巧たちは最初に集まっていた場所に来た。先に上鳴と飯田がおり、上鳴さ巧たちに気づくと大きく手を振った。
「おい!出久はどうなんだ!?」
「ウェ!?落ち着けって乾!緑谷なら大丈夫だよ!」
「首を絞められたらしいが特に目立った外傷は無いらしい!とにかく無事でよかった」
それを聞いて巧は安心する。麗日が通報したことでショッピングモールにはすでに警察がいた。ショッピングモールは閉鎖され、駆けつけたヒーローと警察により
●●●
事情聴取が終わった緑谷は警察署から出てくる。長い間質問されていたため、辺りはすっかり夜になっていた。緑谷はどっと疲れが出てため息をつく、そして前を見てみると目の前に巧とトゥルーフォームのオールマイトがいた。
「たっくん、待っててくれてたんだ」
「緑谷少年!塚内君!」
「お、良いタイミング」
オールマイトは緑谷掛けより、続いて巧も歩いて近づいてくる。
「オールマイト!何で...」
「個人的に話があってね」
「よかった。無事で何よりだ」
オールマイトは緑谷の安否を確認し、安心する。オールマイトは緑谷の頭に手を置いた。
「助けてやれなくてすまなかったな....」
「いえ....」
オールマイトは申し訳なさそうに緑谷に謝罪する。その時、緑谷はオールマイトにとある質問をした。
「オールマイトも救けられなかったことはあるんですか?」
「?...あるよたくさん」
そう言ってオールマイトは空を見上げる。
「今でも世界のどこかで傷つき倒れているかもしれない。悔しいが私も人だ。手の届かない場所の人間は救えないのさ....。だからこそ笑って立つ。正義の象徴が人々の、ヒーロー達の、悪人達の、心を常に灯せるようにね」
緑谷はオールマイトの言葉を黙って聞いていた。隣にいた巧も同様だ。
「緑谷君は死柄木の発言を気にしている。多分逆恨みかなんかだろうさ。彼が現場に来て救えなかった人間は一人もいない」
塚内の言う通り、オールマイトが現場に到着した時には誰一人として犠牲者を出したことがなかった。緑谷はそんなオールマイトに憧れていたからヒーローを目指したのだ。巧もオールマイトのようには行かなくても、誰かの夢を守るために戦うのだ。
「さぁ遅くなってしまった。お迎えだ」
塚内がそういうと自動ドアが開き、引子が緑谷に駆け寄ってきた。
「母さん!」
「出久...もうやだよ。お母さん心臓もたないよ...」
引子は相当心配だったのか、ハンカチを握りしめて泣きじゃくっている。そんな引子を緑谷は宥める。
「母さんごめんね。大丈夫だよ。なんともないながら泣かないで。ヒーローと警察がしっかりと守ってくれるよ」
「うっ....」
塚内は引子と共に来た猫の顔をした
「三茶。送る手配を」
「ハッ。さ、二人共、親御さん。あちらにパトカーが用意しているので、私たちが責任を持って送るよ」
「あ、ありがとございます...!」
「いや、俺はいい。バイクで帰る」
三茶の言われた通りに緑谷と引子はパトカーに乗り込み、巧はオートバジンに乗る。
「今回の偶然は遭遇だったが、今後彼を引いては生徒が狙われる可能性は低くないぞ。それに、未確認生命体の件もあるからな。勿論引き続き警備態勢は敷くが、学校側も思い切ったほうがいいよ。強い光ほど、闇も大きく深くなる。雄英を離れることも視野に入れておいたほうがいい」
「...教師生活まだ三ヶ月ちょっとだぜ」
「ハハッだから前に言ったろ?向いてないって。...オール・フォー・ワン。今度はちゃんと捕えよう」
「うん、今度こそ...。その時はまたよろしくな、塚内くん」
「おう!」
そうオールマイトは塚内と誓った。そしてパトカーで送られていく緑谷と、オートバジンで走り出す巧を見送った。
●●●
自宅に着いた緑谷と巧は自室に入り、二人はベッドに座り込む。今回巧は緑谷が
「なぁ、出久」
「何...?」
「耳郎っているだろ?」
「ああ、そうだね」
「そいつにさ、家に来ないかって言われて...」
「え!?もしかしてお誘い!?すごいじゃんたっくん!」
巧は緑谷に耳朗に家に来るかと誘われたと言い、そのことに緑谷は自分のことのように喜んでくれた。
「で!?なんて言ったの!?」
「まだ何も、どうしたらいいかわからなくてさ...お前、友達増えただろ?雄英に来てから。だから相談したくてな...」
緑谷は相談と聞いて考えるまでもなく、興奮気味に答えた。
