休日期間が終わり、巧たちは学校に集まってきた。巧は教室に入ると耳朗と目が合う。耳朗は目が合うとすぐに目を逸らした。巧はその態度に腹が立つが、とりあえず席についた。そしてしばらくして予鈴が鳴り、相澤が教室に入ってきた瞬間全員席に着く。HRが始まり、相澤は諸々の説明をした後、こう告げた。
「———とまあそんな事があって
「「「「「えーーー!?」」」」」
そう言って相澤は持っていたしおりを破った。予想外の報告に生徒たちは声をあげて驚く。
「もう親に言っちゃってるよ」
「故にですわね...。話が誰にどう伝わっているのか学校が把握できていませんもの」
「合宿自体を中止にしないの英断すぎんだろ!」
峰田の言う通り普通の高校なら中止するところ。思い切った決断をした雄英も流石なものだ。その時、爆豪は小声で呟いた。
「テメェ、骨折してでも殺しとけよ」
爆豪の発言に緑谷は俯き、巧は殺す勢いで睨みつけた。爆豪も睨み返す。
「ちょっと爆豪!緑谷がどんな状況だったか聞いてなかった!?そもそも公共の場で個性は原則禁止だし...」
「知るか、とりあえず骨折れろ」
「かっちゃん...」
爆豪の吐き捨てるような言葉に、緑谷は顔を引き攣らせる。イラついていた巧は爆豪に聞こえるように悪態を吐いた。
「負け犬がほざいてんじゃねぇぞボケ!仮に勝己があそこにいたとして、お前がボロ雑巾みてぇに負けんのは目に見えてんだよ!」
「んだと巧ぃ!」
「お前ら静かにしろ」
爆豪は煽りに乗って立ち上がるが、相澤がそれを抑えた。
「ったく、お前らは本当に喧嘩しているとこしか見たことがないな。少しは大人になれアホども」
「チッ!」
「クソがっ!」
●●●
7月も最終日に差し掛かった頃、帰る支度をしていた巧は緑谷と一緒に帰ろうとした時、相澤に呼び止められた。
「おい乾。お前に用がある。すぐに終わるから」
相澤に呼び止められた巧はその場で立ったまま黙っていると、振り返って帰ろうとした。相澤は帰ろうとする巧の肩を掴む。
「待て、何勝手に帰ろうとしてんだ」
「たっくん、先生の言うこと聞かないと、僕待ってるからさ」
緑谷に言われた巧は仕方なく相澤の話をきいた。すると相澤は懐から封筒を取り出し、巧に渡す。巧は封筒を黙って受け取る。
「体育祭で優勝した景品みたいなものだ。中にはチケットが入っている。家で確認しとけ」
チケットの入った封筒を受け取った巧はお礼も言わずに相澤に背を向けて帰っていった。近くにいた緑谷は巧の代わりにお礼を言う。
「ありがとうございます先生!ちょっとたっくん待って!」
相澤は二人の後ろ姿を見送った直後、後ろから根津校長が現れた。
「本当にいいんでしょうか校長。あいつにあんなものを渡して、最近
「だからこそだよ、相澤君。彼には少し息抜きをしてもらわないと、そのためのご褒美なのさ。.....それに、彼の背負っている責任は、一人で抱えるにはあまりにも大きすぎる」
「?それは一体どういう...?」
「なんでもないさ。さっ、仕事がまだ残っているぞ相澤君!」
相澤は責任の意味が理解できず、根津校長にその意味を聞くが根津校長ははぐらかした。
●●●
駐車場に向かう途中、後ろからオールマイトが勢いよく横から現れた。
「私が横から来たぁ!」
「うわ!!オールマイト!」
「驚かすな!次やったらぶっ飛ばすぞ!」
「HAHAHA! SORRY! SORRY!」
突然現れたオールマイトに緑谷は驚き、巧は怒鳴る。オールマイトは笑って謝り、緑谷の方を向いた。
「実は緑谷少年に用があってね!」
「え、僕?」
「そうだ!悪いが乾少年!少し待っててくれないかな!?」
「....ああわかったよ」
どうやらオールマイトは緑谷に用があって突然現れたようだ。オールマイトは緑谷を連れて行き、一人取り残された巧は除け者扱いを受けた気分になり少しだけ機嫌が悪くなった。しばらくして緑谷は少し興奮した様子で戻ってきた。
「どうした出久?」
「たっくんすごいよ!僕、I・アイランドに行くことになったんだ!」
「......どこだそこ?」
「え!知らないの!?」
I・アイランドのことを知らない巧に緑谷は驚く。緑谷は何も知らない巧に対してI・アイランドのことを説明した。
