑谷たちは嫌な顔をする。轟に関しては結花に馬鹿にするように煽ってきた物間を殺すような勢いで睨みつけていた。

 

「恥ずかしくないんですか?」

 

「何がだい?長田さん?」

 

「物間さん。いつも人のこと馬鹿にしていますけど、人を馬鹿にするほど物間さんの実力が伴ってないじゃないですか。体育祭の時もそうでしたけど、その煽り癖のせいで爆豪さんにやられちゃったし、いつも拳藤さんに怒られるし、見ていて見苦しいですよ。今の物間さんはSNSでよく見かける大した実績も何も残せてないくせに家に引きこもって上から目線で煽ることでしか自分の存在意義を見出せない哀れな人たちと同じですよ!そういうところ直さないといつか友達無くしますよ全く!」

 

「...........」

 

結花にボロクソに言われた物間は何も言い返さず、俯いたままその場に立ちすくんでいた。結花のあまりのものいいに、轟を除いた面々はドン引きする。

 

「すっごい毒舌やね、長田さんって....」

 

「そうだね...」

 

すると後ろからまた誰かが通りかかってくる。

 

「どうした物間?そんな俯いて、また長田に毒吐かれたのか?全く自業自得だな。ごめんなA組。こいつ心がちょっとあれなんだよ」

 

「拳藤君!」

 

(心が.....)

 

「あんたらさ、さっき期末試験が不透明とかなんだのって言ってたよね。入試ん時みたいに対ロボットの実習演習らしいよ」

 

「「「「「!!」」」」」

 

拳藤の情報に緑谷たちは驚き、目を見開く。

 

「え!?本当!?なんで知ってるの!?」

 

「私知り合いに先輩がいるからさ、聞いたんだ。ちょっとズルだけど」

 

「ズルじゃないよ!そうだきっと前情報の収集も試験の一環に織り込まれてたんだ。そっか、先輩聞けばよかったんだ。なんで気づかなかったんだ.....ブツブツブツ」

 

「.......!?」

 

いつのもスイッチが入った緑谷に拳藤は驚く。そしてさっき結花にボロクソに言われて落ち込んでいた物間が顔を上げる。

 

「馬鹿なのかい拳藤?折角の情報アドバンテージを!今こそ体育祭で僕たちの出番を奪った憎きA組

を出し抜くチャンスだったんだ....」

 

「体育祭は私らが駄目だった。そして憎くはないっつーの」

 

「あひっ!!」

 

拳藤は物間に手刀を入れ、担いでその場を後にした。

 

( ( (B組の姉御的存在....) ) )

 

拳藤の後ろ姿を見て5人はそんなことを思っていた。ふと、何かに気づいた緑谷は向こうのほうを見る。そこにはまだ不貞腐れたままの巧がいた。

 

「どうしたのデク君?」

 

「ああいや、たっくんあんなところで寂しくないのかなって....」

 

「いつも一人だし大丈夫じゃない?」

 

「でも、たっくんああ見えてすごく寂しがりだから....」

 

「意外....!」

 

「ほっとけばいいだろあんなクソッタレ。一人がお似合いだ」

 

「ちょっと焦凍さん!」

 

「轟ちゃん。そんなに乾ちゃんのこと嫌いなの?」

 

「逆に好きになる要素があいつにあると思ってんのか?」

 

「轟君。本気で乾君のことが嫌いみたいだな」

 

「デク君。轟君と乾君に何かあったん?」

 

「話せば長いかも....」

 

轟はフンッと鼻を鳴らし巧に対して悪態をついていた。緑谷も苦笑いしながら話を聞いていた。保須事件の時、少しは仲良くなったのかなと少し安心していたのだが、全くそうではなかったことに轟と巧はどうしようもないくらいに仲が悪いんだなと思った。ふと緑谷は隅っこにいる巧の方に向く。巧はまだ不貞腐れているのか頬付きをして、明後日の方向に向いていた。