「それだったら行ったほうがいいよ!いつ行くの!?」
「いや、それもわかんなくてよ」
「それだったらライングループで聞いてみなよ!たっくんも入ってるでしょ!?」
そう言われて巧はスマホを取り出し、ラインを開く。そこには1-Aと書かれたライングループがあった。そこから巧は耳朗のラインを開く。そして巧は文字を打ち、耳朗に送った。
【なあ耳郎。お前の家の誘い、いつぐらいなら大丈夫なんだ?】
巧はそう送り、スマホをじっと見る。しかし、中々返信は返ってこなかった。既読は着いたが5分経っても返ってこず、巧はだんだんとイラついていきスマホを床に置いた。
「クソッ、無視かよ」
「そんなすぐに帰ってこないよ」
緑谷は巧にそう言ってなだめるが、それでも一向に返ってこず、20分くらい経った頃に、スマホの着信が鳴った。巧はスマホの画面を見ると、耳朗から返信が返っていていた。巧は早速ラインを開き、読み上げる。
【ウチはいつでもいいけど、時間さえあれば。住所送っとくし】
巧はそれを見て、なら明日から行こうと決め、返信を返した。
【そうか、じゃあ明日行くぞ】
そう返信を返した後、机に座っていた緑谷はどうだったのか質問する。
「どうだった?なんて言ってた?」
「いつでもいいとさ」
「そうなんだ。いついくの?」
「明日」
「明日!?ちょっと早くない!?」
「いつでもいいって言ったんだからいつ行こうが俺の勝手だろ」
「そうだけどさぁ」
確かにいつでもいいと言ったのは耳朗だ。ならばいつ行こうが巧の勝手であるのは確かにそうだが、流石に早すぎではないかと緑谷は思ったのであった。
●●●
耳朗は巧に言ったあの時のことをヘッドに寝そべりながら考えていた。自分の家を誘ったことにあまりにも入り込みすぎなのではないかと少し後悔していた。それに、緑谷が
「え!?嘘!?覚えてたの!?どうしようなんて返せば...!」
耳朗はまさか覚えていたとは思っておらず、慌てふためきなんと返せばいいかわからなかった。そうしているうちに20分も経ち、思い切って返信してみる。するとすぐに返信が返ってきて明日行くと書いてあり、さらに慌てふためく。
「明日!?早すぎだろ!部屋散らかってんのに...!早く片付けないと...!」
ものすごく慌てる耳朗に下から声がしてくる。
「響香!何してる!?もうすぐ晩御飯だぞ!」
「うるさい!今それどころじゃないんだよ!!」
下から聞こえてくるのは耳朗の父親の声、名前は耳朗
「はぁ、明日か....」
耳朗は他の人、しかも男を自分の部屋にいれるなんてことをしたことに我ながらよくやったと思っていた。そんな耳朗は緊張と共に、少し楽しみでもあった。同じ洋楽好きと語り合あえるのはかなり久しぶりだったのだ。そんな気持ちを胸にしまい、耳朗は晩御飯を食べに階段を駆け降りた。
●●●
翌日、巧は耳朗の住所を確認した後、オートバジンに乗り込んだ。後ろには自分のギターをくくりつけており、これはきのう緑谷が持っていったらどうだと言われたかららしい。乗り込んだ時に玄関から緑谷が見送りにきた。
「いってらっしゃいたっくん!頑張ってきてね!」
「何を頑張んだよ」
「いやぁ、ほら...まぁとにかくいってらっしゃい!」
緑谷はそう言って見送り、巧はオートバジンを走らせた。しばらくあまり通ったことがない通りを進んみ、巧は耳朗の家に着いた。巧は近くにオートバジンを止め、後ろにくくりつけてあったギターを背負い、耳朗の家の玄関の前に立つ。そしてインターホンを鳴らすと、しばらくして扉が開く。そこにいたのは耳朗ではない、耳朗似の耳たぶが長い女性だった。
「あら?あのどちら様....もしかして響香が言ってたお友達でしょうか?友達って彼氏さん?」
「ちょっと母さん彼氏じゃない!下がってて!ああごめん乾!早く上がって!」
この小声で話すこの女性は耳朗の母親である耳朗
「あの、どうぞ上がって、お茶出しますので...」
あまりにも声が小さい美香に巧は少し引くが、とりあえずリビングに入った。案の定そのリビングはギターなどが大量に並べられていて、巧は少ししつこいなと思った。巧は椅子に腰掛け、普通の麦茶と洋菓子をもらった。そして目の前には美香とその隣に耳朗が座る形になった。
「その、まさか彼氏さんとは思わなくて、ごめんなさい。この子をどうか幸せに...」
「だから彼氏じゃないって!乾もなんか言ってよ!」