「あのね、I・アイランドって言うのは個性やヒーローアイテムの研究成果を展示した技術博覧会I・EXPOっていうのがあって、それを開催する場所が、I・アイランドなんだ!ヒーローを憧れる者なら誰もが行きたがるハリウッドみたいな場所なんだよ!?」
「へー...」
緑谷は必死にI・アイランドの良さを語るが、巧は心底興味がなさそうな反応を見せた。緑谷はわかっていた。巧はヒーローに微塵も興味を示さなかったので、I・アイランドのことなど勿論興味も関心もないのだろうと思っていたが、ここまで反応が薄いと緑谷もがっくりくる。
「まぁとにかくすごいとこなんだよ、I・アイランドは...」
「そうか....」
●●●
家に帰ってきた巧と緑谷は玄関を開けて家に入る。
「ただいま」
「おかえり出久、巧。あ、ちょっと巧、渡したいものが...」
「?」
引子は机の上に置いてある封筒を取るとそれを巧に渡す。巧はまた封筒かと少し鬱陶しくなるが、とりあえず受け取った。巧は封筒を見ると、そこにはスマートブレインの社章が書かれていた。横から覗いて見ていた緑谷はそれを見て驚く。
「スマートブレイン....また!?」
この間マカロンを貰ったことが記憶に新しいが、また贈り物が来るとは少し驚きだ。巧はまず、学校からもらった封筒を開ける。相澤が言っていた通り、中にはチケットが入っていた。しかもそのチケットは【I・EXPOの招待状】と書かれた紙とそのチケットが3枚あった。
「I・EXPO!?たっくんも一緒に行けるんだ!」
緑谷は巧と一緒にI・アイランドに行けることを大いに喜ぶ。巧はなぜか3枚も入っているチケットを見る。
「なんで3枚も入ってんだ?誰か誘えってことか?しかもクラスメイトだけって....なんでそんなこと俺がやらなきゃいけねぇんだよ、面倒くせぇ」
「いいじゃんたっくん!ちょっとはみんなと仲良くしないとさ!」
緑谷に言われ、巧は誘わない訳にはいかなくなってしまった。そして今度はスマートブレインの封筒を開ける。そこに入っていたのは一枚の紙とチケットだった。巧はもしやと思いチケットを見ると、I・EXPOの招待状だった。
「またI・EXPO!?てことは3枚も余っちゃうことになるよね...」
「捨てるか」
「ちょ、駄目だよたっくん!勿体なさすぎるって!誰かに譲るとかそういうことしないと!」
余ったチケットを捨てようとする巧を緑谷は必死に止める。なんとか阻止した緑谷は封筒に入っていた紙を取って読み上げる。
「えっと、『君に渡したいものがI・アイランドにあります。旅行のついでに受け取ってください。ベルトとバイクもお忘れずに』だって」
「渡したいもの?まだあんのか?」
「渡したいものってなんだろ?」
渡したいものとは一体何かわからないが、巧はとりあえず余ったチケットをどうするか考えることにした。
「誰に渡すの?」
「そうだな...」
巧が誰に渡すか考えていると、緑谷は一人紹介した。
「と...」
「無理だ」
「だよね....」
おそらく緑谷は轟を紹介しようとしたのだろう。少しでも仲良くできるように出した名前なのだろうが予想通り名前を言い終わる前に巧は拒否する。一体誰に譲ればいいのだろうか、思えば巧には友人と呼べるような人間は一人もいない。ここは緑谷に頼ることにした。
「出久、やってくれないか?」
「わかったよ...。たっくん少しは友達作りとか努力しようよ」
「余計なお世話だ」
緑谷は困ったような顔をしながらも、とりあえず電話をかけてみた。最初にかけたのは切島だった。
「ああ、切島君?あのさ、I・アイランドのチケットが余ってて....。うん、そうなんだ。だからついでに余ったチケット貰ってくれない?......うん!わかった!ありがとう切島君!」
緑谷は電話を切ると、巧に振り返り電話で話したことを巧に言った。
「たっくん!貰ってくれるんだって!切島君すっごい喜んでたよ!一人ぐらいなら誘えそうだって!」
「わかった...」
一人ぐらいとなるとチケットはあと一枚になる。一体誰に渡せばいいだろうか、巧は親しい相手は誰一人いない。悩んでいると、緑谷がまた提案を出した。
「たっくん。I・アイランドだからさ、あの子も連れてったら?」
あの子というと一体誰なのか巧は一瞬考え、察した。発目のことだろう。そうと分かると巧は断固として拒否した。
「無理だ。あいつだけは無理だ」
「でもさ、逆にいいかもよ?これをあげる代わりに、バイクのこと諦めてもらうとかさ」
