フラフラになった巧を結花は支えながら歩きリカバリーガールがいる保健室まで向かっていた。
「それにしても、村上さん本当に強かったですね」
「ああ、そうだな.....クソッ.....」
巧と結花はさっきのことを思い返し、巧は嫌な顔をして悪態を吐く。村上の強さは二人では手も足も出せず逃げることで精一杯だった。そんなことを考えていると曲がり角で緑谷と出会った。
「あ、たっくん。長田さん。すっごいボロボロだね....」
「そういう出久もだろ、まあオールマイトが相手だったからか」
「うん。っていうかそんなにボロボロにされるなんてそんなに強かったの?村上社長って」
「はい。二人でやっと逃げてきたってとこなんです」
「そうだったんだ....とにかく!早く保健室に行かないと!」
緑谷にそう言われ巧と結花はそそくさと保健室に向かった。保健室に着き、結花は扉を開けるとそこには轟がいた。轟は結花の方を見るとさっきまで無表情だったのに急に笑顔になり、結花に駆け寄った。
「結花!怪我はないか!?何処か痛いところは!?」
「大丈夫ですよ焦凍さん。乾さんのおかげでなんともないです」
「そうか、よかった.....たまにはお前も役に立つみたいだな」
「喧嘩なら受けて立つぞコラ」
喧嘩を売られた巧は受けて立とうとするが流石にボロボロの状態では勝てない。
「ハイハイっ!ここは喧嘩する場所じゃないよ!怪我してる子はこっちきな!そうじゃない子は控え室で待機だよ!」
リガバリーガールに止められ、巧は治療を受けることになり、轟と結花は控え室に向かった。
●●●
期末試験が終了した後の校長室。そこでは先ほど巧と結花のチームと対戦していた村上が根津校長と対談していた。
「わざわざ雄英高校までご足労いただきありがとうなのさ。村上峡児社長」
「いえ、とても有意義な時間でした。自分の弱点も見つけることができましたし、こちらこそ参加させていただき感謝します」
「さっそくだけど、乾君との対戦。どうだったかな?」
根津校長は早速試験のことについての感想を聞き出した。村上は少し考えた後ゆっくりと答える。
「.......そうですね、中々にファイズの力を使いこなしている。まだ荒削りではありますが、これからどんどん磨いていけば立派なヒーローになることは間違いないでしょう」
「それは嬉しいことなのさ。それはそうと、この学校内には五人のオルフェノクの生徒がいる中でどうして乾君にファイズギアを渡すと決めたのかな?」
「今は亡き友人の息子だからというのもあるので、信頼という意味でもあるのですが.....まあ、なんと言いますか、直感でしょうか。彼にはファイズの力を使いこなせる才能があると思ったまでです。私としてはオルフェノクと人間の共存を願っている。しかし、そう思わないオルフェノクも多いようだ。人の命を奪ってしまったオルフェノクはもう人ではない。そのためのファイズ。彼には辛い思いさせてしまうでしょうが、そういったオルフェノクから人々を守るために私は彼を選びました」
「確かに、最近ではオルフェノクの出現率が高くなっている。しかも大勢の人前で姿を現したものまでいた。我々では情報操作で手一杯なのさ。しかし、彼に任せっきりというのも私としてはどうも....」
「大丈夫です。彼ならやってくれるでしょう。ヒーローを志す上で大切なものをしっかり持ち合わせていますから。それでは私はこれで、あと最後にこれを.....」
帰ろうとする村上は最後に机の上にスマートブレインの社印が入った二つの紙袋を置いた。
「これは?」
「差し入れです。A組とB組の方達にお渡ししてください。我が社が作った特別なものです」
「乾君のものではないのか?」
「乾君には別のものを用意していますので.....」
そう言って村上は席を立ち綺麗にお辞儀をした後、校長室から出ていった。
●●●
雄英高校の門前まできた村上は目の前に停まっている青い車まで向かっていた。するとその車からかなり露出度の高い格好をした青いメッシュの入った髪をしている女性が出てきた。
「社長、お疲れ様でした♪どうでした?あのオルフェノクの子」
猫撫で声で話す彼女は村上から巧のことについて聞く。
「ええ、中々に素晴らしい人材でしたよ。これならば、いつか目覚めるであろう"王"を守ることができる筈だ」
「それは楽しみですね♬」
「それでは帰りましょうスマートレディ。まだ仕事が残っていますから」
「はーい♪」
村上は車の助手席、そして社長の秘書であるスマートレディは運転席に乗り込み、雄英高校から離れていった。
●●●
「みんな.....!土産話ッ......!ひぐっ.....!楽しみにっ......!ううっ.....!してるっ.....がら....!」
嗚咽しながら涙を流す芦戸。彼女は実技演習でクリアできなかった一人だ。そのほかには上鳴、切島、砂藤の3人。彼らからは周りとは違うどんよりとした雰囲気が漂っていた。
「ま、まだわかんないよ!どんでん返しがあるかもしれないし.....!」
「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに補習地獄!そして俺たちは実技クリアならず!これでまだわからんのなら貴様らの偏差値はサル以下だ!」
慰めようとする緑谷に上鳴は怒鳴り散らす。林間合宿に行けない四人に、巧は可哀想とすら思わず、ただ落ち込んでいる姿を傍観していた。
「わかんねぇのは俺もさ、峰田のおかげでクリアはしたけど寝てただけだ。とにかく採点基準が明かされてない以上は.....」
「同情するならなんかもう色々くれ!」
最早自暴自棄になり喚き散らすことしかできない上鳴に峰田は得意気に耳を傾けていた。すると教室の扉が勢いよく開かれ、相澤が教室に入る。
「予鈴が鳴ったら席につけ」
相澤が入ってきたと同時に生徒たちは静まり返り席につく。相澤は教卓に立つと本日のHRを始めた。
「おはよう。今回の期末テストだが....残念ながら赤点が出た。したがって......」
赤点は学校で補修地獄。相澤の言っていた言葉に四人は絶望の淵に立たされ俯く。しかし.....