はやとちりが過ぎる美香に耳朗は誤解を解こうと必死であった。ずっと黙っていた巧は確かに彼氏と思われるのはこっちとしても迷惑なため、とりあえず否定した。
「いや、彼氏じゃねぇ。ただのクラスメイトだ」
「ああ、そうなんですか。ごめんなさい早とちりしちゃって....ところで乾君でしたっけ?乾君はクイーンが好きって響香から聞きましたよ。私はエアロスミスが好きなんですけど、特にデュードが好きで...」
小声の割に結構喋る美香に内心巧は変なやつだと思っていた。それに気づいた耳朗は恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤にしながら巧を無理やり連れて行く。
「ほら行こう乾!」
耳朗は無理やり巧の手を引っ張り、2階に連れて行った。美香はその後ろ姿を見ながら昔のことを思い出していた。
「若いっていいわね...」
●●●
耳朗の部屋に入った巧は部屋を見わたすと、アルバムやらエレキギターなどがあり、かなりのロック好きなのが伺えた。
「ごめん散らかってるけど...」
巧は適当なところに座り、ギターを床に置く。そしてまたもう一度見渡す。棚に入っているアルバムに目をやると、巧は一つだけ手に取った。そのアルバムはCarsのアルバムでDriveだった。ポップで明るい感じの曲が多いイメージのあるCarsだが、珍しくバラードな曲である。巧は勿論カーズも知っているし、一番好きな曲もDriveだ。巧はもう一枚取ると、今度はQueenのアルバムで
「あのさ、ウチ乾の好きな洋楽でウチが知らないやつ教えてくんない?」
「知らないって、お前の知る範囲わかんねぇだろ」
「ああ、いやそうなんだけど...」
耳朗は押し黙ってしまい、会話が続かなかった。このままではダメだと思った巧は取り敢えず話を続ける。
「お前はロックが好きとか言ってたが、ハードロックとかパンクロックとかが好きなのか?」
「うん。ウチはそんな感じ。一番はAC/DCだけど、他にもメタリカとか、セックス・ピストルズとか、乾は?」
「俺はロックも好きだが、プログレッシブロックとかカンタベリーロックとかも好きだな」
「へぇ、その中だったら何かオススメとかある?」
「オススメか、シェアーイットって曲があんだけどな。ハットフィールド・アンド・ザ・ノースの曲で....まぁ、そうだな聞いてみるか?」
「うん」
そういつて巧はスマホを取り出し、音楽を流す。その曲は少し明るめでロックなのがよくわかった。曲が流れ終わると、耳朗は一言呟いた。
「なんか、嬉しいな...」
「?」
「ウチロック好きなんだけどさ、わかってくれる友達がいなくて...昔は一人だけいたんだけど、今はどこにいるのかわかんなくて...でもさ!乾がロックが好きってわかってからすごく嬉しくて...!」
耳朗が巧を家に誘ったのもそれが理由なんだろうと理解する。その時、耳朗は巧のそばに置いてあったギターに目をやった。
「ねぇ、ギター弾けるのか?」
「一応な」
「弾いてみてくれない?」
耳朗の提案に巧は黙ってギターを取る。そして弦の張りを確かめた後、ゆっくりと演奏し始めた。その曲はどこか悲しげで、孤独感のあるような曲だった。巧はギターを弾き終わると、耳朗は質問する。
「すごい上手いんだな。誰に習ったの?」
「昔知り合いにな」
巧はそう言って適当にはぐらかす。しかし、耳朗は少し気になり、まだ質問を続けた。
「なんか、この曲聞いたことある。確か屋根裏に...ちょっと待ってて」
耳朗は一度部屋から出て屋根裏部屋に入っていった。屋根裏の中はものすごく蒸し暑かったが、今はそれを気にしているところではない。そして奥の方にあった段ボール箱の中を漁っていると一枚のCDを見つけた。
「これだ....!」
耳朗は屋根裏から降りて自分の部屋に戻る。部屋で待っていた巧は耳朗が手に持っていたCDを見る。
「なんだそれ?」
「これね、ウチの父さんと母さんが大学生の時にもらったCDなんだ。ちょっと流してみようよ」
そして耳朗はCDの中身を見る。そのCDには【夢のかけら】と書いてあった。耳朗はそのCDをラジカセにセットして、再生ボタンを押した。そして音楽が流れ始める。
夢描いた遠い空は 茜色の雲のまま
旅人には優しく 続きを魅せてるのだろう
悲しみとはこの胸の痛みさえ
愛すべき者と忘れること...