確かに緑谷の言う通り、I・アイランドに行くとなるならば、発目もバイクのことを諦めてくれるかもしれない。I・アイランドは最新のサポートアイテムなどが陳列していると、ついさっき緑谷に聞いた。発目ならすぐに承諾してくれるかもしれない。少し不安だったが、巧は意を決して首を縦に振った。
「.....わかった。じゃあそいつに渡せ」
「うん!と言いたいとこなんだけど...アドレス交換してないんだよね...」
重大なことを見落としていた。アドレスを交換していない。思えば発目とあった時には携帯のアドレスを交換した記憶は無いし、そもそも最近顔を合わせていない。巧としてはありがたいのだが、余ったチケットを捨てざるを得ない状況になったわけだ。そんな時インターホンが鳴った。巧と緑谷は一体誰がきたのだろうかと玄関の方を向き、引子は玄関の方に向かう。引子は扉を開けると、一人の少女が立っていた。
「あの、どちら様....?」
「あ!すみません!わたくし、発目明と申しまして!乾巧さんの友人であります!」
「あらそうなの!さあどうぞいらっしゃい!」
「お邪魔します!」
巧の友人と聞いて引子は発目を快く家に入れた。発目もお言葉に甘えて家に上がる。発目は廊下を渡りながらまじまじと家を見渡しリビングに入った。リビングに入ると巧と緑谷に合う。二人は発目を見ると驚き、巧に至ってはその目に驚きと同時に恐怖心混じりの目をしたと思うと、緑谷の後ろに隠れた。
「て、テメェ!なんでここに....!」
「それはあなたのバイクに簡易的なGPSを取り付けてあるからですよ」
それを聞いた巧は急いで家を出て、近くに停めてあるオートバジンのところに行きあちこち探し回ると、赤く点滅する小さなGPSを見つけた。巧は家に戻り、それを発目に見せつけて怒鳴る。
「なんでこんなものを!どういうつもりだお前!」
「それはもちろんあなたのバイクのついせ....観察のために取り付けただけですよ!」
それを聞いた緑谷は何故巧が発目のことを怖がっているのか理解し、背筋が凍るのであった。発目にI・アイランドのチケットを渡すのをやめようと思ったその時、発目をそのチケットを目にした。
「ん!?このチケットは一体!」
「あ!ちょっと!」
緑谷は止める間もなく発目はI・アイランドのチケットを取り、まじまじと眺めた。
「I・EXPOの招待状!これ私のためですか!?ありがとうございます!」
「いやこれはお前のじゃ...!」
「ええ、そうよ。さっき二人があなたにそのチケット渡そうと話してたとこなのよ」
「母さ...!」
「引子さん...!」
すかさずこのチケットは発目の物ではないと否定しようとするが、引子は余計なことを言ってしまう。確かに連れて行ったほうがいいかもとは言ったが、バイクにGPSつけて追跡してたなんて知ったからには到底連れて行こうだなんて思えない。
「そうなんですか!本当にありがとうございます!私も一度行ってみたかったんですよねー!」
「あ、いや....その...」
「.......!」
違うとは言えない状況になってしまった二人。仮に違うと言ったとしても、おそらく引くことはないだろう。完全に包囲されたような気分になった二人はお互いに見つめ合う。緑谷が覚悟を決めろと首を縦に振るが、それでも嫌だと巧は首を横に振った。困った顔をする緑谷、巧が発目に対して本気で怖がっている姿に立場が逆転しているような気がした。仕方なく緑谷は無理やり前に出る。
「そうなんだ。発目さんも喜んでくれて嬉しいよ....」
とりあえずそれっぽいことを言う緑谷。ここで本題だ。これを等価交換にして巧のオートバジンを諦めてもらうよう促せばいいだけだ。
「それでなんだけど、発目さん」
「なんですか?」
「もしそれを受け取ってくれるなら...たっくんのオートバジンを諦めてくれないかな?たっくんもちょっと困っててさ...」
思い切って言ってみた緑谷。これでイエスと答えてくれるかどうか、発目は考えるような仕草を取ると答えた。
「いいですよ!」
それを聞いた瞬間、巧と緑谷の力が一気に抜ける。巧ももう狙われる心配はなくなったのだ。こうして巧たちの濃密な高校生活前期は幕を閉じ、海外旅行を楽しむのであった。これから来る新たな事件と戦いに巻き込まれることもつゆ知らず。