「林間合宿は全員で行きます」
「「「「「どんでん返しだぁ!!」」」」」
まさかの全員林間合宿に行くことになるという予想外の出来事に生徒たちは大盛り上がりを見せた。
「筆記の方はゼロ。実技で切島、上鳴、芦戸、砂藤、あと瀬呂が赤点だ」
「!」
「行っていいんスか俺らあ!」
まさかの瀬呂まで赤点だったことに対し本人は非常に驚く。そして完全にフラグを回収してしまった瀬呂は顔を手で覆い俯いて嘆いた。
「確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんな.....クリアできずの人より恥ずかしいぞこれ....」
「今回の試験、我々
「本気で叩き潰すと仰っていたのは......」
「追い込むためさ。そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点をとったやつこそそこで力をつけて貰わなきゃならん。合理的虚偽ってやつさ」
「「「「「ゴーリテキキョギー!!」」」」」
「またしてもやられた...!流石雄英だ!しかし!二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!」
「わあ。水差す飯田くん」
皆大盛り上がりする中、飯田は真面目に受け取り、真面目な姿勢を崩さない意見をした。
「確かにな。省みるよ。ただ全部嘘ってわけじゃない。赤点は赤点だ。お前らには別途に補習時間を設けてある。ぶっちゃけ学校に残っての補習よりキツいからな。じゃあ合宿のしおりを配るから後ろに回しとけ」
「——!」
「アア、オワタ」
さっきまでテンションが上がっていた赤点組はまたしても絶望の淵に立たされる。そんな中で相澤が配ったしおりを皆が確認していると、相澤はふと何かを思い出したかのように巧に話し始めた。
「そういえば乾、お前に差し入れ、というよりA組全員になんだが....」
そう言って相澤は教卓の下から紙袋のようなものを取り出した。みんなが注目していると、その紙袋にはスマートブレイン社のマークが入っていて、今までぼーっと聞いていた巧は少し興味を惹かれる。周りも少し騒ぎ始め口々に話し始める。
「スマートブレインからだぜ」
「え!なになに、なんなの!?」
「もしかして乾の?」
「なんか乾の奴優遇されすぎじゃね?」
「お前ら静かにしろ」
相澤の一言で皆すぐに黙る。静かになったのを見計らって相澤は説明し始めた。
「もうわかっているかもだが、スマートブレインからだ。なんでも、スマートブレイン特製のものだそうだ」
そういうと更に教室はざわめき始めるが、すぐに相澤は黙らせた。
「とにかく、何が入ってるかは俺にも分からん。勝手に開けてろ」
そう言って相澤は寝袋に入り寝てしまった。早速開けてみようとなったことで誰が開けるのかというのは皆決まっていた。全員は巧の方に振り向く。視線を向けられた巧は驚くが、すぐに何をするのかを理解し、舌打ちをしながらも教卓に立つ。そして紙袋の中に手を突っ込み中身を取り出した。その中に入っていたのは紙で包装されていた少し大きめの箱。巧は紙を乱雑に破り捨てると箱の中身を開けた。皆何が入っているのか気になり教卓の方に集まる。箱の中を覗き込むと、中に入っていたのはマカロンだった。
「マカロンだ....」
「美味しそう!」
「ちゃんと全員分あるな」
「早速食べようぜ!」
皆わらわらと教卓に集まり、次々とマカロンを取っていく、巧は要らなかったため、すぐに自分の席に戻りしおりを確認する。すると誰かがマカロンを巧に渡してくる。巧は振り向くと緑谷がいた。
「たっくん。せっかく貰ったんだし食べようよ」
「........」
巧はしばらく考えた後、マカロンを受け取り、口の中に入れた。スマートブレイン特製のマカロンなだけあってか、かなり美味しい。中にはチビチビ食べている者もいる。赤点組も、慰めの気持ちでマカロンを頬張る。皆マカロンを食べて喜んでいた。
●●●
「生で見ると....気色悪ぃなぁ」
「うわぁ手の人!ステ様の仲間だよねぇ!?ねぇ!私も入れてよ!