 

「たっくん......」

 

その悲しげな顔に緑谷はいても立ってもいられず立ち上がる。

 

「どうしたのデク君?」

 

「僕、誘いにに行くよ!」

 

そう言って緑谷は巧の方に駆け寄って行った。巧は駆け寄ってくる緑谷に気付き振り向く。緑谷は巧の隣に座った。

 

「ねぇたっくん。みんなと一緒にご飯食べない?」

 

緑谷の突然の提案に巧は少し固まる。みんなという言葉に巧は麗日たちがいる方向に向いた。そこには轟と結花の二人がいる。巧は考えるまでもなかった。

 

「いや、いい」

 

「えぇ!?な、なんで!?」

 

巧の以外な回答に緑谷は驚く。寂しそうだったから一緒にみんなで食べようとせっかく誘ったのに、あっさり断られてしまったことに緑谷はどうしたらいいかわからなくなり、頭を抱えた。緑谷は巧の顔を見るが、無表情すぎて何を考えているのかさっぱりわからなかった。緑谷が考え込んでいるうちに巧はそうめんを食べ終えてしまいお盆を待って食器を返しに行った。誘いに失敗した緑谷はトボトボと歩いて元の席に戻った。

 

「断られたの?」

 

「うん。なんでなんだろ?」

 

緑谷が考え込んでいる中、蛙吹は気になることを言った。

 

「.......もしかしてだけど、乾ちゃん。緑谷ちゃんと二人っきりで食べたかったのかもよ?」

 

「え?そうかな?」

 

蛙吹の発言に緑谷はあまり理解していないようだったが、麗日と葉隠はちゃんと理解していた。

 

( (乙女.....!) )

 

緑谷が考え込んでる中で麗日と葉隠は頭の中で巧に対してそんな風に思っていた。

 

●●●

 

「んだよロボならラクチンだぜ!」

 

「やったあ!」

 

放課後の教室。昼食の時にB組の拳藤から教えてもらった実習内容に上鳴と芦戸は喜びの声を上げる。

 

「お前らは対人だと個性の調整大変そうだからな.....」

 

「ああ!ロボならブッパで楽勝だ!」

 

「あとは勉強教えてもらえれば」

 

「これで林間合宿バッチリだ!」

 

上鳴と芦戸が喜んでいる中、爆豪は何か不満があるのかはいつも睨みつけるような顔でよくわからなかったが、とにかく不満気な顔で悪態を吐いた。

 

「ケッ、人でもロボでもぶっ飛ばすのは同じだろ。何がラクチンだアホが」

 

「アホとはなんだアホとは!」

 

「うるせぇな、調整なんか勝手に出来るもんだろアホだろ!なあ!?デク!」

 

突然緑谷に話をふっかけてきた爆豪に自分の席に座っていた巧は睨みつけられてビクついている緑谷を守ろうと立ち上がる。

 

「個性の使い方、ちょっとわかってきたか知らねぇけどよ。テメェはつくづく俺の神経逆撫でするよな」

 

「あれか....!前のデク君、爆豪君みたいな動きになってた」

 

「あーー、確かに....!」

 

「体育祭みたいな無様な結果は晒さねぇ....!次の期末なら個人成績で否が応にも完全に優劣がつく....!完膚なきまでに差ぁつけて、テメェをぶち殺してやる!巧ぃ、轟ぃ.....!テメェらもな!!」

 

そう言って爆豪は勢いよく扉を開いて教室から出て行った。

 

「....久々にガチのバクゴーだ」

 

「焦燥....?或いは憎悪か....」

 

「ただの戯言だ。気にするほどでもねぇ」

 

●●●

 

放課後、巧と緑谷は駐車場まで向かっていた。向かっている中で、緑谷は巧にある質問をした。

 

「ねぇ、たっくん。あの時のことなんだけどさ.....その、食堂の時のこと、たっくんってもしかして僕と一緒にご飯、食べたかったの?」

 