羽を持った命さえ千切れ
水の上をやがて漂うのか
夢描いた遠い空は 茜色の雲のまま
何処までも何処までも残して流れるのだろう
夢をいつか通り過ぎた 空も見上げられるから
忘れゆくことでさえ怖れて流れるのだろう
夢のかけら 風に揺られるから
逃げないように手を伸ばす勇気もなく
ただ立ちすくむだけの窓
明日はこの風も止むだろう
夢を捨てた遠いあの日 涙滲む空は今
立ち止まった者には何色に映るだろうか
声を抑えて泣くような風の中で
愛すべき何かを手繰り寄せよう...
としてももう何もかも千切れ
水面の蝶に似た夢のかけら
夢描いた遠い空は 茜色の雲のまま
旅人には優しく続きを魅せてるのだろう
曲が流れ終わると再生が止まる。巧と耳朗はしばらく黙ったままでいる。そして耳朗が口を開いた。
「やっぱりこの曲だ。誰に習ったの?この曲」
「それは...」
耳朗は巧に迫ると、巧はしばらく黙ったまま口を開こうとした瞬間、耳朗の扉が開いた。
「もうすぐお昼だけど、乾君も食べていく?」
巧と耳朗は時計を見てみると、もう12時前になっていた。巧はしばらく考え、ギターを持って立ち上がる。
「昼飯はいい、もう帰る。じゃあな」
そう言って帰ろうとするが、耳朗は乾の腕を掴む。
「帰さないから、さっきの質問に答えてもらうし」
「離せ」
「離さない!」
巧は無理矢理帰ろうとするが、耳朗は引きずられながらも食い止める。しつこく迫ってくる耳朗に巧は仕方なく昼飯を食べることにした。
●●●
巧の前に出された料理はカレーライスだった。しかも、グツグツに煮えたぎっている。
「嘘だろおい....」
「あの、カレー嫌いでした?」
「いや、別に...嘘だろこんな...え?」
巧は困惑していた。猫舌である巧は勿論辛いのも苦手だ。舌が敏感なのだ。なので巧は実は甘口のカレーしか食えず、そのことを知っているのは緑谷と引子だけだ。こんなにグツグツに煮えたぎっているカレーはいつかのテレビでやっていた番組か何かで見たようなカレーだった。巧はこんなカレーを食いたくないと思っていたし、食うこともないと思っていた。しかしこんなところで食べることになるとは思っても見なかった。耳朗たちは先に食べ始めていて、しかも涼しい顔をして黙々と食べていた。こんなんだったら無理やり帰ってしまえばよかったと後悔した。
「........」
「どうしたの?食べないの?」
催促された巧はここで今、耳朗の親の気持ちを無碍にすることはできない。かといって生粋の猫舌である巧の舌を犠牲にできるのかどうか、しかしふと、巧は思い返した。
(まて、なんで俺はカレー如きに怖気ついたんだ?こんなにグツグツに煮えたぎった辛口のカレーくらい、俺だって食える!俺を舐めんじゃねぇ!)