とあるバーの中で死柄木と黒霧、そして女子高生のような風貌の少女と全身ケロイドの男が一人。大物ブローカーの
「黒霧。こいつらトバせ。俺の大嫌いなタイプがセットできやがった。餓鬼と礼儀しらす」
「まあ、そんな言うほどじゃねぇだろ。捨て駒程度には役に立つかもな」
すると死柄木のいる奥の方から一人の男、ではなく3人の男が現れた。一人はサングラスをかけた茶髪の刈り上げで、もう一人はヘルメットを被った男。そして最後の一人は黒いコートを着た男だった。ケロイドの男と少女は怪しげな3人を睨みつける。
「何もんだお前ら?」
「まず相手に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀だろ」
名前を聞くならまず名乗れという黒いコートの男にケロイドの男と少女は気を取り直して自身の名前を言う。
「トガです!トガヒミコ!生きにくいです!生きやすい世の中になってほしいものです!ステ様になりたいです!ステ様を殺したい!だから入れてよ弔君!」
「変わってんな」
「意味がわからん。破綻者かよ」
トガヒミコと名乗る少女は側から見るとかなりおかしな性格をしていた。ちゃんと会話が成り立つのか不安になるが、とにかく次はケロイドの男が名乗る。
「
「通すな。本名だ」
「出すべき時になったら出すさ。とにかく、ヒーロー殺しの意志は俺が真っ当する」
「はぁ....?ヒーロー殺し....?」
ヒーロー殺しの名前に死柄木はステインのことを思い出した。死柄木は苛立ち、舌打ちをする。すると黒いコートの男が名前を名乗る。
「それじゃあこっちも名乗らないとだな。俺の名前は
「
「
黒いコートの男の名は赤井。そしてヘルメットを被った男が青木。そして茶髪の刈り上げが緑川という名だった。それぞれ自己紹介を終えた後、緑川が前に出る。
「それで?こいつら本当に役に立つのか?ケロイド野郎とイカれ女。正直俺たちだけで十分だと思うんだかな」
緑川は荼毘とトガを睨みつけながらそんなことを言う。二人も緑川を睨みつける。険悪な雰囲気の中、赤井はその間に入った。
「まあ、落ち着け。リーダーの判断に任せればいいだろ」
赤井は死柄木の方を見る。死柄木は考えるまでもなく答えは出ていた。
「いらねえよこいつら」
「だとよ」
その言葉に緑川は二人の前に立つと、体から模様が浮かび上がる。
「じゃあ消えてもらうぜ」
そういうと緑川の体が変化しようとしたその時、荼毘とトガの体から模様が浮かび上がった。
「!!」
その姿に緑川は驚き、一歩後ろに下がる。驚いていたのは緑川だけではなかった。死柄木も驚いており、黒霧を問いただす。
「おい黒霧。助っ人はこの3人の筈だろ」
「はい、確かに3人です。まさかこの2人もオルフェノクだったとは....」
「おいおいおい、仲間と殺しあうのは流石に勘弁だぜ」
「そうそう、こいつらもオルフェノクなんだよ。正直俺のとこに欲しかったところなんだがな、オルフェノクは一体だけでも軍隊レベルかそれ以上。大きな戦力になる。まあでも、こいつらはここに入りたいって言ってるからな約束は約束だ。お前たちにやるよ」
まさかこの2人もオルフェノクだったとは黒霧も予想外でかなり戸惑っている。こうなると死柄木も考えを改めるしかないかもしれない。もしここで殺し合いを始めたらこのバーは半壊すること間違いなし。流石にアジトを壊されるのは困る。考え込んでいる中、黒霧が死柄木に耳打ちする。
「死柄木弔。あなたが望むままを行うのなら、組織の拡大は必須。奇しくも注目されている今がその拡大のチャンス。排斥ではなく受容を....」
「うるさい....うるさいうるさい!」
黒霧に言われ、さらに機嫌が悪くなり、頭を掻きむしる。そしてそのまま扉を開けて出て行った。その後ろ姿を見て赤井はつぶやく。
「全く、ウチのリーダーは癇癪持ちで困るな。それはそうと、さっきは無礼な態度で悪かったな。それでどうだお前ら?お前たちは俺たちと同じ仲間。俺は仲間は大歓迎だぜ?」
「返答は後日でも宜しいでしょうか?彼も自分がどうするべきかわかっているはずだ。わかっているからこそ何も言わずに出ていったのです。必ず導き出すでしょう。あなた方も自分自身も....。納得するお返事を」
「そうかい。ま、せいぜい期待しているよ」
そう言って義爛は荼毘とトガを連れてバーから出て行った。