「.......」

 

緑谷と質問に対し、巧はいつものように一言も返さない。

 

「ほら、また明日さ、今度は僕と一緒に二人っきりで.......どうかな....?」

 

緑谷の提案に巧は何も答えなかった。しかし顔を覗き込むと相変わらずの無表情だったが心なしか嬉しそうに見え、緑谷は少し安心した。

 

●●●

 

筆記試験当日。全員期末試験に向けて一週間勉強に勤しんできた。試験が開始し、プリントを開いてペンをとって問題を見る。試験が始まった直後には皆一言も喋らずに問題を解いていく。その静けさからペンで書く音が鳴り響く。皆集中していている。その中には涼しい顔をして問題をスラスラ解く者や、問題と睨めっこしながら解いている者、若干焦り気味の顔している者までいる。そんな中で巧は普通に問題を解いていった。全ての問題を解き終えると、間違いがないか軽く確認をしてペンを机に置く。そして教卓に座っていた相澤が立ち手を上げる。

 

「全員手を止めろ。各列の一番後ろ、答案を集めてもってこい」

 

相澤の号令により筆記試験は終了した。一番後ろの席が答案を集めていき、相澤に渡していった。

 

「ありがとーヤオモモー!」

 

「わっ」

 

「取り敢えず全部埋めたぜー!」

 

試験中の沈黙に流れる緊張がきれ、皆安堵の声を上げる。巧も力を抜き、小さなため息をついた。明日は実習試験。今回の期末の本題はそれと言っても過言ではない。今までやってきたヒーロー基礎学の総合的内容。そしてB組の拳藤が言っていた対ロボット戦。情報もしっかり収集してある。後は本番でいつも通りやるだけだ。

 

●●●

 

「それじゃあ演習試験を始めていく」

 

実技試験の日。A組とB組はコスチュームに着替え、待機していた。目の前には相澤を含む数名の教師たちが並んでいた。

 

「この試験でも勿論赤点はある。林間合宿に行きたけりゃみっともねぇヘマはするなよ」

 

「先生多いな....?」

 

「5....6.....7人?」

 

「諸君なら事前に情報仕入れて何するか薄々分かってるとは思うが....」

 

「入試みてぇなロボ無双だろ!」

 

「花火!カレー!肝試しーー!」

 

完全に余裕な状態の上鳴と芦戸。すると相澤の体の中で何がモゾモゾ動きだし束縛布から突然根津校長が現れた。

 

「残念!事情あっての諸事情あって今回から内容を変しちゃうのさ!」

 

「変更って.....」

 

拳藤から聞いた先輩の情報とはまるで違う試験内容に生徒たちは戸惑っていた。

 

「それはね、近頃多発している事件が日に日に多くなっているのはみんなも知っているね?(ヴィラン)がこのまま行けば活性化の恐れがいずれ起こっても不思議じゃないのさ。勿論未然に防ぐことが最善だけど学校としては万全を期したい。これからの社会現状以上に対(ヴィラン)戦闘が激化すると考えれば.....」

 

「っ!ロボとの戦闘訓練は実戦的ではない....」

 

「そもそもロボは『入学試験という場で人に危害を加えるのか』などのクレームを回避するための策です」

 

「ロボだけで実戦をしたところで本物の(ヴィラン)になんも活かされない.....不合理そのものなんだよ、あんな鉄の塊は」

 

相澤の言う通り、実戦演習にロボを使うのは本物の(ヴィラン)を相手する時に活かされるわけもない。

 

「これからは対人戦闘、活動を見据えたより実戦に近い教えを重視するのさ!というわけで.....諸君らにこれから二人組(チームアップ)でここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」

 

根津校長の発言に生徒たちは目を見開く。

 

「先.....生方と.....?」

 