そう心の中で呟き、巧はスプーンを取りカレーを掬う。そして口の中に運ぼうとした時、耳朗が話を始めた。
「ねぇ乾。さっきの続きなんだけど」
「.....続き?」
「だから、あの曲のこと、誰から教わったの?」
続きと言われて、巧はさっきのことを思い出した。
「ああ、あれか、別にただの知り合いだ」
「知り合いって、その知り合いが誰かって聞いてんの!」
しつこく迫る耳朗に巧はめんどくさくなってきた。そんな時、二人の話が気になった美香が二人に何の話をしているのか聞く。
「何の話?」
「乾があの曲を知ってたって事!母さんも知ってるでしょ?【夢のかけら】の事」
それを聞いた美香の顔が真剣な顔になる。
「どうしてそれを知ってるの?」
急に真剣な顔で話しかけてくる美香に巧は渋々、答えた。
「教えてもらったんだよ、木場勇治ってやつにな」
「木場?母さん知ってる?」
「いいえ、知らないわ。その木場って人は今どこにいるの?」
「それはわからねぇ、小せぇ時にな、俺に教えてくれたんだ。その曲をな....」
「そう...」
巧がそのことを話すと美香はずっと黙ったままでいた。その時、家からインターホンがなる。美香は玄関まで行き扉を開くと、そこには金髪の男が立っていた。
「あなた、早いわね...」
「ああ、今日休日だった。時間無駄にした。っていうかそんなことより、家に停めてあるあのロックなバイクはなんだ?響香の友達のかと思ったけど、あれ絶対男だよな?男心くすぶりまくりのバイクだぞあれ!?」
この金髪の男は耳朗響徳。耳朗の父親である。響徳は家に上がり、ズンズンとリビングへと進む。そして扉を開けて、巧の方を見た。耳朗はめんどくさい奴が帰ってきたと言わんばかりの顔をし、巧は響徳の顔を見てまた変なやつが来たと思った。響徳は耳朗の隣に座り、話を始める。
「君が、響香のお友達かな?」
「ああそうだよ」
睨みつけてくる響徳に巧も睨み返す。
「響香から聞いたよ。洋楽が好きなんだってね?しかも古い世代のものばかり、同じロック好きとして嬉しいよ。クイーンが好きなんだって?その中でなら何が好きかな?」
「.....レディオガガ」
「レディオガガ!いいセンスしているね君。突然だが、私が好きなロックバンドはなんだと思う?」
「は?」
突然の質問に巧はキョトンとする。隣にいた耳朗も恥ずかしさのあまり顔を隠していた。そんな耳朗をよそに、巧はギターだらけのリビングを見渡し、すぐに答えた。
「キッスだろ」
「なぜわかった!?」
「この部屋には、AC/DCのアンガス・ヤングが使ってたギターとエアロスミスのジョー・ペリーが使ってたギターがある。キッスのポール・スタンレーが使ってたギターもな。他は関係のないものだから二人はAC/DCとエアロスミスってことは残りのあんたがキッスになる」
「ほう、中々の観察力と知識量だ。確かに私はキッスが好きだ。特に"ロック・アンド・ロール・オール・ナイト"が好きでね。ギターを見ただけでどこのバンドの誰が使っていたギターかを当ててしまうとは恐れ入ったよ....独学?」
「ああそうだよ」
かなりのロックの詳しさに隣にいた耳朗も驚いていた。しかも独学でこの知識量となると相当洋楽が好きなんだと思った。
「すまない。変に疑ってしまって、こんなロック好きに悪い奴はいない。大事な娘が襲われるんじゃないかと心配してたんだ。娘を思う父親としては当然だろ?」
「うるさいんだけど。ほんと黙ってろよおっさん」
耳朗が父親をおっさん呼ばわりしているのを見て、両親のいない巧にとってこういうのが思春期というものなのだろうかと思っていた。
「そういえば、おっさん。【夢のかけら】の事、話してくれない?」
「急にどうした?なんでそれを?」
「乾がその曲を知ってたんだよ、木場勇治って知ってる?」
「知らないやつだな。誰だそいつ?」
「乾にギター教えた人なんだってさ....」
「そうか...」
どうやら響徳も木場という男を知らないようだった。本題に戻り響徳は【夢のかけら】について話し始めた。
「そうだな、俺が大学生の頃にいた友人なんだけどな。名前は
「その人は今何してんの?」
「死んだわ。病気でね」
それを聞いて耳朗は黙る。響徳は話を続けた。
「あいつは人騒がせでいつも周りに迷惑ばかりかけてた問題児だったんだが、一緒にいて飽きなかったよ。母さんの初恋の人も海堂なんだぞ」
「え!そうなんだ」
巧もその話を聞いていて、なんとなく会ってみたいと思った。
「まあ、そんなところだ。君がなぜあの曲を知っていたのかはしらないが、私が話せるのはこれくらいだ」
響徳の話が終わると、巧は立ち上がりギターを持ってくるために2階に戻る。階段から降りたら、そそくさと玄関の方に歩いて行った。
「もう帰るの?」
「ああ、次会う時は学校だ。じゃあな」
そう言って巧は玄関から出てオートバジンに乗り、走り去って行った。耳朗はその後ろ姿を見ながら、またこういう風に話ができるのかと思うと、少しだけ胸が高鳴るのだった。