「なお、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度......諸々を踏まえて、独断で組ませてもらったから発表していくぞ。まず轟と八百万で俺とだ」

 

「.........」

 

「っ!」

 

最初に発表されたのは轟と八百万のチーム。お互い個性が強力で、成績トップかつ雄英には推薦入学の共通点がある。対戦するのはA組の担任である相澤。

 

「そして緑谷と爆豪がチーム」

 

「デ.....!?」

 

「かっ......!?」

 

次のチームは幼馴染みであり、いじめっ子といじめられっ子の二人である緑谷と爆豪のチーム。お互い個性は強力ではあるが、親密度で考えると相性は最悪である。恐らくその部分を踏まえての組み合わせなのだろう。

 

「で、相手は....」

 

「私がする!協力して勝ちにこいよ!お二人さん!!」

 

「オー....ルマイト....!?」

 

そして対戦するのはNo. 1ヒーローであるオールマイト。緑谷は驚愕する。爆豪はオールマイト相手ならば丁度いいと思っていたがチームを組む相手が緑谷だったことにかなり焦りを感じていた。それは緑谷も同じことであった。そして相澤は端末を取り出すと残りのメンバーをモニターに表示した。

 

「残りのチームと相手の先生はモニターで表示する。時間は限られているからな」

 

「相変わらず合理的な男だなイレイザー」

 

生徒たちはモニターに映るチームの組み合わせとその対戦相手である先生をみていた。

 

轟焦凍&八百万百VSイレイザーヘッド

 

緑谷出久&爆豪勝己VSオールマイト

 

上鳴電気&芦戸三奈VS根津校長

 

青山優雅&麗日お茶子VS13号

 

蛙吹梅雨&常闇陰踏VSエクトプラズム

 

峰田実&瀬呂範太VSミッドナイト

 

障子目蔵&葉隠透VSスナイプ

 

切島鋭児郎&砂藤力道VSセメントス

 

飯田天哉&尾白猿夫VSパワーローダー

 

口田甲司&耳朗響香VSプレゼントマイク

 

「今回はA組とB組がどちらも奇数人数ということで一チームだけA組とB組で組んでもらう」

 

そしてモニターにはA組とB組と組むチームの名前が出る。

 

乾巧&長田結花

 

薄々気づいていた巧だが、案の定このペアで組むこととなった。このことに轟は殺す勢いで睨みつけてくる。巧としては慣れたものだが、鬱陶しいことには変わりない。そしてその対戦相手の名前を見た。

 

VS村上峡児

 

「!?」

 

「え!?村上峡児ってスマートブレインの社長の名前じゃん!!」

 

「なんでこの名前が!?」

 

周りが村上峡児ことスマートブレインの社長に驚く。無論巧本人も驚いていた。

 

「乾さん!やっぱり村上社長と何か関係が.....!」

 

「いや、まあ....まさか、な.....」

 

巧はまた八百万の質問に濁すように答える。何故スマートブレインの社長がここに来たのか、見学ならまだしも、まさか実際に対戦するとは思いもしなかった。このことに対して根津校長は答える。

 

「スマートブレインの社長がなぜ期末試験に見学ではなく参加することとなったのか.....それは乾君。君の持っているベルトに関係しているのさ」

 

巧は手元に持っていたファイズギアを見る。確かにこのベルトはスマートブレインから譲り受けた巧の両親の形見である。

 

「なんでも、そのベルトをどれほど使いこなしているか確かめたいとのことなのさ。だから....」

 

「だから期末試験の参加を希望しました」

 

突然根津校長の台詞を遮るように教師たちの後ろから誰かが歩いてきた。生徒たちと教師たちは後ろに目をやると、そこには全身を黒いスーツに身に纏い、紳士的な立ち姿をしている男がいた。

 

「初めまして。私はスマートブレイン現社長の.....村上峡児です」

 

その男。村上峡児のまさかの登場に、周りは異様な緊張感に包まれたのであった。

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